ザ・ピーナッツは往年のポップスファンならば、人気TV番組「シャボン玉ホリデー」や「ザ・ヒット・パレード」などで大活躍していた姿を懐かしく思い出すだろう。キュートな双子姉妹によるまことに素敵なポップデュオである。
そのザ・ピーナッツのモノーラルLPレコード『ザ・ピーナッツ〜Monaural Edition(1959〜1961)』がこの度ステレオサウンドから発売になった。ステレオサウンドからは以前にも『The First Decade THE PEANUTS 1959〜1967』(販売終了)というLPレコードが発売されていたが、とても評判がよかった。その『The First Decade〜』は、A面の最初の2曲(『可愛い花』と『情熱の花』)のみモノーラル録音をモノーラルカッティングで収録、残りの10曲は通常のステレオ録音という変則的な<モノ+ステレオ>レコードだった。
アナログレコードコレクション
『THE PEANUTS 〜Monaural Edition(1959〜1961)/ザ・ピーナッツ』
(キングレコード/ステレオサウンドSSAR-049) ¥8,800(税込)
●仕様:33回転、モノーラル・アナログレコード
●録音:菊田俊雄●カッティング:松下真也(STUDIO Dede)
収録曲
〔Side A〕
1. 可愛い花
2. 南京豆売り
3. キサス・キサス
4. 情熱の花
5. 乙女の祈り
〔Side B〕
1. 白鳥の恋
2. 悲しき16才
3. 夢で逢いましょう
4. ロンリー・ワン
5. トゥー・ヤング
ボーナス・トラック
モスラの歌(東宝映画『モスラ』より)
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理由は簡単で、冒頭の2曲はモノーラル録音だからという理由でアルバムから落とすにはしのびない、ザ・ピーナッツのデビュー時の素晴らしい歌声が収められた貴重かつ優れた録音だったからである(その後、ステレオでも再録音された)。
この時のモノーラルカッティングの音の素晴らしさに大いなる手応えを得たステレオサウンドの担当者は、再度熱意を持って新たなプロジェクトに取り組んだ。その素晴らしい成果が本モノーラルLP『ザ・ピーナッツ〜Monaural Edition(1959〜1961)』である。
本LPが目指したのは、かつてのモノーラルサウンドを現代に蘇らせるのではなく、それ以上の、つまりこれまで存在しなかった望みうる最上のクォリティのモノーラルレコードを作り出すこと。それを可能にしたのが、北池袋にある「STUDIO Dede」と同スタジオ所属のカッティングエンジニア、松下真也氏の存在である。
現在日本に7〜8ヵ所あるカッティングスタジオで、モノーラルカッターヘッドが稼働しているのは「STUDIO Dede」だけ(モノーラル用カッターヘッドはウェストレックス2B)。そしてステレオサウンド制作のザ・ピーナッツの2枚のLPは、この「STUDIO Dede」で松下氏の手によってカッティングが行なわれた。
なお、本LPに収録される楽曲のうち「白鳥の恋」、「夢で逢いましょう」、「ロンリー・ワン」「トゥー・ヤング」の4曲はキングレコードのスタジオではなく、外部のホールを使用してステレオで録音されていた。したがってモノーラル録音が残されていない。当時のモノーラルレコードもステレオ音源からモノーラル盤がカッティングされていたのだが、本LPでも松下氏が改良を施した「モノラー」と呼ばれる機材を介して、ステレオテープからモノーラルカッティングが行なわれた。
正真正銘のモノーラルLPで蘇る
絶品のコーラスに心がとろける
本レコードの音の話をしよう。届けられた出来立てホヤホヤのモノーラルLPレコード(テスト盤ではなく本盤)は、ザ・ピーナッツがデビューした最初の3年間に録音された音源から選りすぐった、担当者こだわりの「ザ・ピーナッツ、初期ベストアルバム」となっている。
試聴は、拙宅のスピーカー、YGアコースティクス・ヘイリー2.2にカートリッジがMC型モノーラル・カートリッジのマイソニックラボ/エミネント・ソロを組み合わせたシステムと、もう1組、1965年製極上コンディションのアルテックA7-500スピーカーシステムにフェーズメーションのステレオMCカートリッジPP200を組み合わせたシステムの2組を使って聴いた。
1曲目「可愛い花」に針を落とすと、一般にモノーラル録音と聞いてイメージする温厚でナロウな感じのまったくない、鮮明で彫琢に優れた、まるでザ・ピーナッツの2人が目の前に出現したようなきわめてリアルな音に驚いた。前後方向に豊かな空気感を伴なって音像が浮かび上がり、2声のハーモニーの一体感は聴く者の心をとろけさせる。モノーラルならではの音の溶けあいが、62年の時空を超えて双子姉妹の魅力を存分に伝えてくれるのだ。
YGヘイリー2.2で聴くきわめて精緻で透明な音は、松下氏のカッティングがいかに素晴らしいかを細大漏らさず伝え、アルテックA7では開放的で晴れやかなザ・ピーナッツが現れる。そして、モノーラル・カートリッジの使用はベストだが、ステレオカートリッジでも充分に本アルバムの魅力が味わえることもお伝えしておこう。
「可愛い花」や「情熱の花」を『The First Decade〜』収録の曲と聴き比べると、同じ松下氏がカッティングを行なっているのだが、はっきりとした音の違い(進化)が感じられた。
松下氏が前作の経験を踏まえていっそうスキルアップしていることももちろんあると思う。加えてこれまで使用していた米国のラッカー盤のメーカーが火災で焼失して変更を余儀なくされたこと。それに伴なってカッティングマシーンも新たなラッカー盤に合わせて最適化され、ターンテーブルも吸着式のものに換装されたこと。さらに本LPレコードのプレスはソニーの新工場で行なわれたが、前作は香港の会社プライムディスクでプレスされていたこと。そういった数々の変更が、今回はすべて好結果に結び付いたと、そう考えて間違いないだろう。
ザ・ピーナッツ以降、多数の女性デュオが登場したが、秀逸な洋楽ポップスやジャズナンバー、ラテン、さらにロック(キング・クリムゾン『エピタフ』)、日本民謡のジャズアレンジ、もちろんオリジナル曲と、そのたぐい稀な歌唱力とリズム感で時代を駆け抜けたザ・ピーナッツ。その衝撃のデビュー当時の魅力を本LPで心ゆくまで堪能されたい。