U・BROS280Rは真空管ラインプリアンプのロングラン製品の血統であり、一見するとその外観と機能に変更がないように思える新ヴァージョンが、U・BROS280Rだ。
前作はブルートゥースによる電動ボリュウムの制御、入力選択機能付きリモコンを加えたのが大きな変化だったが、今回はその重厚な触感のリモコンは継承。しかもアンプの基本回路もほとんど変更がないという。ではなにが変更点なのか。これは電源部が電源トランスからL/R独立構成になったことが大きい。その配置自体が左右に振り分けられているのだから、本格的なデュアルモノーラル構成だ。
さらに特徴的なのは、信号経路を最短化したことだ。入力系統はすべてリアパネル直近に配置されたセレクターと音量調整を経て、アンプ部に直結される。その結果、信号経路の長さは従来の7分の1の距離になり、低音補正回路以外の信号経路からシールド線を排していることも改善点だ。
しかも、バランス調整用のボリュウムを省略しながらその機能を維持しているのがユニークだ。これはステッピングモーターで回転させる音量調整をL/R逆方向になるよう制御することで目的を達成。また音量調整は角度/減衰度の誤差を織り込んだ高精度マッピングにより、連動誤差を大幅に減らしている。
その音だが、前作とは段違いの鮮度と分離感に喫驚させられた。前作はフロントパネル側にまで引き回す長い信号経路の損失効果を織り込んだような、熟成型の音色美が特徴だった。それに対してこちらは、過渡応答性の凄みを見せつけるような俊敏さがあり、音像の3次元展望と精密感、そして微小情報まで力感が浸透する現代型の原音志向なのだ。
しかも、ボサノバ系の豊潤な和声と残響の3次元的な漂いにけだるい声が揺曳する描写など、CDからもアナログディスクのような無限階調の味わいが得られるわけで、キチキチな音ではない。SDCD「シナトラ・ライヴ・アット・ザ・サンズ」(SS盤)は、ビッグバンドの伴奏は控えめであっても相当な力が込められていて、のんびり伴奏しているわけではないことが伝わる。シナトラの熟味のある語りには音楽的な抑揚がともなうし、ここぞというときの語勢の強さ、声の色模様など大きな魅力だ。またゲルギエフ指揮のCD「春の祭典」の室内楽的な精密感から天地鳴動の炸裂感までも凄まじい表現域だ。そしてSS盤の「マイアベーア」、同じくアート・ブレイキー「ジェイズ・ジャム・ソング」の押しの強さとピーク感を余裕で描写するスケール感も素晴らしい。トランス受けのバランス入力は中高域の明快さが加わる。
パワーアンプをU・BROS280Rにしてみるとしなやかなタッチとなり、ドライなソット・ボーチェ(ささやき声)に湿気がともなう。しかも高い分解能と立体的な音場構築能力が保たれる。組合せによる適用範囲や表現力の強化が容易に達成できるのは、鋭敏な信号伝達能力のたまものだ。型番末尾の「R」はレボリューションの意味を込めているというのがうなずける傑出作だ。
組み合わせたパワーアンプ