フラッグシップの5000シリーズをはじめとして、このところ純オーディオのコンポーネント全般に注力しているヤマハから、プレミアムグレードといっていいコンパクトスピーカーが登場した。本体の背丈、およそ40㎝。6面ピアノブラック塗装のエンクロージャーがひときわ精緻な光沢を放つブックシェルフシステム、NS-3000である。リアバスレフ型で、入力端子はシングル接続専用。160㎜径コンケーブ(凹形)コーンウーファーと30㎜径ソフトドームトゥイーターによる簡潔な2ウェイ構成だけれど、NS-5000に続く高級機であることは一目瞭然だろう。
ウーファーもトゥイーターも、振動板はZYLON(ザイロン)織布。NS-5000のそれとおなじハイテク素材で、ベリリウムの音速とケブラー等アラミド繊維の内部損失特性を併せ持つというものだ。NS-5000は3ウェイだったが、その30㎝径ウーファーと80㎜径ミッドレンジドライバーを、NS-3000では160㎜径ウーファー1本に置き換えて小型化をはかった。30㎜径のドームトゥイーターはNS-5000と同等。ただし受持ち帯域が異なり、スペック上ではむしろ超高域のレスポンスがすこし伸びたようになっている。
いっぽう、ウーファーとミッドレンジが合併して、より簡潔でコンパクトな2ウェイに収まったわけなので、システムとしての耐入力や低音域の再生能力にはそれなりのハンデがつく。NS-3000はつまり、あくまでもNS-5000のジュニア版だと思われるかもしれない。
物理的に避けられないそういう制約があるのは事実だとしても、スピーカーの値打ちはそう簡単に決められない。なぜなら2ウェイ方式のコンパクトスピーカーは、たいてい他にない2ウェイ特有のおもしろさをもっているからだ。
それにはひとつ重要な前提条件がある。ウーファーとトゥイーターのクロスオーバーが3kHz付近に設定されていることだ。3kHz付近の音は人間の耳にもっとも聞こえやすく、命にかかわるような危険な音にはたいていこの帯域のエネルギーが大量に含まれているといわれる。そこでクロスオーバーをあえて3kHzの近くにもってきて、その帯域のエネルギーを上手にコントロールすると、眠気も吹き飛ぶスリリングな音から常春の微風音まで、さまざま個性や味をもつ多種多様なスピーカーができることになるのだ。
それは実のところ2ウェイ方式の特権である。3ウェイだって簡単にできそうなものだが、ドライバーユニットの帯域分担がチグハグになって、意外にもうまくいかない。NS-3000はというと2.8k㎐クロスで、ずばり王道を行く小型2ウェイシステムといえる設計だ。
低音は控えめだが、
貫禄を感じるサウンド
デノンのPMA-SX1リミテッドと組み合わせて試聴した。落ち着き払って腰の据わった外柔内剛型のサウンドは、サイズを思わせず伸びやかでずしりとした手応え。NS-3000の初印象はそれだった。先輩格のNS-5000がちょっと操縦のむずかしい大柄な高速スポーツカーのようだったのに対し、端正に整っていっそう柔軟な感じだ。そして音のひとつひとつに確かな質量を乗せる頼もしいまとめかた。クロスオーバー周波数まわりのエネルギーを抜いて耳当たりのよさを狙う類の常識的な細工も避けているようだ。小型2ウェイにはめずらしい内声部の充実感を漂わせながらナーバスにも重苦しくもならないわけで、そのあたりの筆さばきのなにげない鮮やかさが価格に沿った傑出性、完成度の高さと納得できる。エンクロージャーやクロスオーバーネットワークの高品質も手伝ってとにかく全体に貫録豊かなので、AVユーズにもつかってみいたい気がするけれど、このレベルのスピーカーでマルチチャンネルはもはや物事の例外だろう。低域端がいささか薄味なのもやむを得ないから、サブウーファーをうまく組み合わせた前方サラウンドを考えたいところだ。
リアバスレフのポートには脱着自由のフォームプラグが付属する。ミラーイメージペアの左右配置については前面バッフルのYAMAHAロゴマークを外側にするのが基本、といったように多少の調整項目や約束事はあるのだが、肝心なのはオプションの専用スタンドにしっかり取付けてなるべく周囲に物を置かないスタンドアローンセッティングを心がけることではないかと思う。贅沢な内部配線材に見合う入力ケーブルの選択も重要だ。