オーディオやオーディオビジュアルの世界は日進月歩。次々に新しい技術やそれを搭載した新製品が登場し、入れ替わりも早い。だが同時にそれらは、常に時代の最先端を走っているモデル達でもあり、思い出に残る製品ともいえる。このシリーズでは、弊社出版物で紹介してきた名機や名作ソフトに関連した記事を振り返ってみたい。

★以下の記事はHiVi2011年10月号に掲載されています
https://www.stereosound-store.jp/fs/ssstore/bss_reg_hv/409

画像1: 【HiVi名作選】スピーカーシステム ELAC「50LINE」(2011年10月号)

立体的に空間を再現し、音像がシャープに定位する。
みごとな鳴りっぷりには、思わず息をのんだ

エラックのスピーカーシステムというと、繊細にして明敏なJETトゥイーターを搭載したシリーズが有名だ。しかし、この50LINEは、ドーム型トゥイーターを搭載し、一般的なスピーカーと同様の外観を持つ。2ch再生はもちろん、ホームシアター用途も意識した最新シリーズだ。価格を抑えてはいるけれど、スピーカーユニットや帯域分割ネットワーク、エンクロージャーなどを新たに設計した意欲作だ。その鳴りっぷりと品格に注目したい。

各部に見いだせるエラックらしい造り込み

 「FS57.2」は、トールボーイ型のエンクロージャーに、ドーム型トゥイーターと、カットオフ周波数の異なる2基のウーファーユニットを組み合せた2.5ウェイ仕様だ。この方式と外観は特に変ったところもない。

 高域ユニットは2.5cmのシルクドーム型。指向性を前方重視にするためにダイヤフラムの周囲を軽く落とし込んでいるが、ホーンに近いほど窪ませている例と比べると、ごく普通という印象だ。14.5cmウーファーはパルプコーン仕様ながら、振動板表面にアルミコーティングを施してあるように見せているのが同社らしい。コーンの絞りはちょっと深めで、振動板はロール(フリー)エッジで支えられている。つまりは微少信号でも動きやすく、適度なダイナミックレンジを意図した設計だ。

 今回試聴した3種の中では、本機のみバイワイアリング仕様だ。端子やジャンパーが堅牢そうで頼もしい。

 2ウェイブックシェルフ型の「BS53.2」も、使用ユニットはFS57.2と同一。能率は2dB落ちるが、公称インピーダンスは同じ4Ωで、サラウンドで組み合せた場合に使いやすい。

 センターチャンネル用の「CC51.2」は、トゥイーターは他モデルと同じだが、2基のウーファーは、少し小さい14cm径になっている。公称の能率とインピーダンスはFS57.2と同じなので、それをL/Rにした、フロント3チャンネルを構成する場合に使いやすいだろう。

 これら3モデルは、いずれもリアバスレフ方式だが、FS57.2のみ上下にバスレフダクトを設けている。

 センターのCC51.2用を除いて、ダクト開口部に栓をして低音を調整するための「セパレート・ベースコントロール・プラグ」が付属している。この辺が、音響物理の原理原則に忠実な設計理念を持つエラックのこだわりだろう。

豊かな響きと精密感が両立

 まずはステレオ再生にて音質を確認。BS53.2は、良質な箱鳴りを積極的に活かして奥行や高さ方向まで余韻が展開され、その立体的な音場の中で中高域の音像がきちんとフォーカスする。といっても、JETトゥイーター搭載モデルほど設置角度や水平出しに敏感ということはなく、鳴らしやすくて分離も密度感もよく描写できる完熟型といえる。

 3次元的な定位も明快。室内オーケストラの少人数で構成されたパートの厚みや共鳴感までよく分かるのはさすがだ。

 はっきり言って、クラシックやアコースティックな編成の音楽では、FS57.2よりも聴き心地がよかった。地味なヴィオラが、渋い音色ながら大きなフレーズで弧を描いたり、厚い和声を支える様子など、練り上げられた描写力に感心する。ダイナミックレンジや低域の限界はあるので、ほどよい規模のアンプと組み合せて、ほどよい音量で鑑賞したい。箱鳴りを活かすためには、周囲の反射壁から充分に距離を確保したい。

 FS57.2では、さすがに低音が厚くなり低域の音程が明瞭。そして複雑な編成のオーケストラでは、パートの分離を保ちつつ中身の詰った音群の押し出し感が爽快だ。大オーケストラの重低音ジャズ系のベースの躍動など充分に手応えがあるし、高域のきらびやかなタッチも表情豊かになっている。

 ただし、リスニングポイントを頂点に、正三角形にスピーカーを配置しただけの状態では、BS53.2の方がまとまりがよく、2chで試聴した映画の音でも肉声の生々しさやピークの伸びなどはもうひとつ。HiVi視聴室のような響きのいい部屋だと低域が少しかぶる傾向があるので、それが関係していそうだ。

 そこで、付属品を使用してバスレフダクトの調整を行なった。詳しくは左ページのコラムを参照されたい。

サラウンド定位と声質に驚く!

 最後に、フロントL/RにFS57.2を、サラウンドL/RにBS53.2を設置。センタースピーカーCC51.2と、サブウーファー「SUB50 ESP」を加えた5.1chシステムで映画BDと、SACDを視聴した。

 これはさすがに声の実像感や抑揚の現実感が優秀。「アバター」の後半、出撃前の兵士にクオリッチ大佐が海兵隊口調で演説する場面など、意外と奥行のある現場の残響を従えて語勢が明快だ。ジェイクの低く、ちょっと乾いた声色にも様々な感情が乗っかり、声の演技力がよく見通せる。しかも分析的な冷たさがないので、映画の世界に没入しやすい。

 派手な戦闘場面は、大型システムのような怒濤の勢いの音ではなく、耳をつんざくような鋭さもやや控えめだ。しかし、音像が拡散せず明瞭であり、三次元定位や移動音の軌跡の確かさなど、すこぶる魅力がある。しかも劇的な盛り上がりも充分にこなすのだ。サブウーファーの重低音は重苦しくなく、誇張感もなく、質量感を保ってしっかり下支えしている。

 SACD「長岡京室内アンサンブル」の5.1ch再生でも、そういった実力を実証してくれた。音楽ジャンルに関わらずに快活な表情を保ち、スピーカーサークルの内部に濃密な音世界を構築する能力はELACの伝統といえる。

 映画用として、映像空間を拡大する効果があるほど鳴りっぷりがよく、それでいて一定の節度を保つ。50LINEのこの組合せは、多くの使い手に大歓迎されるだろう。

 ソフトドームトゥイーターを採用した本シリーズは、ELACの新しい系統樹として大きく育ってほしいものだ。

スピーカーシステム

ELAC BS53.2 ¥52,500(ペア)
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:145mmコーン型ウーファー、25mmドーム型トゥイーター
●寸法/質量:W170×H285×D235mm/5.5kg

FS57.2 ¥84,000(ペア)
●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:145mmコーン型ウーファー×2、25mmドーム型トゥイーター
●寸法/質量:W200×H940×D300mm/14.0kg

SUB50 ESP ¥57,750
●型式:アンプ内蔵・バスレフ型
●定格出力:100W
●使用ユニット:270mmコーン型ウーファー
●寸法/質量:W325×H450×D370mm/18.0kg

CC51.2 ¥26,250
●型式:2ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:140mmコーン型ウーファー×2、25mmドーム型トゥイーター
●寸法/質量:W445×H160×D280mm/7.0kg

FS57.2で低域チューニングにトライ!

▲FS57.2とBS53.2には、バスレフポートに装着し、必要に応じて低域の調整を行なう「セパレート・ベースコントロール・プラグ」と呼ばれるスポンジが付属する。今回は背面の上下にバスレフポートを備えるFS57.2でチューニングを行なった

リアバスレフ方式のスピーカーでは、背後の壁との距離で低音の演出力が大きく変る。硬い板張りの視聴室では、下のポートのみを塞ぐと、重低音の床反射が減って、やや朗々とした鳴り方に節度が与えられ帯域バランスが整う。今回は、声の伸びやかさや語尾まで明瞭になった。上下のポートに栓をすると、響きが抑制される傾向となる。こうした調整はアンプの駆動力とも関係するので、バイワイアリングも加味して色々試すといいだろう。(吉田)

密閉型の小型モデルもラインナップ

ELAC BS52.2 ¥42,000(ペア)
●型式:2ウェイ2スピーカー・密閉型
●使用ユニット:110mmコーン型ウーファー、25mmドーム型トゥイーター
●寸法/質量:W136×H210×D165mm/2.3kg

画像6: 【HiVi名作選】スピーカーシステム ELAC「50LINE」(2011年10月号)

BS52.2は、シリーズ中で唯一密閉型エンクロージャーを採用する最小モデルで、ユニットは2.5cmトゥイーターと、11cmウーファーの組合せだ。背面にフック受けが設けられており、壁掛け設置が可能

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