LANネットワークを利用した高音質伝送プロトコル「Diretta」(ディレッタ)が、“コアな”ネットワーク/PCオーディオファンから注目されている。

 Direttaとは、LANネットワークを利用する新たな高音質伝送プロトコルだ。一般的なPCオーディオ/ネットワークオーディオ環境(トランスポート+USB D/Aコンバーター)に採用する事で、機材+ソフトウェアレベルで負荷分散を行い、主に既存のUSB DACの音質を大きく向上させる事を狙っている。またDirettaに対応するネットワークプレーヤーも既に発売されている(Direttaの概要や機器構成、詳細な技術ポイントについては巻末のコラムを参照いただきたい)。

 そのような中、国産ハイエンドメーカーのSPECから、Direttaに対応するUSB Bridge「RMP-UB1」が登場した。

SPEC
USB Bridge「RMP-UB1」 ¥218,000(税抜)

画像1: Diretta伝送で、音がこんなによくなるとは! SPECから登場したUSB Bridge「RMP-UB1」は、ハイレゾファンに大きな恩恵をもたらす注目アイテムになるだろう

●接続端子:USB Type-A×2、USB Type-B×1、LAN端子×1
●特長:
・オーディオメーカーとしてのノウハウを活かした高音質アナログ電源 大容量アナログ電源と高音質パーツを用いた音作りを実現。マイカコンデンサーや電解コンデンサーを使用して、透明感のあるサウンドを得ている。
・アルミパネルとスプルースを使用した本格設計 アルミパネルとスプルース材のウッドパネルを採用。・
USB-B入力端子装備 USB-Bの入力端子も装備し、Direttaのtargetだけでなくhostとして使う事も可能(後日の対応予定)。
●消費電力:15W
●寸法:W350mm×H95×D164mm

画像: NASとUSB DACの間に「RMP-UB1」を加えることで、Direttaを使った音源データの伝送が可能になる。今回は「RMP-UB1」あり/なしを適宜つなぎ替えて音の変化を確認している

NASとUSB DACの間に「RMP-UB1」を加えることで、Direttaを使った音源データの伝送が可能になる。今回は「RMP-UB1」あり/なしを適宜つなぎ替えて音の変化を確認している

 SPECは2010年の創業以来、「生演奏のリアリティ」を追求する“リアルサウンド”を提唱してきた。スプルースとカエデを使った木製サイドパネル・インシュレーターを採用した高品位なデザインのプリメインアンプやプリアンプ、パワーアンプなどが高く評価されている。また、ターンテーブルやカートリッジ、フォノイコライザーなどのアナログ製品、ラインセレクターやオーディオベース、インシュレーターまで幅広いラインナップを取り揃える。

 筆者から見ると、SPECは従来のオーディオの作法を大切にしていたメーカーなのだが、そんな同社がデジタルオーディオの中でも、特にカッティングエッジな技術であるDirettaに目をつけたと事はとても興味深い。

 同社代表の石見周三氏いわく、10周年となる今年、SPECの新しいストーリーを模索する中で、デジタル楽曲ファイルに対応する新しい意図を持つ製品を考えていたそうだ。そのような中、Direttaの開発者である原田勇氏からその技術について提案され、生々しい音を聞いた瞬間、SPECのフィロソフィーであるリアルサウンドとの共通性を感じ、これを実現するオーディオ機器の開発を決めたという。

 RMP-UB1のシャーシサイズは横幅35cmで、これは同社のプリメインアンプ「RSA-888DT」とも共通だ。シャーシおよびフロントパネルはアルミ製で、上記の木製サイドパネル・インシュレーター使用している所などいかにも同社のオーディオ機器らしい。この構成は見た目の美しさもさるところながら、適度な内部損失による美しい余韻や空気感を求めた明快な意図によって成り立っており、リアルサウンドを実現するための「必然」として同社が選んだ仕様である。

 インターフェイスは、RJ45の有線LAN端子、2系統のUSB-A端子、1系統のUSB-B端子などで、Direttaを含むデジタル回路は原田氏がDirettaのモジュール「Lucia」(ルチア)を提供し、電源周りをSPECが担当している。

光ケーブル仕様の「RMP-UB1SFP」も発売決定!

画像2: Diretta伝送で、音がこんなによくなるとは! SPECから登場したUSB Bridge「RMP-UB1」は、ハイレゾファンに大きな恩恵をもたらす注目アイテムになるだろう

 今回試聴したRMP-UB1のラインナップとして、光LAN接続(SFP)用モデル「RMP-UB1SFP」も発売される。価格は¥258,000(税別)だ。上の写真は上段がRMP-UB1SFPで、下段が試聴に使ったRMP-UB1。本体背面左側のLAN端子の形状が異なっているのがわかるだろうか。

 本体仕様の差異はその点くらいで、機能や操作性は同一となる。その他の違いとしては、RMP-UB1SFPには、SFPファイバーモジュール対向セット、SFP COPPERモジュール、ファイバーケーブル(1m、24m)も付属している。

 なお、RMP-UB1のユーザーがRMP-UB1SFPにグレードアップしたいという場合も、接続部の設置やバックパネルの変更サービスが準備されている。バージョンアップ代金は¥50,000(税別)で、送料個人負担で山形県東根市の協力工場に送ることになる。

 いいなと思ったのは、本モデルは、SPECのアンプそのものの設計思想を継承していること。アナログのリニア電源やマイカコンデンサーを始めとする、同社お家芸のテクノロジーがしっかりと取り入れられているのだ。

 SPEC社の技術者と原田氏の関係は良好で、本機の開発時にはお互いが補完しあう形で試行錯誤して、さらにLuciaモジュールの素性がいいこともあり、事前の予想を超える完成度でRMP-UB1が誕生したという。

 試聴はStereoSound ONLINE試聴室で行った。一般的なトランスポート+DAC環境と聴き比べるために、スタンダードな構成を用意。ネットワークトランスポートに、アイ・オー・データ機器のfidata「HFAS1-XS20」、USB DACにマイテックデジタル「Brooklyn DAC+」を用いている(図1を参照)。

 対するDiretta環境は、送り出し側に「Diretta host」、受け側に「Diretta target」というふたつの機器を用いる必要がある。実はHFAS1-XS20はDiretta host機能を実装しているため、hostには同機を、RMP-UB1をtargetとして使用する事にした(下コラム図2を参照)。

 ここからわかるのは、RMP-UB1を用いれば、既存のUSB DACシステムをすぐにDiretta化できるという事だ。この構成での再生操作はOpenHomeに対応したアプリから可能で、今回はアイ・オー・データが提供する「fidata Music App」やリンの「Kazoo」で行っている。

 また、Direttaの対応環境も容易に構成できる。HFAS1-XS20にLANケーブルを接続し、fidata Music Appの「システム設定」から「Diretta出力」を「有効」にする。そしてUSB DACとRMP-UB1をUSBケーブルで接続するだけである。RMP-UB1前面のLEDは、機器の立ち上げ中(赤)→DAC認識(オレンジ)→再生中(グリーン)と表示されるのでステータスを把握しやすい。

Direttaの実力を確認した、RMP-UB1の視聴システム

画像3: Diretta伝送で、音がこんなによくなるとは! SPECから登場したUSB Bridge「RMP-UB1」は、ハイレゾファンに大きな恩恵をもたらす注目アイテムになるだろう

<主な視聴機器>
●USB Bridge:スペックRMP-UB1 ●NAS:フィダータHFAS1-XS20
●USB DAC:マイテックデジタルBrooklyn DAC+ ●LANスイッチ:SOtM sNH-10G
●プリアンプ:アキュフェーズC-2850 ●パワーアンプ:アキュフェーズP-7300
●スピーカーシステム:モニターオーディオPL300II

画像4: Diretta伝送で、音がこんなによくなるとは! SPECから登場したUSB Bridge「RMP-UB1」は、ハイレゾファンに大きな恩恵をもたらす注目アイテムになるだろう

 今回の試聴では、RMP-UB1あり/なしによるDiretta伝送の効果を確認するために、ふたつの接続を聴き比べている。まずは図1のようなNASとUSB DACを直結した一般的な再生方式で、操作はアプリから行っている。この方式は接続がシンプルで使いやすいこともあり、多くのユーザーが実践しているはずだ。

 図2がRMP-UB1を加えた場合で、こちらはNASとRMP-UB1の間がDirettaで伝送されることになる。その恩恵は音にもはっきりと現れているので、音にこだわる方はぜひ体験していただきたい。

 そして、気になる音質比較の結果だが、事前の予想を超える衝撃的な内容となった。

 まず基本となるシステム(図1)でも、音質に定評あるfidataをトランスポートとしているだけあり、分解能、トランジェント、周波数レンジ、ダイナミックレンジとも悪くない。

 しかしDirettaを追加した場合は、筆者が考えるオーディオ的な尺度、すなわち、聴感上のS/N、周波数レンジ、分解能が圧倒的に向上する。はっきりいうが、音が少々変わるというレベルではなく、明快に音質が上がるほどの変化を聴き取れる。帯域バランスはまったく変化がなく、音に変な癖がのらないのも特筆点だ。

 女性ジャズヴォーカルのヒラリー・コール『魅せられし心』(96kHz/24ビット、FLAC)では、イントロのジャズベースが、彫刻刀で掘り下げたほどのリアリティを持ち、ローエンドの伸びもよくなる。ヴォーカルは口元の大きさが判るリアルな表現で、同じDACとは思えないほどの変化量。

 ステレオサウンド社「ハイレゾリューションマスターサウンドシリーズ」『J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲(全曲)』(DSD11.2MHz)では、楽曲が始まる直前の暗騒音から臨場感が違うし、何よりもヤーノシュ・シュタルケルのチェロの弦が異様にリアルだ。無伴奏チェロソナタでこの音の出方をされると、もはや困ってしまうほど。弱音から強音の音楽的なグラデーションが上がっている事も手伝い、筆者は試聴を忘れて演奏に引き込まれてしまった。

 さらに、J-Popの米津玄師 『パプリカ』でさえ違ってくる。イントロの浮遊感のあるエレクトリックシンセの移動感が明瞭になり、当然、ヴォーカルとバックミュージックの描き分けも向上するが、感心したのは、曲の中盤でコーラスが入り左右のスピーカー間の音数が増えても、ヴォーカルが不明瞭にならずピンポイントに定位することである。

 どの楽曲を聴いても、解像感が上がるというより、今までノイズにスポイルされていたより微小な質感表現や、ステレオイメージが明確になる印象だ。Direttaの理論的な狙い通りの音質向上が実際に聴き取れた。

気に入りのUSB DACでDirettaの効果を実感。NASの設定もお忘れなく

画像5: Diretta伝送で、音がこんなによくなるとは! SPECから登場したUSB Bridge「RMP-UB1」は、ハイレゾファンに大きな恩恵をもたらす注目アイテムになるだろう

 RMP-UB1を導入する一番のメリットは、お気に入りのUSB DACをそのまま活用できることだろう。今回は土方さんのリクエストで384kHz/32ビットPCMやDSD 11.2MHzに対応したマイテックデジタルの「Brooklyn DAC+」を使い、スイッチングハブにもSOtMのsNH-10Gを組み合わせた。

画像6: Diretta伝送で、音がこんなによくなるとは! SPECから登場したUSB Bridge「RMP-UB1」は、ハイレゾファンに大きな恩恵をもたらす注目アイテムになるだろう

 音源を格納したNASもDiretta対応モデルであることが必要で、今回はフィダータ「HFAS1-XS20」を使っている。その際も、Fidata Music AppからNASの「本体設定」→「システム設定」に入り、「Diretta設定」を有効にしておくのをお忘れなく。

 デジタル楽曲ファイル再生の時代になり、オーディオ機器ではNASや操作端末とのやり取り、タグ情報の取り扱いなど、処理しなくてはいけない情報が増え、内部構成は複雑化している。結果としてオーディオ機器内で発生するノイズ量は増えている。

 しかも、特にハイサンプリングおよびハイビットレートでA/D変換する事で得られるハイレゾの優位性、つまり記録された空間間表現を左右する余韻成分やアコースティック楽器の微妙なニュアンスが、ノイズフロアによってかき消されてしまっている可能性さえある。

 Direttaを適応する事でそのノイズフロアが劇的に下がり、今まで聴こえなかった音が実際に聴こえてくるのである。RMP-UB1はこの方式の音質を最大限上げる選択肢として、デジタル再生を探求するコアなファンから、ハイエンドオーディオファンまで魅力的な1台となりそうである。

 余談であるが、筆者の経験則だとトランスポート+USB DAC方式におけるfidataの実力は、一般的なパソコンを使用した時を大きく凌駕しており、この機材構成がひとつの最終形だと思っていたのだが、その状態からここまでのレベルで音質が向上する事に驚嘆するしかない。つまりDirettaが、使用しているUSB DACシステムの音質を大きく引き上げてくれるのだ。

 記事執筆時点でhostとして利用できる機器は、アイ・オー・データ機器の「fidata」及び「Soundgenic」、さらにASIOドライバをインストールしたWindowsパソコン、targetはスフォルツァートのネットワークプレーヤーやオリオスペックの「Diretta Target PC」といった具合で製品数も限られていたのだが、RMP-UB1が登場した事で、特にUSB DACを使用するケースで有力な選択肢が生まれた。

 デジタル楽曲ファイルを再生するシステムが出揃った中、光LAN接続も含め、ソース機器全体のノイズフロアを下げることは、今年以後の大きな手法として注目されるはずだ。その急先鋒として、しかも現在では対応する機器が少ない中、ハイエンド機器の仕様を備えて登場したRMP-UB1はDirettaの恩恵を受けられる大注目の製品になるだろう。

画像: 試聴の後に、RMP-UB1の企画意図などに関するインタビューも行っている。写真右からDiretta開発者の原田 勇さん、スペック株式会社 代表取締役社長 石見周三さん、同 技術部長 坂野 勉さん

試聴の後に、RMP-UB1の企画意図などに関するインタビューも行っている。写真右からDiretta開発者の原田 勇さん、スペック株式会社 代表取締役社長 石見周三さん、同 技術部長 坂野 勉さん

高音質伝送のDirettaとは。そしてそのアドバンテージ …… 土方久明

画像7: Diretta伝送で、音がこんなによくなるとは! SPECから登場したUSB Bridge「RMP-UB1」は、ハイレゾファンに大きな恩恵をもたらす注目アイテムになるだろう

 DirettaはLANネットワークを利用するオーディオ専用の高音質伝送プロトコルである。本テクノロジーの狙いを至極簡素にいうなら、ソフトウェア、ハードウェア両レベルでの動作負荷低減、それによるレンダラー側(ネットワークプレーヤー/トランスポート)からのノイズ発生を最小に抑えることにある。

 デジタル楽曲ファイルやストリーミングの登場により、オーディオ機器が処理する音楽以外の情報量は増大している。例えば、UPnP/DLNA方式を採用した一般的なネットワークオーディオ環境では、プレーヤー(レンダラー)は、NASへのデータ取り出し要求や、FLACのデコード処理に加え、スマホやタブレットとのタグ情報を含む操作処理のやり取りが必要で、プレーヤー内には少なくないノイズが発生している。

 通常このタイプのノイズ対策としては、コンデンサーとインダクターを電源に配置してローパスフィルターとして機能させていた。しかしこの仕組みは、低周波の変動までは除去しないので、電流視点で観測すると一定周期の可聴帯域に影響が出るノイズまでは除去しきれない。

 対するDirettaは、上述したプレーヤーとして負荷のかかるデータ処理をhost側に任せることができる。さらにhostとtargetが同期して、host側からtarget側へ伝送されるパケットデータは、一定の短い間隔で送信されることでプレーヤーの負荷変動(電圧変動)も平準化されるのだ。処理負荷が低減され、それに伴うノイズの影響から解放されたプレーヤーは自身の持つオーディオ的な再生能力を最大限発揮できるのである。

画像: Diretta伝送の効果を楽しむには、図3のようにDiretta対応ネットワークプレーヤー(LAN DAC)を使う方法もある。こちらはUSBブリッジよりもシンプルな構成となるが、対応製品数が少ないのが現状だ

Diretta伝送の効果を楽しむには、図3のようにDiretta対応ネットワークプレーヤー(LAN DAC)を使う方法もある。こちらはUSBブリッジよりもシンプルな構成となるが、対応製品数が少ないのが現状だ

 図2および3を見る通り、接続上は、LANを使用した一般的なネットワークオーディオの仕組みに見えるかもしれないが、機器間(赤の矢印)を流れるプロトコルはUPnPとは全く別種のDirettaオリジナルのもの。対応する機器はオーディオ専用の高音質伝送プロトコルの恩恵を受けることができるのである。

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