HDMI2.1規格の登場を受け、8K対応を謳うHDMIケーブルが各社から発売されている。しかし48Gbpsという従来の2倍以上の伝送速度が求められるHDMIケーブルは物作りの面でもナーバスで、実際には8K動画が映らないといったケースもあるという。そんな8K対応HDMIケーブルの新製品として、スープラから「HD-8」がリリースされた。そこで今回は、スープラの輸入販売を手がけるサエクコマースの北澤慶太社長をStereoSound ONLINE視聴室にお招きし、麻倉さんと一緒にHD-8の実力を探ってみた。(編集部)
−−スープラから8K対応HDMIケーブル「HD-8」が10月下旬に発売されます。これまで他メーカーからも8K対応の光変換HDMIケーブルは登場しています。しかしHD-8は銅線を使ったメタルケーブルです。銅線で8K信号が問題なく伝送できるのか、長さはどれくらいまで大丈夫なのか、今回はそれらについても検証してみたいと思います。
麻倉 初めに、HD-8は8Kの映像信号を正しく伝送できると確認したことを述べたいと思います。実はHD-8のサンプルが日本に届いてすぐに、北澤さんから8Kを正しく伝送できるか調べられないかという相談をもらっていました。
そこで、以前から懇意にしているアストロデザインの鈴木社長にお願いし、HD-8の測定をしてもらうことにしたのです。アストロデザインさんは業務用8Kの分野でトップを走るメーカーで、ケーブル測定器もラインナップしています。
9月下旬に北澤さんと一緒にアストロデザイン本社にお邪魔したのですが、そこでHD-8の2mと5mを測定したところ、どちらも8K信号をきちんと伝送できることが確認されました。それは8Kテレビとの接続による目視試験だけでなく、信号発生器とプロトコルアナライザーにて測定も行いました。
北澤 8K対応を謳う以上、動画が再生できることを自分の目で確認したかったので、本当にほっとしました。スープラ側は8K対応は4mまでで、5m以上は4K用だと説明していたのですが、アストロデザインさんで確認してもらったら5mでも8K映像が再生できました。
「SUPRA HD-8 HDMIケーブル」
¥18,000(0.5m)、¥19,000(1m)、¥20,000(1.5m)、¥21,000(2m)、
¥24,000(3m)、¥27,000(4m)、¥30,000(5m) ※4mと5mは4Kまで対応
●信号帯域:340Mbps ●TMDS伝送容量:48Gbps
●対応解像度:水平7860×垂直4320画素@60Hz(0.5〜4m)
●ケーブル導体:銀コート高純度無酸素銅
●ケーブル構造:ツイストペアシールド+アルミ箔、錫メッキ導線編組3重シールド
●ケーブル外径:直径9mm ●ケーブル被膜:PVC
麻倉 絵もすんなり再現されて、安定していました(編集部注:その際のインプレッションは巻末のコラムで紹介しています)。そして今回は、HD-8を使ったらUHDブルーレイの4K映像と音がどのように体験できるのかを確認したいと思っています。
北澤 ホームシアターでは4Kを楽しまれている方が多いでしょうから、私も4Kがどんな風に再現されるのかとても気になっています。
−−今日はStereoSound ONLINE視聴室の常設機器を使ってUHDブルーレイからご覧いただきました。プロジェクターがJVC「DLA−V9R」で、スクリーンはスチュワート「HD130」(120インチ/シネスコ)。プレーヤーはパナソニック「DP-UB9000」、AVセンターはデノン「AVC-X8500H」、スピーカーはモニターオーディオを中心にした7.1.4システムです。
麻倉 まずはUB9000とV9Rの間のHDMIケーブルをつなぎ変えて映像を確認しました。常設の光変換HDMIケーブル(10m)とHD-8(5m)の比較になります。
ソースはUHDブルーレイ『宮古島〜癒やしのビーチ〜』で、これはビデオ撮りの4K作品の中では最高の一枚です。Ch(チャプター)4の東平安名崎灯台からCh5の伊良部大橋までをチェックしました。
常設HDMIケーブルでも、情報量も多い、クリアーな絵が楽しめます。かっちり、くっきりした映像で、このソフトが持っているコンテンツとしての情報性をよく出していました。
HD-8に替えると、つないだ瞬間に違いがわかりました。画質評価では、よくベールが剥がれるといった言い方をしますが、まさにそれで、メガネの曇りが取れた、目がぱっちり開いて視力があがったような違いがあります。
灯台の遠景も、遠くまでクリアーに見渡せます。手前と奥の関係がよりはっきりし、奥行感、立体感が出てきました。ディテイル情報も豊かになり、右側の岩の表面や木の葉の緑の描写がよくわかる。常設ケーブルでは離れた場所から観ているという雰囲気ですが、HD-8ではそこにもいろいろな情報がある、そこにオブジェクトがあるということが実体感として伝わってきます。それがHD-8の魅力ですね。
また海がとても綺麗で、上空からの映像で深さによって水の色が違っている、その微妙なグラデーションが見事に再現されています。色による深さの違いがHD−8ではたいへんよく伝わってきました。
Ch5では、全画面の透明感が格段によくなっています。中央にある岩の実在感、ディテイルもよく出ているし、海と空の狭間、水平線のあたりの青の階調が滑らかで、海と空の描き分けも自然でした。
北澤 ケーブルを変えた瞬間に、画面が明るくなったのに驚きました。今日は120インチとのことですが、ケーブルでこんなに輝度感が違ってくるんですね。
麻倉 大画面になると、プロジェクターにどれくらい正しい電力、情報を送るかも重要です。画面が明るくなるということは、それだけ伝送時のノイズや減衰がないということですから、HD-8の特性が優れている証明でもあります。
北澤 デジタル伝送のHDMIケーブルでもこんなに差が出るとは、改めて驚きました。
麻倉 ところで、HD-8は銅線を使ったHDMIケーブルですが、線材は従来モデルから変更されたのでしょうか?
北澤 銅の素材自体は前モデルのHD-5から変っていません。ただしHD-8ではより多くの情報を通さなくてはいけませんから、インピーダンス整合をきちんと取ることを重視しています。同時にシールドを強化して外来ノイズを減らしています。HD-8での改善点は、集約するとこの2点に絞られます。
麻倉 導体そのものは同じでも、約2.5倍の信号を通せるんですね。
北澤 銅線は同じですが、信号線の周りの絶縁体には新しい素材が使われています。シールドもHD-5では二重でしたが、今回は三重シールドが採用されています。
ケーブルは回路側から見れば抵抗になります。われわれケーブルメーカーは常に、いかに抵抗を減らして伝送速度を上げるかを重視して開発を進めています。スープラも長年そういった取り組みを続けてきていて、その経験がHD-8に活きているのでしょう。
麻倉 サエクさんも、同じケーブルメーカーとして複雑ですね。
北澤 ちょっと悔しいところはあります(笑)。
麻倉 さて、『宮古島』は4K/60p素材でしたが、4K/24pの映画UHDブルーレイ『グレイテスト・ショーマン』では、それ以上に差がありました。
ケーブルを変えた瞬間の絵の輝き、ヌケのよさが際立ちました。Ch15では、バーナムの奥さんのチャリティがプリーツの付いた水色のドレスを着ていますが、この生地の質感、色の再現がとても綺麗です。窓から差し込む光の強さもよくわかる。
光が当たっている部分とそうでない部分の段差感、明るさの演出もいいですね。チャリティの手には光が強く当たって肌色が輝いています。一方で顔は反射光なのでそこまで明るくはない。ハイパワーの部分がくっきりするだけでなく、ローパワーな部分の情報もきちんと再現している。光の中の階調感、HDRが持っている情報をHD-8がしっかり伝送しているのでしょう。
続いてバーナムが馬車に乗って公演旅行に出かけるシーンも驚きでした。室内はブルーの色調でやや暗い絵づくりです。しかしドアが開いた瞬間の光のまばゆさ!
それまでは色数が少なかったのですが、ここで一転して極彩色になりました。青、緑、枯れ葉の茶色など、どれもクリアーに目に飛び込んできます。こうした光の演出、色彩表現がしっかり描き出されるのもHD-8ならではで、ヌケのいいからっとした雰囲気、天井まで高くなったかのような開放感のある映像に感じます。
これはまさに“表現力”の違いでしょう。そもそも電気信号には監督や撮影者の意図、ディレクターズインテンションが含まれています。その演出の機微がHD-8ではちゃんと理解することができる。ケーブルが解釈力や表現力を持っているわけではありませんが、オリジナルの映像が持っている意図をぼかさずに伝える、元の信号をていねいに届けますというポリシーを感じます。
北澤 まさに、おっしゃっていただいた通りだと思います。光変換ケーブルではどうしても電気→光への変換が必要で、スープラとしてはそういった工程はないほうがいいという発想からHD-8を生み出したのだと思います。
もちろんもっと長い8K用ケーブルも必要ですし、その場合は光変換を使うことになります。どちらがいいかということはないけれど、スープラが作りたいと思っていたのはメタル線だったのではないでしょうか。
麻倉 プロジェクターを天吊りしているユーザーは10m以上のケーブルが必要です。そうなるとメタル線では不可能で、光変換しか選択肢はない。でも短いケーブルならストレートに信号を伝送できるメタル線がいい。これは確かに理にかなった考え方です。
北澤 HD-8はスープラとしては3代目(細かいバージョンアップは除く)のHDMIケーブルになります。HDMI1.1の時代から15年以上作り続けているわけで、ノウハウも蓄積できているのは間違いありません。
−−続いて音質をチェックしていただきました。ここではUB9000とX8500Hの間のHDMIケーブルを交換しています。最初は5年ほど前に発売された4K用ケーブルで、次にスープラの一世代前のHD-5、そして最後がHD-8という順番で聴いています。長さはすべて2mです。
麻倉 5年前のHDMIケーブルはさすがに音も古く、情報量も寂しいですね。これに対しHD-5はきちんとした整理されたサウンドになり、HD-8ではそれがソフィスティケートされました。
CD『情家みえ/エトレーヌ』での印象を言うと、5年前のケーブルは音数が少なく、切れが甘い。さらに『ニューイヤー・コンサート2018 リッカルド・ムーティ&ウィーン・フィル』のCDでも、コンサートらしい広がりに欠けて、音の明瞭さもいまひとつでした。
ケーブルをHD-5にすると、断然よくなる。スープラはもともとスピーカーケーブルなどで評価が高かったわけで、そのイメージ通りの鮮明感が高くて情報量も多く、ナチュラルなサウンドが特長でした。
『エトレーヌ』の1曲目「チーク・トゥ・チーク」でも、冒頭の4小節にキレとスピード感がある。低音がちゃんと出て、その上にヴォーカルが乗るというピラミッド的な安定感もあります。そのヴォーカルもくっきりとして、彼女が得意な情感表現もしっかり出ていました。
『ニューイヤー・コンサート』は音が出た瞬間に空間が広い。ソノリティの表現力がまったく違うし、質感もよくなっています。弦もウィーン・フィルらしい暖かさがあって、ピッコロも明瞭です。大太鼓の低音感もよく出ている。
HD-8は、さらにいい。HD-5同様に量感が出ているんだけど、そこに質感のよさが加わっています。「チーク・トゥ・チーク」のベースは大きな響きを伴っていますが、HD-8では量感がありつつタイトで、引き締まった印象です。音階の表現も質感がでてきたことに比例して明瞭になっています。
ヴォーカルの発音、語尾の消えゆく時の想いを込めた再現などずいぶん違いました。ヴォーカルの立ち位置も明瞭になって、センターからちょっと左にオフセットしていることまでわかりました。
『ニューイヤー・コンサート』は、ステージがどれくらい広く、高く、どんな風に楽器が配置されているのかといった音場情報まで目に見えるようです。弦の芳醇さ、第二バイオリンの刻みの細かさもとても明瞭でした。
北澤 HD-5とHD-8で音にどれくらい違いがあるのか心配していたのですが、予想していたより差がありました。HD-8では全体のノイズが減って、細かい情報が出てきて、奥行感などもわかるようになっています。スープラの開発者たちが伝送をよくしようと努力した結果が音にも現れているのでしょう。
−−続いて映画作品は、『グレイテスト・ショーマン』のCh10〜11をドルビーアトモス7.1.4で再生しました。
麻倉 2chだけでなく、アトモスでも大きな違いがありました。マルチチャンネル再生におけるHDMIケーブルの重要性もよくわかる結果だったと思います。
まず聴きどころを説明しましょう。Ch10でバーナムとフィリップがジェニー・リンドに興行を持ちかけるシーンを観ました。ここはバーナムのいかにも興行師らしいうさんくささ、ジェニーがそれを警戒しているといった感情の機微が声に出て欲しい。
Ch11のステージは会場の広さ、バーナムの前説での声の広がりと、ジェニーの感情を音符に載せた歌いっぷりが聴き所です。また複数チャンネルに楽器が配置されますので、その移動感、包囲感がどれくらい楽しめるかもポイントになります。
5年前のケーブルは音場が硬く、ほぐれていない。ホールも狭い印象です。それがHD-5ではセリフの質感、感情の表現もよくなりますし、発音も聞き取りやすくなります。Ch11も音場としての明瞭感、ピアノの演奏、声の表情など圧倒的な違いがあります。
映画は映像もさることながら、音の情報も多いので、それがしっかり出てこないと充分に楽しむことはできません。それがHD-5では充分満足いくレベルで再現できていました。
ではHD-8はどうかというと、さらに表現が緻密になり、明瞭度が上がっています。個々のキャラクターの声による細かなニュアンス、感情まで巧みに再現されていました。
ジェニーの歌はソロピアノから始まりますが、音が発してそれが会場の中に広がっていく様子が自然に再現できています。これはHD-5でも感じ取れたことでしたが、HD-8ではノイズレベルがより低いので、響きのひとつひとつまで感じ取れたのです。
声の質感もよくなり、音符の前半と後半で表情を変える様がしっかりわかりました。「Never Enough」という歌詞が繰り返し出てきますが、そこに込めた感情がより明瞭になってくるので、彼女がその歌詞をどう表現しようとしているのか、細やかな歌の機微まで感じることができます。
北澤 マルチチャンネルのすべてのスピーカーにちゃんと情報が入っているということをHD-8では確認できました。サラウンドバックやトップの音は5年前のケーブルでは曖昧でしたが、HD-5やHD-8になると、それらにもしっかり情報が割り当てられていると分かりました。
麻倉 デコード前の圧縮した信号を伝送しているにも関わらずこれだけの違いがあるというのがとても興味深いですね。
北澤 HDMIの信号線は本当に細いのですが、それでもこれほどの違いが体験できることがわかって安心しました。
麻倉 HD-8は音の面でもコンテンツが持つ微細なニュアンスを引き出して、ホームシアターという空間でリッチに体験させてくれるケーブルですね。8K対応という点も重要ですが、4K映像や音声伝送でもこれだけのパフォーマンスを楽しませてくれる、とても魅力的なケーブルといえるでしょう。さっそくわが家でも試してみたいと思います。
8Kのスペックを備えるだけでなく、映像が持つ情緒性まで伝えてくれる。
スープラ「HD-8」は人を感動させてくれるケーブルだ …… 麻倉怜士
今回は、東京大田区にあるアストロデザイン本社にお邪魔して、スープラの新製品HDMIケーブル「HD-8」を使って8K信号の伝送実験を行いました。アストロデザインさんはNHK技研と一緒に早期から8K機器の開発を進めて来たメーカーで、ソース機器は当然としてHDMIの検査機器、分析ツールまで、まさに最先端の8K機器が揃っているわけです。
当然ですがケーブルの検証も可能で、今回はデジタルビデオ信号発生器「VG-879」とHDMI2.1プロトコルアナライザー「VA-1847」を使いました。このふたつの間をHDMIケーブルでつなぐことで、8K信号の伝送状態がチェックできます。30項目ほど検査していますが、HD-8はすべてクリアーできていました。
そこで、アストロデザインの一体型8Kカメラで撮影した映像をHDDレコーダーの「HR-7520」で再生、HD-8でシャープのHDMI2.1対応8Kテレビ「8T-C80AX1」に入力して実際の映像でもチェックしました。
まずは、ちゃんと絵が出たことに感動しました。私の経験では8K/HDR信号についてはケーブルをつないでいるにもかかわらず映像が出ないことがよくあります。しかしHD-8はなんのストレスもなく8K映像を再現してくれた。そこに驚いたのです。
デモで拝見した8K映像は山梨県のキャンプ場で撮影されました。引きのシーンでは手前に料理器具が、中央には焚き火台が置かれ、その向こうに小川が流れています。銅のケトルの色味と光沢、焚き火台の金属の黒光りと火の実存感がとても生々しい。また手前から奥に向かって情報が豊富で、パースもしっかり構成されています。
フライパンで焼かれる牛肉の脂の描写も凄い。熱が通るにつれて牛肉から脂が溶け出し、そこに太陽光が当ってなんともおいしそうです。澄んだ水の反射ではなく、脂の反射、鈍くて明るい光の粘性感までしっかり分かるあたりは、8Kならではです。胡椒の一粒一粒まで識別できるのもいい。被写体をそのまま撮影するのではなく、情緒感のある映像になっています。
8K用HDMIケーブルについては、「ちゃんと映像が映るか」と「人を感動させる情報量を伝送できるか」というふたつの大きなテーマがあります。HD-8はどちらも太鼓判を押せると感じました。今後登場するであろう家庭用8Kレコーダーと8KテレビをHD-8でつなげば、コンテンツが持っているすべての情報をしっかり表現してくれるのは間違いありません。
(2020年9月下旬、アストロデザイン本社にて)