【麻倉怜士の新製品速攻レビュー】 MPOWの完全ワイヤレスイヤホン「X3 ANC」は、くっきり・しゃっきりと音の輪郭を立てたソリッドなサウンドだ

　今回は、MPOW JAPANの第一弾製品となる完全ワイヤレスイヤホン「X3 ANC」です。初めに本製品を聴いての結論的な感想を述べると、よくある「低価格＝低音質」製品とは一線を画し、低価格にも関わらず、独自の存在感を持つ音だと思いました。全体的にはっきり・くっきり・かっちりとしたキャラクターで、輪郭を積極的に打ち出す元気さを感じましたね。音質の評価でよく使われる、「まったり」とか「しなやか」とは対極の、音をハイスピードで前に押し出す積極さが印象的です。

　もともとMPOWブランドの製品は、ワールドワイドに展開し、アメリカ市場でのシェアが大きいということですから、同市場でよく聴かれているポップスやヒップホップ系の音源に合わせたチューニングが行なわれていると聞きました。つまり、そうしたキレ味のある音源の特徴を活かすように設計されている。日本で言えば、J-POPやアニソンなどのコンテンツはよく合うと思います。

　さて、ここからは私が日常的に音質チェックに使っている、いくつかの音源を用いて、もう少し詳しくインプレッションしましょう。まずは本製品の特徴でもあるANC（アクティブ・ノイズ・キャンセル）機能をオンにした状態で聴きます。最後に、オフの感想もお伝えします。

　最初は、私のUAレコード合同会社の情家みえ『エトレーヌ』からアービング・バーリンの名作「Cheek To Cheek」（WAV 192 kHz/24 bit）を再生します。意外だったのが、冒頭のベースの再現性。音のスケール感というか、ボリューム感というか、それがかなり大き目に出て、音像もタイトで前にせり出してくることです。

　プロデューサーの私のイメージでは、しなやかさを持った音にしたはずですが、これはX3 ANCのサウンドキャラクターでもある、音の輪郭をシャープにくっきりと立てて、音の立ち上がりを鋭く、解像感を高く……という方向に聴かせたい音設計だと思いました。大きな低音の上に、尖鋭な中高域の音が乗っているという、ある意味、ピラミッド的な音構造です。一方でヴォーカルの再現性については、タイトでくっきりとしています。私のイメージでは音像のボディ感がもう少し欲しいと思いました。

　次にカーペンターズの「Yesterday Once More」（FLAC 192 kHz/24 bit）を聴いてみます。感心したのは、ベースのエッジ感です。しっかりと引き締まった（タイトな）再現性で、輪郭がキリっと立っています。それの何がいいのかと言えば、音階がはっきりと伝わってくる、ということです。本来はもう少し響きを感じるのですが、X3 ANCではそれが抑えられ（＝タイト）、マスキング（かき消されない）されずに音階の推移(ハ長調で言うとC B A F)がしっかりと聴けました。ただし、この曲が持っている過去への哀愁という雰囲気感は、本機の鋭い切れ味によって、現代的なサウンドに換言されているような気がしました。カレンのヴォーカルは音像がくっきりとし、かなりタイトです。

　次は、最近私のお気に入りの楽曲、杏里の「Crescent Moon」（FLAC 48kHz/24bit）を聴いてみましょう。昨年発売のハイレゾで、豪華な音の作りが楽しめます。冒頭、スティーヴ・ガッドのドラミングがクリアーで、一つひとつの叩き方が分かるほどです。全体的にメタリック感のある音色なので、X3 ANCのサウンドキャラクターとはぴったりと言えるでしょう。

　さて、ここでANCをオフにして聴いてみます。低音の再現性は少し淡い感じですが、これまで感じていた高域の金属感というか、ソリッド感が少しマイルドになって、ナチュラル風な雰囲気になりました。

　X3 ANCは1万円を切る価格でANC搭載というトピックが売りなので、積極的にANCオンで使いたくなりますが、周囲の環境に合わせてオン／オフすると、現代的なハイスピードサウンド（ANCオン）と、ナチュラルなサウンド（ANCオフ）の2面性が楽しめるでしょう。