必要にして不可欠、シンプルかつ技術的に正しい設計
1990年頃、オーストリアのウィーンで創業したプロジェクト社(Pro-Ject AUDIO SYSTEMS)。当時はすでにCDを主体とするデジタルオーディオ時代に入り、アナログディスク再生の退潮はもう決定的になっていたわけだが、同社のキャリアはアナログプレーヤーからスタートした。初号機の型名もずばりPro-Ject1だった。
この製品はやがてX-Line としてシリーズ化され、プロジェクト・プレーヤーの中核を担う看板モデルに育っていく。「必要にして不可欠、シンプルかつ技術的に正しい設計」というのが一貫したコンセプトだ。
30年に近い歳月を経た今もX-Lineは健在、というより、おそらく世界的なアナログオーディオの復権現象も手伝って、最近ますます活発な動きをみせはじめている。ここで紹介するX1とXTENSION9TA は、先般発売された高級機XTENSION12RSに続く最新モデルである。
X1はMMカートリッジ(オルトフォン製)付きのコンプリートシステム。低価格ながらプロジェクト製品らしさを凝縮し尽くしたようにまとまりのよいX-Line 入門機だ。スタート/ストップのシーソースイッチがシャーシ底面にあるのには驚くが、33・1/3/45回転の切換えについてはAC同期モーター駆動回路の出力周波数による電子選択を実現。さらにサブプラッターのベルトをかけ替えれば78回転も出せる。あるいは分厚いアクリル材のメインプラッターや、カーボンとアルミを組み合わせた防振構造のトーンアームなどなど、的確に要所を押さえた設計だ。
仕上がりの音質は、申しぶんのないもの。甘口傾向ではあるけれど、しなやかで優雅でたっぷりと色彩感も豊かだし、高域端のアクセントも芸のうち。若々しくゴージャスな勢いのよさが好ましい。たとえばテクニクスの傑作SL1500Cあたりと聴き比べてみよう。がらり雰囲気表現が一変して、アナログのおもしろさを再認識すること請け合いだ。
3極管アンプにも通じる上品な透明感
XTENSION9TA は、同12RSのジュニア版といえそうな中堅モデル。堂々とした金属プラッターの外周ベルトドライブだが、78回転には対応せず、ピッチ調整とスピードカウンターも省かれている。トーンアームはオルトフォンの9インチ・ユニバーサル型TA110(日本では未発売)で、カートリッジは付属しない。代りにSPUシリーズのような重量級カートリッジも使用できることが見逃せないポイントだ。
フェーズメーションPP2000を装着して聴くと、こちらはるかに細密周到。X1の華麗さには意図した演出があったと分かる。そこがアナログの妙味でもあるわけだが、必要にして不可欠な音の深さとはやっかいなもので、聴いてしまえば力量の差は争えない。12RSよりもすこし細身で同様に誠実なXTENSION9TAの音質は、3極管アンプにも通じる上品な透明感に満ちていた。