エラック・スピーカーのベーシックライン Debutシリーズの新しい上位機
エラックはもともとアナログプレーヤによって名をなしたドイツのメーカーで、実はMM型ステレオカートリッジのオリジネーターでもある老舗ブランドだ。その特許を買ってモディファイを加えた米国のシュア製品が大ヒットし、世の中にMM型が定着したのだが、1950年代の末期、本家エラックのMM型はとても高価な天下の一流品だった。
スピーカーを手がけはじめたのはずっと後年、CDが生まれて急成長する1980年代のことだったと思う。鍛え上げた電磁変換器の技術を駆使することで、デジタル時代への脱皮を果たしたのだ。日本市場では1997年に登場したCL310JETが再興の決定打になった。
DBR62は、こんにちエラック・スピーカーのベーシックラインとされているDebutシリーズの新しい上位機である。Debut Referenceシリーズと呼ばれるので、姉妹作が出るのかもしれないが、その点はまだ不明。
そこで話をDBR62に絞ると、当機は既存のDebut2.0シリーズに属するDebut B6.2(本邦未発売)を発展させたスペシャルバージョンということだ。B6.2は、本誌恒例のベストバイでも評価の高いB5.2と、F5.2のあいだを埋めるブックシェルフ型。165㎜径ウーファーと25㎜径シルクドームトゥイーターによる2ウェイシステムだった。
DBR62も、これらの基本は変らない。けれど外観を見比べるとまったく別物になっている。容易に識別できるのは、丸形だったバスレフポートの開口が扁平なスリット状に変更されたことで、結果的にエンクロージャー全体のプロポーションが変り、すこし背丈の低い幅広形に改められている。そしてこまかく見れば、側板のエッジ部にわずかなアールがついた。ここは接ぎ手の構造が一新されたためで、重要な改良点。組立て強度を大幅に高めて振動を低減したようだ。
フロントバッフルを除く5面の化粧仕上げは木目柄の塩ビ張りだが、従来のブラックアッシュ調とちがって、よりオーソドックスな家具調のウォルナット模様に変わっている。
シルクドームトゥイーターのマウント部には、上位ラインモデルと同様、浅いホーン状のウェーブガイドが付加された。またアラミドファイバー(通称ケブラー繊維の仲間)コーンのウーファーは、アルミダイキャストの高強度バスケットフレームをつかったニュータイプを搭載。
リアバッフルのネームプレートには、ドイツ本社の所在地と並んでELACAM-ERICA INC. Cypress.CA.の表示が見える。これは当機が300ラインをはじめとするキール発祥モデルでなく、アンドリュー・ジョーンズ氏によるUSAデザイン製品であるということだろう。
DBR62の定格インピーダンスは6Ω。4~8Ω対応のアンプに適合することも、その銘板に明記されている。入力端子はシングル接続専用だ。
上位機種に迫る豊かなサウンド
専用スタンドの類は発売されていないので、HiVi視聴室常備のメタルスタンドに載せて試聴した。ジョーンズ氏のスピーカー設計はUni-Fi SLIMやADANTEその他、エラックの伝統にとらわれない新鮮味、というよりも同軸ドライバーのようになにを目指したかがはっきり分かる独自性を打ち出したものが多いわけだが、エントリーゾーンになるとそう自由にはいかない。かぎられたコストの配分にあたまをつかい、Debutシリーズではこなれた正攻法の技術を集めて居心地のよいオープンなサウンドを追求しているようだ。
エンクロージャーをはじめ細部の強化に注力した当機、DBR62の音は、そうした地道な開発手法を素直に映して秀逸なまとまりだ。ギスギスしたところがなくスムーズで、しかもキメこまかく艶やか。いくらか軟調傾向の低音はほどよい弾みと温かさをもって、出しゃばり過ぎずにゆったり大柄な雰囲気を醸し出す。
さらに、いちばんの聴きどころはピアノやヴォーカル、サックス等の豊かな音色表現だろう。色彩感に富んで肌合いが柔らかく、音像は立ちすぎない。要は今様のいかにもハイレゾトーンとひと味違う、ナチュラルな質感が気軽に味わえるということだ。とはいえマルチチャンネルAVソースのダウンミックス再生はさすがに窮屈。イネーブルド仕様まで揃うDebutシリーズのサラウンドスピーカーを活用して聴きたい。