映画評論家 久保田明さんが注目する、きらりと光る名作を毎月、公開に合わせてタイムリーに紹介する映画コラム【コレミヨ映画館】の第36回をお送りします。今回取り上げるのは、これが長編デビュー作となるHIKARI監督の『37セカンズ』。ひとりの女性の成長、を明るい視線で描いた注目作となっています。とくとご賞味ください。(Stereo Sound ONLINE 編集部)

【PICK UP MOVIE】
『37セカンズ』
2月7日(金) 新宿ピカデリーほか全国順次ロードショー

画像1: 【コレミヨ映画館vol.36】『37セカンズ』 世界各国の映画祭で話題に。新人女性監督による、でこぼこ道を進んでゆく少女の物語

 23歳の主人公 貴田ユマは、人気漫画家のアシスタントをして暮らしている。実際はほとんど自分が作画をするゴーストライター。

 独り立ちしてがんばりたいと考えているが上手くいかず、これなら需要あるかもと編集部に渾身のSFエロ漫画を持ち込むも、濡れ場にリアリティが無いと言われて撃沈。彼女にはまだセックスの経験がなかったのだ。なんとかしなきゃ! とメイクもばっちり決めて、ユマは夜の街にくり出してゆく!

 この突進はいじらしく、切なく、ちょっと泣けるなと思わせてくれる青春映画。舞台は母親と暮らすマンションから、外の世界へ広がってゆく。ユマが個性的なのは、大きな車輪がついた黄緑色の車椅子に乗っていることだ。演出はアメリカで映画を学び、これが長篇第1作になる女性監督のHIKARI。ユマを演じるのは、実際に脳性麻痺があり、オーディションで選ばれた新人の桂山明(かやま・めい)。

 この子がいいのよ。障害なんてあっても無くてもどうでもいいじゃん。人生はどうせいろいろ大変なのよ。私、がんばるっ。よし、がんばれー。

画像2: 【コレミヨ映画館vol.36】『37セカンズ』 世界各国の映画祭で話題に。新人女性監督による、でこぼこ道を進んでゆく少女の物語

 障害をアゲてなければ、サゲてもない。こういう高さから球を投げてくるハンディキャッパーの映画はあまり観たことがない。演じる桂山明のキャラが活きているのだろう。――自分は自分でよかった。画面にやがてそういう風と光が差し込んでくるので、観ているほうも勇気をもらえる。

 ユマの母親に三谷幸喜やケラリーノ・サンドロヴィッチの舞台で活躍する神野三鈴。障害者を癒やすデリヘル嬢役で『M/OTHER』『殯(もがり)の森』の渡辺真起子。脚本に惚れ込んだという石橋静河(『君の鳥はうたえる』)もちょこっと顔を出す。
 
 そのうち大吉を引くかもしれない。新人・HIKARI監督にも注目だろう。冒頭に真夏の浴室を舞台にしたちょっと驚く場面があり、男にはこういうあっけんからんとしたショットはなかなか撮れない。お勧めする所以のひとつである。

 ユマが描いたイラストが動き出し、宙を舞い始める場面にはアニメや映画に私たちが願う根源的なものが宿っていて心を動かされる。あまり話題にならなかったけれど、5人目のビートルズ映画『バックビート』のスティーヴン・ドーフと『イントゥ・ザ・ワイルド』のエミール・ハーシュが共演した裏通りの青春映画、『ランナウェイ・ブルース』(2012年)にもアニメーションを利用した同様のシークエンスがあった。

 車椅子が空を飛ぶ魔法の絨毯のように思えてくる、と言ったらきれいごとにすぎるか。でもそれを含めて、いろいろな意味で視界が開ける作品だといえる。

『37セカンズ』

2月7日(金)より、新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
監督・脚本:HIKARI
出演:桂山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、熊篠慶彦、萩原みのり、宇野祥平、芋生悠、渋川清彦、奥野瑛太、石橋静河、尾美としのり/板谷由夏
配給:エレファント・ハウス、ラビットハウス
2019年/日本/1時間55分/シネマスコープ
(C)37 Seconds filmpartners

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