音楽を作るプロが「音、そして音楽を確認するために」使う存在。それが、業務用スタジオモニターだ。そのトップブランドとして知られているフィンランドのジェネレックは、昨年創立40周年を迎え、プロ用途のみならず家庭用スピーカーのフィールドでも存在感を高めている。本誌ではジェネレックの魅力を3回に渡ってお届けしていく。本社直撃取材、2ch再生編に続く第三回は、いよいよオールジェネレックによるイマーシブ再生に挑戦する。(編集部)

 ジェネレックのアクティブ・モニタースピーカーを体験する連載の第三回は、いよいよサラウンド環境で、ジェネレックを使うことがテーマだ。音楽スタジオでもサラウンド配置で使われている例がひじょうに多い。むしろ、サラウンドがデフォルトで、前方左右スピーカーだけを使って2チャンネルソースを聴くことも普通。家庭でのマルチチャンネルスピーカーとしても、ジェネレックはきっと好適であろうことは、こうしたスタジオでの使用状況に加え、前号で聴いたように音色がナチュラルなこと、2チャンネルであっても包み込むような豊かな音場が形成されることからもうかがい知れる。チャンネル間のつながりがなりより重要なサラウンド再生、それもイマーシブ環境では、きっと濃密な音場を体験できるはず、と思ったのである。

画像: 取材はジェネレックジャパンの視聴室で行なった。プレーヤーは、オッポデジタルのUDP-205、コントロールAVセンターはマランツのAV8805を使っている

取材はジェネレックジャパンの視聴室で行なった。プレーヤーは、オッポデジタルのUDP-205、コントロールAVセンターはマランツのAV8805を使っている

 そこで、すべてジェネレックのモニタースピーカーでイマーシブシステムを構築し、映画、音楽ライヴによるマルチチャンネル再生を試した。音色の統一を図るため、スピーカーは同軸3ウェイのThe Onesシリーズで固めた。フロントスピーカー3本とサラウンドバックが8351A、サラウンドスピーカーが8341A、さらにイマーシブサウンド用のトップスピーカー4が8331A、サブウーファーが7370を2本で構成した、7.2.4システムだ(※)。コントロールAVセンターは、もはやデファクトの地位を固めつつあるマランツAV8805。すべてのスピーカーにXLRケーブルで信号を供給する。視聴場所は、東京・赤坂のジェネレックジャパン・ショールーム。

※AVセンターの信号処理としては7.1.4で、サブウーファー信号はパラレル出力している

 チェックは、2チャンネル、それにサブウーファー付加で部屋音響補正GLM(Genelec LouDspeaker Manager)を試す。次にGLMでトリートメントした状態で、ドルビーアトモス、オーロ3Dのイマーシブサウンド視聴に進む。

 まず、2chとサブウーファー付加でGLMを試そう。スピーカーは8351A。曲は『エトレーヌ/情家みえ』アルバムから「チーク・トゥ・チーク」。まずGLMなしでは、素直ですっきり、抜けがよい音と聴いた。ベースもそれなりにしっかりと再生されている。GLMなしでも、ジェネレックらしいナチュラルな生成り感は充分に感じられる。

 ではGLMで音場処理すると、どうか。質感が格段に上がった。しっとりとしたヴォーカルの味わいが感じられ、重心が下がる。ヴォーカルの音の表面がなめらかになり、濡れた感覚だ。ヴォーカルに色が与えられたよう。

 サブウーファー、7370を加える。低音の量感が増した。といっても過剰にブーストされるわけではない。ピラミッド的な構造が確実になり、中域の質感が上がった。音の粒子が細かくなり、彩度感が増す。ヴォーカル音像がくっきりする。サブウーファーは全帯域での音質向上に確実に効果があると聴いた。

 

画像1: コンテンツの持つ音の情報を正しく、虚飾なしに作品性をストレートに伝える。音楽はもちろん、映画でも輝くのがGENELEC 【イマーシブ再生 第③回】

 

視聴位置から前方(写真➊)は、8351Aを横向きに3本並べ(写真➌)、その上方に8331A(写真➍)を1組2本セット。フロントL/C/Rの下側には7370サブウーファー(写真➎)が2基置かれている。後方(写真➋)は、視聴位置のほぼ真横にサラウンドを、後方にサラウンドバック(写真➏)を配置。サラウンドスピーカーは8341A、サラウンドバックはフロントと同じ8351Aを使っている。
上方は、トップリアに8331Aをセットした(トップミドルは今回は使っていない)。つまりフロアスピーカー7本とトップスピーカーをジェネレックに統一した、理想的な7.2.4サラウンドシステムである。なお、今回は日程の都合により8351Aで取材したが、8351Aは新製品の8351Bに刷新されている

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三次元空間が面として鳴り自然に音が湧き出てくる

 では、いよいよ本丸のUHDブルーレイによるサラウンド再生だ。AVプリ側の音場制御機能はすべてオフにして、ジェネレック側のGLMで部屋との音響的マッチングを追求した。作品は音質とサラウンド効果が抜群にハイレベルな『グレイテスト・ショーマン』からチャプター11の「Never Enough」。7.2.4でドルビーアトモスを試す。GLM+ドルビーアトモスは、コンサート会場の響きがたいへんリッチ。バーナムのスピーチが広い会場に響き渡り、そして消えゆく様が手に取るようにわかる。垂直方向に、オーケストラやピアノは低い位置から、ヴォーカルはまさに歌手の口の位置から発音される。水平方向も、オーケストラの拡散感が鮮やか。それらの個々の音が音場内にて溶け合い、融合する様が生々しい。微少信号にも大振幅信号にも潤いが加わり、音場をさらに濃密に描く。弦の濡れ方もリアルだ。

 フィナーレの「THE GREATEST SHOW」。爆発的な感情の昂ぶりを水平と垂直方向に広い音場内にて、濃密に耕す。この場面が持つ、エネルギーの爆発感とテンションの高まりが決して粗くはならずに、どこまでも上質に再現される。

 『ラ・ラ・ランド』ではどうだろう。チャプター1の高速道路上の合唱・群舞だ。ヴォーカル音像が画面と正しく重なり、ひとりずつ歌が増え、ソロから重唱、ついには大合唱に至る複数の声のレイヤー感の表現が素晴らしい。多くの声、音が重なっても、それらがクリアーに描かれる。

 チャプター5。エマ・ストーンとライアン・ゴスリングのダンスシーン。台詞の声が美しく、ピアノとの掛け合いの音楽的な表情がとても素敵。アコースティックベースの弾み感の心地好いこと。エマ・ストーンの歌声がキュート。徐々に増えるオーケストラのパートも上質で、切れ味も爽快だ。ダイヤローグに込められた感情の発露が濃く聴ける。

 アトモス音声収録のBD『ネイチャー』。水が集まり、川から滝になり、大河に成長し、海に注ぎゆくシーン。前方に拡がるヴィヴィッドなオーケストラとコーラスの臨場感。それと一体になった荒れ狂う急流、水がぶつかる音の衝撃、生々しさ……そんな自然の音の凄さが体感できる。スピーカーから音が出るといるというイメージではなく、イマーシブ空間そのものが面として鳴っているような場の臨場感、音場の充実感を痛感する。力づくでスピーカーから空間に音を押し出すのではなく、ごく自然に音が涌き出てくる。これぞ、ジェネレックの“音場力”だ。

 ドルビーアトモスの音楽ソフトも聴いた。BEGINの両国国技館でのライヴBDから、アンコールで奏された踊りと大合唱付き「島人ぬ宝」。大きな会場の中で、拍子を取る何十もの太鼓が空気を震わせ、熱気をさらにブーストさせていることが、見事に活写されている。コーラス団の口笛が、ステージ上の空気を引き裂く。

ニュートラルを突き詰め音源自体の音楽性を再現する

 オーロ3Dはどうか。ガッティ指揮ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団のBD『ストラヴィンスキー:春の祭典』。会場のコンセルトヘボウならではの響きの豊穣感の再現が、このスピーカーは抜群に上手い。冒頭の遠くのファゴットの音が会場に広く拡散し、イングリッシュ・ホルンが絡み、フルート、クラリネットも加わり木管の饗宴になるシーンで、各楽器のもっともおいしい味を湛えた。楽器間のやり取りが、実にスリリングだ。低減の咆吼には、大地に足を踏ん張るような盤石の安定感と衝撃感がある。

 それはジェネレックがブランドアイデンティティとして持つ音調の端正さ、ピュリティ、明瞭さと、個々のスピーカーが持つ、深く、なめらかな音場再生力との掛け算である。個個の楽器音はきわめて明瞭であり、それにコンセルトヘボウが持つ独特の響きが重なり合うことで生じる、分厚い音楽的な空気感。響きは透明だが、その透明性の内部で複雑に響きが絡み合っている様の再現は、ジェネレックのもっとも得意とするところだろう。コンセルトヘボウならではの色気と清涼さ、深みと響きのビロード感が見事に活写されている。有機的な距離感、空気感が美味しい。トッティの大迫力でも、細部の上質さを重ね合わせ、トータルで透明で上質な合奏音を聴かせる。徹底的にニュートラルさを突き詰め、音源信号に含まれている音楽性をそのまま再現するが故の感動だ。

ジェネレックは音楽でも映画でも有機的なサウンドを部屋中に満たす

 本稿まで3回に渡りジェネレックのアクティブ・モニタースピーカーを研究してきたが、プロの世界でのデファクト・スタンダードのスピーカーは、実はわれわれの音楽再生、ホームシアターシーンでも、類い希なる再生力と表現力を持っていることが、識れた。2チャンネルでもマルチチャンネルでも、音楽でも映画でも、「音」の中に秘められたインテント(意図)を引きだし、ハイフィディリティで有機的なサウンドを部屋中に満たしてくれる。

 特に映画作品では、まさにコンテンツの持つ音的な情報性を徹底的に正しく、虚飾なしに再現することで、その作品性を正しくストレートに伝えてくれた。音のコンテンツに含まれる。濃い感情をクリアーに出した。エモーションが何も邪魔されずに伸びやかに再生され、キャラクターの感情を何の障害もなく、そのまま伝えてくれる。

 まさに映画の世界を音の切り口で表現する。類い希なる「映画スピーカー」である。

 

The Onesに新製品登場。

The Onesシリーズに新製品3モデルが登場。8351B(写真右上)は8351Aのモデルチェンジ機で、最大音圧レベル(SPL)が2DB向上などの改良が加えられた。8361A(左)はシリーズ最上位機で、幅約35cm、高さ約60cm、質量約30kgのキャビネットで30Hz〜43Hzの周波数特性を誇る。注目のW371A(右下。価格はオープン。実勢価格は税込120万円前後)は、アダプティブ(適応型)方式の、The Ones向けの拡張ウーファー。前面の密閉型ユニットと後方のバスレフユニットを使って、室内の使用環境に左右されずに低域を拡張できる「補完モード」などを多彩な使い方ができる画期的な製品だ。(編集部)

 

●問合せ先:(株)ジェネレックジャパンURL www.genelec.jp/customer-service/

 

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