音楽を作るプロが「音、そして音楽を確認するために」使う存在。それが、業務用スタジオモニターだ。そのトップブランドとして知られているフィンランドのジェネレックは、昨年創立40周年を迎え、プロ用途のみならず家庭用スピーカーのフィールドでも存在感を高めている。本誌ではジェネレックの魅力を3回に渡ってお届けしていく。第1回(※HiVi11月号掲載)の本社直撃取材に続く第2回は、2chオーディオ再生およびステレオAV再生時をテーマに、そのパフォーマンスを綿密に検証していく。(編集部)

 前回(※HiVi11月号掲載)は、アクティブ方式をスタジオ用モニタースピーカーに初めて導入したジェネレックの音技術を概観した。今回は、家庭でのリスニングを想定して2チャンネルシステムにて、CDとハイレゾ、映画音響を聴く。スピーカーは2種類。初めに、OneからFiveまである2ウェイ方式Gシリーズの中堅機、G Three(19㎜メタルドーム型トゥイーター+130㎜コーン型ウーファー)。次に同軸3ウェイの、The Onesリーズの最小モデル8331A(19㎜ドーム型トゥイーター+90㎜コーン型ミッドレンジ同軸+130×65㎜楕円型ウーファー×2。以下8331A)だ。いずれもアンプ内蔵のアクティブ型スピーカーなので、外部アンプは使わず、音量可変機能付きユニバーサルプレーヤーのオッポデジタルUDP205とつなぐ(XLRバランス接続)。

 

画像: 取材はHiVi視聴室で行なった。スタンドは視聴室常設のJ1プロジェクト製スピーカースタンド(生産完了品)を使用。ディスプレイはパナソニックの有機ELディスプレイ、TH-55GZ2000

取材はHiVi視聴室で行なった。スタンドは視聴室常設のJ1プロジェクト製スピーカースタンド(生産完了品)を使用。ディスプレイはパナソニックの有機ELディスプレイ、TH-55GZ2000

 

2ウェイ機G Threeは意欲的な表現力の傑作スピーカー

 まずG Three。音源はUAレコードのCD『エトレーヌ/情家みえ』。私がプロデュースした作品だから、音の内容は知悉している。1曲目のジャズの名曲「チーク・トゥ・チーク」。このコンパクトサイズなのに、充分なる余裕が感じられることにまず感心した。過度な強調感や人工感は微塵もない。

 加えて、ミックスダウン時に決めた音像位置がきわめて正確に再現されたことにも感心した。一般的なジャズトリオ録音ではピンポン的にピアノが左、ベースが右というセパレートな位置関係のものが多いが、私のCDは、ヴォーカルのセンター一点定位とは異なりピアノを左右拡張させて、ライヴ的な生々しい音場感を出すことにこだわった。G Threeはまさにこの方針に忠実に、なんの揺らぎもなくヴォーカルとベースをセンターに、完璧なポジションで定位させている。対照的に山本剛のピアノはヴィヴィッドな浮遊感で、ふたつのスピーカーの間に右に高音が、左に低音が正確に配置されている。私の狙いをG Threeは見事に再現し、まさにライヴのような臨場感で聴かせてくれた。

 音調は実に素直で、何の色づけもない。カラフルにしない、こってりとしないというプロデュース側の狙い、そのままの生成りの音だ。情家みえが持つやさしい色気感とクリアーさも伝わってくる。
 世界を震撼させている鬼才クルレンツィス指揮ムジカエテルナの、『モーツァルト:フィガロの結婚』序曲でオーケストラの再現性をチェック。躍動感、スピード感、溌剌さ、豊かな倍音再現……などが再生時のポイントだ。

 G Threeで聴くと、なぜ本演奏、本楽団がこれほど話題になっているのかが、手に取るように分かる。彼が本曲にこめた強靭な表現意欲と強い意志がこの小さなスピーカーからひたひたと伝わってくる。意欲と、このテンポ感でなければならないという熱い思いが聴けた。俊速にもかかわらず、細部の彫塑はまさに見事といいようのない確実さだ。

 ハイレゾ再生は、アルゲリッチのピアノ、小澤征爾指揮水戸室内管弦楽団のベートーヴェン・ピアノ協奏曲第1番第三楽章。アルゲリッチの剛毅さとハイテクニック、どんな速いパッセージでも揺るぎない的確な鍵盤のタッチ、そうした魅力が充分に伝わってくる。これほど小さなサイズなのに、ピアノの低域のしっかりとした剛性感と、中域の濃密さ、高域の燦めきは、まさにハイレゾならではの貴重な価値だ。しなやかさも加わった素直かつ音楽的な表現に、大いに感動した。

 ここまでの試聴で、コンパクトなG Threeが音楽再生において、生成り的なナチュラルさと、意欲的な表現力を兼ね備えた傑作スピーカーであることが分かった。アンプ+パッシブ型スピーカーという構成に慣れ親しんでいる耳にも、今回のアクティブ型スピーカーの音調には、まったく違和感を覚えなかった。むしろ、「カラレーション(音の色づけ)を極力排す」というジェネレックにおけるサウンドデザインの方針に沿い、コンテンツが持つキャラクターを素直に、そのままの形で再現していることに、とても好感を持った。それこそモニタースピーカーにおける「職業的な使命」ではあるが、本誌視聴室での音楽再生はとても楽しいものだった。

 

画像1: ホームリスニングでも大いに輝くGENELECスピーカー。音楽そしてステレオAV再生を試す【ステレオ再生 第②回】

Active Speaker System
G Three
オープン価格(実勢価格18万円前後、ペア)
●問合せ先:㈱ジェネレックジャパン
URL http://www.genelec.jp/customer-service/

ジェネレックの家庭用スピーカーの主軸が、Gシリーズ。コンパクトなエンクロージャー内に、ハイパワーアンプで独立駆動されるハードドーム型トゥイーターとコーン型ウーファーを組み込む。帯域分割をパワーアンプ直前で行なう、マルチアンプ駆動方式を採用している。G Threeは、シリーズのミドルクラスモデルで、47Hz〜25kHz(-6 dB)のフラットレスポンスと最大出力レベル104dB SPLを両立している

画像2: ホームリスニングでも大いに輝くGENELECスピーカー。音楽そしてステレオAV再生を試す【ステレオ再生 第②回】

背面には接続端子(RCA、XLR)、電源ボタンのほか、音質調整用ディップスイッチが備わる。曲面を活かした立体的な形状は、アルミダイキャスト製ボディならではといえるだろう

画像3: ホームリスニングでも大いに輝くGENELECスピーカー。音楽そしてステレオAV再生を試す【ステレオ再生 第②回】

 

画像: G ThreeおよびThe Ones 8331Aの再生には、オッポデジタルUDP-205のXLRバランス出力を直接つないだ。GシリーズおよびThe Onesシリーズの製品群はいずれもボリュウム非搭載なので、プリアンプやAVセンターのプリ出力、あるいは今回試したようなプレーヤーに可変音量出力機能が必要だ。なお、現在市販されている単体D/Aコンバーターは可変音量出力機能を搭載しているモデルがほとんど
G ThreeおよびThe Ones 8331Aの再生には、オッポデジタルUDP-205のXLRバランス出力を直接つないだ。GシリーズおよびThe Onesシリーズの製品群はいずれもボリュウム非搭載なので、プリアンプやAVセンターのプリ出力、あるいは今回試したようなプレーヤーに可変音量出力機能が必要だ。なお、現在市販されている単体D/Aコンバーターは可変音量出力機能を搭載しているモデルがほとんど

 

3ウェイ機8331AはDSP活用で音の魅力が飛躍的に高まる

 次に、G Threeと同サイズながら3ウェイ化を果たした、8331Aを聴こう。同軸2ウェイに、上下のスリット奥に隠れているウーファーを合わせた3ウェイ構造のThe Onesシリーズのなかから、デスクトップでのニア・フィールド使用も視野に入れ、最小型を選んだ。点音源発音の同軸構成と、DSPによる部屋音響補正GLM(GENELEC Loudspeaker Manager)が特徴だ。スピーカーからの測定音を聴取位置(複数も可能)に置いたマイクでキャプチャー、PCで専用ソフトウエアがスピーカーからの距離や部屋の周波数特性を測り、逆位相信号にて癖を是正する。同様な補正技術は、すでに多く他社からも提案されているが、ジェネレックのそれは、「プロの環境での徹底的な検証、研究の実績を活かしたものです。われわれは空間測定、部屋の固有のデータの取り込み、特徴抽出、計算、補正のトータルなプロセスにて独自のノウハウを有しています」(技術統括のアキ・マキビルタさん)という。

 8331Aの試聴はまず、さきほどのアルゲリッチのピアノ協奏曲を再生し、GLMの効果の確認から始めた。まずGLMなしであっても、音の解像感、拡がり感、そしてナチュラルな音色感など、ジェネレックスピーカーらしい美質は充分に確認できた。次にPCにて専用ソフトウェアを立ち上げ、本スピーカーからテストトーンを発し、聴取位置のマイクで部屋の反射も含んだ音を採取、分析してみると、本誌視聴室は80Hzがやや盛り上がり、110Hzで下がり、また200Hzで盛り上がっていることが分かる。では、周波数特性と位相特性をバランスさせた、GLM処理後の音はどうか。

 これは驚くべき変化だ。ピアノの細かいタッチ感、オーケストラの弦と管の対比感、音場の見渡し感、透明感などにおいて、実に大きな違いが確認された。音場の透明感が格段に上がり、ピアノの質感がしなやかになり、音の輪郭にわずかにキャラクターがすっきりと取れて、本来持つ素直な質感になった。音がスピーカーから押し出されるという感覚ではまったくなく、あるべき位置から音が自発的に飛び出てくるという雰囲気だ。GLMなしでも充分によい音だが、GLM処理はさらに音に魅力を付加する。

 具体的に聴こう。『エトレーヌ/情家みえ』はさきほどのG Threeでも大いに感心したのだが、8331Aははっきり言って、まったく別物ではないか。ヴォーカルの定位が確実なことは当然だが、表情によりこまやかな抑揚と感情が込められた。情家みえの美質のひとつは、音が消えゆく際の濃い感情だが、8331Aでは、その部分の密度が高いだけでなく、透明度も格段に高いのだ。だから歌詞が持つ意味合いがより細やかに再生されるのである。山本のピアノは軽快にしてのびやか。まさに鍵盤の上を指が踊っている。ベースの表情もよい。確実に通奏低音として楽団の音を支え、同時に自身の存在も確実に主張する、おのおのの名人芸の素晴らしさが、8331Aから見事に伝わってくるのである。

 もうひとつ、音場がひじょうに自然に形成されることも、8331Aそのものの美質であり、GLMの成果だ。エンクロージャーからたいへんスムーズに音が発せられ、何の作為感もなく音像が自然に描かれ、その集積により音場が形成されるという、空間にまつわる音のストーリーが聴ける。同軸構造と低音のポート位置による一点音源化の絶大なる効果であろう。

 『フィガロの結婚』では、音場の広さと深さに驚く。手前から奥の方向にオーケストラの音場が立体的に展開し、その内部に各パートが確実に配置されている。安定感と抑揚の細かさ、軽快さ、ヴィヴィッドさが同時に堪能できるのは、音場の広さとその正確さを演出する同軸構造とDCW(Directivity Control Waveguide、ダイアフラムの形状をそのまま延長させたエンクロージャー)によって指向性を均一でスムーズにする合わせ技の故であろう。

画像4: ホームリスニングでも大いに輝くGENELECスピーカー。音楽そしてステレオAV再生を試す【ステレオ再生 第②回】

Active Speaker System
The Ones 8331A
オープン価格(実勢価格59万6000円前後、ペア、ホワイト)

ジェネレックが業務用で展開している、同軸2ウェイユニット+楕円ウーファー2基による3ウェイ構成のポイントソース(点音源)スピーカーが、このThe Onesシリーズ。ウーファーはエンクロージャー内の短辺両端に組み込まれている。本シリーズは3製品で構成されているが、その最小モデルの8331Aを今回試した。本機はG Threeとサイズ的にはほぼ同等となるが、本機が3ウェイ、G Threeが2ウェイとなるのが大きな違いだ。なお、ジェネレック独自のオートキャリブレーションシステム、GLMにも対応、そのオンオフも試している

画像5: ホームリスニングでも大いに輝くGENELECスピーカー。音楽そしてステレオAV再生を試す【ステレオ再生 第②回】

電源ボタンや各種ディップスイッチが背面に備わる。入力感度調整機能も搭載するが、いわゆるボリュウムとしては機能しない

画像6: ホームリスニングでも大いに輝くGENELECスピーカー。音楽そしてステレオAV再生を試す【ステレオ再生 第②回】

接続端子は、下側から差し込む仕様。RJ45端子は、ジェネレック独自のネットワーク伝送規格のコネクターとなる。スピーカー底部にネジ止めされているのは、振動遮断用の特殊素材で作られているIso-Podというスタンド用パーツだ

画像7: ホームリスニングでも大いに輝くGENELECスピーカー。音楽そしてステレオAV再生を試す【ステレオ再生 第②回】

 

濃密で緻密な音場再現力でAV再生にも最適なジェネレック

 このふたつのスピーカーを使った、2チャンネルAV再生にも挑戦した。もちろんAVセンターはなく、先ほどと同じくUDP205からアナログでダイレクトに接続する。 UHDブルーレイ『グレイテスト・ショーマン』から「Never Enough」。2チャンネル再生なのだが、実に臨場感が豊かだ。このスピーカーの持つ空間再現力は2チャンネルの音楽ソースだけでなく、もともとのサラウンド的な音を内包した映画音響にも、実によいマッチングを聴かせてくれる。

 自然に2チャンネルの間に拡がった、濃密で緻密な音場に感動しない人はいないだろう。特に8331Aは聴取位置を拡張するために技術的なチャレンジを成したスピーカーだが、それはテレビでの映画視聴にも最適だと分かった。台詞や歌は正確にセンター定位し、音楽と効果音が左右に豊かに拡がるのである。声の自然な発声、中域の清潔な緻密さも素晴らしい。これぞ、スピーカー性能の高さと、GLMによる音場最適化の合わせ技だ!

 前回(※HiVi11月号)で徹底的にカラレーションを排することで、音そのものの中に収載されている音楽性をそのまま伝えると述べたが、音楽性に加え、エモーショナルな映画的感興も聴けた。

 来月はいよいよイマーシブサウンドの環境で、ジェネレックスピーカーを聴く。お楽しみに。 (つづく)

 

Fシリーズサブウーファーを使った
2.1chシステムにも注目

 GENELECのコンパクトアクティブスピーカーはサブウーファーとの相性もよさそうな気がする。そこでGシリーズの最小のミニスピーカー、G Oneに、サブウーファー F Oneを加えた2.1chシステムで聴く。まず、G One単体の音を情家みえ「チーク・トウ・チーク」で確かめる。この小さなサイズなのに、かなりリッチな低音と、明瞭なヴォーカルが聴けた。アンプも入って、この価格、この音の質感には驚く。音の出方がスムーズで、何のわだかまりもなく出音するのは、これほど小さなモデルであっても、GENELECスピーカーに共通する点だ。

 サブウーファー F Oneを加えた。低域の支えがしっかりと与えられ、ベースの量感が増しただけでなく、音階の動きが明瞭になった。ピラミッド的な安定感だけでなく、質感の向上も著しい。中域のヴォーカルも明瞭になり、音の粒子がミクロ的に力感を増し、より緻密な表情に。雰囲気が優しく、しなやかになり、情家みえの持ち味がより再現された。ピアノの存在感もより明確に、タッチが明瞭になった。サブウーファーの効用は確かに大きい。映画再生も試したが、この組合せは映画音響にはベストマッチングだった。(麻倉)

画像8: ホームリスニングでも大いに輝くGENELECスピーカー。音楽そしてステレオAV再生を試す【ステレオ再生 第②回】

Active Speaker System
G One
オープン価格(実勢価格8万円前後、ペア)

Subwoofer
F One
オープン価格(実勢価格8万円前後)

画像9: ホームリスニングでも大いに輝くGENELECスピーカー。音楽そしてステレオAV再生を試す【ステレオ再生 第②回】

今回は、オッポデジタルUDP-205から可変アナログ音声出力をF Oneにつなぎ、さらにそこからG Oneへつないだ。なお、テレビ等からデジタル音声をF Oneにつなぐ方法も便利だろう。この場合は、F One付属のリモコンで音量調整できる

 

 

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