たとえば独ノイマンの「SX-74カッターヘッド」と同じように、音溝に対してトラッキングエラーなしに針先がトレースしていくリニアトラッキング方式は、理想的なトーンアームの動作に思われるだろう。

 リニアトラッキングとは直線移動を意味しており、そのようなトーンアームをストレートライン・トラッキング方式と呼ぶこともある。カッターヘッドは能動的に音溝を刻み、トーンアームのほうは受動的に音溝をトレースするという立場の違いはあるのだが。

画像: Holboのターンテーブルでは、針先がレコードの真ん中を直線移動できるようアームの位置決めを慎重に行なう必要がある。写真の専用治具が付属しているので、充分注意して追い込んでいただきたい

Holboのターンテーブルでは、針先がレコードの真ん中を直線移動できるようアームの位置決めを慎重に行なう必要がある。写真の専用治具が付属しているので、充分注意して追い込んでいただきたい

 ここで紹介するHolbo(ホルボ)のアナログプレーヤーは、リニアトラッキング方式を採用したエアーベアリングのトーンアーム設計が大いに目を惹く、精密感が漂うアナログプレーヤーだ。それだけではない。ディスクを乗せて廻るプラッターもエアーフローティングすることで、アナログディスク再生の音質を高度に極めようとする積極的な姿勢がうかがえるのだ。

 Holboは欧州スロヴェニアで誕生したアナログプレーヤーだ。私は開発者に会ったことがないけれども、トーンアームとターンテーブルについて深く研究した製品であることは充分に判る。しかも、内容と完成度を考えると、輸入品ということも考慮してもリーズナブルな価格だと思う。では、オーディオファイルの視点からHolboの各部を見ていこう。

 トーンアームはエアーポンプから送られる空気でスムーズに動くリニアトラッキング方式だ。各部の工作精度はかなり高く、自重12gまでのフォノカートリッジに対応しているという。エアーの供給は柔軟な細いチューブで行われ、トーンアームの稼働部分に導かれている。

 トーンアームの位置関係は最適にフィックスされているが、微調整も可能という。信号伝送の細いケーブルはフォノカートリッジの接続端子からプレーヤー本体にあるRCA出力端子まで直結されているらしく、伝送ロスを抑えた設計に好感が持てる。

画像: Holbo本体(左)と別筐体のエアポンプ(右)は、空気を送るための細いチューブでつながれている。エアポンプ自体もきわめて静かだが、気になる方は離して設置もできるようチューブは長めに準備されている

Holbo本体(左)と別筐体のエアポンプ(右)は、空気を送るための細いチューブでつながれている。エアポンプ自体もきわめて静かだが、気になる方は離して設置もできるようチューブは長めに準備されている

 ターンテーブル部分も秀逸だ。アルミニウム製のプラッターは見た目以上の重さで5kgもある。下に見える精密加工された銀色の金属円盤(2.6kg)がプラッターの台座になり、その間にエアーベアリング(空気層)が形成されることでプラッターが浮くわけだ。

 興味深いのは、一般的なスピンドルシャフトが存在しないこと。台座の中心部にシャフトの構造を兼ねた突起があり、プラッターは均等な空気圧を受けているためブレることなくスムーズに廻るのである。プラッターの外周をベルト駆動するDCモーターは振動も少なく、充分な回転トルクが与えられているようだ。

 Holboのプレーヤーは全体的に熟考された合理的なデザインで仕上げられている。エアーポンプからトーンアームとプラッターへのエアー供給を1本のチューブで行なっているのはユニーク。

 音を聴いてみよう。Holboはステレオサウンド試聴室でチェックした。おなじみのリファレンス機器にHolboを組み合わせている。取り付けたフォノカートリッジはマイソニックラボの「エミネントGL」。エミネントはHolbo(本国)でも愛用しているというから、ベストマッチのひとつなのだろう。

画像: 再生システムにはステレオサウンド試聴室のリファレンスを使っている。アンプはアキュフェーズ「C-2850」+「A-250」、フォノイコライザーは「C037」で、スピーカーにはB&W 800D3を組み合わせている

再生システムにはステレオサウンド試聴室のリファレンスを使っている。アンプはアキュフェーズ「C-2850」+「A-250」、フォノイコライザーは「C037」で、スピーカーにはB&W 800D3を組み合わせている

 最初に聴いたのは、日本オーディオ協会が制作した女性ヴォーカリスト、井筒香奈江の45回転盤。アナログコンソールからの音をDSD256(DSD11.2MHz)で収録したもので、声色の自然さと喉の動きまでもイメージできる生々しい触感の音に暫し聴き惚れてしまう。

 ノイズフロアーが抜群に低いのは、間違いなくエアーベアリングとエアーフローティングの効果だと思う。エアーベアリングによるトーンアームは非接触でピヴォットのような動作支点を持たない。これが音の空間表現に自由度を与えているようで、聴き慣れたアンセルメ指揮/スイスロマンド管弦楽団『ファリャ:バレエ音楽「三角帽子」』は、音場空間の拡がりが豊かで楽器の音色も開放的なのだ。

 ベルガンサがステージ裏で唄う反響の雰囲気と、カスタネットの激しい打音や笛のスッと抜ける鋭い音色の響きなども窮屈さを感じさせない。全体的に軽快な音でエネルギーバランスは僅かに高域寄りに感じられるが、これはトーンアーム稼働部分の重量を抑えた全体質量にも関係しているので、オーディオシステム全体のチューニングでカバーできるはず。個人的にはプレーヤーからの出力ケーブルを芯線の太いタイプで繋いで聴いてみたい。

 なるほど雑味の少ない音だと感心させられたのは、デイヴ・グルーシンのダイレクトカット盤『DISCOVERED AGAIN!』だ。暗騒音領域の静けさやピアノ~ヴィヴラフォンの濁りのない和音の響き、そしてアコースティックベースとエレクトリックギター+ドラムスのジャズを緊張感を伴ないながらオーディオ的な美音で聴かせてくれる。

画像1: “生々しい触感の音に暫し聴き惚れる”リニアトラッキング&エアーベアリングを採用したアナログプレーヤー「Holbo」とじっくり取り組んでみた

 このアナログプレーヤーは脚部がスパイク支持でサスペンション機構がないのだが、エアーベアリングとエアーフローティングの効果で床面から伝わる振動をうまく遮断できているようだ。

 最後にイシュトヴァン・ケルテス指揮&ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団『交響曲第9番「新世界より」』を聴いてみたが、重厚なステージの佇まいと迫力のあるティンパニーの連続打音も濁りを感じさせない解像感の高さが印象的だった。本機の大きなメリットとして、トラッキングエラーの発生しない針先のトレーシングが挙げられる。アナログ盤の最内周までクリアーな音が得られるというのは、なかなかの魅力である。

 Holboの使いこなしで重要なのは、設置環境で水平バランスをきっちりと確保しておくこと。フォノカートリッジの実力を充分に音で感じさせるアナログプレーヤーなので、ブームが再燃しているアナログディスク再生の立役者になるだろう。

 輸入元のサイトから日本語の取扱説明書がダウンロードできるはずなので、まずはそれを見てじっくりと製品について知るのはいかがだろう。

画像: 三浦さんがチェックしたレコードたち

三浦さんがチェックしたレコードたち

リニアトラッキング・ターンテーブル
ホルボ Holbo ¥1,000,000(税別、カートリッジ別売)

画像2: “生々しい触感の音に暫し聴き惚れる”リニアトラッキング&エアーベアリングを採用したアナログプレーヤー「Holbo」とじっくり取り組んでみた

<トーンアーム部>
●型式:スタティック・バランス型●スピンドル/ピポット間:163mm
●適合カートリッジ重量:6〜8g(6〜8gを推奨)●材質:アルミニウム合金/カーボン
●トーンアーム総量:31.6g
<ターンテーブル部>
●駆動方式:ベルトドライブ●回転数:33・1/3、45rpm
●プラッター自重:5kg●接続端子:フォノ出力1系統(RCA)
●寸法/質量:W430×H150×D400mm/12kg(本体)、W225×H120×D147mm/1.8kg(エアポンプ)

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