デノンの新しいフラッグシップとして登場した「SX1 LIMITED」シリーズが話題を集めている。SACD/CDプレーヤー「DCD-SX1 LIMITED」とプリメインアンプ「PMA-SX1 LIMITED」の2モデルで、それぞれ「SX1」シリーズをベースに、同社サウンドマネージャーの山内慎一氏による徹底した作り込みによって、新次元のサウンドを獲得したのだ。今回は、その新生デノンサウンドの誕生秘話を、麻倉さんが解き明かす。(編集部)
麻倉 先日、デノンから発売されたDCD-SX1 LIMITEDとPMA-SX1 LIMITEDの音を聴いてとても感動しました。しかもこの2モデルは、製品の成り立ちが面白い。通常のオーディオ機器は、ゼロから企画するにせよ、前モデルの改良版にせよ、あらかじめ期間とコストを決めることが多いのですが、そのどちらとも違います。
なんと言っても、サウンドマネージャーの山内さんが音を決めたと宣言している点が決然としていいですね。以前の日本のオーディオ機器には、音の責任者がいました。だから製品としての個性が感じられたわけですが、組織でものを造るようになると、音も平均的になってきた。しかし今回のSX1 LIMITEDは先祖返りというか、もの造りの姿勢が変化したのです。そこが凄く面白いと感じました。
先日もオーディオ店のイベントで、前モデルのSX1と今回のSX1 LIMITEDの聴き比べを行ないましたが、来場者が驚くほどの違いがありました。このイベントは定期的に開催しており、そのリファレンスがSX1シリーズでした。常連さんはSX1の音をよく知っていたわけで、だからこそ違いもいっそうよくわかったのでしょう。
さて今日はそんなSX1 LIMITEDシリーズについて、山内さんにお話をうかがいたいと思っています。まず、この両モデルは開発に4年かかったそうですが、そもそも開発を始めたきっかけは何だったのでしょう?
山内 私は、2015年1月にデノンのサウンドマネージャーに就任しました。そこでこの試聴室に来て、改めて当時のフラッグシップだったSX1シリーズを使って音を確認したのです。1〜2週間鳴らして、そこから少しずつ、セッティングや機器の内部に手を入れることを始めました。
麻倉 それは、当時の音で気になる部分があったということですか?
山内 スピーカーの位置やアンプの置き方を自己流にしてみたのです。また、たまたまPMA-SX1が2台あったので、このうち1台を使っていろいろ試してみようと考えたのです。
麻倉 2台あればひとつはリファレンスとして残りますからね。
山内 SX1の回路をいじり始めたら、ちょっとしたことでも敏感に反応してくれたのです。それでだんだんはまっていったというのがきっかけです。
麻倉 最初は、どんな点が気になっていたのでしょうか?
山内 気になっていたというよりも、これから自分の目指す音を出していかなくてはいけないと思っていましたので、まずはこれまでの音を確認して、自分のイメージとどれくらいギャップがあるのか、それをどういう風に縮めていけるかを探っていた感じです。
SACD/CDプレーヤー「DCD-SX1 LIMITED」
¥750,000(税別)
●再生ディスク:SACD、音楽CD、MP3/WMAデータディスク(CD-R、CD-RW)
●再生周波数特性:2Hz〜20kHz(CD)、2Hz〜50kHz(SACD)
●S/N:122dB(CD)、122dB(SACD)
●ダイナミックレンジ:101dB(CD)、118dB(SACD)
●全高調波歪率:0.0015%(CD)、0005%(SACD)
●接続端子:アナログ音声出力×2(XLR、RCA)、デジタル音声出力×2(光、同軸)、デジタル音声入力×2(光、同軸)、USB×2(Type A/B)
●消費電力:39W(待機電力0.1W、オートスタンバイオン)
●寸法/質量:W434×H149×D406mm/23.5kg
麻倉 ということは、山内さんの頭の中にはある程度のコンセプトというか、目指す音があったのですね。
山内 はい。ですので、そことの違いを検証したいと考えました。
麻倉 これは設計者の発想ですね。企画担当だと、実際に機器の内部や回路をいじってみようという考えにはいきません。ちなみに最初はどのあたりに手を入れたのですか?
山内 やりやすい場所として、天板の裏の機構的な緩衝材などから確認していきました。
麻倉 そういった部分でも反応があったわけですね?
山内 はい、違いが出てきました。どちらかというと、緩衝材を剥がしていった方が音に開放感が出たのです。そこで、抑え込んでいた物を軽くしていったらどうなるかを試しました。
麻倉 効果があると、さらに追究したくなりますからね(笑)。次は?
山内 次はパーツに移りました。設計者時代からパーツメーカーさんと一緒に開発していた「SY」や「SX」といったカスタムコンデンサーがありましたので、それを使ってみました。
麻倉 コンデンサー開発時には、どういった方法でカスタマイズのオーダーをするのでしょう?
山内 もっと低域を豊かにとかいった音的な内容もありますし、端子はこうしたいとか、スリーブをもう少し削りたい、電解液をこうしたいといった相談もしています。先方も技術情報を100%開示はしてくれませんが、ある程度は想像できますので。
麻倉 10年前というと、どんな製品に使うためのパーツだったのでしょうか?
山内 当時は「CX1」という一体型のレシーバーで、結果もかなりよかったのです。CX1自体も今までと違う音だと、評論家の皆さんにも好評でした。
麻倉 そのキーパーツがカスタムコンデンサーだったのですね。そこからずっと使ってきたわけですか?
山内 その後すぐ、「SX」モデル用に大型パーツをカスタムで作ってもらいました。
麻倉 なるほど、カスタムコンデンサーについて山内さんは熟知していたわけですね。そうなると、それらを使ったらSX1の音がどう変化するか試してみたくなるのは当然です。実際に変えてみて結果はどうでしたか?
山内 ほぼ狙っていた方向にはなりました。しかしコンデンサーを変えただけでは充分ではなく、まだまだだと感じるところもありました。
プリメインアンプ「PMA-SX1 LIMITED」
¥780,000(税別)
●定格出力:50W+50W(8Ω、20Hz~20kHz、THD 0.1%)
●全高調波歪率:0.01%(定格出力、-3dB時)、負荷8Ω、1kHz
●接続端子:アナログ音声入力×6(XLR×1、RCA×5)、フォノ入力×2(MM/MC)、EXT.PRE×1、プリアウト×1
●消費電力:275W(待機電力0.1W、オートスタンバイオン)
●寸法/質量:W434×H181×D504mm/29.5kg
麻倉 最初は好奇心で始めたことなのに、そうなるともう駄目でしょう。さらに奥深い世界に向けて、本腰を入れなくてはならない。
山内 おっしゃる通りです。これから開発する新しいモデルに向けての実験台にも使えると考えてコンデンサーを試作することにしました。
麻倉 大切なのは、どういう音にしようかというコンセプト、目標をしっかり持つことだと思います。山内さんの目指した音はどういった方向だったのでしょうか?
山内 言葉では「Vivid & Spacious」と表現しています。「Vivid」は、クリアーさ、コントラスト感があり、音楽の抑揚もでること。何よりはっきりした音を目指しました。「Spacious」は空間感の再現です。
麻倉 なるほど、それを目指して製品の400箇所をチューンしたそうですが、一番大きく変わったのはどこをいじった時だったのでしょうか?
山内 数年間いじってきたので、これが一番というのは難しいですね(笑)。CDプレーヤーのDCD-SX1 LIMITEDでは、最後に抵抗を変えただけで劇的に変化しました。数十Ωという細かい単位で変えたのですが、音に変化が出たのです。
デジタル電源もカスタムコンデンサーを使ったり、容量を変えることで、違いがありました。それらは予想通りに変化してくれなかったので、とても苦労しました。
麻倉 予想通りでない、というのは?
山内 全体的なバランスが崩れることがありました。ただ変化は生じるので、ここで終わりにするよりは、とことんやった方がいいと思えたのです。
麻倉 オーディオでは、部品をひとつ変えるだけでバランスが崩れますからね。しかも全部がいい方向になるわけではなく、悪くなることもあります。
山内 ただ、悪くなった方が実は正解だったというケースもありました。というのも、他の部分が悪さをしていたのが分かったこともあったのです。
麻倉 他の問題点も見えてきて、そこを解消することで全体の音がよくなったと。そこまでいくとエージングの影響も大きそうですね。
山内 そうなんです。パーツを交換して5分聴いて決めることはできません。1日、2日鳴らしてから音を聴かなくては意味がないのです。そうなるとどうしても開発時間もかかってしまいます(笑)。
麻倉 ところで、SX1 LIMITEDの発売に至るひとつのハイライトが、経営陣にデモした時だったそうですね。これは、音がまとまってきたのでお披露目をしたということなのでしょうか?
山内 2017年の冬でした。弊社では定期的に全世界から関係者が集まってプロジェクトを説明する会があり、そこでSX1 LIMITEDの音を聴いてもらったのです。オーディオメーカーなので試聴セッションも重要で、この部屋に関係者に集まってもらいました。
麻倉 まさにこの空間なのですね。その時の反応はいかがでしたか?
山内 「目が覚めるような音だ」と言ってもらいました。そこは私も意識していた部分でしたので、嬉しかったですね。
麻倉 「目が覚める」というのはいい表現ですね。確かに、これまでのデノンの音は温和でまったりとした優しい印象があり、グロッシーで艶っぽい音調が魅力でした。それに対してSX1 LIMITEDは、知的で見晴らしがいいといった、今までなかった切り口です。
山内 その頃から製品化の可能性があるなぁと思い始めました。それまでは締め切りもなく呑気に構えていたのですが、だんだんまずいことになってきたかなと……(笑)。
そこで改めて今までの変更部分を整理し、手を入れていない部分をピックアップしました。過去の変更についてはノート5〜6冊にメモしてあったのですが、それを見直すだけで1週間はかかりました。殴り書きだったので、自分の字が読めなかったりして(笑)。
麻倉 よくわかります。私も取材メモを見返して悩むことがあります。メモにはその時の感情も入っているので、普段とは書き方も違っているのです。
山内 回路ナンバーなども数字なのか、平仮名なのか解読が必要でした……。
麻倉 その後、製品化が決まったのが2018年だったと。そうなると、製品としてどういった形にまとめるかがポイントになります。
山内 新しい型番にして回路も変えるという手法もありますが、そういう作り方では開発期間を含めてスケジュールが決まってしまいます。その手順で100%の音を完成できるかというと、難しい。
しかも今回は、ひとつの完成形だったSX1という製品をベースに、さらに熟成させていこうという企画です。と考えるとスケジュールありきの開発では駄目でした。
麻倉 その開発姿勢に対して、企画サイドからの希望はなかったのでしょうか?
山内 企画担当者に音を聴いてもらったところ、「これからのデノンの音はこの方向だ」と理解してくれました。それを突き詰めていった製品を作った方がいいと言ってもらったのです。さらに、「妥協しないで下さい」「納得いくまで音質検討をしてください」という言葉が出てきたので、腰を据えて頑張りました。
麻倉 とてもいいお話です。企画部のメンバーも素晴らしい。そして今年、遂にSX1 LIMITEDが完成した。
山内 白状しますと、今年の3月には完成させたいと思っていました。しかし自分の中で納得いかない点もあり、結局6月までかかってしまいました(笑)。
3月頃は、シャーシや脚部に使っている超々ジュラルミン7075の仕上げを追い込みました。天板の仕上げは当初はマットな感じだったのですが、それをヘアラインに変更しました。DCD-SX1では裏側に薄手のアルミに鉄板を貼って剛性を出していたのですが、今回は6mmのアルミ一枚板で仕上げています。
麻倉 最終的に完成した時の音は、満足できましたか?
山内 その時はかなり疲弊していたので、完成してから1週間くらいは音を聴けませんでした。今までに感じたことのないプレッシャーで、途中で倒れるんじゃないかと思ったほどだったのです……(笑)。
麻倉 確かにグループ開発なら客観的な意見も聞けますが、ひとりだとそうはいかないですね。
山内 仕上がった音を企画担当に聴いてもらったところ、「曲を聴き始めたら、途中で止められなくなりました」と言ってくれたのです。その言葉で安心しました。
麻倉 きっと、これまで聴こえなかった音、気がつかなかった情感を発見できたのでしょう。それが分かるという一点でも、SX1 LIMITEDシリーズは希有な存在といえます。
ではそろそろ実際の音を聴かせてもらいましょう。まずは、山内さんが開発時に使っていた曲を聴かせてもらえますか?
山内 かしこまりました。最初はSACDの『M.Sasaji & L.A.Allstars/バードランド』です。このディスクは、透明感が高く、ダイナミクスもちゃんと出てこないといけないと考えました。そうすれば臨場感、ライブ感が出てくるだろうと思ったのです。
麻倉 ビックバンドをバックに歌うのは、歌唱力がないといけませんが、この浪々さ、のびやかさはエネルギーがありますね。バックのダイナミックさ、迫り来る迫力もよく出ていて、しかもステージ感がある。演奏者ひとりひとりの技量、音楽のパワーが伝わってくるのと、それが一体になった時の空間の躍動感、爆発的なエネルギーを感じました。
山内 SX1 LIMITEDができて3ヵ月が経ち、やっと冷静に、落ち着いて音を聴けるようになりましたが、改めてそのあたりはうまくいったなと感じています。
麻倉 凄く音がいいけれど、無理に迫ってくる感じではなく、音楽自身が持っている生命力とかエネルギー感が出て来ますね。機械の凄さを聴けというのではなく、音の魅力を聴いて欲しいという音です。
モニター的に解析するのではなく、音楽が持っている味わいや方向性といったよさを伝えてくれます。しかも音場感が、波打つように手前に出てきます。ステージから音が迫ってくるので、聴く面白さがでてくるのです。音楽鑑賞にぴったりといえるでしょう。
山内 一方で繊細な音楽もチェックしました。内田光子さんのSACD『モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ集』です。内田さんの東洋的というか、哲学的なニュアンスが出てきて欲しいなぁと思っていました。
麻倉 確かに内田さんはお釈迦様のようなお顔ですしね(笑)。具体的には、ピアノの広がっていく様子がどう再現できるかがポイントでしょうか。
山内 そう思います。また意図性というか、内田さんの演奏の境地が、音として伝わってくるかどうかを重視しました。
麻倉 SX1 LIMITEDの音を聴いて、空気の響き、振動感がよくでていることに感心しました。波形が一様に広がるのではなく、色々なところに中心があって、それが空間で混ざり合っていく感じがよく出ています。演奏からも内田さんの存在感が圧倒的に出てきて、演奏の境地が感じ取れます。
何より響きがたくさんあって、でもそれに負けずにクリアーな音場になっているのが見事です。この演奏が持つウェットさ、みずみずしさは、若いピアニストでは出せません。熟練のピアニストが円熟味を加えて弾かないとこうはならないでしょう。内田さんの人となりまで加わった演奏といえます。
この音の厚み、色彩感、ステージ感はXS1 LIMITEDの組み合わせならでは、です。これからのデノンのフラッグシップに相応しい、素晴らしい製品が完成しましたね。
演奏が持っている特徴を引き出して、リスナーの耳に届けてくれる。
ミキシングの狙いまで描き出す再現力に驚いた (麻倉怜士)
音質チェックとして、SACD/CDプレーヤーの「DCD-SX1」と「DCD-SX1 LIMITED」を準備してもらいましたので、それぞれでCDを再生した時の印象の違いを確認しました。アンプは「PMA-SX1」です。試聴ディスクは『エトレーヌ/情家みえ』と、クレエンツ指揮の『モーツァルト/フィガロの結婚』を使いました。
DCD-SX1もとてもいいプレーヤーです。温度感が高く、潤いがあって、ウェットで、いい意味でまったりした音です。デノン製プレーヤーがもともと持っている魅力を感じます。
DCD-SX1 LIMITEDはそういった情的な潤い感を残しつつ、でも情報性があって、音の細かいところまで描き出してくれます。マクロ的にもミクロ的にも鮮度が上がったなぁというのが第一印象です。
『エトレーヌ』の1曲目「チーク・トゥ・チーク」の歌い出しはヘ長調のF Dm Gm C7……というコード進行です。この響きがどのように再現できるかにも注意して聴きましたが、DCD-SX1 LIMITEDでは、明るい音とちょっと暗い音のニュアンス、山本剛氏のピアノの表情が細部まで豊かなことまでよく聴けました。
ベースの弾み感も違います。DCD-SX1では低音は鳴っているけれど、細かい部分の質感が出にくい印象でした。しかしDCD-SX1 LIMITEDでは弾力感や階調感があります。スタジオ収録ですが、
ステージ的な距離感が出てきて、ミキシングの狙い、思いまで伝わってきました。確かに私はこの音がスタジオで欲しかったのだと、思い起こしました。
情家さんのボーカルは、DCD-SX1がまったりしたニュアンスだったのに対し、DCD-SX1 LIMITEDは細かい粒子感があって、それが密度高く詰まっている。音のグラデーションがより細やかになって、柔らかさを演出していることがわかります。
また声の立ち上がりと、歌詞が終わる時の対比もいいですね。最初の「Heaven」は私の意図としては若干ノイジーにして味がビターなのですが、2回目以降の「Heaven」はスイートにメローにしています。これは制作時の狙いでもあり、歌詞もずっと同じ調子ではなく、強弱を付けることで彩りを演出しているのです。それがちゃんと意図通りに出ていますね。
『フィガロの結婚』もびっくりしました。この演奏は”革命性”が出ないと凄さが伝わらないのです。もともと『フィガロの結婚』はフランス革命を惹起したといわれる貴族社会における革命的な音楽です。クレエンツのフィガロも、まさに演奏面で革命的。ハイテンション、ハイスピードでハイエネルギーな演奏であり、SX1でもとてもいい調子で聴けます。しかし細かい音の出方は、SX1 LIMITEDが断然よい。演奏のフォーカスがぴっちりと合い、倍音成分が豊穣になりました。
このオーケストラはほとんどみんな立ったまま演奏しているのですが、それにより音にいっそうの“思い”が込められているのでしょう。演奏が革命的であるということが、DCD-SX1 LIMITEDで聴くと際立ってきます。
単にテンポが速いとかアンサンブルがいいというだけでなく、この曲が持っている音楽のビビットさ、生命感を引き出しているのです。流麗だけどくっきりした弾み具合がとても新しく感じられます。
DCD-SX1は若干BGM的というか、心地好く、たっぷりと音楽を聴かせてくれるプレーヤーでした。それに対しDCD-SX1 LIMITEDは、もっと音楽に接近して、音楽をえぐり出して聴かせてくれる。音楽の本質、スコアをきちんと解釈した音楽を聴かせてくれる、そんな製品だと思います。
続いてアンプを「PMA-SX1 LIMITED」に変えて、DCD-SX1 LIMITEDとの組み合わせでCDを聴きました。SX1 LIMITED同士のコンビネーションなので、両機の方向性がさらに充実してきたと感じます。
『フィガロの結婚』では、ステージ上の位置関係も明瞭で、各パートから出てくる音が空気中で融合してこちらに向かってくるといった、空間的・時間的な音の解像感がはっきり見えてきました。空間解像度、つまりステージの空気感がより細やかにわかるようになりました。
『エトレーヌ』は、この演奏が持っている美質がうまく引き出されてリスナーの耳に届きます。綺麗に再現するだけではなく、音楽家が持っている特徴が合わさった華麗さ、伸びやかさまで再現しているのでしょう。特徴的なのは、ピアノのサウンドがメロディや歌詞とからみあってまとわりついていく点で、音の流れの面白さがよく出ていました。
最後にユニバーサルミュージックのSACDから『マヌエル・デ・ファリャ:《三角帽子》《恋は魔術師》』を聴きました。エルネスト・アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団が1955年に収録した演奏で、ビビットで生命感に溢れています。デッカの録音をSACDで聴くことに勝る音楽的醍醐味があるのか、と言いたくなる音が聴けました。
「序奏」で左側のティンパニー、右側の金管楽器が聴こえ、カスタネット、オケのかけ声と言った音像的なステージ感が再現されます。しかもただ左右から聴こえるのではなく、そこからリスナーに向かって音のエネルギーが放射される、迫って来る様子がよく出てきます。
音がクリアーで、かつ色彩感も備えている。テレサ・ベルガンサの声が素晴らしく、まるでジュネーブのホールで聴いているかのような濃密な音場感、響きの広がりが目に見えるように感じられました。
次に「ファンダンゴ」を聴きましたが、エネルギーと情熱、色彩の鮮やかさに溢れてきました。CDプレーヤー、アンプともSX1 LIMITEDにすることで音楽に色が付いて、しかも高彩度の色が出てきました。
SX1 LIMITEDは、音源が持っている音の情報性、情緒性、コンセプトといったものを、うまく再現してくれます。しかも無色透明に聴かせるのではなく、独自の表現力で楽しませてくれます。温度感が高く、気持ちのいいデノン的な音も備えつつ、空間感と直接音の情報性が絡み合っているのです。
単にハイファイなだけではなく、いい感じで演出をして、音楽の美味しいところを味付けして聴かせてくれる。DCD-SX1 LIMITEDとPMA-SX1 LIMITEDは、音楽鑑賞をより楽しく、深くしてくれる機器だと感じました。