これまで「デスクトップ・オーディオ」というと、それなりの音で、小さな音場を箱庭的に愛でるオーディオ環境とされ、大きな音場が確保できないから、しかたなく机の上に小さなスピーカーを置いて聴いているというセカンドベストなイメージだった。だが、その概念は革命的に変わろう。ソニーのハイエンドオーディオが渾身の技術と努力とこだわりを注入して開発したニアフィールドパワードスピーカー「SA-Z1」がデビューしたからだ。
ソニーブースには、本機のための特別な試聴室が設けられている。ひじょうにS/Nがいいその部屋で聴いたSA-Z1は、2チャンネルスピーカーの空間音としては、これまで聴いたこともないような正確性とハイリニアリティ、そして臨場感と空気感が得られた。変な言い方だが、机の上がステージになり、そこでミニチュアの歌手、楽団が正しい位置と音像を持って演奏しているような嬉しい錯覚も受けた。
特に感心した一曲が、アンネ=ゾフィー・ムター,ロサンゼルス・レコーディング・アーツ・オーケストラの『Across The Stars』。アンネ=ゾフィー・ムターがジョン・ウィリアムズの映画音楽を演奏した最新ハイレゾ音源(96kHz/24ビット)だ。
凄く濃密、こってりとしてディープ。まさにムターでないと、ここまでの感情的、感傷的なシネマサウンドは奏せないであろう。『レイのテーマ「スター・ウォーズ/フォースの覚醒」から』はもともとジョン・ウイリアムズのスコアもひじょうにエモーショナルなものだが、ムターはそれに輪を掛けて、感情的な調べを奏す。
もともとアンネ=ゾフィー・ムターのヴァイオリンはクラシックの泰西名曲でも、独得のエモーションの深さが際立っていたが、SA-Z1で再生すると、より物語風で、心に染みいらなければならない映画音楽には、映画の世界を深掘りする音楽性があることが分かる。滑らかで自然な音楽の流れ、ピッチカートの生々しさ、ゆったりと楽器を鳴らされている自然な感触も、これまで聴けなかった水準のものだ。
SA-Z1ではヴァイオリンが自発的に空間に音の粒子を振りまくように聴ける。写真のように机の上に設置してあるが、ステージ感は決して箱庭ではないのにも感心した。開発者のV&S事業本部のエンジニアの加来欣志氏は「お客さんからはびっくりするほど好評をいただいています」と語る。
商品コンセプトを「パーソナル空間で究極の解像度とステージ感を実現したニアフィールドパワードスピーカー」としたSA-Z1の思いとは何か。(次回に続く)