『トイ・ストーリー4』でも変わらぬ話芸を披露
いまとなっては、トム・ハンクスはハリウッドが誇る演技派の大スターだ。なにしろ『フィラデルフィア』(93年)、『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94年)と2年連続でアカデミー賞主演男優賞を獲得し、以後も次々にヒット作&話題作に主演しているのだから。
現在、日本の夏を賑わせているアニメ『トイ・ストーリー4』の始まりは、トムがアカデミー賞連続受賞の直後に、主人公のウッディの声を担当した第1弾『トイ・ストーリー』(95年)。あれからじつに20年以上にわたって同じキャラクターを演じ続けてきたことになる。
しかも、そのコミカルで哀愁の漂う話芸は衰えることがない。最新作では、外見は昔のままなのに、声には父親のような慈愛の響きがあって、ジーンとさせてくれる。さすが名優だなぁ。キャリアのスタートはスタンダップ・コメディアンだから、話芸が達者なのは当たり前かもしれないが。
ロマコメ俳優から演技派へ
もともと俳優を目指していたトムが脚光を浴びたのは、人魚と恋をする純情青年を演じた『スプラッシュ』(84年)と、大人の姿になった少年を無邪気に演じた『ビッグ』(88年)。コミカルで軽妙な演技を披露しつつも、ロマンチックな雰囲気を併せ持つ若手俳優として、巷の人気を獲得したのだ。その後、メグ・メグライアンと共演した『めぐり逢えたら』(93年)は、傑作ロマコメとして映画史に名を刻んでいる。
そんな中、ガラリと芸風を変えてシリアスに挑みオスカーを手にしたのが、死期を間近に控えるエイズ患者を演じた『フィラデルフィア』。不当解雇を訴え法廷で闘う壮絶な姿を、過激な減量を実行して熱演した。これが多彩な演技力披露の幕開けとなったのだ。
役柄さながら、まるで4人の若者のマネージャーのよう!
初来日は、2つ目のオスカー像を手にした『フォレスト・ガンプ/一期一会』の日本公開直前。確か95年の初めだったと思う。以後、何度も新作を携えて来日しているが、常にユーモアを交えた話術で周囲を和ませ、それでいてものすごいスピードで実のあるコメントもしっかりと話してくれるので、毎回楽しく充実したインタビューに満足したものだ。
そんな中でいちばん印象に残っているのが、自らの脚本で長編映画の監督デビューを果たした『すべてをあなたに』(96年)を携えた2度目の来日だ。作品の舞台は60年代。「ワンダース」というバンドを結成し、ビートルズのようなスターを目指して頑張る若者たちを主人公にした青春グラフィティで、トム自身も彼らのマネージャーとして出演している。
当然、来日は「ワンダース」のメンバーを演じた若手4人(トム・エヴェレット・スコット、ジョナサン・シェック、スティーヴ・ザーン、イーサン・エンブリー)を同伴していた。すでに大スターの地位を確立した大物なのに、あの時のトムは、役柄を彷彿とさせるマネージャーぶり。いや、やんちゃな生徒を引率する修学旅行中の先生のようだった。「みんな、時間だよ」とか「ちゃんと、みなさんにご挨拶をして」とか、甲斐甲斐しいことこの上なし。
しかも、インタビュー中の態度で私がジョナサンをことのほか気に入っているのを察知したトムは、終了直後に「ジョナサン、ちょっとおいで」と声をかけ、私と彼のツーショット撮影をセッティングしてくれたのだ。この気配り!
この2度目の来日の時には、トムは4人のメンバーと一緒にテレビの歌番組にもゲスト出演している。初来日以来、トムの通訳を担当していらっしゃる字幕翻訳者の戸田奈津子さん情報によると、その長~い待ち時間にイライラしている若者たちを、トムはジョークと気づかいでなだめすかしていたそうだ。何度も言うが、あのビッグ・スターのトム・ハンクスが、だっ!
そんな話を伺うと、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(02年)のLAジャンケットを思い出す。監督スティーヴン・スピルバーグ、主演レオナルド・ディカプリオ&トム・ハンクスという超・超豪華な3ショットの場は、スタッフもジャーナリストもピリピリしまくりだった。しかもレオはカッコつけて言葉少なだし、スピルバーグのコメントは生真面目だし。
で、そんな場を和ませてくれたのは、やっぱりトム。てきとうにレオをいじって笑わせ、スピルバーグから的確なコメントを引き出してくれた。
前出の戸田奈津子さん曰く「トムは、どんな人に対しても、どんなシチュエーションにも、瞬時に自分を変えて合わせられる。いわば変幻自在。だからこそ、どんなキャラクターにもなりきり、素晴らしい演技が披露できるのでしょう」。なるほど、納得です。
『トイ・ストーリー4』
監督:ジョシュ・クーリー
声の出演:トム・ハンクス/ティム・アレン/アニー・ポッツ/トニー・ヘイル
原題:TOY STORY 4
2019年/アメリカ/100分
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
2019年7月12日(金)より公開
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