多くの話題を集めたCES2019。StereoSound ONLINEでは麻倉怜士さんによる詳細リポートを22回に渡ってご紹介いただいた。それらはいずれもオーディオビジュアルファンにとって興味深い内容ばかりで、たいへん多くのアクセスもいただいている。今回はそのCES2019の総括を、麻倉さんにじっくり語っていただいた。(編集部)

画像: 【麻倉怜士のCES2019レポート23】2019年のテレビシーンは、3つのテーマで進化していくだろう。“最新技術の発表の場”であるCES2を取材してわかったこと

CESは“技術展示の場”になってきた

 私が毎年CESの取材をするようになって、既に20年以上が過ぎました。その前にも何回も足を運んでいますので、通算ではもっと多く取材していることになります。

 さて、世界の3大エレクトロニクスショウというと、アメリカのCESとドイツのIFA、日本のCEATECが有名です。

 このうちCEATECは家電展示会としての価値は下がってしまいましたが、総合デジタル・ショウとしてそれなりに人気が出てきています。あとふたつのIFAとCESについては、近年立ち位置が変わってきています。

 CESは技術を展示する場、これから市場がどうなるのかというトレンドやイノベーションを見せる会になっています。主催者団体の名称もCEA(コンシューマ・エレクトロニクス・アソシエーション)からCTA(コンシューマ・テクノロジー・アソシエーション)に変わりました。

 ネットやSNS、ビッグデータ、さらにAIやIoTというムーブメントに対応していこうというのがCESの流れです。今回のCES2019レポートでも沢山の技術を紹介しまたが、それらがすべて製品化されるかどうかはわかりません。あくまでも試作品や新しい技術を見せるというのがCESでの展示の目的だからです。

 一方IFAはもっと製品寄りのデモが中心です。IFAは時期的にクリスマスシーズンを控えていますから、その前の商談会という意味合いも強いのでしょう。

 1月のCESで技術が発表され、それが評価が高く、上手くいったら秋のIFAで商品化され、年末に発売されるというのが最速の流れです。ただし、ほとんどの場合は翌年のIFA、あるいは2年後に商品化といったケースが多いですね。

 CESでは毎年、今後のトレンド解析を発表しています。それによると2001年から2010年はデジタル時代だったといいます。それまでのアナログ機器や技術がすべてデジタルに置き換わっていく。続く2011年〜2020年はコネクテッド時代、SNSを中核にして人々がデジタル製品でつながっていく時代。そして2021年からはデータ時代です。ビッグデータを活用し、そこにAIなどを加えることで進展していく。

 このように10年スパンで俯瞰すると、オーディオビジュアルを含めた技術の大きな流れがよくわかります。また小さな流れの中にも注目すべき光るものがありますから、やはり継続してウォッチしていくのはとても大切ですね。

画像: CESで展示されていた、シャープの80型8K液晶テレビ

CESで展示されていた、シャープの80型8K液晶テレビ

2019年のAVシーン、3つのテーマ

 それを踏まえてCES2019を振り返ると、3つのテーマが見えてきます。

 第一は“8Kの躍進”で、もうひとつは“テレビの形の変化”が鮮明になったこと。3番目はソニーの360 Reality Audioに代表される、“オーディオの革新”です。

 まず“8Kの躍進”について。CESの展示では、ソースやメディア環境が未成熟でも展示してしまうというところがあります。8Kも同じで、北米やヨーロッパでは放送はありませんが、パナソニック以外のすべてのテレビメーカーが8Kテレビを展示していました。しかもサムソンやLGは市販の製品として、です。

 これは、8Kテレビを出すことでコンテンツ制作者に刺激を与えようという狙いがあるのでしょう。これまでは放送が主な視聴ソースでしたが、今ならネット配信もあります。

 ネットサービスで8Kが配信されるのは充分ありえることで、既にアマゾンとサムソンが共同で2020年に8K配信を始めますという発表を行ないました。そういったサービスを見越して、早期に8Kモデルをリリースすることで、ブランドのイメージを高めようという狙いもありますね。

 8Kについては、パーツとしての表示デバイスも充実し始めています。8K液晶パネルは、98/85/82/75/65インチがあり、有機ELは88/77/65インチが用意されます。LGエレクトロニクスの展示は88インチでした。製品としては、液晶陣営がソニー、サムソン、TCL、ハイセンスなど、有機ELはLG、中国のスカイワース、チャンホンなどです。

 ここに入っていないパナソニックは、有機ELテレビの88インチで展開したいと考えているようです。しかしHDR再生という点で観るとパネルの輝度が欲しい。そこもあって、8Kテレビの展示は延期したということです。

 また8Kでは、単なる解像度だけでなく、トータルで画質を上げることが必要になります。HDR(ハイ・ダイナミックレンジ)やフレームレート、色域、ビット深度の全体をレベルアップしていこうというのが、今の8Kテレビの流れになっています。そうでないと、8Kくらいステータスのある画質は実現できないのです。

 その点については、液晶・有機ELのどちらも、今のデバイスではまだ物足りない部分が多くあります。今後、デバイスとしての完成度をもっと上げる必要があるんでしょう。

画像: パナソニックの4K有機ELテレビ、TX-55GZ2000

パナソニックの4K有機ELテレビ、TX-55GZ2000

8Kを活かすためのアプローチ

 そのためのアプローチのひとつとして、実はパナソニックのやり方が注目に値します。パナソニックは今回のCESで、GZ2000という素晴らしい4K有機ELテレビを展示しています。昨年のFZ1000と比べても白側の階調情報が凄く多い。きらきらした海面の輝きなどは素晴らしかった。

 GZ2000では、4Kテレビの輝度をどうやって上げるかを考え、パネルの調達方式をそれまでのモジュールから、オープンセル方式に変えました。そして周辺部分について自分達で手がけるようにしたのです。モジュールは供給元の仕様そのままですが、オープンセルにすることで輝度を上げ、自分達の狙う画質に近づけていけました。それを8Kに活かすのです。まず4Kで望みのスペックを手に入れて、その技術をベースに8Kを作っていくという二段階作戦なのです。

 なお、CESのラウンドテーブルで、パナソニックの津賀一宏社長が8Kに否定的な発言をしたというニュースもありましたが、あれもとても戦略的でした。他社がすべて8Kテレビを並べている時に、パナソニックだけ展示しないのですから、あれくらい言わないと話題にもなりません。逆にこれからきちんと8Kテレビを出せばいっそう注目を集めることになります。

 8K関連では、アップコンバート技術もとても大切です。日本でも8K放送は1チャンネルだけで、そもそも8Kはコンテンツが足りていません。しかしアップコンバートが優秀であれば、4K放送でも8Kにアップコンバートした方が綺麗に楽しめる可能性がある。

 ソニーも去年のIFAでは8Kテレビを展示しませんでしたが、その理由はアップコンバートがまだ完全でないからだと話していました。今年はX-Reality PROの採用で、それを解消できています。

 さらにソニービジュアルプロダクツTV事業部 技術戦略室の小倉敏之氏にインタビューしたところ、8Kは1.5Hで観るとよいという話を聞きました。これまでSDは視野角10度で視距離は7H、HDは30度で3H、4Kは60度1.5H、8Kは100度で0.75Hなどと言われてきました。

 しかし0.75Hは相当な大画面じゃないと難しいですね。80インチくらいでは、画面が近すぎてかえって不快な印象になってしまいます。そこで小倉さんがソニー社内で85インチの8Kテレビを使って快適な視聴距離を探してみたら、それが1.2〜1.5Hだったということです。

 その理由としては、0.75Hでは画素構造が見えるということと、8Kはもともと持っている情報量がとても多いので、それを人間が認識する距離として1.5Hが最適だということでしょう。

 現実の環境でも0.75Hはかなり近いので、8Kテレビを買った人も1.5H前後ではどう見えるのかを試してみるといいでしょう。

画像: LGの巻き上げ式有機ELテレビ

LGの巻き上げ式有機ELテレビ

テレビの形を選べる時代が来る

 続いて第2のポイント“テレビの形の変化”についてお話しします。

 そもそもテレビは色々なコンテンツを表示するわけで、その中身に応じて画面サイズも変わってくれるといい。ニュースなどの情報系は小さくてもいいし、映画やコンサートは大画面で楽しみたい。

 その意味では、LGの巻き取り式有機ELテレビは大いに注目でした。大画面テレビは映していない時に存在感がありすぎるのが問題でしたが、巻き取りなら観ないときはしまっておけます。

 また今回の巻き取り式有機ELテレビでは、ラインビューといって画面を少しだけ立ち上げて電光掲示板のように情報を表示するモードも準備されています。

 さらにもう少し立ち上げると横長画面になる。今回の展示品はラインビューと16:9フルサイズの二段階でしたが、その中間で21:9の横長モードなども追加してくれると映画再生にぴったりです。

 しかも画面をすべて収納したら、サウンドバーとして音楽再生用にも使えます。リビングにおけるホームシアター体験のツールとして、2019年にはこういったアプローチが喜ばれるかもしれません。

 もうひとつ忘れていけないのは、サムソンのマイクロLEDです。今回の展示で面白かったのは、アスペクトフリー、サイズフリー、レゾリューションフリーなどと、色々な「フリー」を提案していたことでしょう。

 仕組としては、LEDのモジュールを組み合わせてディスプレイを作るので、組み合わせる数や置き方で自由な設計が可能です。極端な話、壁面をすべてスクリーンにしてもいいわけで、その中に好きな場所に好きな形の映像が再現できます。21:9のディスプレイを埋め込んでおいて、放送を観る時はその中に16:9を写すといったやり方もできます。

 これまでは、自分の欲しいサイズとアスペクトをテレビに求めることは不可能でした。アスペクトは16:9固定だし、サイズはラインナップの中から選ぶしかなかった。でもマイクロLEDでは、設置サイズが決まっていたら、そこにぴったりの画質とサイズがカスタマイズできる。これは画期的です。

 それによってユーザーの利便性が高まり、ニーズに合ったシアター、大型映像システムを作っていける。この流れが見えてきたと思います。

画像: サムスンの6K/219型超大画面ディスプレイ「The Wall」

サムスンの6K/219型超大画面ディスプレイ「The Wall」

音楽を“体験”する時代が始まる

 最後の“オーディオの革新”ですが、なんと言ってもソニーの360 Reality Audioが新しい。この提案で面白かったのは、従来はハイレゾというと2chだけで、「音質」や「利便性」をよくするという方向で進化してきたのですが、今度は「体験」をそこに含めています。

 音楽が生まれたときの雰囲気、躍動感というものは確かに360度に広がっているわけで、それをいかに再現するかという提案として新しいし、面白いと思いました。

 しかも再生機器だけでなく、ソフトを含めたエコシステムとして提案している。オーサリングから再生機器、さらにはフォーマットまでトータルのパッケージになっているというのは、久しぶりのことでしょう。自分がフォーマットを作っていこうという取り組みで、たいへんソニーらしいと感じました。

 コンテンツ制作者も、これまでは2chしかなかったのに、360 Reality Audioを体験して、こんな世界もあったのかと驚いたようです。オブジェクトオーディオとして、自由に音像を動かしたり、定位させたり、単に音楽が鳴っているだけではなく、音楽の場の位置まで感じられる体験というのは、たいへん新しいですからね。

 ドルビーアトモスやDTS:Xなどのイマーシブサウンドは基本的には劇場ありきですが、パーソナルな体験に向けてのイマーシブ体験という発想はこれが初めてかもしれません。しかも製品としては、ヘッドホン試聴からスタートするということで、頭部伝達関数がぴったり合えば、かなりの効果が期待できます。

 これまでハイレゾで音質追求ばかりだった世界に音像が入ってきた、その意味でも画期的な提案だったと思います。

 この3つの技術が実際に製品に反映されるのは、先ほど申し上げたとおり早くても今年の年末あたりになるでしょう。それらがオーディオビジュアルファンのライフスタイルをどう変えていくか、楽しみにウォッチしていきたいと思います。

画像: ソニーの360 Reality Audioを一体型システムで体験するデモ

ソニーの360 Reality Audioを一体型システムで体験するデモ

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