新4K8K衛星放送がスタートして1ヵ月半が過ぎ、その高品質な映像を自宅で楽しんでみたいと考えている方は多いだろう。そこで悩ましいのは4K放送だけ視聴するか、それとも8K放送まで視聴するかだ。実際4K放送と8K放送でどんな違いがあるのかも、なかなかわかりにくい。しかし8Kには、他に替えられない魅力があるのだ。そこで今回はいち早く8K受信システムを導入し、日々その映像に感動しているという麻倉さんに、8Kの魅力について語ってもらった。(編集部)
8Kチューナー内蔵テレビ
シャープ8T-C80AX1 オープン価格(市場想定価格200万円前後)
●パネル方式:VA方式(視野角176度)●画面解像度:水平7680×垂直4320画素
●バックライト:直下型LED ●接続端子:HDMI入力×5系統、光デジタル音声出力×1系統、他
●内蔵チューナー:BS8K×1系統、BS4K/110度CS4K×2系統、地上デジタル/BS・110度CSデジタル×3系統 ●寸法/質量:W1810×H1132×D440mm/62kg
●問合せ先:シャープ(株)お客様相談室 Tel0120-001-251
映像愛好家は、8K品質を手に入れるべきである
8Kこそ、人類が手にいれた最高の映像ソースです。地デジ等の2Kはもちろん、4Kとも違う圧倒的な映像美、品質を備えています。映像愛好家として、この品質を手にいれないのは許されない。私は8K放送に触れ、日々その思いを強くしています。
職業柄と個人的な嗜好もあり、私は新しい放送メディアは常に最初に導入してきました。1989年のBSアナログ開始の時もTDKの大型アンテナを設置して受信を始めました。2000年のBSデジタルの時もすぐにBSデジタルチューナーを導入しました。新しいメディアが出てきたのであれば、最速で体験しようというのがモットーです。
今回は放送が4K/8Kクォリティになるということで、たいへん楽しみにしていました。4Kについては、MIP TVなどの取材を通して全世界の最先端情報に触れていたので、その魅力は熟知していました。そして8K。これはまさに世界最高の放送なのだから、真っ先に手に入れないと麻倉怜士の名前が廃る! というものです(笑)。
ですので、去年の12月1日に放送が始まったらすぐに受信して、しかも全力で全録しようと考えました。そのために11月上旬に右左旋対応のアンテナとブースターを導入したのです。現状はアンテナからの信号を5分配して、8Kテレビやレコーダーにつないでいます。
テレビはもちろんシャープ製で、80インチの8T-C80AX1を選びました。8Kはできるかぎり大画面で観るべきですし、画面の中に取り込まれるイリュージョンを楽しみたい。
8T-C80AX1はアップコンバートの絵も素晴らしい
これまでは50インチのプラズマテレビを使っていましたが、今回はそれと同じ場所に8T-C80AX1を設置しています。視距離は約1.8mで、50インチでは約3H(Hは画面の高さ)だったのですが、80インチにしたら1.8Hまで近づきました。しかし8Kであれば画素構造は目に付きにくくなりますから、まったく問題ありません。
加えて8T-C80AX1はバックライトの制御がひじょうに繊細で、コントラストの再現性も優れています。実は4Kや8Kなどの映像では、黒がきちんと締まらないと高精細化の恩恵を感じにくくなります。その意味でも8T-C80AX1は8K映像を楽しむための条件をきちんと備えています。
もうひとつ、2K/4Kからのアップコンバートが綺麗なのもポイントが高い。もちろんコンテンツ次第ということもあるので、できればBSプレミアムのようなフルHD画素を持ったコンテンツで、きちんとしたカメラを使った番組を楽しみたいですね。さすがに地デジなどの4分の3 HD解像度(水平1440×垂直1080画素)で、しかも動きの速いカメラワークの番組は物足りない映像になります。
技術的に言うと、8T-C80AX1のアップコンバート処理では斜め線の再現性に注力したそうです。斜め線は単純にアップコンバートすると太くなりますが、今回はぼけ感、ぼったり感のない映像を観せてくれます。もちろん4K放送ではさらに画質がアップします。むしろ4Kテレビで観るよりも、8Kにアップコンした方がいいんじゃないかと思うくらい、素晴らしい映像です。
これはアップコンバート回路だけでなく、先述したコントラスト再現の優秀さが活きているのでしょう。実際4K放送でもコントラスト感の甘い作品や強調気味のもの、HDRとSDRといろいろですが、それらをすべて高品質で楽しめるのです。
ネイティブの8K映像はやはり格が違う
とはいえ本当にその実力を実感できるのは、ネイティブの8K放送を映した時です。8K放送でウィーン・フィルの『ベートーベン 第9 アンドリス・ネルソンス指揮』という番組がありますが、これは4Kでも放送されています。当然4K放送は8K素材をダウンコンバートしたものです。
4K放送を観ていると、とても素晴らしいコンテンツだなぁと感じます。特にムジークフェラインザールのホールの雰囲気がしっかり再現されているのです。でも一度8Kで観てしまうとまったく違います。4Kも4Kなりのよさがありますが、それでもネイティブの8Kとは差があるのです。
元の画素数が違うのは当然ですが、8Kで撮影した番組は8Kの解像感、精細感を備えています。それを4Kにダウンコンバートするとあの精細感が少なからず失われてしまうのですね。8T-C80AX1で観る4K放送のアップコンも充分満足できる仕上がりですが、ネイティブの8Kにはそれを圧倒的に超えた映像的、そして画質的エネルギーがあるということでしょう。
8T-C80AX1で気になる点があるとしたら、視野角と内蔵スピーカーの音質ですね。視野角はVA液晶パネルなのである意味致し方ない部分もあります。本機は下向きのスピーカーが内蔵されていますが、うちでの設置では、下に反射する板がなく、そのまま下まで筒抜けなので、音的に物足りないのです。
そこでわが家ではオラソニックのTW-D77OPTというテレビ用スピーカーを組み合わせていますが、もっと迫力あるサウンドで楽しみたいので、将来はAVセンターとスピーカーを準備しなくてはと考えています。
4K/8Kは“テレ・ビジョン”を越える価値を持つ
私は4K/8Kをこのように考えています。これまでの放送はつまり“テレ・ビジョン”でした。つまり「遠くで起きていることの情報」を伝えるという意味で機能していた。しかし4K/8Kはそれを超え、視聴者がそのコンテンツの中に入っていく、そんな“体験”に進化します。情報が向こうからやってくるのではなく、視手がその中に入る。
4K/8Kでは自然紀行番組も多くありますが、それを観ていると、家のリビングに座っていながら、あたかもその場に出かけているような臨場的な感覚が楽しめます。例えば、『日本百名山』などは−−私自身は登山はしませんが−−番組を観ていると苦労して山に登って、頂上の絶景を眺めているような気分になります。
8Kのメリットは、①臨場感・没入感、②実物感、③立体感の3つだと私は考えています。臨場感・没入感は大画面を観たときにそこに入りこむ感覚です。実物感は言い変えると本物感で、8Kは2Kとは桁違いです。立体感は絵の3次元的表現で、これも8Kは素晴らしいですね。
その外に感動したのは『乃木坂46 神宮球場8Kライブ!』で、これはいわゆる8K的な絵づくりではありません。番組では乃木坂46の数十名のメンバーを引きで捉えた後に、顔のアップまで近づきます。すると彼女たちが汗をかいている様子までとてもクリアーに分かります。
もともと8K放送は引きが多いのが基本的な絵づくりですが、その中にアップが入り、しかも汗が流れる様子まで克明に再現されると、ひじょうに生々しい実体感につながります。
すると、ライブが始まってどれくらい時間が経っていて、会場がどれくらい熱狂しているかといった時間的な状況までを映像がわからせてくれる。その場の雰囲気、情緒感まで観えてきます。没入感というと視聴者がそこに入っていくという印象ですが、8Kでは絵に引き込む力がとても強いのです。アップでは、個々のメンバーの肌や化粧の状態がこれほど違うのかが個性の違いとして表出されています。
またオーケストラ作品の楽器の再現では、バイオリンが音と光を同時に奏でているということまでわかります。色の輝きが音を引き立てているということが自然に感じられる、そういった実体感、説得性・情緒力には驚きます。眼前で観ている以上に大画面でのオブジェクト感に引き込まれるのです。
8T-C80AX1にも、8K用の映像調整を施す
最後にわが家の鑑賞システムを紹介しておきましょう。まず8Kテレビのシャープ8T-C80AX1には録画用USB HDDの8R-C80A1をつないでいます。容量の問題もあるので8K放送だけ録画しています。4K用には同じくシャープの4Kチューナー内蔵レコーダー4B-C40AT3を、2K放送用にはパナソニックの全録レコーダーを使っています。それらをすべて8T-C80AX1につないで、入力を切り替えて楽しんでいます。
8T-C80AX1の映像イコライジングは、AVポジションの「映画」がベースです。色温度は「低」で、青味を抑え、赤みを基調にしています。もともと色情報がひじょうに多く、コントラストもしっかりとしているので、それを「テレビ的」に観るのではなく、「アーティステック」に鑑賞したいからです。
8K的な華やかさも欲しいので、黒をやや沈め、白も伸ばします。ポイントは「プロ設定」という詳細設定です。暗部階調調整の「HDRガンマ」は、最高の「+2」。もっとも階調が出る方向です。もうひとつが「ダイナミックレンジ拡張」。これも最高の「+6」。ピークを上げ(最高輝度は4000nits)、ローカルディミンング分割数を最高度に上げます(4ケタの分割数という)。
これにて最高度のコントラストと最高度の暗部階調を与えます。8Kテレビといっても、そのまま初期値で見るのではなく、テレビ側のアジャストによって、さらに実体的な精細感、コントラストと階調のバランスを高度に設定することで、さらに最高の8Kに浸ることができるのです。
8K視聴機器は4Kよりも選択肢も少なくまだまだ高価ですが、そこには極めて大きな価値・体験があります。ぜひ多くの皆さんにこの究極の映像を体験していただきたいと思っています。
4K8Kのために万全の準備を。麻倉邸の8T-C80AX1搬入に密着