対談=土方久明×藤原陽祐(まとめ/写真=長谷川圭)

試聴したトヨタRAV4。ご覧のナビ以外は純正装備のまま音を確認した。

試聴を終えた試聴室にて、土方久明氏(左)と藤原陽祐氏(右)。
ストラーダ史上、最大の音質向上が図られたF1X10C1D
モデルチェンジ前後で別物のサウンドへと進化
Auto Sound Web(以下、ASW):このたびは改めてストラーダの最新モデルF1X10C1Dをお聴きいただきました。今回の聴き方としては、2022年モデルのF1X10BGDとの比較を試聴室で、さらにF1X10C1Dは車載状態でもお聴きいただきました。いろいろと感想を伺いたいのですが、まずは、今回の試聴取材に先立ち、本機の開発に携わったエンジニアにインタビューを実施しましたのでその内容をご確認ください。

パナソニックのメモリーナビ、ストラーダF1X10C1D。再生メディアに「ネット動画」を盛り込んだ最新モデルである。
パナソニックF1X10C1D開発エンジニアインタビュー
Q:モデルチェンジにあたって、目指した音質の向上目標があったと存じますが、具体的にどのような点を向上させたかったのでしょうか。また、本機の完成で期待していた音質向上は叶いましたか。
A:大きく2点ございます。ひとつはわれわれが設計する上での課題として、解像度であったりS/Nがまだまだよくないよねという認識がありましたので、そこは設計的に改善したかった。もうひとつは、ネット動画という新たな機能が追加されて、誰でも気軽にナビの大画面でYouTubeなどのコンテンツを楽しめるようになりました。そういったデジタルコンテンツに対して臨場感であったり、空気感というものの再現を目指して音作りをしました。その2点が挙げられると思います。
Q:実際に製品が完成して、目指していた目標は達成されたでしょうか?
A:はい。われわれとしては自信をもっていいものができたと言えます。
Q:内蔵アンプをデジタルアンプへ変更すると、従来の回路と比べてデバイスやパターンの変更をされていると思いますが、変更されている点について教えてください。
A:デジタルアンプの採用にあわせて、オーディオ回路全体を見直しました。
例えば、これまで高音質DACがあって、その周辺にも必要な回路があったため多数の部品が使われていましたが、構造的な変更によりオーディオ回路の統合を実現しました。スペースの余裕も増えて設計の自由度はかなり高くなりましたので、音質重視の基板レイアウト可能となり、思うような回路パターンを作ることができました。
音のパラメーターはずいぶんこだわって作ることができています。

オーディオ基盤に組み込まれるデジタルアンプデバイス。
Q:この扇状の配置にすることで、何が理想的になったんですか?
A:こういうレイアウトだから音がいいとは一概には言えませんが、パターンがクロスせず、かつ最短で出力の端子まで同じ長さでパターンを引くことができるように考えた結果が、この形でした。
Q:ディスク再生メカがなくなったことは、設計に影響がありましたか?
A:電気的にはドライブメカから発生するノイズがないというだけで圧倒的に音質的なメリットが生まれていると考えられます。実際に、ディスクドライブの機構と回路がなくなったことで、ノイズ面でどのくらい変ったかの検証はしていないのですが、ノイズの影響がなくなるというのは大きな変化だと考えています。
Q:デッキがなくなると、それを動かすための電力が不要になるし、ピックアップの動作やディスクの回転速度の調整や……電力量の乱高下が続くと、それも音質的にはデメリットだったように思うのですが、いかがでしょう?
A:従来のAVナビでは、構造的に一番上にデッキメカがあって、一番下がオーディオ回路なんです。すると、中間にあるナビの回路やチューナー回路といったものを飛び越してデッキが動作するためのパワーが送られます。このため電力量が常に変化しているものがノイズとなって全体に拡散されていました。それがなくなるのは大きな違いになっているはずです。

ナビの内部、一番下に組み込まれるオーディオ基盤。写真奥がナビ本体の背面側で、接続コネクターがレイアウトされる。右奥のコネクターが電源やスピーカー出力で、基盤右側に電源回路が配置されておりカスタムコンデンサーなどが並ぶ。基盤中央より少し右奥にあるのが4つのローパスフィルターを扇型に並べた出力部の回路だ。こうした設計とすることで信号経路が交差せずに全チャンネルが等距離かつ最短とすることができたという。
Q:デジタルアンプにすることで大きな音質改善ができたのでしょうが、解像度やS/N以外にクォリティの向上を図ったところはありますか?
A:デジタルアンプにすることで確実に解像度が上がることが分かっていましたので、思惑通りに製品を作り上げることができたと思います。
ただ、デジタルアンプにするだけでは低域が弱いということもありましたので、その部分は電源回路を強化することで目標を達成しています。ストラーダ専用カスタムコンデンサーの採用が効いています。低域の押し出し感などは、これによって劇的に改善されています。
Q:従来から再生ソースの音声信号はアップコンバートされて信号処理されて出力へという流れでしたが、本機もすべてのソースで同様の処理が行われているのでしょうか。
A:192kHzへのアップコンバートは、すべてのソースで行なっています。
Q:上記以外に、開発者として見て欲しい、聴いて欲しい点がございましたら教えてください。
A:全部です。
開発チーム全員の思いを込めたコメントがあるので読みますね。
聴感上の帯域バランスをフラットにすることに努めました。いろいろなクルマで使えるようクセがない音に仕上げています。デジタルアンプならではの音色感を活かし、ポップスなど含め様々な音源を評価しています。お買い上げいただいたお客様が音楽を存分に楽しめるよう、思いを込めて設計しています。

扇型配置の回路について説明する田食寛之氏。
ASW:以上、エンジニアインタビューでした。では新旧比較されての印象を聞かせてください。土方先生からお願いします。

試聴取材後に試聴実機を挟んで話が弾む両名。
土方久明(以下、土方):まず、取材前に予想していた以上に違いがありました。正直、別機種ぐらい違う。F1X10C1DはストラーダFシリーズの最新最上級機ですが、前作と全く違う製品の音に生まれ変わっていました。私が聴いた宇多田ヒカルとサム・スミスのステイ・ウィズ・ミーでは、まず、旧モデルのF1X10BGDを聴いても、これだけを聴いていたら決して悪くないんです。真面目に音作りされてますし、例えばオーディオ的なレンジ感とか分解能といったところなど、これだけ聴いていても充分に素晴らしい再生音だと思いました。とはいえ、最新のF1X10C1Dの出来はかなり違いがありました。この新型は……あまりこういう言い方をすべきではないと思うのですが、すべてにおいて良くなっていると思いました。
音色の傾向としては開発エンジニアのコメントで言われていた通りフラットです。フラットといえばフラットなんですが……楽器やヴォーカルの音は躍動感があって良かったです。音楽的に聴き応えが増しているように感じます。そしてこれは一番最初に言わなければいけなかったのですが、一番良くなっているのは低域。立体的で力強くて切れもいい。全領域で別物だなと感じます。
ヴォーカルに関して言うと、さっき言ったように2人で歌っているんですけれど、2人の声が同時に出た時のダイナミックスさの描き分けなどができているので、それを聴いたときに『分解能が上がっているのかな』と思いました。分解能の向上をさらに強く印象付けたのは、ハンス・ジマーです。ザ・クラシック・マーク2という1月31日に出た楽曲です。これはオーケストラの楽曲なので、とにかく音数が多いです。そして、この曲を再生した音は、楽器の音数が全然違っていて、一聴して分解能が高められたことがわかります。また、弱音部のリニアリティといったところも高性能だと思いました。この楽曲の中盤に少し静かな音のパートがあるんですけれど、そこでの楽器の立体感がしっかり出ていた。背景のノイズが少ないので、弱音部のリニアリティもあるし……あと、音の骨格がしっかりしています。なのでフルオーケストラらしい壮大さが堪能できます。この楽曲の最大の魅力は壮大さで、それがしっかり表現できていました。
そして、長くなってすみません。ローエンドの伸びも素晴らしいですね。少し静かな部分からトゥッティに至るまで……トゥッティでは弱音部よりもさらにローエンドの伸びが要求されますが、本機の再生音ではそれが見事に聴くことができました。新旧聴き比べの新型機評価には一分のネガティブポイントもなく、とてもよくできたモデルであると感じました。
ASW:ありがとうございました。土方先生は試聴実機それぞれに音を出した瞬間に「いいですね」とおっしゃっていましたが、その一言の裏には今うかがった評価があったのですね。では藤原先生はいかがでしたか。
藤原陽祐(以下、藤原):パナソニックのストラーダは歴代のモデルをずっと聴かせてもらっていて、過去には、いちはやくBDドライブを搭載したり、レコーダーとの連携機能を実装したり先進的なところがあって、その中で音質的にしっかり作り込んできているんですけれど、本機ではメカレスになってシステムも大幅に変わって、当然、全体的に新規設計になりました。内蔵アンプがアナログからデジタルになったということで、土方さんの言った通り全く別物の音になりましたね。これまでのストラーダも音作りの面でずいぶんこだわって高音質を提供していたわけですが、本機の音の印象を言うと、S/N感や響きの透明感とか……あと、アタックの過渡応答がとてもいいですね。気持ちのいい音がする。
フラットな音作りなんだけれど、その中で低域……足元が見えるイメージがあるので、落ち着いた感じがあります。聴き心地が良いです。そういう印象をとても強く感じました。
それらの音を実現したのは、大幅な設計変更による音への影響というのはやはり想像以上に大きくて……。
土方:そうですね。プラットフォームが大きく変わっているから違う音なのは当然なのですが、それにしても同じシリーズのモデルチェンジと思えないほど高音質が実現できてますね。

米松合板のバッフルに、車載用スピーカーをマウントしたオートサウンドウェブ独自の試聴取材環境で評価している。
藤原:回路設計に起因する部分もあると、メカがなくなって……当然そこには振動も発生するしね、Hi-Fiといったところでは厳しかったのがなくなって、スペースの余裕も出て、オーディオ機器としてやりたいことができたのかなと感じられるほど大きな高音質化ができていますね。
低音域が特に良くなっている
躍動感なども充分に感じられて聴いていて楽しい
土方:藤原さんが聴かれていたジェニファー・ウォーンズですが、一緒に聴かせてもらっていて、新型で聴いた方が『ずっと聴いていたい』と思いました。
藤原:ジェニファー・ウォーンズを聴いて感じるのは窮屈さがない、のびのびとしたところがありました。声の艶やかさでも新型が大きく勝っている。リズムの取り方といったところも窮屈じゃないし、遅くならない。いい感じのリズム感でした。そういうのはやはり帯域バランスがとても良いということです。
この楽曲は低域が足らないと少し速く聴こえたり、あるいは逆に下が出すぎると鈍重になって遅く聴こえたりと、聴こえ方が変わるんですけれど本機で聴くこの曲は、曲のイメージに合ったリズムで聴くことができました。
土方:低域がしっかり再生されるというのは重要ですね。
藤原:前モデルを試聴室で聴くと新型との比較で、もう少し低音が欲しい印象で、ジェニファー・ウォーンズは少しアップテンポに聴こえました。
土方:なるほど。
藤原:微妙な差なのですが、新型と比べるとそういうところが感じられました。
土方:そうですね。それぞれを単体で聴いたらどちらも高音質機として評価できます。でも比べると新型の出来の良さに驚きます。とにかく曲の楽しい感じが良く出ていて、聴いていて『もっと……』と思いました。あと、藤原さんがかけた曲でピアノありましたが、あれはかなり再生が難しい楽曲ですね。

試聴音源はUSBメモリーを使って評価した。
藤原:「ラ・カンパネラ」ですね。反田恭平さんの演奏で、300人ほどのホールで演奏した録音ですけれど、この曲は再生が難しいです。
土方:そうですよね。新型ではピアノの質感が一辺倒に聴こえなかった。
藤原:なるほど。
土方:アコースティック楽器の生々しさが、より表現されていました。新旧モデルでそういった差を感じて『すごくシビアな評価をされているな』と思いました。
藤原:この曲は、始まりのところでペダルのリリース音が聴こえて、あれは音の情報として収録されているけれど、なかなか聴こえる音として出にくいんです。
土方:確かに、新型ではちゃんと聴きとれました。
藤原:今回の試聴環境ではサブウーファーはないし、2ユニット3ウェイのスピーカーはウーファー口径もそれほど大きくはない。この環境で聴いてあの音が再生出来ているのは少し驚きました。大きなスピーカーならば当たり前のように聴けるものなのですが、今回の環境でしっかり描き出してきたのは見事です。
土方:やはり低域の伸びが良いですね。
藤原:そう、よく伸びています。反田さんがペダルをリリースした時の“ドォーーーーーーーン”というのがホールに伝わっていく感じがあったし、音が響いている空間が出ています。
土方:暗騒音までをしっかり出している印象です。空間のデプスが、この反田さんのピアノではよく出ていました。
細かな音の表現にも長けていて
音場空間も奥行き高さともに拡がりが感じられる
藤原:土方さんがかけたサム・スミスと宇多田ヒカルの曲、僕ははじめ『この女の子誰かな……』と思ったんです。サム・スミスはすぐわかったけれど、宇多田ヒカルのイメージはもっと声がザㇻついている印象だったんですが、この曲だとしっとりとしているし『こんな歌い方するんだな』と、でも聴いていると高域のビブラートとか彼女独特の声が聴けるし低域の強さみたいなものもあるし、いい曲でしたね。耳に新鮮な楽曲でしたが、声の微細な表現の違いを新旧ストラーダで確認できました。新型機の細かな音の表現力は大したものです。

最新ストラーダと前作の比較、そして車載状態の体験で興奮気味に語る土方久明氏。
土方:この楽曲は情報量が多いので反田さんのピアノもですが、新型で空間の広さ、デプスをより感じることができました。
藤原:この曲、二人同時にスタジオ入りして収録したのかどうかわからないけれど、聴いてみて広い音場が感じられるということは、それなりにうまく録られているということですね。
土方:このデプス……奥行きの空間情報は微小レベルのリニアリティに優れていないと……。
藤原:高さ方向の拡がりもそうですね。そういう空間が出せるかどうかは情報量の圧倒的な差です。
土方:それとヴォーカルの定位にあいまいさがない。旧モデルでもそれだけで聴いたら納得のクォリティではあるんですが、比較すると……。
藤原:聴き比べると、その差はけっこうありますね。
土方:そうですね。両方聴くと、旧モデルになかった部分気づかされて新型機が大幅に音質向上したことがわかります。というか旧モデルで『充分にいい音が出るじゃん』と思っていたのに、新モデルでは『こんなに伸び代があったのか』と思いました。
とにかく新型最大の良点は低域でした。この低域というのはクルマ向きなように感じます。立体的で力強いです。

歴代ストラーダの変遷を知りながら、改めて試聴取材をして興奮気味に話す藤原陽祐氏。
ASW:それでは続いて、新旧比較から離れて新型F1X10C1Dにフィーチャーした話題でお話をいただいてよろしいでしょうか。
開発にあたってはこれまでの積み重ねが成果を上げている
高音質化へのアプローチ、こだわり方はもはやHi-Fiオーディオ機
藤原:今回の試聴に先立って、編集部でストラーダの開発エンジニアにインタビューしてもらっていて、その内容を拝見したんですが、新型のF1X10C1Dは、電源回路の見直し、コンデンサーやその他のパーツの選別、さらには回路パターンについて検討をし、配線の考査をしないとか線長を同じにするとか、それはもうHi-Fiオーディオですよ。
ASW:まさにそうですね。設計のアプローチがカーナビとは思えないですね。
藤原:やっていることがHi-Fiオーディオの作り方と同じで『すごい作り方したな』と思いました。これまでできなかったことが、メカレスにして、デジタルアンプにしてというところなど相俟ってできるようになったんですね。
ASW:スペース的な制約が相当変わったということでしたね。やりたいことはかなりできたようです。
藤原:扇形の素子配置とか、これデジタルアンプ後のローパスフィルターですよね。パーツそのものの小型化に限界があるパーツを場所をとる配置でレイアウトする回路パターンとか、回路がひしめくナビの内部で作るなんて、音質に対して相当な思い入れがなければできないし、企業の判断としてこの商品企画の実施決定したところを見ても、意気込みの大きさを感じますね。
ASW:こちらの画像をご覧いただきたいのですが、インタビューの際に見せてもらったオーディオ基板です。出力のコネクターがここで、その横にローパスフィルター4つが扇状に配置されています。実際の基板を見ると意外と出力の最終部であるフィルターが大きなスペースを占めていることがわかります。このフィルターと出力端子への信号ラインは、交差せずすべてが同距離でつなげられているということです。

オーディオ回路基板。手前に各種コネクターが並ぶ。一番左が電源およびスピーカーコネクター。扇形に並ぶ黒く四角いパーツはデジタルアンプの出力をスピーカーで聴ける信号にするローパスフィルターである。

右下に見えるのがデジタルアンプだ。基板の表側、ローパスフィルターの真ん中に配置されているのがおわかりいただけるだろうか。
藤原:オーディオを知らない電気屋さんから見たら「なにしてんの? そんなの意味ないだろ」って言われるようなことだけれど、オーディオを知っていると信号の気持ちになるから、均等な距離でクロスしないように出して欲しいという信号のための回路を作ります。それが絶対に音に効くというのがわかっていますから。
土方:開発にあたっての姿勢がとても実直なのが伝わりますよね。そしてそれが音にも出ている。
藤原:出てますね。本当に実直に取り組んだのでしょう。回路パターンもそう、採用するパーツ選びもひとつひとつの積み重ねの上に成り立ってこの音にたどり着いているのだろうことが想像できます。
土方:メカ部が無くなって、できたスペースで設計の自由度が広がったというのは大きかったのでしょうね。
藤原:結果はそうできたということだけれど、そのスペースの利用ということだって、うまく活用できたからこの結果なわけで、できなければこれだけ高く評価できる音質の製品にはならなかった。
土方:オーディオ専用機ではなくてナビですからね。
藤原:オーディオ回路基板をそっくり設計しなおすというのもそうそう行われることではないです。前モデルの回路を踏襲しつつ、一部のパターンを見直すといったことはありますけれど。
土方:2年ぶりと聞いていましたがそれ以前は1年ごとに変わっていたんですよね。
ASW:フルモデルチェンジでプラットフォームごと変更するのは3~4年、それ以外だと地図データの更新はもちろん実装する機能の変更やインターフェイスの変更、新技術の導入などは毎年行われています。
藤原:フルモデルチェンジすると、これはホームオーディオでもそうだけれど、初めは結構難しいんですよね、音をまとめるのが。フルモデルチェンジ後のマーク2やマーク3があって音が良くなっていく、こなれてくるというところがあるけれど、このF1X10C1Dはフルモデルチェンジ、しかもここまで大幅に変えた1段目なのに、よくぞこれほどの音に仕上げたものです。
ASW:再生ソースが映像コンテンツ……ネット動画とメモリーあるいはスマートフォン経由のアプリといったものになってディスクがなくなりました。そこについてはいかがでしょう?
藤原:ディスクを入れる作業がなくなったというのは、寂しいと思うところはあるんです。ただ、時代は変わってこの方向になっていますよね。そしてディスクが再生できなくてもリッピングしてメモリーに楽曲データを格納して持ち込んで再生することができますから、CDライブラリをお持ちの方には聴き方を変えて活用してほしいですね。
モデルチェンジしてネット動画を楽しむためのアクセスも容易になっています。これほどクルマで手軽にネット動画が楽しめるようになったのは嬉しくもありますね。

10 V型有機ELディスプレイを倒すと、その奥には本体のパネルが出現する。パネル右側にはmicroSD用スロットがあり、リッピングデータなどを格納したメモリーをセットすることでSDオーディオとして楽しむことができる。

本体のパネルは開閉が可能で、開けるとボックスになっている。その内壁にはUSB-Cコネクターが用意されており、スマートフォンの有線接続や、USBメモリの接続はこちらから可能となる。

CN-F1X10C1Dの背面パネル。電源用をはじめ各種接続コネクタが並ぶが、本機になって無くなったのがUSB変換ケーブル(オプション)がつなげるコネクター。前面パネル内にUSB-Cが用意されたため省略となったようだ。
土方:リッピングの仕方にこだわると、そこはそこで奥深いものがあって楽しめますし。そして配信音源などを積極的に楽しもうとするとメモリーやポータブルオーディオの利用になりますし、Bluetoothが活用できるのもいいですね。
ASW:愛聴盤のCDも、いつまでもそのディスクが再生できるかどうかわかりませんし、そもそもクルマに持ち込むとディスクにスクラッチが増えていって再生できなくなるということはこれまでも少なくなかった、しかも同じタイトルのディスクがいつまでも買える保証もない。となるとリッピングはマストでしょうし、楽曲データが手軽にいい音で聴ける環境はかなり大事だとも言えそうです。
土方:ストラーダは、もともとエンターテインメント性の高さを重視していたんですよね。時代とともにメディアが変遷しても、それをハイクォリティで再生する姿勢は貫かれているようです。
ASW:有機ELディスプレイの採用と、独自の映像エンジンなど、映像へのこだわりはパナソニックならではです。ストラーダの「ネット動画」機能でTVerを観て、最近人気のドラマを観てみたんですが、驚くほど映像が綺麗で光の加減が絶妙に美しいシーンを何度も観返しました。
抜群の映像美と「音の匠」の効果を思い知った車両取材
車両純正スピーカーがこれほど聴き応えある音になるとは
土方:クルマで見ても有機ELは素晴らしく綺麗でしたね。
藤原:綺麗で見やすいですね。特に冬は日差しが横から入ってくる時間が長いから、逆光でも画面に強い光が差し込んでも視認性が変わることはないし、映像コンテンツがこれほど美しく観られるモデルもなかなかないでしょう。
土方:今日はその証明のためにクルマに乗り込んだというくらい強烈な日差しでしたけれど、全く問題がなかった。しかも視野角の広さもすごいから、運転席でも助手席でも見栄えが変わることがありませんでしたね。

ASW:クルマでの体験についてお話が出ましたので、音の部分についても詳しくうかがえますでしょうか。
藤原:クルマも良かったですね。広報車両として用意されたトヨタRAV4を聴きました。この車両はナビ部分だけを交換してストラーダFシリーズにしているんですよね。
ASW:RAV4の純正スピーカー、フロント2ウェイ4スピーカー、リアが2スピーカーの合計6スピーカーになります。
藤原:聴き始めてすぐに、ずいぶん低音がしっかりしているけれど、スピーカーも変わっているんじゃないのかと思うほどでした。
土方:僕も市販のスピーカーに交換されているんじゃないかと思ったほどです。おっしゃる通り低域がしっかりしていました。
藤原:聴きながら土方さんと話題になったのが「音の匠」。
土方:これが良くできている。
藤原:面白かったですね。
試聴室でも音の確認はしたのですが、断然クルマの中で効果を発揮します。
土方:「音の匠」の恩恵という意味ではクルマでこそ受けられます。
藤原:低音だけじゃなくて、音の拡がりだとか定位もいい感じで聴かせてくれます。

音の匠モードの「匠(たくみ)マスターサウンド」では、ステレオ再生をいかに高品位で音楽の躍動感などが楽しめる聴き心地に鳴るよう調整されたものだ。

音の匠モードの「極(きわみ)サラウンド」では、より自然な包まれ感とともに、純正スピーカーで音像定位が低くなりがちな再生音を目の前に音像を上げる効果を狙ったもの。

音の匠モードの「和(なごみ)会話重視」は、音楽の姿かたちを損なわずにライトな聴き心地のサウンドとして同乗者との会話の邪魔にならないいい音を実現する。

音の匠モードをオフにする使い方ももちろん、可能だ。試聴室での取材ではこの状態での音が高く評価されていた。
土方:僕がいいなと思ったのは、今のクルマって現実的にスピーカー交換に制約があったりしますよね、そういう現状で音の匠を使うとスピーカーを変えたくらいの効果があって、躍動感なども断然良くなります。これが素晴らしいと思います。今の時代だからこそこの機能は大切だと思っています。低音域が立体的になって力強さを増します。高音域の色つやも増して躍動的なんですけれど、気持ちがいいんですよね。音色的に。聴感上ですけど、少し高音域が伸びているように聴けました。それと、ヴォーカルとの距離感が近づく感覚もあって、純正スピーカーでここまで聴けるというのは、スピーカー変えずにという方には見逃せないものだと思います。
藤原:音の匠を使うと、全然違う空間になるから面白いですね。同じスピーカーなのに『これほど変わるのか』と思う。「匠マスターサウンド」と「極サラウンド」、「和 会話重視」があって、匠と極はすごいですね。サラウンドは、よくこの名前を冠した機能はあるんですけれど、だいたいは……言葉悪いかもしれないけれど……風呂の中に入ったような、エコー成分をたっぷりにするようなものが多いんですが、この「極サラウンド」はそういった“よくあるサラウンド”とは全く違う。
土方:とてもまじめに作ったサウンドモードですよね。そして使える機能だと思ったし、この機能を効かせた音楽は楽しんで聴けます。同乗する家族などは喜べるんじゃないでしょうか。
藤原:単に音が拡がるだけじゃなくて、ヴォーカルの音像が引き上がって、しかも定位が自然になる感覚で聴けました。普通に聴くよりも……純正のスピーカーってどうしても前方定位というのはあまり意識していないから、極サラウンドOFFだとぼんやりしていた音像が、サラウンドONにすると、単にエコー成分というかリバーブが増えるというだけじゃなくて、声が少し高い位置から聴こえてしかも前から聴こえてくるような効果を感じることができました。『上手く作っているな』と思いました。
土方:あと、スピーカーの数が増えたようにも聴けました。これほど聴こえ方が変わるものとは、とても楽しめました。
藤原:匠にしても極にしてもよくできています。音の調整というと、いじりすぎるとクォリティが落ちるような駆け引きがあるんですけれど、そこも音の鮮度が落ちることがなく調整されていて質が落ちているという感じはありませんでした。

サウンドチューンのモードを変えつつ、何度も音の確認をする両名。
土方:そうですよね、とてもうまく作っていると思います。
ASW:「音の匠」は純正スピーカーをいい音で鳴らす魔法ですね。こういった機能は、ストラーダにしか載っていないものなので、愛車のスピーカーを変えずにいい音で楽しみたいという方は検討してみることをお勧めしたいですね。
藤原:Hi-Fi調の匠マスターサウンドと気持ちのいい包まれ感がある極サラウンド、どちらでも楽しめると思うので、かける曲によって、あるいはその時の気分によって、選んで聴いてもらえるとドライブはもっと楽しいでしょう。なので、できるなら音の匠のON/OFFや切り替えがハードスイッチや画面表示ボタンで1アクションで切り替えられたらいいかもとも思いました。
土方:たしかに、ほかのイコライザーなどと比べて、積極的に使ってみてもらいたいし、ハードキーやオーディオ再生画面に専用スイッチがあるともっと積極的に使ってもらえるかも。使い甲斐のある機能です。
藤原:この音の匠を積極的に推せるのも、地の音が良くなっているからと思いますね。ベースの性能が高まっていなかったら、調整機能の効果もここまで高くならないでしょう。
土方:ベースのクォリティと聞いて思い出したんですが、今回デジタルアンプになったじゃないですか。僕は圧倒的にデジタルアンプになった音の方がいいと思っているんですが、先ほど教えていただいたエンジニアさんのインタビューで「デジタルアンプにしただけでは低音の力感が足らなかったので電源回路も見直してコンデンサーを変えた」とありましたけれど、実に上手く作られたなとつくづく感じました。とにかく低域がとても良くて、デジタルアンプにして良くなったなと素直に感じています。でもデジタルアンプというのは僕たちオーディオマニア視点でいうと、高音域が少し荒れるという印象が……昔のデジタルアンプにはあるんだけれど、今回それがなかったですね。とてもうまく作っていると思いました。
藤原:車載オーディオでもデジタルアンプの採用例は増えていますけれど、音質に厳しいホーム用高級機でも採用が増えてきてますね。でも価格の面で抑えた製品だとやや荒っぽさを感じることはありますね。ところが本機ではそういうところがないHi-Fi調ですね。
土方:デジタルアンプの採用例が増える中で、本機のように高音質にまとめようとなると、そこは作り手のセンスが問われるところです。本機をこの音にまとめたエンジニアはとても優秀ですね。

車載状態でこそ確認できる「音の匠」の効果に感心しきりな両名。
ASW:ストラーダのデジタルアンプ搭載ですが、上級機のFシリーズでは今回が初なのですが、普及価格帯のHA/HEシリーズでは、1世代前の製品に搭載されていました。今回Fに搭載したものとはデバイスが違うのですが、デジタルアンプを搭載したら何ができるか、どんな設計ができるかなどデータを取っていたのでしょう。
土方:なるほど、それにしてもこの音のまとめ方はよほどオーディオ好きじゃないとできません。192kHzのアップサンプリングひとつをとってもそう思います。
藤原:アップサンプリングも今回初めてじゃないし、音の匠もね、車載状態で高音質に寄与してます。
土方:純正システムがあんなに良くなるとか、「音の匠」の力がこれほど偉大とは、驚きでした。
ASW:そうですね、車載状態だからこそ確認できる良さのひとつが「音の匠」でしょう。試聴室でも音の変化は確認できますけれど、クルマでだからこそ体験できる効果ですので、今回お2人にもお聴きいただきました。
藤原:ミキサーズラボの監修というか、新機種になるたびに実際に調整しているんですよね。
ASW:おっしゃるとおりです。素の音のまとめはパナソニックのエンジニアが行っていますが、音の匠に関してはミキサーズラボが必ず音の確認をしています。
ミキサーズラボはレコーディングエンジニアによる音のプロフェッショナル集団で、パナソニックでは2008年モデルからミキサーズラボ監修によるこの「音の匠」というサウンドチューンを搭載しています。
土方:そういうところもあってでしょうか、実際に聴いていて遊びの機能に聴こえないですよね。
藤原:やはり音のプロが仕上げた感じがします。
土方:そうですね。あの音の変わり方はプロフェッショナルの仕事を感じます。
藤原:ストラーダの高音質化がこれほど進んでいたことを改めて確認して、従来の機能はもちろん、最新機能もよりいい音で楽しむことができるというのが良くわかりました。

試聴後の対談はお互いにストラーダのサウンドパフォーマンスについて語ることが次々に出てくるほど枚挙にいとまがないほど。
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カーナビ CN-F1X10C1D | Strada[ストラーダ] | Panasonic
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