UAレコードでは、今年4月に45回転レコード『情家みえ/Bonheur(ボヌール)』を発売しました。UAレコードは私と故・潮 晴男さんで創立した会社で、一緒にCDやレコードを作ってきました。

 お陰様で『ボヌール』は多くの方にご好評いただいていますが、ひとつだけ面白いことがありました。というのが、あるサイトのお客さんから返品が来たのです。ジャケットに180g重量盤と謳っているのに、実際には166gしかない(実際にお測りになったのですね)ので、欠陥商品ではないかということでした。

 その原文です。「45回転LP『ボヌール』を買いました。“重量盤180g” とありますが、実測したところ166gしかありません。なぜ180gより軽いのですか。間違いですか」。

 確認したところ、確かに180gよりも軽かったです。166gありました。ジャケットには重量盤180gと書いてありますので、その意味で言うと確かに誤表記とも取れますので、その方には返品対応を行いました(でもそれも同じ166g盤です)。

画像: メモリーテック御殿場工場

メモリーテック御殿場工場

 その後に6月のOTOTENで試聴イベントを予定していたので、これはどういうことなのかを、プレスをお願いしているメモリーテックさんに確認しました。そしたら、軽量になったのは、ものすごい音質努力の結果であって、音を良くするために重量を少し削ったということが分かりました。

 この盤の製造時に、潮先生からの音質だめ出しが続いたため、メモリーテック側も高音質への対策に苦慮し、さまざまに検討したといいます。レコードプレスには、温度、速度、プレス圧……など、さまざまなファクターがあり、その組み合わせは、無限です。

 特に大事なのがスタンパーのプレス圧です。『ボヌール』のような45回転では、さらに転写に気を遣う必要があります。メモリーテックでは、高音質化のために、もともと210gの樹脂の塊を通常のプレス厚で180gにするところを、さらに圧を強め165g(±5g)中心でプレスすると最適音質になることを、何回も実験を繰り返し、発見したということです。

 つまり、ユーザー氏の指摘は正しいのです。でも、それは製造の瑕疵ではなく、音質をさらに上げるための工夫だったのですね。逆に言うと、今回のような指摘がなかったらそんなことには誰も気が付かなかったわけで、連絡してくれた方に感謝しなきゃいけないと思っています。

画像: 御殿場工場を訪問した歴代のアーティストのサイン。私と情家みえさんのサインも飾られる予定

御殿場工場を訪問した歴代のアーティストのサイン。私と情家みえさんのサインも飾られる予定

画像: 45回転LP『ボヌール』が誇らしげに展示

45回転LP『ボヌール』が誇らしげに展示

 メモリーテック・製造部製造技術グループの勝間田和樹さんは、こうコメントしています。

 「先生方からは音が少し硬い点が指摘され、われわれもそれは確認しました。その原因として、トレースする溝(スタンパーでは凸)からのビニール盤への転写が弱いので、溝がしっかり構成されていないのではないかという推察に至りました。そこで、プレスの圧力を上げました。

 その結果、音質的には目標に達しましたが、外周からはみ出す量は増えてしまい、少し盤の質量も減りました。でも充分に溝の転写がいきわたるようになり、潮先生、麻倉先生にご満足いただける音質になるよう成形条件の設定ができたと自負しています」

 そんな経緯もあり、これは私自身もレコードの製造現場を知っておかなくてはならないと考え、今日は情家さんやオーディオ協会の関 英木さんと一緒にメモリーテックの御殿場工場にお邪魔しました。

 具体的なプレスの工程は、以前潮さんが紹介してくれていますのでそちらを御覧いただきたいと思いますが、さすが潮さんが『ボヌール』のプレスを任せただけあって、いい仕事をしてくれています。

※潮さんのリポートはこちら

 私はオーディオビジュアル評論家であり、さらにUAレコードのレーベルを運営していますが、普段は最終製品しか見ることができないし、音も聴くことができません。

 しかし今日はその製造過程というものが、たいへんていねいに行われていることがわかりましたし、何より完成品について全数チェックを行っているということに特に感動しました。そういうところからも、メモリーテックさんの品質への配慮が伝わってきます。

 品質にもふたつあって、工業製品として同じものができるということと、クォリティが高い/低いという観点があります。今回は、このふたつの品質両方について、メモリーテックさんとしてとても力を入れていることがよくわかって、感動しました。

画像: 東芝音工時代に操業を開始した御殿場工場。レコード製造はいちど止めて、2024年に復活

東芝音工時代に操業を開始した御殿場工場。レコード製造はいちど止めて、2024年に復活

画像: 通常盤と重量盤の質量の違い

通常盤と重量盤の質量の違い

 また今日は166gの商品盤と、実験的に172gで作っていただいたものを、メモリーテックさんの試聴室で聴き比べましたが、ものすごく違いました。

 166gの『ボヌール』の45回転盤はひじょうにクォリティが高くて、とても抜けが良いし、透明感があるし、それから特にピアノの低音の深みもある。歌い方もそうなんですけども、繊細なのです。

 166gではそういった音楽的な観点がすごくよく再現されるのと、音的な観点が感じられるというので、私もとても満足していますし、おそらく大多数のユーザーさんも満足されていると思います。これに対し172g盤は音の粒が大きくなるとか、ちょっとメタリックな感じで、抜けが悪くなった感じでした。質感がいまいちです。

 なぜ166g盤の方が音がいいかというと、前述したようにスタンパーからの転写性を良くするために、特に45回転盤は転写が難しいので、プレスの圧力をより強くかけたからです。重量盤アナログレコード1枚分の塩化ビニールは元々210gで、それをプレスしてはみ出した分をカットすることで盤自体が180gになるんですが、今回は溝をしっかり転写させるために通常より強めにプレスしたため、結果としてはみ出す分が増えて、盤が軽くなったのです。

画像: レコードの原料。塩化ビニールの塊。これをブレスして盤にする。カラー盤の原料も

レコードの原料。塩化ビニールの塊。これをブレスして盤にする。カラー盤の原料も

画像: わずか6gで音が大きく変化する。きわめて繊細なアナログレコードを高品質に製造する、メモリーテックの御殿場工場を訪問:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート140

 盤の重さが減ったということは、確かに物理的にはそうなんですが、それは音を良くするためだったということが、比較試聴して、改めてよく分かりました。わずか6gの差なのに、これだけ違うんですから、アナログレコードはものすごく繊細だというのが、はっきり分かりました。逆に言うと、ここまで繊細なものが、これだけ均一な品質管理のもとに作られているというのも、驚異的ですね。

 この点については、メモリーテックさんの音質に対するこだわりもそうですし、アナログレコードとはこういうものなんだということを、読者の皆さんに知っていただきたいと思っています。

「次回作では、よりきめ細やかな歌を歌えるように努力したいと思います」上家さんも感動!

 今回、アナログレコードの製造過程を見学させていただきました。アナログレコードを作る過程というのはなかなか目にすることはできませんが、本当にきめ細やかな配慮がされていて、ひとつひとつが本当にもう最高の、作っていただいて、私もまた次回作では、よりきめ細やかな歌を歌えるように努力したいと思います。ありがとうございました。

画像: 45回転LPアルバム『BONHEUR』¥16,500(税込) ultra-art.jp

45回転LPアルバム『BONHEUR』¥16,500(税込)

ultra-art.jp
画像: レコードプレス工程 youtube.com

レコードプレス工程

youtube.com

This article is a sponsored article by
''.