ストリーミング再生が手軽に楽しめるようになったおかげで音楽とともに過ごす時間が確実に増えた。毎日のように新しい曲と出会える楽しさは格別だし、次から次へと気の向くままミュージシャン同士の繋がりをたどる面白さも新鮮な体験で、時間が経つのを忘れてしまう。

 その一方で、新しく加わった音源ならではの悩みを抱えている人もいる。いままで聴いてきた音となにかが違う。低音がすっきりしないとか、声がきつく感じるなど、なんらかの不満を抱えながら聴いていると、本当にリラックスするのは難しい。たまに音が途切れるなどトラブルが起きるようなら、なおさらだ。

 CDの音に不満はないが、ストリーミングについては、本来の音を引き出せているのか、判断しづらいという人もいるだろう。新しいプラットフォームなので、基準がわかりにくいという一面もありそうだ。

 そんなときはストリーミング再生の環境の見直しを検討するべきだ。信頼できるプレーヤーを導入し直すか、または周辺機器を用いてノイズ対策を徹底する。もちろん、その両方を同時に実行すれば万全だ。

 プレーヤーのグレードアップを狙うなら、充実したラインナップが揃うブランドの製品からミドルレンジ以上のモデルを選ぶことをおすすめする。上位機種のノウハウを投入した中級機は音質と機能どちらも不安がなく、長く愛用できる安心感もある。ネットワークオーディオの分野で実績あるメーカーの1つとして、ここでは韓国のオーレンダーに注目しよう。まだ歴史の浅いブランドだが、15年ほどの間にこの分野での存在感は急速に強まり、世界規模で高評価を獲得している。

画像1: 『オーレンダー A1000/NH10』ネットワークを知り尽くした巨人が送り出す、本気のストリーミング再生への最右翼

 

上位機で培った多数の技術を一体型プレーヤーとして凝縮

 同社はDACを内蔵しないトランスポートを中心に技術を洗練させ、昨年はフラッグシップのN50を導入した実績がある。N50はサーバー、オーディオ、電源の各ブロックを独立させた3筐体のハイエンドモデルだが、ほぼ同時期に開発が進められたA1000は、1つの筐体にトランスポートとDACを統合し、1台で完結する。中級機なのでN50の高みには届かないとはいえ、異種信号を扱う回路間の干渉を抑える技術やリニア電源など、共通の技術を数多く採用することが強みだ。DACやプリアンプ機能を内蔵する一体型の構成がオーレンダーとしては珍しいこともあり、市場での反応は良好と聞いている。今回はそのA1000に焦点を合わせ、記事後半では同社のスイッチングハブNH10と併用した場合の再生音も検証する。

 

画像2: 『オーレンダー A1000/NH10』ネットワークを知り尽くした巨人が送り出す、本気のストリーミング再生への最右翼

Network Player
A1000
¥599,500 税込
●型式:ネットワークプレーヤー
●接続端子:デジタル音声入力4系統(同軸、光、USB Type B、ARC)、アナログ音声出力1系統(RCA)、デジタル音声出力2系統(同軸、USB Type A)、LAN1系統(RJ45)、ほか
●寸法/質量:W350×H97×D356mm/8.3kg

 

 A1000は大容量のキャッシュメモリーにストリーミングのデータを取り込み、メモリーからデータを読み出して再生を行なう。その手法は、N50をはじめとする同社のトランスポートと共通で、通信環境の影響を受けにくく、途切れのない安定した再生を実現する長所がある。オーレンダーと他社の製品との大きな違いがそこにある。

 ネットワークの速度は十分高速だから心配ないと思うかもしれないが、Wi-Fiによる無線接続、有線接続を問わず、複数機器間で双方向のやり取りが絶えず行き交うネットワークの通信環境は、ネットワークプレーヤーの負荷を増やし、音の途切れや音質劣化を引き起こす場合がある。キャッシュメモリーを介した再生ではその影響を回避でき、ストリーミング再生はもちろんのこと、ローカルサーバーからの再生時にも絶大な効果を発揮する。本機のキャッシュメモリーの容量は120Gバイト。N50の480Gバイトに比べると4分の1にとどまるが、実際の運用上、十分な余裕がある。

 D/A変換回路は旭化成エレクトロニクス製AK4490REQを左右独立に積む音質重視の贅沢な構成で、USB Type B、同軸、光、HDMI ARCなど複数のデジタル入力も装備。アナログ出力はRCAアンバランス端子のみでバランス出力には対応していないが、固定音量だけでなく可変音声出力にも設定できるため、プリアンプとしての活用も視野に入る。さらに、他のオーレンダー製品と同様、オプションでSSDストレージを装着できる2.5インチのスロットベイがあり、最大8Tバイト容量の音源データを内蔵することも可能だ。

 実際に音を聴く前に、ソース機器の重要性を改めて思い出してみたい。オーディオの主役はいうまでもなく音楽。音楽はごまかしが全く通用しない実力勝負の世界で、良いものは確実に評価される。オーディオにも同じことが言えると思う。本気で音を極める努力を重ねれば、確実に良い結果が得られるのだ。

 ネットワークオーディオの音を理想に近付けるうえで、ソース機器であるネットワークプレーヤーの性能が物を言う。はたしてA1000はその役割を担えるのか。最近急速に浸透しつつあるエントリー製品と比べると価格は10倍におよぶといってよいが、フラッグシップグレード機と比べると1桁少ない。まさにミドルレンジのど真ん中。「手が届く」範囲に収まり、「本気で」取り組むオーディオの候補として不足はない。

 

画像3: 『オーレンダー A1000/NH10』ネットワークを知り尽くした巨人が送り出す、本気のストリーミング再生への最右翼

ARC入力を含む多彩な音声入力端子を備えたネットワークプレーヤー。アナログ音声出力はアンバランスのみ。筐体背面右上に、SSDやHDDなどの2.5インチストレージを本体内に組み込めるドライブベイを装備。音源自体を格納できるネットワークプレーヤーとしても機能する

 

画像4: 『オーレンダー A1000/NH10』ネットワークを知り尽くした巨人が送り出す、本気のストリーミング再生への最右翼

強力なリニア電源回路が筐体の前方の大部分を占めており、電源重視の設計がうかがえる。筐体左上には、ドライブベイがシールドを施したうえでマウントされている。ややわかりにくいが、その右側にはオーレンダー製ネットワークコンポーネントの音質上の肝となる、再生データキャッシュ用SSDメモリーがマウントされている

 

 

ストリーミング再生術の基本はソース機器に妥協しないこと

 純正のConductorアプリで選曲し、A1000でQobuzの音源を聴く。ビッグバンドをバックに歌うジェフリー・オズボーンが実にアグレッシブで、ホーン楽器と対等にわたり合う声の力強さに舌を巻く。クリスチャン・マクブライドのベースはうねるようなグルーブ感があり、低音が演奏を牽引する様子が目に浮かぶ。

 マルティン・フレストによるゴルトベルク変奏曲のアリアは、クラリネットの温かみのある音色を正確に引き出しつつ、ベースのピチカートには硬めの芯があり、中音と低音での両者の対比が精妙だ。呼吸の絶妙なコントロールがもたらす長いフレージングも、A1000で聴けばすぐに気付く。録音に含まれる微妙な情報をもらさず引き出すには、ソース機器の予算を節約しすぎないことが肝心なのだ。

 ストリーミング音源のクォリティをとことん引き出したければ、A1000に用意された「クリティカルリスニングモード」が威力を発揮する。ディスプレイの回路を遮断するなど、音楽再生に特化したモードで、静寂感は明らかにこちらが上だ。フレストの演奏はブレスだけでなく余韻の揺らぎまで聴き取れるし、ベースの微妙な溜めのタイミングがよくわかる。それだけのことと思うかもしれないが、その微妙な表現が伝わるかどうかで、演奏の印象が変わるので、無視できない。画面は消えるが、演奏中はこのモードを有効にしておこう。

画像5: 『オーレンダー A1000/NH10』ネットワークを知り尽くした巨人が送り出す、本気のストリーミング再生への最右翼

▲純正アプリ「aurender Conductor V5」の出来栄えも秀逸だ。各種操作や設定のほか、音量固定/可変などの切替えも可能。日本語表示もわかりやすく、反応も素早く快適なアプリだ。写真はiPhoneでのもの

画像6: 『オーレンダー A1000/NH10』ネットワークを知り尽くした巨人が送り出す、本気のストリーミング再生への最右翼

▲オーレンダー製プレーヤー(トランスポート)は多彩な機能が備わっているが、「クリティカルリスニングモード」という音質特化の再生モードもアプリから設定できる。ディスプレイ表示オフやバックグラウンド機能が無効になるが、その効果は大きい

 

NH10ハブを追加すると一変。質感と空間描写の精度が高まる

 NH10は、同社がトランスポートの開発で得た知見とデジタル伝送の重要なノウハウを集約して完成させた同社初のスイッチングハブだ。リニア電源をはじめ、オーディオ回路の設計で培った技術が盛り込まれている。詳細は前号で紹介した通りで、RJ45を6ポート、SFPを2ポート装備するが、A1000にはSFPポートがないので、今回はRJ45端子に接続した。

 

画像7: 『オーレンダー A1000/NH10』ネットワークを知り尽くした巨人が送り出す、本気のストリーミング再生への最右翼

Switching Hub
NH10
¥726,000 税込
●型式:スイッチングハブ
●接続端子:LAN8系統(RJ45×6、SFP×2)、10MHzクロック入力1系統(BNC)、ほか
●寸法/質量:W430×H56×D355mm/8.0kg

 

 

 NH10をLANの伝送経路に組み込むと、声の質感描写の次元が上がり、女声・男声を問わず、本来の滑らかさや潤いが感じられるようになり、クラリネットの息遣いもスムーズで不自然な途切れがない。オーケストラや室内楽はステージの遠近感、ホールの広がりといった空間描写の精度が上がる。さらに、これは大きめの音圧で聴いたときに顕著なのだが、低音楽器が大量の空気を瞬時に動かす瞬発力もより強く実感できるようになった。

 A1000にはアナログ入力がないので、プリアンプとして活用する場合はデジタル接続が基本だ。その実力を確認するために、視聴室のリファレンスCDプレーヤーデノンDCD-SX1 LIMITEDの同軸デジタル端子とA1000とを繋ぎ、デジタル入力の再生音も聴いてみた。ジョルディ・サヴァールのシューベルト「グレイト」は特徴的な付点のリズムに最大級のキレの良さがあり、この演奏の特徴であるティンパニの硬めの音色を正確に引き出した。演奏の特徴を忠実に引き出す力があり、システムのコアとして活用できる実力がある。

 

画像8: 『オーレンダー A1000/NH10』ネットワークを知り尽くした巨人が送り出す、本気のストリーミング再生への最右翼

RJ45端子を6系統装備。6端子とも伝送上の対応規格などは同一だが、内部的な信号絶縁の構成が異なっている。左側の2端子が「2重絶縁」ポート、その右側の4端子がさらに厳重に信号のアイソレートを行なう「7重絶縁」ポートだ。ネットワーク対応のオーディオ機器は7重絶縁ポートに繋ぐことを基本にすればよいだろう。さらにSFPポートも2端子装備。ルーターからの信号を光絶縁するとともに、ネットワークプレーヤーへは、伝送上の負荷が少ないDAC(ダイレクト・アタッチド・カッパー)ケーブルを用いる接続も可能だ

 

画像9: 『オーレンダー A1000/NH10』ネットワークを知り尽くした巨人が送り出す、本気のストリーミング再生への最右翼

余裕を持った基板配置と、整然とした筐体内部からもオーディオ的見地で作り込まれたスイッチングハブということが理解できよう。RJ45端子は、2系統ずつ厳重なシールドが施されている

 

 

 ネットワークオーディオとプリアンプを統合した製品はA1000以外にも複数の選択肢があり、特にミドルレンジからハイエンドの価格帯に続々と登場している。ストリーミング再生の浸透がコンポーネントの形態に変化をもたらし、機能の統合によるユーザビリティの向上が手に入る。A1000にはその動きを牽引するポテンシャルがある。

 

取り扱い製品の価格改定に関するご案内
● 改定時期:2026年7月1日(受注分より)
● Aurenderの改定内容:希望小売価格の改定
https://aurender.jp/news/price-revision-20260611/

 

>本記事の掲載は『HiVi 2026年夏号』

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