日本を代表する作曲家、筒美京平について

 "筒美京平"と聞いてピンときた方はいるだろうか。もしかすると、10代、20代の方には、知らない人もいるのではないかと思う。30代、40代以上の方であれば、知っている人もいることだろう。50代以上の方であれば、もはや知っていて当たり前なのかもしれない。日曜夕方の代表的な番組と言えば、そう、"サザエさん"だ。あのオープニングの曲を作曲した人と言えばわかるだろうか。

 歌謡曲の多くは筒美氏が作曲しており、サザエさんのほかには尾崎紀世彦の「また逢う日まで」、ジュディ・オングの「魅せられて」、太田裕美の「木綿のハンカチーフ」、いしだあゆみが歌う「ブルー・ライト・ヨコハマ」、さらには、80年代、若年層に大人気だったC-C-Bの「ロマンティックが止まらない」、NOKKOの「人魚」などなど、もはや、筒美氏が作曲した曲以外の楽曲を探すのが難しいくらいだ。それもそのはず、その作曲された数は、JASRACに登録された曲だけでも、なんと2700曲以上にも及ぶ。ちなみに、レコード、CDなど総売上枚数に至っては、7560万枚以上(シングル盤のみで)という金字塔を打ち立てている。

令和の時代にお目見えすることになった未発表曲

 そんな歌謡曲界を代表する作曲家・筒美氏が学生時代から、長年付き合ってきた大切なジャズ仲間である、サックスプレーヤーの苫米地氏のために書き下ろしたという楽曲が、令和の時代にお目見えすることになった。 

 今回紹介する「TOKYO SUITE(Tsutsumi Kyohei Presents for TOMA)」は、"東京"をテーマにした未発表の楽曲を収録したもの。収録曲数は、筒美氏が作曲した5曲に、苫米地氏並びに、このレコードに収録されているすべての曲の編曲を担当したピアノ奏者である石塚まみ氏の作曲した楽曲を含む全9曲を収録している。

筒美氏の未発表曲を収録した「TOKYO SUITE(Tsutsumi Kyohei Presents for TOMA)」

"筒美氏"と"苫米地氏"の出会い

 作曲家の筒美氏とサックスプレーヤーの苫米地氏の出会いは、筒美氏の学生時代(青山学院大学在学時)に遡る。その当時、筒美氏は自身でピアノトリオのバンドを組んでおり、同じ青山学院の高等部に在籍していた苫米地氏がサックスをやっていることから、ジャズ仲間に誘ったのがきっかけで親交を深めていくことになる。

画像: 筒美氏のジャズ仲間で、サックスプレーヤーの苫米地氏(御年82才)

筒美氏のジャズ仲間で、サックスプレーヤーの苫米地氏(御年82才)

 その後、筒美氏は、大学卒業後に日本グラモフォン(現在のユニバーサルミュージック)に就職、ゲーム「ドラゴンクエスト」の作曲でも有名な"すぎやまこういち"氏に師事し、作曲家への道へ進む。一方、苫米地氏は、高校を卒業後、電子技術を学ぶために日本工学院に入学、スタジオ技術の基本を学ぶ。その後、日本ビクター(現在のビクターエンタテインメント)に入社をすると、ビクタースタジオに配属される。当初スタジオ技術責任者及び、ジャズ録音エンジニアとして活躍し、その後スタジオ技術&エンジニア統括マネージャーを担当するが、ミュージシャンになる夢をあきらめきれず、1991年にビクターを退社、プロのミュージシャンへと転身する。

 自身でレーベルを立ち上げ、CDを作成したり、古巣のビクターエンターテインメントと組んでシリーズでCDを世に送り出している。ちなみに、今回のレコードで曲を提供してくれているピアノ奏者の石塚まみ氏とも、このころからユニットを組んでいる。

筒美氏から苫米地氏に送られた5曲をレコード化するまで

 苫米地氏は、ビクターエンタテインメントを退社後、プロのミュージシャンとして活動するも、なかなかメジャー曲にに恵まれなかったという。そんな折、その状況を見続けていた筒美氏が、苫米地氏のために書き下ろした曲が、今回レコードに収録された曲になる。

 それは、1999年の夏のこと、"えいちゃんが「トマもそろそろなんとかしないとね」と言って、にこり…。"(えいちゃんとは、筒美氏のことで、本名の「渡辺栄吉」に由来する)、その数日後に、5曲の譜面がファックスで送られてきたという。

ファックスで送られてきたという譜面の一部

こだわりの楽曲収録(サウンドコンセプト)

 今回、筒美氏が苫米地氏に送った5曲の楽曲は、インストゥルメンタル、楽器演奏のみの曲ということもあり、その辺りをどう表現するのかにフォーカスして収録が行なわれた。こだわりのポイントは、以下の3つ。

・全ての工程をアナログでレコーティングをする(原点回帰)
・2インチ16ch アナログマルチで録音
・ハーフイン・チアナログ・ミックスマスター~ダイレクト・カッティング

全ての工程をアナログでレコーディングをする

 今回のレコード制作は、音楽プロデューサー&作曲家(川原伸司氏)とレコーディングエンジニアでもあるミキサーズラボの高田英男氏が行なっている。高田氏によると、苫米地氏のサウンドは、心温まる、また心に響くそんな印象が強いと話す。そのサウンドをレコード盤として表現するには、"アナログ録音"しかないということで、徹底的にアナログにこだわりたいという強い想いから、このレコードの制作に至っている。

画像: ミキサーズラボのサウンドプロデューサー・レコードエンジニアの高田氏

ミキサーズラボのサウンドプロデューサー・レコードエンジニアの高田氏

2インチ16ch・アナログマルチ録音

 実際にアナログ録音をするにあたりこだわったポイントは、アナログならではの深みのある中低域とリアルな生音を録音すること。そこで、音の解像力に優れ、中低域の深い音色を実現する2インチ16ch アナログTR(テープレコーダー)を使用することが前提となった。ただ、2インチ16chのアナログTRは、現存するものが極めて少ないことから、理想の録音を実現するには、困難を極めると思われていた。しかしながら、アナログからデジタルに至るまで全てのジャンルに対応する"キング関口台スタジオ"の全面バックアップもあり、新品の16chヘッドアッセンブリーを使った録音が実現している。

画像: STUDER A-827 MCH アナログマルチレコーダー

STUDER A-827 MCH アナログマルチレコーダー

画像: 新品の2インチ16CHのヘッド

新品の2インチ16CHのヘッド

 2インチ16chアナログTRは、1969年頃のレコード制作には欠かせないテープレコーダーだったものの、音楽制作現場からより録音チャンネル数が多いテープレコーダーが求められる状況もあり、利便性の高さも相まってチャンネル数の多い2インチ24chアナログTRが主流になっていった。1978年頃には各レコーディングスタジオの多くで使用されることになる一方で、24chは、1chの幅が16chに比べて狭いことから、利便性はあるものの中低域の音色が薄く感じるという弱点もあったという。そこで、今回は、2インチ16chアナログTRを使用して、中低域が深く安定した音色を基本に、徹底的にアナログにこだわって録音をすることにしたと高田氏は話す。

ハーフインチ・アナログ・ミックスマスター〜ダイレクト・カッティング

 すべての工程をアナログでレコーディングをするため、まずは16chのマルチで録音。その後、ハーフインチのアナログテープにミックスダウンをし、そのミックスマスターからダイレクトにラッカー盤をカッティングしている。

画像: ノイマン の「VMS-80」 カッティングレース

ノイマン の「VMS-80」 カッティングレース

「TOKYO SUITE Tsutsumi Kyohei Presents forTOMA」の制作に参加した演奏者

 今回のレコード制作に参加した演奏者は、全部で4人、アルトサックス奏者の苫米地義久氏をはじめ、ピアノ並びに編曲を担当した石塚まみ氏、ドラム パーカッションの石川智氏、フレットレスベース奏者の織原良次氏の4人となっている。

画像: 写真左から、サウンドプロデューサー・レコーディングエンジニアの高田英男氏、プロデューサーの川原伸司氏、アルトサックスプレーヤーの苫米地義久氏、編曲及びピアノ・ヴォーカル・コーラスの石塚まみ氏、ドラム・パーカショ二ストの石川智氏、フレットレス・ベーシストの織原良次氏

写真左から、サウンドプロデューサー・レコーディングエンジニアの高田英男氏、プロデューサーの川原伸司氏、アルトサックスプレーヤーの苫米地義久氏、編曲及びピアノ・ヴォーカル・コーラスの石塚まみ氏、ドラム・パーカショ二ストの石川智氏、フレットレス・ベーシストの織原良次氏

画像: 筒美京平の未発表ジャズ曲をレコード化|アナログにこだわったレコード制作の舞台裏『TOKYO SUITE(Tsutsumi Kyohei Presents for TOMA)』 youtu.be

筒美京平の未発表ジャズ曲をレコード化|アナログにこだわったレコード制作の舞台裏『TOKYO SUITE(Tsutsumi Kyohei Presents for TOMA)』

youtu.be

最後に

 1999年に筒美氏が苫米地氏に送った5つの楽曲が、27年の時を経て令和の時代に日の目をあびることになり、苫米地氏は今は亡き筒美氏にこのようなコメントを送っている。「長い時が経ってしまいましたが、こうして皆さんに聴いて頂けることになったこと、感謝しています。えいちゃん。聴いてください。」と。

 さまざまな偶然が重なり作り上げられた"奇跡の一枚"ともいえるレコード「TOKYO SUITE Tsutsumi Kyohei Presents for TOMA」をこの機会に手にとってみてはいかがだろうか。筒美氏の新たな一面を垣間見ることができるのは、このレコードのほかない。デジタルが主流の今の時代において、徹底的にアナログ制作にこだわって作られた音を聴けば、得も言われぬ気持ちになることだろう。

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