デジタルオーディオの軸足を音楽ファイル再生に置いている私は、ミュージックサーバーに収めてある音楽ファイルを聴くのがいつものリスニングスタイル。音楽ファイルとはCDのリッピング音源や配信ダウンロード等によるデジタルファイル音源のことだ。
それにサブスクリプション音楽ストリーミングのQobuzとAmazon Music Unlimitedが加わって、LAN=ネットワーク経由のオーディオリスニングが充実してきている。音楽ストリーミングでは多様な新譜や好きな音楽アーティストの未所有アルバムを聴くことが多く、気に入ったら配信ダウンロードを見つけて購入することにしている。
ここでは、そのようなネットワーク経由によるデジタルオーディオ再生の音質向上テクニックを試してみた。StereoSound ONLINE試聴室での音質基準=リファレンスは、SOtM(ソム)が誇るハイグレードなミュージックサーバーの「sMS-2000」とソウルノートの「S-3 Ver.2 Reference」をUSB DACにした組み合わせ。
ミュージックプレーヤー&サーバー:SOtM sMS-2000PSMC
(マスタークロック、LAN/USBカード用電源ユニット、DC Yケーブル、クロックケーブル付)
¥2,970,000(銀線仕様電源ユニット、税込)
¥2,948,000(銅線仕様電源ユニット、税込)
※DC Yケーブルとクロックケーブルは長さ1.5m。マスタークロック入力はデフォルトが50Ωで、注文時に75Ωも指定可能

sMS-2000PSMCは4つの筐体で構成されている。写真下がミュージックサーバーのsMS-2000で、その上に並んでいるのは、左からマスタークロック「sCLK-OCX10」、マスタークロック用電源、拡張ボード用電源
●接続端子:LAN端子✕2(1系統は拡張LANボード)、USB Type-A端子✕7(1系統は拡張USBボード)、ディスプレイポート、HDMI、BNCマスタークロック入力(10MHz)
●内蔵ストレージ:4TバイトM.2 SSD(M.2 SSD1台追加可能)
●オーディオプレーヤー:Roon Core、DLNA audiorenderer、OpenHome support、MinimServer(NAS機能)、HQplayerEmbedded、Diretta、他
●寸法/質量(本体):W445×H115×D394mm/10kg
ここでいうsMS-2000は、製品型番では「sMS-2000PSMC」になる。単体のsMS-2000に10MHzマスタークロック「sCLK-OCX10」+電源部と、sMS-2000が内蔵するLANネットワーク基板「sNI-1G」とUSB Type-A端子の「tX-USBexp」基板に供給する電源部も加えるという豪華なシステム。sMS-2000PSMCは銀線仕様で税込¥2,970,000であり、sMS-2000単体では税込¥1,900,000になる。
SOtMのsMS-2000は、優れた音質と多機能さを誇るハイグレードなミュージックサーバーだ。USB DACとの組み合わせも想定しているから、sMS-2000はネットワークトランスポートでもある。横幅44.5cmのフルボディはSOtMの製品群で最大サイズ。音質を徹底的に追及して設計された自社開発のマザーボードと専用電源部を搭載するsMS-2000は、インテル製CPUをファンレス空冷するデザインも特徴にしている。
10MHzマスタークロック入力のBNC端子を装備するほか、RJ45端子のsNI-1Gネットワーク基板と、オーディオ専用USB Type-A端子のtX-USBx10G基板を内蔵しているミュージックサーバー兼トランスポート。そうそう、高音質伝送のDiretta(ディレッタ)にも対応しているし、Roon Coreにすることも可能な多機能さもsMS-2000の魅力だ。
StereoSound ONLINE試聴室で試した音質向上テクニックとは、以下のふたつ。
SOtMのネットワークスイッチ「sNH-10G」のカスケード接続
USB DACの前段にSOtMの「tX-USBultraPS」を経由させる
ネットワークスイッチのカスケード接続??? 実をいうとsNH-10Gのカスケード接続は自宅で実践していて、StereoSound ONLINE試聴室でもハッキリと音質の改善効果を聴くことができた。このカスケード接続は、sNH-10Gを愛用しているオーディオファイル読者へ特にオススメしておきたい。tX-USBultraはUSB入力〜出力のハブで、USBオーディオ信号のクロックを再生成することで音質向上を実現している製品だ。
オーディオ専用ネットワークスイッチ:SOtM sNH-10GPS
¥572,000(税込、銀線仕様)、¥550,000(税込、銅線仕様)
●製品構成:sNH-10G、電源ユニット、特製ケーブル
<sNH-10G>●接続端子:RJ-45✕8、SFP✕2、10MHz マスタークロック入力●寸法/質量:W296×D211×H50mm/2kg
<電源ユニット>●寸法/質量:W106×H48×D230mm/2kg

写真下が電源ユニット同梱のsNH-10GPSで、上の2台は本体のみのsNH-10G。今回はすべてスペシャルエディションの銀線仕様を使っている

今回の試聴では、ネットワークスイッチのsNH-10Gを最大3台つないだら音がどのように変化するかを確認した。sNH-10GPSに付属している電源ユニットから2台に、残りの1台にはsMS-2000PSMCの電源ユニットから給電した。またsMS-2000PSMCに同梱されているsCLK-OCX10は最大4台にクロックを共有できるので、3台のsNH-10GとsMS-2000をつないでいる
SOtMのネットワークスイッチ「sNH-10G」のカスケード接続を試す
一般的な使い方として、ネットワークスイッチをカスケード接続(ディジーチェーン接続)するのは、ポートの数が足りなくなった場合だろう。しかしながら、ここでは音質向上を目的としたマニアックなカスケード接続になる。
sNH-10Gは最大1GbpsのギガビットRJ45端子が8基とSFP端子を2基装備する、ジャンボフレーム対応のネットワークスイッチ。sNH-10Gの特徴はシンプルで「音質が抜群に優れている」こと。輸入元である株式会社ブライトーンの福林氏によると、sNH-10Gは日本で100台以上の販売実績があり、そのほとんどが10MHzマスタークロック入力を装備している仕様だという。高音質を実現している最大の要因は、内蔵している「sCLK-EX」という高性能クロック基板。このsCLK-EX基板は、sMS-2000とtx-USBultraにも組み込まれている。
さて、試聴を始めていこう。音のリファレンスは前述しているようにsMS-2000PSMCとソウルノートS-3 Ver.2 ReferenceをUSB接続した組み合わせだ。ちなみに、S-3 Ver.2 Referenceには同社「X-3」マスタークロックから10MHzを供給した状態。いっぽうのsMS-2000PSMCには10MHzマスタークロックのsCLK-OCX10が付属しており、sCLK-OCX10は合計4基の10MHz出力を装備しているのでsMS-2000と、3台を用意したsNH-10Gにクロック供給してある。ネットワークスイッチによる音質改善を聴くので、試聴音源である音楽ファイルはsNH-10GとLAN接続してあるDELAの「N1-S38B-J」ミュージックサーバーに収めたものを使った。
StereoSound ONLINE試聴室のオーディオシステムは以下のとおり。
●音源再生:SOtMのsMS-2000PSMC & ソウルノートのS3 Ver.2 Reference(USBケーブル接続)
●音源ミュージックサーバー:DELAのN1-S38B-J
●プリアンプ+パワーアンプ:アキュフェーズC-3900+A-300
●スピーカーシステム:B&Wの801D4
<試聴音楽ファイル>
●ジャズヴォーカル:ホリー・コール 96kHz/24ビット
●ジャズ(大編成):エリック・ミヤシロ(トランペット) 96kHz/24ビット
●ジャズ(小編成):マンフレッド・フェスト(ピアノ) 2.8MHz DSD (DSD64)
●クラシック(オーケストラ):ヴィルデ・フラング(ヴァイオリン) 192kHz/24ビット
●クラシック(弦楽六重奏):セステット・ストラディヴァリ 352kHz/32ビット
ネットワークスイッチのつなぎ替えを試す! ストリーミングサービスもミュージックサーバーの音源も、LANで伝送されるすべてに効果があった

今回の取材では、ミュージックサーバー(NAS)やストリーミングサービスなど、LAN経由で伝送される音源に対するネットワークスイッチの影響を確認しようという狙いもあった。それもあり、上図のようにネットワークスイッチの複数台使いやケーブルのつなぎ替えを細かく行っている

写真左は光LAN用ケーブルで、右はDACケーブル。どちらもFSPコネクター(トランシーバー)を使っているが、ケーブルの中身は異なる
1)sNH-10Gが1台のベーシックな構成
最初はネットワークスイッチのsNH-10Gが1台というベーシックな構成で試聴音楽ファイルをひととおり聴くことにした。DELAのN1-S38B-JとsMS-2000は、それぞれRJ45端子のLANケーブル接続になっている。これでも充分に満足できる音質が得られているのだが、まずはここでの音質基準を100%としておこう。
2)2台のsNH-10Gをカスケード接続した構成
次は2台のsNH-10Gを使ったカスケード接続。2台SFPモジュールのDACケーブルを使ってカスケード接続にしてある。カスケード接続はRJ45端子のLANケーブルで行っても構わないけれども、私の経験からDACケーブル接続とした。DACケーブルはDirect-Attach-Copperケーブル、すなわち銅線ケーブルのこと。
気になるカスケード接続の音質であるが、最初に聴いたホリー・コールの歌声がピシッとフォーカスして音像が克明に描かれるようになった。声色の色艶も増して訴求力が高まってきたではないか! 試聴曲「No Moon at All」は2024年のアルバム「DARK MOON」からだが、強弱のコントラストも高くなった躍動的な演奏になっている。
エリック・ミヤシロのジャズも、先ほどよりもダイナミックな演奏に感じられる。試聴したアルバムタイトルの「Blue Horizon」は密度感の向上が明らかな違いで、一音一音の音の粒立ちも良好。マンフレッド・フェストは最初期のDSD録音で収録にはSONY Sonoma Systemが使われ、ピアノの音色とパーカッションの金属的な響きが1台のsNH-10Gのときよりも鮮やかに聴こえてくる。
ヴィルデ・フラングが弾くヴァイオリンも色彩感の豊かさと陰影表現の高さが印象的。エルガー作曲のヴァイオリン協奏曲は速弾きによるデリケートな音色変化が鮮やかさを増して、オーケストラの臨場感も高まっている。

USBケーブルにはエイムのUAシリーズを使用。本数の都合もあり、sMS-2000に入力するケーブルにはUA1を、その他の接続にはUA3を使っている
最後に聴いたセステット・ストラディヴァリが演奏するのはドホナーニ作曲の弦楽六重奏曲で、種類の異なる弦楽器による響きの質感描写がアップ。最初に聴いたホリー・コールの曲からそうだが、サウンドステージがより広がって聴こえることもカスケード接続による好ましい音の特徴として挙げておきたい。ここでの音質基準は先ほどよりも50%増しの150%くらいだと感じた。
2台のカスケード接続はsNH-10Gという状態はそのままに、カスケード接続に使っているSFPのDACケーブルを輸入元が用意したSFP光伝送モジュール+光ケーブルに交換してみた。すると音楽の背景に潜んでいる雑味成分がスッと消えていくような静けさが感じられるではないか。光伝送はサーバーシステムでも多用されているからポピュラーな存在になってきている。RJ45端子のLANケーブルやSFPのDACケーブルは電気信号をそのまま流す銅線伝送だが、光ケーブルでは電気信号を最初に光信号に「変調」して終端で電気信号に戻す「復調」が行われる。
3)3台のsNH-10Gをカスケード接続した構成
ここでの真打的な音質改善テクニックだ。3台のsNH-10Gは、やはりSFPポートを使ったカスケード接続である。セッティングが終わって音を出した瞬間、私とStereoSound ONLINE編集部員、そしてブライトーンの福林氏も驚きの声をあげてしまった。
ホリー・コールの声色はリアリティが格段に高まって生々しく、ジャズコンボの伴奏も勢いを増して溌溂としている。エリック・ミヤシロの演奏も同じように実在感が溢れるライヴな雰囲気。サウンドステージの見通しも格段にアップしているし、一音一音のフォーカスが締まって音色の鮮やかさが際立ってくる。マンフレッド・フェストも音の鮮度感が飛躍的に高まり、透明感が漂うステージに楽器の音色が浮き立つように定位している。
立体感の奥深さを印象付けたのは、ヴィルデ・フラングのオーケストラ演奏。ヴァイオリンの陰影感や音色変化の豊かさも素晴らしく、やはり立体的な描写を魅せてくれる。セステット・ストラディヴァリが演奏するドホナーニ作曲の弦楽六重奏曲は、文句なくトップクラスの音質だった。音場空間の静けさが演奏の深みを演出しているだけでなく、空間に溶けあうように響いていく間接音成分が繊細に感じられる。先ほど聴いた2台のカスケード接続による音質改善より倍増したような印象で、3台のカスケード接続による音質基準は200%越えだと評価したい。

今回の取材で使用したSOtMの製品群
ここまではDELAのミュージックサーバーN1-S38B-Jに収めた音楽ファイルで聴いてきたが、Qobuzの音楽ストリーミングでも同等といえる音質改善の効果が得られた。Qobuzで聴いたストリーミング音源は以下の3曲だ。
●リヴィングストン・テイラー「Isn’t She Lovely」 96kHz/24ビット
●河村尚子(ピアノ)「熊蜂は飛ぶ」 96kHz/24ビット
●キース・ジャレット、ヤン・ガルバレク他「カントリー」 192kHz/24ビット
やはりsNH-10Gの3台カスケード接続は圧倒的に音が良く、ひとことで表すと「自然に音楽に没入できる音質」ということになるだろう。演奏に込められて訴求力がグッと高まって、心が音楽に揺り動かされる……。音楽ストリーミングで聴くのとミュージックサーバーから聴くのは同じくネットワーク経由だから、同等の音質改善が得られるというわけだ。
しかしまあ、sNH-10Gの3台カスケード接続による音は素晴らしかった。ここでは用意したSFPの光伝送ケーブルが1本だけだったけれども、もう1本あったら完璧だったに違いない。機会があったら、一般的なRJ45端子のLANケーブルを使った3台のカスケード接続の音質も検証してみたい。
USB DACの前段にSOtMの「tX-USBultraPS」を経由させる
さて続いては、SOtMのtX-USBultraを経由させるというUSB接続の音質改善テクニックだ。この場合は、DELAのN1-S38B-J に収めていた音源と同じものをsMS-2000が内蔵する4テラバイトのストレージに収めてあるので、sMS-2000をミュージックサーバー兼トランスポートとして使うことになる。ネットワークスイッチのsNH-10Gは1台にしておいて、そのぶん余ったsCLK-OCX10の10MHzマスタークロック2系統はtX-USBultraに与えることにした。接続の順序は以下のとおり。
1)sMS-2000PSMC→S-3 Ver.2 Reference
2)sMS-2000PSMC→tX-USBultra →S3 Ver.2 Reference
3)sMS-2000PSMC→tX-USBultra →tX-USBultra →S3 Ver.2 Reference
USBリジェネレーター:SOtM tX-USBultraPS
¥462,000(税込、銀線仕様)、¥440,000(税込、銅線仕様)

tX-USBultraはスーパークロックモジュールのsCLK-EXを内蔵し、入力されたUSB信号をリジェネレートする音質改善アイテム。今回は電源が付属したtX-USBultraPSと、本体のみのtX-USBultraを組み合わせた。もちろんどちらもスペシャルエディション銀線仕様で、sCLK-OCX10からクロックを供給している

tX-USBultraのリアパネルには、USB Type-B入力とUSB-Type-A出力を搭載する。USB Type-Aには電源のオン/オフスイッチが備わっており、音声信号伝送用としてはオフの方が好ましいそうだ。ただしUSB DACによってはオフでは認識されない製品もあるので注意が必要だ
結果を最初に申しあげると、想像していたとおりtX-USBultaを2台カスケード接続にしたときの音質がベストだった。この場合はUSB DACまでコネクトするUSBケーブルが3本になるので接点の増加による多少の伝送ロスがあるかもと心配していたのだが、それは杞憂に過ぎなかった。使ったUSBケーブルはAIM製のオーディオ用だったということも功を奏したのかも知れない。
音質改善の効果具合はネットワークスイッチsNH-10Gのカスケード接続のときと似ているけれども、効果の大きさに関してはsNH-10Gの時が大きかったと思う。考えてみると、SMS-2000にはtX-USBultraと同等かそれ以上の音質パフォーマンスが得られるtX-USBx10G基板が使われているから、最初からハイレベルな音質が担保されているのだろう。
StereoSound ONLINE試聴室で実験したふたつの音質改善テクニックは、実り多き結果となった。特にネットワークスイッチsNH-10Gのカスケード接続は自宅でも実践しているので、それが実証されたという嬉しさもある。3台ものカスケード接続は、sNH-10Gがシンプルなアンマネージドのネットワークスイッチだから可能なのかも知れない。
なぜこれほどまでにsHN-10Gが3台というカスケード接続が音質的に良かったのかというクエスチョンもあるので、6月にオーストリアのウィーンで開催される世界最大のオーディオショウ「HighEnd 2026」会場で、私はSOtMを主宰している社長兼デザイナーのリーさんに尋ねてみるつもりだ。

取材はStereoSound ONLINE試聴室で実施した。アンプやスピーカーはリファレンス機器を使っている





