ソニーは今年3月に、次世代ディスプレイシステムを発表した。液晶テレビのバックライトにRGB独立駆動できるLEDを搭載、表示する映像に合わせてバックライト側でR(赤)、G(緑)、B (青)の3色を個別に制御して、より広い色域を実現するものだ。ソニーは過去にもバックライトにRGB LEDを搭載した液晶テレビを発売していたが、新しい技術はそれとはどう違うのか? また実際にどんな映像が楽しめるのか? 今回はソニー開発陣を訪ね、詳しいお話をうかがった。(Stereo Sound ONLINE)
麻倉 今日はよろしくお願いします。ソニーのディスプレイ新技術とのことで、とても楽しみにしています。
小野 ソニーでホームエンタテインメント事業を担当しております小野と申します。今日ご覧いただくのは、RGB独立駆動のバックライトを搭載したディスプレイです。
麻倉 RGB LEDを搭載したテレビは過去にも発売されていましたよね。
小野 弊社では2004年に「QUALIA005」という液晶テレビを発売しました。この時にも、RGB独立のLEDバックライトシステム “トリルミナス” を搭載していました。RGB 3色のLEDを使ったバックライトとしては世界初でした。
その後、2008年にこの方式を搭載したモデルとして「XR1シリーズ」(55/46インチ)を発売しています。XR1シリーズも “トリルミナス” を採用し、コントラスト比が100万対1、色域の拡大を実現していました。解像度的には2Kでしたが、《ブラビア史上最高画質》として発売しました。
麻倉 あの頃は、液晶テレビの広色域化が業界のトレンドでしたからね。
小野 今回は、QUALIA 005やXR1シリーズの経験を踏まえて、新たなRGB LEDバックライトに取り組んでいます。弊社は、テレビメーカーとしては一番RGB LEDの技術を知っていると考えていますし、自発光デバイスについても白色発光のOLED(有機ELパネル)もQD-OLED(量子ドット層を備えた有機ELパネル)も商品化しています。そういう意味ではあらゆるデバイスについての知見を持っていますので、それを生かしました。
麻倉 確かに、そこまで様々なデバイスを手がけている会社はソニーだけかもしれません。

従来の白色発光Mini LEDバックライト(左)と、RGB独立駆動LEDバックライト搭載ディスプレイ(右)の構造の違い
小野 色々なデバイスにトライしながら、次に来る新しい技術にも取り組んでいきたいと思っています。ではここから具体的な技術について、担当者からご説明します。
相馬 設計を担当した相馬です。弊社では昨年から「CINEMA IS COMING HOME」というキャッチフレーズで、映画にフォーカスしたテレビのプロモーションを行っております。また近年は、“テクノロジーの力で未来のエンタテインメントをクリエイターと共創する” というミッションを掲げており、映画にフォーカスしたディスプレイや、サウンドプロダクトを送り出しています。
ソニーとしては、映画の撮影現場で使われるレンズやカメラ、モニターといった機器から、家庭で使うテレビ、サウンドバーといったところまで手がけています。「From Lens to Living room」という言葉の通り、制作現場から家庭のリビングまで、幅広いラインナップを揃えています。
さらに今回もうひとつのキャッチフレーズとして、「Unleash the Magic of Movies at home」を提案します。映画を見た時に感じる様々な体験、喜びとか悲しい気持ちを解き放っていただけるような、そういうデバイスに仕上げたいと考えているところです。
麻倉 “Unleash” は解き放つという意味ですね。まさに見る人の感情を高画質で解き放とうと。
相馬 そこで、“映画の体験” ってどういうものだろうなっていうことを、社内で検討しました。
相馬 映画館に入って感動するのは、まず画面の大きさだと思います。大型スクリーンに写った映像には、本当に圧倒されます。そのスクリーンに映し出される人物や情景のコントラストや色味の微細な変化から感じられるクリエイターの意図といった、映画を感動に導く様々な要素をいかにユーザーにお届けしたらいいのかを考えながら、全社で取り組んでいるところです。
そこから導かれたミッションとして、4つの柱を考えました。
第一は、明るさと色をきちんと両立できるビジュアルの再現です。その次が音で、空間的に広がりがあるだけではなく、演者が何を言っているのかが伝わってこないとストーリーが頭に入ってきませんので、そういったところまでしっかりこだわっていきたいと思っています。
3つ目がスクリーンサイズで、大きい画面に相応しい画質ということになります。最後は、環境をどうするかでした。映画館は、映画を見るための環境や音響空間としてきちんと設計されています。一方でお客様が自宅で映画を楽しむ時は、照明をつけたままだったり、外光が差し込んでくる窓際にテレビが置かれているとか、様々な視聴環境が考えられます。その中でも最大限映画を楽しんでいただくためにはどうするかを考えています。
麻倉 それらをクリアーするために、新しいバックライトシステムが必要だったと。
相馬 今回はそのように考えました。
麻倉さんはよくご存知だと思いますが、従来のLEDバックライトは、パネル全体の明るさを変えることで、画面輝度を調整していました。これはMini LEDでも同じで、基本的には青色LEDを光らせて、蛍光体やQD(量子ドット)シートを組み合わせて白色光を得ています。
しかし今回のRGB独立駆動LEDバックライトなら、バックライトで明るさだけではなく色も制御できるので、より純度の高い色の表現が可能になります。もちろんRGB制御だけでも素晴らしいものができるんですけれど、今回はスペクトラムの狭いLEDを選別してさらに深い色表現を目指しています。
カラーボリュウムについても、暗いシーンから明るいシーンまで、どれくらいの色数を表現できるかを、現在われわれが持っているパネルデバイスについて測定しました。こちらの図で一番左側がRGB独立駆動LEDバックライト搭載機のプロトタイプを測定したものです。

パネル方式によるカラーボリュウムのイメージ。左上のRGB独立駆動LEDバックライトでは、再現できる色数も多く、さらにブロックが細かいので色深度(ビット数)も緻密に制御できることを示している
見ていただいてお分かりの通り、他の方式と比べてもカラーボリュウムがひじょうに大きいのが特長です。つまり暗いところから明るいところまでの色数が多く、繊細な表現ができます。さらに図のひとつひとつのブロックのサイズが他の方式よりも細かくなっているのもご覧いただけると思います。これが小さいということは色のビット数が多いことを示しており、より繊細なグラデーション表現も可能になるのです。
このように、RGB独立駆動LEDバックライトのメリットとして、広い大きなカラーボリュウムを持った純度の高い色が再現でき、さらに大きなサイズのパネルが作りやすいといった点が挙げられると思います。
リビングで100インチクラスの直視型テレビを楽しんでいただこうと思ったら、今は液晶テレビが最有力です。弊社のRGB独立駆動LEDバックライトは、パネルサイズが大きくなっても対応できますので、大画面テレビとの相性もよく、画作りにも優位性があると考えております。
麻倉 オープンセルだから、組み合わせる液晶パネルのサイズは問わないということですね。
相馬 弊社では、クリエイターと一緒にテレビで映画の表現をどうやって進化させていくかについて日頃より協業しています。そこではカラーボリュウムの拡大も重要という話になったのですが、単純にカラーボリュウムを拡大して、ひとつひとつのブロックが大きくなっては意味がないと思いました。
そこで、ブロックを小さくしつつ、カラーボリュウムを大きくする方法についてパネルメーカーと相談しました。その結果、大きくなったカラーボリュウムを細かく制御できるのは、現時点ではRGB独立駆動LEDバックライトがベストではないかなと思っているところです。
麻倉 なるほど、大画面で求められる豊かな色のためには、RGB独立駆動LEDバックライトが必要だったんですね。ところで、今回搭載しているRGB LEDは汎用品ですか?
池山 いえ、LEDベンダーさんと共同開発したRGB LEDを使っています。LED自体の寿命は、現在のテレビ用と同じくらいを達成しています。
相馬 ではここから、実際の映像もご覧いただきましょう。QD-OLEDの「A95L」と「BRAVIA 9」、RGB独立駆動LEDバックライト搭載機で同じ映像を表示します。BRAVIA 9は独自のバックライト駆動技術XRバックライトマスタードライブを搭載しており、明るいシーンでも明暗の差をつけたバックライト駆動を実現しています。
麻倉 BRAVIA 9ということは、青色Mini LEDを使ったバックライト搭載機ですね。
相馬 はい。24年モデルは、青色LEDにQDシートを加えて白色光を得ています。
麻倉 RGB独立駆動LEDバックライト搭載機では、Mini LEDのサイズも、BRAVIA 9より小さくなっているんでしょうか?
相馬 チップの具体的なサイズは公表しておりませんが、チップの中にRGB 3色のLEDが並んでいます。この構造によって、例えば青空を表示する時には赤と緑のLEDは光らせなくていいので、電力を下げられます。つまり、セットとしての消費電力も抑えることができます。現状では、パネル単体での消費電力をBRAVIA 9から30%ほど下げることを目指しています。
麻倉 それは凄い。最近は特にヨーロッパで消費電力の条件が厳しいですからね。
相馬 画面サイズを大きくすると、どうしても消費電力は増えてしまいますので、その点でも重要な要素になると思います。
麻倉 RGB独立駆動LEDバックライトの場合、QDシートを使う必要はないんですか?
相馬 今回は、QDシートは搭載していません。現状ではRGB独立駆動LEDバックライトでも充分広い色域を表現できるので、QDシートは使わなくてもいいだろうという判断です。なお今回は、従来モデル同様にカラーフィルターを搭載していますので、色再現はバックライトとカラーフィルターの両方で行なうことになります。
麻倉 RGB独立駆動LEDバックライトの映像は、やはり階調再現がいいですね。明るさも充分伸びていますし、階調感がいいので、椰子の実の映像なども立体感が素晴らしい。ハイビスカスの花びらや葉っぱの重なり感も自然ですし、光が当たったピークと、影の暗い部分の対比で奥行きが再現されます。
バラの映像でも、様々な赤の表現が素晴らしい。色を構成している要素が違っている印象です。また果物のキウイの映像も、ひとつひとつの実の丸みの再現、表面の細かな毛の描写までとてもリアルです。シズル感が豊か、という表現がぴったりかもしれませんね。
緑の中に小さな黄色があったり、白い部分があったりといった違いがしっかり見分けられますし、何と言っても赤の再現がひじょうにワイドかつ繊細です。その意味で、BRAVIA 9から大きく進化していることが確認できます。

LED構造のイメージ。従来の青色LED(左)はひとつのチップの中にLEDが1個しかないが、右のRGB LEDでは3色のLEDが並んでおり、これらの明るさを別々に制御できる点が最大の違いとのこと
池山 今おっしゃっていただいた繊細な表現という点については、今回はLED のドライバーとバックエンドのチップも新規に開発しています。
麻倉 色の情報って、解像度に効くんですよね。RGB独立駆動LEDバックライトでは、色純度が上がるためか、フォーカスがよりしっかり合ってきたように感じます。輪郭の滲み感が減っていくことで、4Kにまだこんなに再現力があったんだと驚きました。
BRAVIA 9も結構いい絵だと思っていたんだけど、RGB独立駆動LEDバックライトを見ると、ちょっと寂しいというか、画面全体がどことなく暗いような印象も受けてしまいます。
相馬 実はここまでは、一般的なRGB LEDバックライトとしての効果になります。次に、ソニー独自のバックライト制御について説明したいと思います。
麻倉 そうだったんですね。ここまではLEDの違いによる画質の進化であって、ソニーにはRGB LEDの使いこなしのノウハウがあるということだ。
相馬 先ほど申し上げた通り、弊社では2004年にXR1シリーズを発売して以来、様々なLEDを使ったバックライト技術を開発してきました。加えて業務用としてCrystalLEDも手掛けており、LEDディスプレイ全体についてのノウハウも蓄積してきています。これからご覧いただく技術は、色輝度の高さ、コントラスト、視野角という3つの画質要素を改善するものです。
色輝度の向上については、ローカルディミングの制御で背景の暗い部分に関してLEDの輝度を落とし、その分の電力を明るい部分に回すという方法を使います。これは従来のBRAVIAにも搭載していますし、一般的なRGB LEDバックライトでも同じ処理は可能です。
ただし従来方式では、もっと明るくしたい場合にはLEDに投入する電力を上げなくてはいけません。そうなると輝度は上がりますが、同時に色も飛んでしまいます。しかしRGB独立駆動LEDバックライトなら、RGBの中から特定の色、例えば青い花を再現する時なら青色LEDだけを明るくできます。
麻倉 今までは白ピークを上げるためにやっていた処理を、今度は色に応じてRGBのLEDを選んで強調していると。細かい制御によってピークでも色が飛ばない再現が可能になったんですね。
相馬 おっしゃる通りです。こちらでは、RGB独立駆動LEDバックライト搭載機のブースト機能を切った状態で自然映像を表示していますが、この段階でも色域の豊かさや明るさの再現といったところの違いはお分かりいただけると思います。次にブースト機能をオンにすると、こうなります。
麻倉 随分変わりますね。今は黄色みがかった岩山の映像ですが、これだと赤と緑を選択的に光らせているということになるんですか?
相馬 このシーンだと青色LEDはほとんど使っていないので、その分の電力を赤と緑のLEDに回して、黄色味を強く出すようにしています。ひじょうにコントラストが効いた、色の深い、明るい映像になっていると思います。
続いてふたつ目の技術になります。通常LEDバックライトというと、ブルーミングといいますか、明るい映像の回りに出るフレア(光漏れ)が問題になることがあると思います。
これに対して、例えばBRAVIA 9ではLEDからの光自体をかなり絞っており、光漏れ防止に優れた光学設計を採用しています。同じ価格帯のMini LEDバックライト搭載モデルの中でも漏れ光は少なく、しっかりコントロールされた液晶テレビになっています。今回は、そこにRGB独立駆動LEDバックライトが加わりますので、より自然な表現が可能です。そこをご確認いただければと思います。
麻倉 ブルーミングは、最近の液晶テレビではかなり抑えられている印象がありますが、それでも残っていたと?
相馬 自発光デバイスのOLEDを搭載したA95Lでは、暗い中で1ヵ所光っている映像でも、輝点を隠せば光漏れは目につきません。もしあったとしても、それは眼球内での反射になります。一方で液晶テレビは、同じように光っている部分を隠しても周囲にごくわずかに光漏れがあります。これはBRAVIA 9も同じです。
しかしRGB独立駆動LEDバックライトなら、OLEDと同じぐらいの見え方になります。バックライト方式であっても、これくらい自然な見え方にできるんです。
相馬 そもそもRGB独立駆動LEDバックライトでは、映像の赤い部分ではバックライトも赤く光っているので、光漏れがあってもさほど違和感がありません。これまではバックライトが白かったので漏れてくる光も白く、どうしても映像との違和感が生じていたのですが、そこが漏れ光も映像と同じ色になった、つまり自然の状態に近づいたということです。
麻倉 漏れ光が完全になくなるわけではないけれど、映像に寄り添った漏れ光なので、自然に感じられるということですね。どうせなら漏れ光がないように輝度をもっと絞ったらどうでしょう?
相馬 漏れ光を完全になくそうと思うと、輝度を下げるなどの方法を取らないといけなくなります。それでは、映像の力強さや見る楽しみを奪ってしまうのではないかと思っています。今回は、漏れ光ともともとの映像の色の違いによる違和感をなくせたところが進歩だと思います。
麻倉 これが第一歩ということですね。次の世代ではもっと光漏れを減らして、最終的にはゼロにしてもらいたい。

RGB LEDと通常のLEDでのスペクトラムの違い。RGB LEDではそれぞれの色のカーブが急峻に立ち上がっており、より純度の高い色を取り出せることを示している
相馬 最後は視野角の改善です。先ほど、より大きな画面をお客様の家で使っていただきたいとお話ししました。ただし液晶テレビですので、大画面になるとどうしても視野角が問題になります。今回のRGB独立駆動LEDバックライトはそこにも対策しました。その点について池山からご説明します。
池山 ご存知の通り、液晶テレビでは見る角度に応じて液晶セルの開口率が変わってしまいます。正面から見た時と、斜めから見た場合の輝度の特性は異なっているので、斜めから見ると色が浮いて見えます。
従来の液晶テレビのバックライトは白色のみですので、肌色を再現するためにはカラーフィルターのRGBに応じて液晶セルの開口率を変えていました。その場合、真正面から見ると正しい色が実現できるんですが、斜めから見るとバランスが崩れて、肌色もずれてしまうという問題がありました。
しかしRGB独立駆動LEDバックライトならバックライト側で色が作れますので、正面からでも、斜めから見てもあまり見え方が変わらない、特性のいいところを狙って液晶セルを駆動できます。あるいは、液晶セルは開きっぱなしにして、細かい色やコントラストはバックライトで作ることも可能になります。この技術によって、視野角が改善できました。
相馬 実際の映像をご覧ください。BRAVIA 9も視野角の工夫はしていますが、それでも斜め横から見ると赤みを帯びた人物の顔色が白っぽくなってしまうんです。しかしRGB独立駆動LEDバックライトでは、赤みがしっかり残っています。
麻倉 なるほど、確かに斜めから見てもコントラスト、色再現とも確保されています。
相馬 現在は、特別な視野角改善フィルムは使っていませんが、RGB LEDの独立駆動によって、これくらいの視野角改善が期待できます。
麻倉 まとめると、1)RGB独立駆動LEDバックライトでは、色や輝度のブーストをRGB単色ごとにやります、2)光漏れもバックライトを同色で光らせることで抑えられる、3)LEDをRGB個別制御することで視野角も広くなる、と。この3つの駆動技術が加わることで、RGB独立駆動LEDバックライトのメリットをさらに引き出すことができるのですね。
相馬 はい。これらの技術を生かして、映画の感動をより家庭でも体験してもらえるようにしたいと思っております。
麻倉 どれも素晴らしい技術だと思います。ちなみに、2008年のXR1でのRGB LEDバックライトとの一番の違いはどこになるのでしょう?
相馬 小さなLEDが作れるようになり、その結果LEDをたくさん実装できるようになりました。XR1の頃は大きなパッケージだったので、なかなか多くのLEDをバックライト用に積むことができなかったのです。また、ここまで緻密なバックライトコントロールを実現できたことも大きな進歩だと思います。
麻倉 確かに、ここまで細かい制御技術を入れ込んだのか! と驚きました。
相馬 少しやりすぎたかもしれませんね(笑)。またXR1は2Kでしたが、今回は4K解像度ですし、ローカルディミングのプロセッサーも、白色の明るさだけを制御するのではなく、RGBそれぞれの輝度を調整していますので、当時とは比較にならない処理能力が求められます。CPUやパネルの技術が進化して、ようやく今回、それなりの価格でRGB独立駆動LEDバックライト搭載機が作れるようになったということです。
麻倉 ところで、今回のLEDはサイズとしてはMini LEDと考えていいんですか?
相馬 RGB独立駆動LEDバックライト自体はRGBの3色独立駆動ができるLEDであれば可能ですので、サイズにはこだわっていません。コストや画面サイズ次第でどんなサイズのLEDを使うかを考えていきたいと思っています。
麻倉 もっと大きい画面サイズならLEDも大きくできるかもしれないし、その逆もあり得るということですね。最終的にはCrystalLEDのように、画素ごとにLEDを駆動するといった方法もあります(笑)。
ところで、先程プロセッサーの進化についてお話がありましたが、LEDの数も増えて、さらにRGBを個別駆動するとなるとかなりの処理能力が必要です。BRAVIA 9に積んでいる「XR」プロセッサーで対応できるのでしょうか?
池山 おっしゃる通り、より高度な処理能力が必要になりますので現行のプロセッサーに加えて、今回新たにRGB独立駆動用の専用デバイスを作っています。
麻倉 ローカルディミングのブロックサイズは一定の大きさがあります。それぞれブロックの境目で色をどう揃えるかもたいへんだったのではないでしょうか?
池山 そこはひじょうに難しい問題でした。今回は液晶セルの開口率を細かく調整して、つなぎめが滑らかになるように配慮しています。
麻倉 細かい部分での液晶パネルとバックライトの変調度のすり合わせは結構難しいでしょうから、ここは絵作りでも重要になるでしょう。今日見せていただいた映像はかなり繊細でしたし、エッジにオーバーシュートのようなクロストークもない。この段階でよく仕上がっていると思います。
池山 ありがとうございます。単純にバックライトをRGB独立駆動LEDに変えたらこれができるのかというと、そんなことはありません。いかに液晶パネル側で逆補正をかけるか、1個1個の液晶セルでどう絵作りするかがノウハウだと思っています。
麻倉 そこがポイントなりますね。ところで、これだけ明るいのは、やはりLEDの数が多いからなのでしょうか?
相馬 いえ、高輝度については別の技術で実現しています。
麻倉 黒輝度の再現についてはどうでしょう?
相馬 ダイナミックマスタードライブ技術で精密に輝度をコントロールしています。自発光のOLED同等とはいいませんが、かなり近いところまで再現できているのではないかと思っています。全体としての黒浮きは確実に少なくなっているはずです。

RGB独立駆動LEDバックライトについて解説してくれた皆さん。向かって左から土橋さん、相馬さん、苗さん、麻倉さん、秋山さん、池山さん、高橋さん
麻倉 最後に、RGB独立駆動LEDバックライトの開発で特に苦労した、あるいは今も苦労している点は?
池山 ブルーミングとか液晶のクロストークが出ないように、制御アルゴリズムもいちからやり直しています。今まではローカルディミングも白色でやっていたので、RGBを独立で動かすというのは今回初めてでした。
麻倉 XR1ではローカルディミングはやっていなかったんですか?
池山 ローカルディミングも搭載していました。ただXR1ではRGB LEDを均等に光らせて白色を得ていて、RGB独立制御は行っていませんでした。今回はRGBを別々に駆動している点が初めてになります。
麻倉 なるほど、XR1はRGB LEDで白を再現していたと。確かにそれだと色に違いが出てきますね。
相馬 RGBで光っていますので、スペクトルの純度は高くなって広色域が得られますが、方式としては白いバックライトでした。
麻倉 RGBが独立で動くというのは今回が本当に初めてなんですね。これは一朝一夕では実現できませんね。
苗 そうですね、それなりに前から企画をしていました。
麻倉 今日の映像を見る限り、BRAVIA 9も結構頑張っていると思いますが、見比べるとRGB LEDの方がさらに色鮮やかに感じます。
相馬 BRAVIA 9の場合は青色LEDを光らせて、QDシートで白に変えていますので、RGBのスペクトラムとしてはどうしてもRGB LEDには叶いません。今回はRGBそれぞれのLEDが単独で光っていますので、色をより高純度で取り出すことができるのです。特に赤色はシャープなスペクトラム特性を実現できています。
麻倉 QD-OLEDで広色域を目指す方法もあると思いますが、こちらの方が将来性があるという判断でしょうか?
相馬 映画再生にフォーカスするためには、大画面化も欠かせないと考えています。となるとOLEDでは限界があるかもしれません。
麻倉 なるほど、確かに日本でもより大きなサイズのテレビが人気になりそうです。RGB独立駆動LEDバックライトなら、色域の広さや階調感についても期待できそうです。
相馬 RGB独立駆動LEDバックライトならバックライト側で階調性も出せますし、液晶パネル側で階調を再現できます。そういった意味では表現力の幅は広がると考えています。
麻倉 RGB独立駆動LEDバックライト搭載機は、今年中に登場しそうですか?
苗 今回はあくまでも技術発表ですので、スケジュールは決まっていません。これから皆様のご意見をうかがいながら、商品化の準備を進めていきたいと考えています。
麻倉 今日は店頭モードで拝見しましたが、Stereo Sound ONLINE読者のような映画ファン、マニア層としては、暗い環境でどれくらい色純度の高い映像を楽しませてくれるかが気になりますし、一方で明るめのリビングでも高画質を楽しみたいというニーズもあると思います。RGB独立駆動LEDバックライトなら、その両方で感動画質を再現してくれると思いますので、期待します!
相馬 今回は、RGB独立駆動LEDバックライトでどれくらいの色や輝度を出せるかというポテンシャルを体験いただきました。今後はそれをベースに、商品化に向けて色々な映像モードを仕上げていきたいと思っています。
麻倉 基本的にリソースは多いほうがいいですからね。BRAVIA 9と比べても基礎体力がかなりあることはよくわかりましたので、ぜひこの基礎体力を生かした製品に仕上げてください。
(まとめ:泉 哲也)




