電気回路の動作の基準点となるのがアース(グラウンドとも呼ばれる)。オーディオ機器の中には回路基板上のアース(グラウンド)部分に信号を落とし、アースの面積や形を吟味して電位を安定させたものが存在するが、実際には回路基板からグラウンド線を引き出してシャーシ(筐体)に落としている製品のほうが多い。面積の広いシャーシに落とすことによって回路の安定性が増すからだ。

 しかし、それでは不満だという人も相当数いて、昨今話題となっているのが「仮想アース」。オーディオ機器とケーブルで繋ぐことでグラウンド電位を安定させてノイズを抑え、音質を改善するというもの。実際に試してみて「めちゃくちゃ効いた!」という人と「ん?よくわからなかった」という人がいるが、これまでの経験上ぼくは総じて後者の人だった。

 しかし、そんなぼくを「こりゃたしかに効くぞ!」と驚かせた製品が登場した。米国Increcable(インクレケーブル)社の、パッシブ型アクセサリー「iEARTH(アイアース)」だ。このシリーズの製品は“Mechanical Vibration Decoupling Earth Box”と呼ばれ、いわゆる「仮想アース」ではないが同様の使い方をするアイテムであり、端子の種類別に6モデルが用意される。ここではこの5月に発売された3モデル、LAN(RJ45)端子用のEBN-3、同軸デジタル端子用のEBD-3、HDMI端子用のEBV-3を使用した画質・音質のインプレッションをお届けしたい(この3モデル、上部が色分けされていて、EBN-3がブルー、EBD-3がグレー、EBV-3がブラックとなる)。

 この3モデルは、それぞれのターゲット(端子)特有のノイズに合わせて専用設計されているが、以下の共通機能がある。

①接続した機器の信号に含まれたノイズを収集し、除去する。

②ベース部(設置部)のECコネクタによって静電気を集めて除去し、さらに振動を吸収して電力に変換する。

③下に設置されている機器を効果的に制振する。

②③の効果を得るためには接続した機器の上にiEARTHを置いたほうが良いというわけだ。

 

画像1: 『Increcable iEARTH 』これは、たしかに効く!画質/音質両面での大きな効果に驚嘆。導入を決めた!【厳選アクセサリーチェック】

Mechanical Vibration Decoupling Earth Box
INCRECABLE iEARTH
各 ¥165,000 税込

● 寸法/質量: W155×H60×D105mm(リンクケーブル使用時は高さ130mm)/約950g
● 付属品: リンクケーブル2本、機器接続用ケーブル(750mm長/端子部除く)、ポジションニング・パッド
● 備考: 機器接続用ケーブルは特注が可能
● 問合せ先:(株)タクトシュトック TEL. 042(316)9517

 

画像2: 『Increcable iEARTH 』これは、たしかに効く!画質/音質両面での大きな効果に驚嘆。導入を決めた!【厳選アクセサリーチェック】

電気的意味とメカニカル的な意味の両者を総合したオーバーオールなアース制御を、信号種別ごとに最適化したという非常にユニークなアクセサリー。手のひらに乗るようなサイズではあるが、精度感に優れた仕上げにも注目したい

 

画像3: 『Increcable iEARTH 』これは、たしかに効く!画質/音質両面での大きな効果に驚嘆。導入を決めた!【厳選アクセサリーチェック】

底面には静電気を集める「ECコネクタ」と呼ばれる、ボール状のパーツが取り付けられており、静電気や機器の微細な振動を収集、振動をエネルギーに変換しノイズを除去する役割が与えられている

 

 

輝度が伸びコントラストが高まるHDMI用EBV-3の効果は明確だ

 まずHDMI端子用のEBV-3をパナソニックの有機ELテレビTV-65Z95AのHDMI端子に繋いだ効果を報告する(接続図A)。同梱されたリンク用ケーブルを用いて本体上部のふたつのモジュールを連結、もうひとつのリンク用ケーブルでモジュールと静電気ポールを接続する。この結線を行なった後に、パナソニックのレコーダーDMR-ZR1の出力をフィバーのHDMIケーブルで65Z95AのHDMI1端子に繋ぎ、EBV-3をHDMI2端子に接続した。あいにく薄型テレビの65Z95Aの上にEDV-3を置くことはできないので、ラック上に設置することにした。②と③の効果は得られないことになるが、それでも明らかな画質向上が実感できたのである。

 

画像5: 『Increcable iEARTH 』これは、たしかに効く!画質/音質両面での大きな効果に驚嘆。導入を決めた!【厳選アクセサリーチェック】

まず有機ELビエラTV-65Z95AのHDMI端子にEBV-3を装着し効果を確認した(接続A)。さらに、パナソニック4KレコーダーDMR-ZR1からのAVセンターへは、HDMIのシングル接続にしていたので、ZR1の空いているHDMI SUB端子にEBV-3を繋いだ

 

 

 ビスタビジョン・フィルムを13K解像度でキャプチャーし、6.5Kワークフローで制作された超高画質米盤UHDブルーレイ、ジョン・フォード監督の『捜索者』を観てみよう。夜の室内場面の暗部は、EBV-3を繋ぐとペデスタルの黒がぐっと沈み、暗部階調がより精妙に描かれることがわかった。復讐のためにジョン・ウェイン一党がコマンチ族を追いかける朝の場面、白ピークがグッと伸び、ピーカンの空と砂漠の大地のコントラストがより明瞭になる効果が。また、青空に浮かぶ白い雲で気になったノイズがより細かくなり、ハイライトの階調がより精妙に描かれることも確認できた。なるほど、EBV-3のノイズ除去効果は明らかだ。

 米盤UHDブルーレイ『北北西に進路を取れ』でも同様の効果があった。冒頭のケーリー・グラント演じる主人公の白ワイシャツの鮮やかさが強調されるし、女性秘書が着るネイビーの服の色はより濃厚で鮮やかな印象を受ける。しかし、ケーリー・グラントのグレーのスーツ姿はかっこよくて惚れ惚れするなぁ。世界でいちばんスーツが似合うのはこの時代の彼かも。EBV-3のそんなことをありありとわからせてくれるのだった。

 クエンティン・タランティーノ監督の傑作『パルプ・フィクション』のUHDブルーレイも観た。ジョン・トラボルタとユマ・サーマンがクラブで踊るめちゃ楽しい場面、EBV-3を繋ぐことでコントラストが向上し、二人の目の輝きがよりリアルに。それからノイズレベルが下がって、色濃度が上がることで、この映画の確信犯的チープな味わいが増していっそう楽しく観ることができたのだった。

 次に4KレコーダーのDMR-ZR1の上にEBV-3を載せ、HDMI SUB端子と接続してみた。先述のUHDブルーレイを続けざまに観てみたが、たしかにノイズ低減効果とコントラストの向上は実感できたが、正直言うとテレビの65Z95Aに挿したときのほうがEBV-3の効果が上回ることがわかった。ZR1の上に載せると②と③の効果が得られるはずなのだが……。

 では、AVセンターにEBV-3を接続した場合はどうか。デノンAVC-A1Hのリピーター機能を用いてZR1のHDMI出力をA1H経由で65Z95AにHDMI接続する(接続図B)。

 

画像6: 『Increcable iEARTH 』これは、たしかに効く!画質/音質両面での大きな効果に驚嘆。導入を決めた!【厳選アクセサリーチェック】
画像7: 『Increcable iEARTH 』これは、たしかに効く!画質/音質両面での大きな効果に驚嘆。導入を決めた!【厳選アクセサリーチェック】

AVセンターは様々な端子がひしめき合っているが、そこでの効果を試す。HDMI入力とHDMI出力を両者を試すと、入力端子にEBV-3を繋いだ方が高い効能を示した(接続B)。さらにAVセンターのHDMI入力にEBV-3を、同時に同軸デジタル入力端子にEBD-3を繋ぎ、さらにテレビのLAN端子にEBN-3を繋いだのが接続C。扱っているノイズ成分が異なるためか、効果が増強される印象だった

 

 

 ZR1を繋いだ<BD/HDMI3>入力の隣の<MEDIA PLAYER/HDMI2>入力にEBV-3を挿した場合と、A1Hの空いているHDMI出力<Monitor2>に挿した場合を米盤UHDブルーレイ『捜索者』で比較してみた。違いはないのでは? と予想したのだが、実際には<MEDIA PLAYER /HDMI2>入力に挿したほうがコントラスト表現で勝ることが実感できた。それに加えて、A1HのLAN端子にEBN-3を追加挿入してみたが、こちらは有意な画質向上は認められなかった。そこで別の場所での効果を探るべく、テレビの65Z95AのHDMI入力端子にEBV-3を挿したまま、(65Z95Aの)LAN端子にEBN-3を接続し、A1Hの同軸デジタル入力端子にEBD-3を挿してみたところ(接続図C)、予想以上のコントラスト向上とディテイル表現の改善が認められた。う~む、闇雲に3つのiEARTHを挿してみたのだが……、いずれにせよAVセンター周りはノイズの巣窟なのだろう、大いにiEARTHを活用すべきだと思った。

 では、プロジェクターに使った場合はどうだろう。HiVi視聴室後方のラックに置かれたビクターDLA-V90Rの上にEBV-3を載せ、空いているHDMI入力2に接続する。『北北西に進路を取れ』でその効果を調べてみたが、テレビに挿した場合とほぼ同じ効果が得られた。特に顕著だったのは、アップで描かれるヒロイン役エヴァ・マリー・セイントの顔に乗るノイズの粒子がより細かくなり、映像全体のヌケがよくなることだった。『捜索者』でも砂煙がいっそうきめ細かく描写され、白ピークが伸びて目の覚めるようなコントラスト感が得られた。

 

Qobuz再生で音に効くかを試す画質向上に負けない効果あり

 画質に次いでiEARTHの音質向上効果を調べてみよう。USB-DAC接続機能を持つデラのミュージックサーバーN1A/3のUSB出力をデノンのSACD/CDプレーヤーDCD-SX1 LIMITEDに繋ぎ、同じデノンのプリメインアンプPMA-SX1 LIMITEDでBowers & Wilkins 802 D4を鳴らすというテスト環境だ。

 まずデラN1A/3のふたつあるLAN端子のひとつにEBN-3を挿して(接続D)、音楽ストリーミングサービスQobuzを用いて愛聴デジタルファイルをいくつか聴いてみたが、画質向上に負けない音質向上効果が実感できた。ジェイミソン・ロスのジャズ・バラードでは、ヴォーカル音像がシャープに絞られ、ベースやキックなどの音にじみが減少する効果が。韓国人女性ジャズ・シンガー、ユン・サン・ナの優秀録音「シェナンドー」でもヴォーカルのファントム音像が口元に小さく定位する効果が確認できた。ベースの実在感の豊かさや静寂の気韻の深さも明らかに向上する。

 

画像8: 『Increcable iEARTH 』これは、たしかに効く!画質/音質両面での大きな効果に驚嘆。導入を決めた!【厳選アクセサリーチェック】
画像9: 『Increcable iEARTH 』これは、たしかに効く!画質/音質両面での大きな効果に驚嘆。導入を決めた!【厳選アクセサリーチェック】

Qobuzを使ってオーディオ再生での効果を試す。デラのミュージックサーバーN1A/3はLAN(RJ45)端子を2系統装備しているので、空き端子にEBN-3を繋ぐ(接続D)

 

 

 デラにEBN-3を挿したまま、DCD-SX1 LIMITEDの同軸デジタル端子にEBD-3を接続してみた(接続E)。この効果はとりわけ大きかった。ユン・サン・ナの楽曲などバックグラウンドがいっそう静かになり、余韻がいっそう深くなるのである。しみじみとした哀感が増したと言ってもいいだろう。

 なるほどEBD-3を加える効果はとても大きそうだ。そこでデラのN1A/3からEBN-3を外し、DCD-SX1 LIMITEDの同軸デジタル入力端子にEBD-3だけを接続し、その効能を調べてみた(接続F)。内田光子がクリーブランド管弦楽団を弾き振りしたモーツァルトのピアノ協奏曲でチェックしてみたが、ステージ上の暗騒音がよりクリアーに聴こえ、ホールプレゼンスがより豊かになることがわかった。ピアノの実在感、オケのスケール感も明らかに増す。

 

画像10: 『Increcable iEARTH 』これは、たしかに効く!画質/音質両面での大きな効果に驚嘆。導入を決めた!【厳選アクセサリーチェック】
画像11: 『Increcable iEARTH 』これは、たしかに効く!画質/音質両面での大きな効果に驚嘆。導入を決めた!【厳選アクセサリーチェック】

さらにUSB-DACとして使ったデノンのSACD/CDプレーヤーDCD-SX1 LIMITEDの同軸デジタル入力にEBD-3を繋いでみた。前段のN1A/3にEBN-3を用いたとき(接続E)と、外したとき(接続F)のいずれも効能が確認できた。今回は試していないが、この結果から推測すると単体のSACD/CDプレーヤーにEBD-3を使っても、音質改善効果は得られるはずだ 

 

 

 デラのLAN端子にもう一度EBN-3だけを挿してその効果を再確認してみたが、やはりファントム音像のシャープさや高さ方向の音の広がりが向上することがわかった。同軸デジタル端子用EBD-3とLAN端子用EBN-3、どちらも効果絶大だが、音楽ストリーミングサービスがリスニング生活の中心になったという方は、後者をまず導入するといいだろう。

 インクレケーブルのiEARTHはちょっと試してみるかというにはやや高価かもしれないが、ある程度再生システムを吟味し、使いこなしているケースでは大きな効果が得られることは間違いないだろう。ぼくは自室用にまずHDMI端子用のEBV-3を導入することを決めました。

 

[使用した機器]

● 8Kプロジェクター : ビクターDLA-V90R
● スクリーン : キクチDressty 4K G2
● 有機ELディスプレイ : パナソニックTV-65Z95A
● 4Kレコーダー : パナソニックDMR-ZR1
● AVセンター : デノンAVC-A1H
● スピーカーシステム : Bowers & Wilkins 802 D4、805 D4、イクリプスTD508MK4、TD725SWMK2(以上、オーディオビジュアル再生)
● CD/SACDプレーヤー : デノンDCD-SX1 LIMITED
● プリメインアンプ : デノンPMA-SX1 LIMITED
● スピーカーシステム : Bowers & Wilkins 802 D4
● ミュージックサーバー : デラN1A/3
● スイッチングハブ : バッファローBS-GS2016/A(以上、オーディオ再生)

 

 

>本記事の掲載は『HiVi 2025年夏号』

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