ある程度の年齢に達して、期待しすぎることのむなしさ、悲しみに暮れてばかりいることの無益さも知った。尊厳を侮辱されたりしないのであれば、多少いやなことがあろうとも、つとめておだやかでありたい。そんな私やあなたには、特に重みのある一作として響くはずだ。

 基本的には同い年のふたりによる物語である。舞台はニューヨークのブルックリン。シルヴィアはソーシャルワーカーとして働きながら娘と暮らしている。もう一人の主人公であるシールは、若年性認知症による記憶障害を抱えている。ふたりはたまたまハイスクールの同窓会で出会ったのだが、学生時代には「かすりもしなかった」。かつて同じ場所にいたものの接点のなかったふたりが、「ソーシャルワーカー」と「若年性認知症患者」として新しい日々を踏み出していく。物語が進むと、そこにシルヴィアの過去なども織り込まれ、さらなる深みへといざなわれるのだが、つまりシルヴィアもシールも実は期せずして長い間「同じ月を見ていた」。そうした印象が、重く沈みがちな作品テーマに軽やかさを与えている。プロコル・ハルムの大ヒット曲「青い影」の使い方も絶妙だ。

 監督はミシェル・フランコ、主演はジェシカ・チャステイン、ピーター・サースガード。ピーターはこの映画で第80回ヴェネチア国際映画祭 コンペティション部門男優賞を獲った。

映画『あの歌を憶えている』

2月21日(金)より新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下ほか全国順次公開

監督・脚本:ミシェル・フランコ
出演:ジェシカ・チャステイン、ピーター・サースガード、メリット・ウェヴァー、ブルック・ティンバー、エルシー・フィッシャー、ジェシカ・ハーパーほか
原題:MEMORY/2023年/103 分/アメリカ・メキシコ/英語/シネマスコープ/5.1ch /日本語字幕:大西公子/配給・宣伝:セテラ・インターナショナル
(C) DONDE QUEMA EL SOL S.A.P.I. DE C.V. 2023

第80回 ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門 男優賞受賞
(ピーター・サースガード)

第80回 ヴェネチア国際映画祭 最優秀作品賞 ノミネート
第7回 ブリュッセル国際映画祭 最優秀作品賞 ノミネート
第41回 ミュンヘン映画祭 外国語映画賞 ノミネート
第40回インディペンデント・スピリット賞 ベストリードパフォーマンス賞(ジェシカ・チャステイン) ノミネート

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