2014年のブランド創立以来、クォリティと機能性/操作性の両面で新たな提案を積極的に行ない、ネットワークオーディオの魅力を広く知らしめてきたDELA(デラ)。ルーターとネットワークオーディオ機器の間に入り、外来ノイズの影響を抑えるネットワークスイッチ(いわゆるハブ)に限定しても、数々の優秀モデルを製品化し、送り出している。
Switching Hub
DELA S1-X-J
¥1,430,000 (シルバー) 税込
●型式 : ネットワークスイッチ
●接続端子 : RJ-45端子7系統、SFP+端子4系統、マスタークロック入力1系統(BNC)、USB Type A端子1系統(電源給電専用)
●リンク速度 : RJ-45端子:10Mbps、100Mbps、1Gbps、SFP+:1Gbps、10Gbps。以上、前面スイッチで個別設定可能
●カラリング : シルバー(写真)、ブラック(S1-XB-J、¥1,540,000 税込 )
●寸法/質量 : W440×H82×D353mm/約14kg
●備考 : カテゴリー6 LANケーブル1m品付属
●問合せ先 : バッファローサポートセンター TEL. 057(086)086
ここで取り上げるS1-X-Jは、電源回路、ノイズ対策、筐体設計と、高級オーディオ機器の流儀をそのまま持ち込んで開発された最高峰ネットワークスイッチである。音質へのこだわりは同社ネットワークスイッチとして初となるフルサイズ設計を見ても明らかだ。
3mm厚のステンレスシャーシに、アルミ削り出し部材を多用した二重構造の筐体は、各方面から高い評価を得ているミュージックライブラリーの最上位機であるN1-S38-J譲り。重厚感のある四隅ブロック、ネジ穴のないトップカバーが高級オーディオ機器の雰囲気をかもしだしている。
他にも、内部クロックとして位相ノイズの小さいNDK社製低位相ノイズクロックを採用したり、クロック入力端子を備え10MHzの外部クロックが接続可能になったり、大容量トランスと大容量コンデンサーを奢った電源回路を搭載したりと、N1-S38-Jでも実績ある技術が目につく。またLAN接続用のRJ-45ポートを嵌合性に優れ、堅牢性の高いノイトリック社製としているのも、N1-S38-Jと同一だ。
入力はRJ-45ポート7系統に加えて、近年、その重要性が高まっている互換のSFP+ポート4系統という構成となる。さらに全ポートの通信速度が可変できる前面ボタンが配置され、RJ-45ポートは10Mbps/100Mbps/1Gbpsの3種類の速度設定が可能。SFP+ポートは10Gbps対応規格であるが、下位規格の1Gbps対応SFPポートとして動作するよう切り替えできる。通信速度が任意に変更できるだけでなく、未使用のポート自体の動作を無効化し、空きポートの影響を排除することも可能だ。
その設定状態(通信速度)は前面フルカラーLEDによって表示され、ひと目で確認できる。また前面の左右にある稼働状況を示すLEDと、ボタン部のカラーLEDは、ディマーボタンで消灯あるいは明度を抑えられるため、AV用としても使いやすい。
機能はいわゆるネットワークハブではあるが、ポートごとに有効/無効が設定できるほか、前面ボタンで速度設定も容易く行なえる。10MHzクロック入力端子も備わり、まさにハイエンドオーディオ流儀の設計手法で作られている。電源はリニアタイプとなる
背面のSFP+端子(上段)とRJ-45端子(下段)の各ポートに対応するボタンを前面に配置。ボタンを押すだけで通信速度の切り替えならびに無効の設定が可能だ。96kHz/24ビットまでの比較的転送速度を要求されないオーディオ再生時にはあえて低速(10Mbps)に設定、11.2MHzのDSDなど高速伝送が必要な場合は高速(1Gbps)設定にするなどの使いこなしが可能(RJ-45の場合)。オーディオ再生時にAV関連機器の接続を無効にする設定も、大きな変化をみせるので、使いこなしがいのあるコンポーネントだ
スイッチングハブとしての純粋な効果が高い。Apple TV 4K再生映像も大変化
では早速、実力を検証していこう。HiVi視聴室の基本セッティング(接続①)で基本的な画質、音質を確認して、S1-X-Jの視聴に入ることにしよう。なお、今回の取材の前にデラ社内の試聴室でTADスピーカーを用いたピュアオーディオシステムで音質のチェックも行なっており、音質向上の確かな効果を確認している。本リポートではHiVi視聴室でApple TV 4K端末を使用し、主にApple Music とApple TVというふたつの音楽/動画配信サービスでテストした結果を詳説していく。ディスプレイはパナソニックの有機ELテレビTV-65Z95Aを用いた。
HiVi視聴室では、スイッチングハブとして業務用機をベースに上段8ポートを遮断し、ノイズの影響を軽減したバッファロー製BS-GS2016/Aをリファレンス機器として使用中だが、通常の取材で画質、音質ともにそのクォリティに不満を感じたことはない。今回は映画『DUNE/デューン 砂の惑星』、『Famous Blue Raincoat/ジェニファー・ウォーンズ』を中心に再生したが、精細感に富んだ見通しのいい4K映像といい、躍動感に溢れたサウンドといい、BS-GS2016/Aでも、十分に満足のいくパフォーマンスが確認できた。
これを1つの基準として、S1-X-Jの導入でいったいどれほどの変化が得られるのか。ではまず視聴室の基本セッティングの状態(接続①)からBS-GS2016/AをS1-X-Jに入れ換えてみよう(接続②)。Apple TVで『DUNE/デューン 砂の惑星』の冒頭から再生開始する。数分の間、ゼンデイアが演じるフレメンの少女チャニのナレーションが続くが、彼女の声が心なしか力強くなり、その背景に拡がる効果音、音楽と、それぞれがキレイに分離して、階層的に拡がっていく。S/N改善による効果だと思われるが、明らかに声の鮮度が高く、映像との馴染みがいい。
ティモシー・シャラメとレベッカ・ファーガソンが扮するポール・アトレイディスとその母レディ・ジェシカ母子の朝食シーンに移ると、横から朝日が差し込み、光と影が複雑に交錯して2人の姿を映し出される。
ドルビービジョン方式のHDRの器の大きさを積極的に活かした絵柄だが、S1-X-Jが入ったことでハイライトがすっきり伸びて、同時に肌のディテイル、髪の毛のグラデーションがより柔らかな風合いで描き出される。単にノイズが抑えられるだけでなく、映像としての品位感がワンランク上がったような印象だった。
こうなると音質向上への期待も高まる。Apple Musicで「First We Take Manhattan」を再生すると、音の勢い、分解能、空間の描き分けと、再生から数秒後には、確かな音質の違いが確認できる。
特に中低域に厚み、強さが加わることで、帯域バランスとしても安定感が増して、アップテンポのリズムでも足元がふらつかない。強靱かつ晴れやかなサウンド。HDMI接続でここまで大きく変わるとは……、驚いた。
ここまではルーター/S1-X-J/Apple TV 4K端末をつなぐ2本のLANケーブルにデラ製カテゴリー6ケーブルを使用していたが、それぞれをエイムNA9LANケーブルと入れ換えてみた(接続③)。異素材4層による徹底したシールド構造に加え、テレガートナー製のコネクターを奢った高級ケーブルで、こだわりのローノイズ伝送設計が特徴的だ。
まずは『DUNE/デューン~』の再生から。母子2人の朝食シーンの前に、日の出直後の朝日を浴びた雄大な雲海が映し出されるが、雲のフワッとした質感と、白い雲のなかのディテイルにドキッとさせられる。
HiVi視聴室の基本セッティング(接続①)で見た雲海は、白い巨大な固まりのように感じられたが、S1-X-Jを使った接続③では、表面の微妙な凹凸、粒子まで感じ取れるようになり、手を伸ばして触れてみたい気分になるほど。もちろんパナソニックの65インチ有機ELテレビの表現力によるところもあるが、ここまで緻密に、繊細に描き出された雲海は初めてだ。
続く朝食シーンでも、ハイライトの解像力、中間調のグラデーション、そして微小信号の描写力と映像としてのグレードが高い。肌の描写が生々しく、特にレベッカ・ファーガソンのシミソバカスと思われる細かな斑点が浮き上り、体温まで感じさせる彼女の肌を凝視してしまった。
「First We Take Manhattan」では、低域の力強さが増して、空間もより開放的に描き出す印象だが、音調としてはあくまでも穏やか。歌声は艶やかで、ビブラートの揺れの表現も緻密だ。繊細さと力強さを併せ持ったような聴かせ方で、さらに音量を上げて聴きたくなるようなクォリティ感だった。
ここで通信速度を変えて、その音の変化に着目してみよう。まず1Gbpsの状態から一気に10Mbpsまで落としてみたが、大人しい、平板な表現になってしまった。帯域バランスはそれなりに整っていて、聴き心地も悪くはないが、ジェニファー・ウォーンズの歌声はやや渇き気味で、ニュアンスも淡白。さっぱりしすぎてしまい、楽しくない。
最も好ましいと感じたのが、100Mbpsの設定。微小信号の表現、空間の静けさ、ベースの躍動と、聴いていて素直に楽しいと感じるサウンドで、バスドラ、スネアドラムの切れ味も鋭い。音の芯、骨格を明確に感じさせる分解能の高さで、空間の拡がりもスムーズ。彼女独特の軽やかな歌声から微妙な息づかいまで感じ取ることができた。
高品位ネットワーク再生に不可欠。これぞオーディオコンポーネントだ
では最後にBS-GS2016/AとS1-X-Jとの間にデラのSFPモジュール+光ケーブルのセット品OP-S100/050を使い、SFP端子経由での光絶縁を試してみよう(接続④)。電気的に完全に絶縁することで、ノイズを遮断するのが狙いだ。
まず『DUNE/デューン~』の再生から。冒頭部、日の出直後、横からの太陽光を受けて、スパイスの粒子が砂漠に漂い、宙に舞うシーンが映し出されるが、浮き上がる粒子の量が明らかに多く、鈍い輝き、反射光も感じ取りやすい。砂の粒子感、表面の階調、陰影のグラデーションと、細部の描き分けに曖昧さがなく、手前から遠方まで実に見通しがいい。そしてポールがシャーロット・ランプリング演じる教母と対峙するシーン。まず「Come here. Kneel!」と発せられる“ボイス”の迫力、吸引力に驚かされ、ネット越しに見える教母の険しい表情も新鮮だ。
光絶縁がない状態でも、S1-X-Jを組み込んだ接続②では、顔を覆ったネットの素材感やその奥の瞳の輝きがより鮮明に感じられるようになったが、接続④ではそれ以上にシャドウ部のざわつきが抑えられ、肌の滑らかな質感まで感じられる、大きな変化があった。巨大な洞窟を思わせるような暗い空間だけに、S/N、階調性は相当厳しいシーンだが、グラデーションの推移が緻密で、安定感が増している。
「First We Take Manhattan」の再生は音の粒子まで感じさせる繊細な感触が特徴的で、濁りのない芳醇な響きが実に心地いい。画質、音質の両面で、光絶縁の恩恵は極めて大きいことが確認できた。
ネットワークオーディオシステムの構築を考えるうえで、ネットワークスイッチはどうしても脇役として扱われがちだが、今回の取材ではその認識が明らかに間違いであることが分かった。ネットワークオーディオの酸いも甘いも知り尽くしたデラが総力を上げて開発した「オーディオコンポーネント」。S1-X-Jが1台あると、ネットワークを用いたシステム全体のクォリティが大きく押し上げられることは確かだ。
リファレンス機器
●有機ELディスプレイ : パナソニックTV-65Z95A
●ストリーミング端末 : Apple TV 4K
●AVセンター : デノンAVC-A1H
●スピーカーシステム : モニターオーディオPL300Ⅱ、PL200Ⅱ、PL100Ⅱ、イクリプスTD508MK3、TD725SWMK2、ほか
>本記事の掲載は『HiVi 2025年冬号』