2018年発売のソナス・ファベールSonettoシリーズがフルモデルチェンジし、第2世代の「G2」に生まれ変わった。2024年CESで発表され全世界に衝撃を与えた超弩級フラッグシップSupremaにて開発の最新技術が早くも導入されたのが話題だ。Supremaは7月の東京インターナショナルオーディオショーで体験し、深い感銘を受けた。
G2シリーズはブックシェルフ型×2、フロア型×2、センター×1本1、壁掛け×1という陣容。質の良いサブウーファーと組み合わせれば、サラウンドシステムが編める。後半記事では、実際に組んで音質を確かめている。同ブランドでも”Gravis” というサブウーファーを発売しており、音色も揃うだろう。
まずSupremaの開発技術から採用されたのが、
①ミッドレンジは特徴的な「Camelia」形状。ペーパーコーンの外周部をトスカーナ地方のカメリア(椿)の花にように、5箇所をカットし、真円の外周部共鳴を抑えた。ミッドウーファーとウーファーは同じ技術を採用したサラウンドエッジが装着される。
②エッジ形状を回折現象を抑えるため凹型に。
③内部チェンバーにコルクを採用。伝播と共鳴、定在波を最適化させた、以上の3点である。
ブックシェルフからフロアー、センターのシリーズに共通する仕様は次の4点。
(A)トゥイーターユニットが28mmシルク・ソフトドーム。ドーム頂点をダンピングさせることで、ボイスコイルの逆相挙動を抑制している。
(B)ボトム・バスレフ構造。バスレフポートを底面に設置。フロア型では低音を360度に拡散、ブックシェルフ型では前方に向けて放出させる。
(C)ベース。全モデルとスタンドの底面には、剛性と制振性に優れる石灰石コンクリート製「Calcare Base(カルカーレ・ベース)」を装着。
(D)伝統の古楽器リュートをリスペクトしたキャビネット・デザイン。天然木突き板仕上げ。側面から正面にかけては継ぎ目のない1枚板で、木目を統一。天面は、木目が45度の角度で交わり、中央に“Sf”のロゴを配す。
28mm口径シルクソフトドームユニットを全シリーズ製品に搭載。ドーム頂点をダンピングさせてボイスコイルの逆相挙動を抑制し、音の透明度を向上させる、独自技術「アローポイントDAD(Damped Apex Dome)」を採用している
先に発表された超弩級モデルSupremaのために開発された「Camelia Midrange(カメリア・ミッドレンジ)」ユニットを3ウェイ機(Sonetto Ⅴ G2、Sonetto Ⅷ G2、Sonetto Center G2)に搭載。円周部の5箇所をカットし、円形コーン特有の共鳴を抑制させる独特の形状となる。素材はセルソース・パルプであえて着色していない。G2シリーズの目玉となるテクノロジーだ
ウーファーユニットは、ポリメタクリルイミドフォームという化学系素材をペーパーコーンでサンドイッチした振動板素材を採用。極太エッジにも注目したい
ステレオ再生で試す。個性は異なるがいずれも魅力
では、ブックシェルフ型2機種とフロアースタンディング型2機種をステレオ再生で聴く。曲はお馴染みのUAレコードの「チーク・トウ・チーク/情家みえ」と、23歳のフィンランドのタルモ・ペルトコスキがドイツ・カンマーフィルを指揮したモーツァルトの交響曲第35番《ハフナー》第1楽章。躍動とハイテンションをどう再現するか。
Sonetto I G2/音楽的に濃く、しかも鮮烈
軽やかでヴィヴィッド。「チーク〜」では高域まですっきりと伸び、音の粒子が細やかで、情感表現が丁寧だ。ファントム・センターには実体的に音像が結ばれる。「ハフナー」も、俊速にて先鋭的なフレージングが目覚ましい。本演奏のアグレッシブさが潔癖に明敏に描かれ、音進行の鮮烈さが部屋の空気を引き裂く。音楽的な濃さとオーディオ的なクリアーさが高密度に同居している。
Sonetto II G2/ハイフォーカスで高品位
28mmトゥイーター+165mmウーファー搭載ブックシェルフ型2ウェイ2スピーカー。Ⅰに比べてウーファーが大型化し、量感が増したが、俊敏さはむしろ向上している。「チーク〜」で印象的なのが、フォーカスの鋭さ。音の粒子が細かくなり、音像のピントだけでなく、音楽的により緻密になった。音場の透明感はまさに美質。聴感上のS/Nがたいへん良く、深く見通せ、定位が確実だ。空間感も豊穣。歌のニュアンスは非常に細かな部分まで解像している。「ハフナー」は闊達にしてハイスピード。微小なアゴーギクやニュアンスまで、たいへん明確に表出している。音場解像度も高く、手前の弦、奥の木管、金管の位置まで明瞭だ。ハイフォーカスにして、高品位。
Sonetto V G2/量感も速度も優れた低域
白いカメリア・ミッドレンジが燦然と輝く。2基の165mmウーファー搭載機だから、ブックシェルフモデルのⅠとⅡとは当然、低音の量感が違う。一般的には大型化すると、低域の感覚的な速度が大なり小なり低下することが多いのだが、新Sonetto G2シリーズのフロアー型は違う。低域スピードが圧倒的に速いのである。「量感か速度か」でなく、「量感も速度も」だ。
「チーク〜」冒頭のベースのピッチカートのキレが、実に鮮鋭。ヴォーカルもピアノも清新だ。ヴォーカル音像は明晰でボディがあり、ソナスらしい健康的な色気が嬉しい。「ハフナー」は、冒頭のD音が2オクターブも一挙に急上昇する大跳躍が爽快。本演奏では飛ぶためのエネルギーを低音で溜めていることが分かった。そこから俊速かつハイテンションで進行させる駆動力の強さも刮目。雄大さと質感が同居する広大な表現力だ。
Sonetto VIII G2/クォリティと表現力を両立
ここまで新しい音描写に感心してきたが、Sonetto Ⅷ G2はスケールでも表現性でも群を抜く。音のダイナミズム、ディテイルまでの細やかな表現性、感情表現力のどの観点でも、圧倒的なクォリティを聴かせる。「チーク〜」では、ヴォーカルに潤いと色気があり、同時にハイフォーカスにて、緻密。ベースの低音が高速に躍動し、同時に巨魁なスケールも。山本剛のピアノの高質感と音像の明晰さ、生々しさに感動する。
「ハフナー」も進行の勢いが闊達でエネルギッシュ。スコアが仔細に浮かび上がるような精密感とともに、ピラミッド的な重量感もある。大きなシステムなのに、まったく時間的に鈍らず、高速で驀進するのにも驚く。音離れも俊敏で、まさに空間から音が湧き立つ。それは次元を超えた音の生命感だ。まさに新時代のソナスサウンドであり、Sonetto Ⅷ G2は刮目のクォリティと表現力を獲得したと聴いた。
サラウンド再生やいかに。質感高く、音の情報量も傑出
ではそれらを糾合した7.1chサラウンドシステムで聴こう。再生システムは別掲の通り。
ノラ・ジョーンズのロンドンの老舗「ロニー・スコッツ・ジャズ・クラブ」でのライヴBD。DTS-HDMA5.1ch信号をデノンAVC-A1Hにて7.1ch変換再生している。ドラムにブライアン・ブレイド、ベースにクリストファー・トーマスを迎えたトリオ編成。本作は、これまでも様々なサラウンド環境で聴いてきたが、ここまで質感が高く、音の情報量が多く、空間性が緻密だったのは初めて。ノラ・ジョーンズの声が表面的には非常に尖鋭なのだが、実はその表面がソフトで、しなやかなテクスチャーで覆われていることが、Sonetto G2シリーズのサラウンドサウンドで初めて分かった。芯がリジッドにして、音の表皮の肌触りが心地好い。まるで高級な綿の寝具に包まれる感じだ。鮮鋭と暖かさがハイブリッドするから、ノラ・ジョーンズは愛されるのだ。
Sonetto Centerはやや小振りだが、彼女のエモーションを細大漏らさず再現している。張りのある声にビロードなタッチが加わるのは、ソナスならではの音の付加価値だ。カメリア・ミッドレンジが良い仕事をしている。音場感も素晴らしい。Sonetto G2シリーズで統一した結果、スピーカー間の音空間が緊密につながり、ロニー・スコッツ・ジャズ・クラブの狭く濃密な空気感が聴けた。
大編成のオーケストラはどうか。ステファン・ドゥネーヴがサイトウ・キネン・オーケストラを振ったBDから「雅の鐘」。世界のトッププレイヤーたちによる高鮮鋭と柔らかさが同居する金管合奏の壮麗さと稠密さを、Sonetto G2シリーズならではの高質感で聴けたのは幸せな体験であった。サントリーホールが持つ気高さとサイトウ・キネン・オーケストラの高性能が掛け合わされた上質な臨場感こそ、本シリーズで再生している矜持であろう。
映画音響をダイナミックに しかも繊細に力強く描く
映画はどうか。レディー・ガガ主演『アリー/スター誕生』の「シャロウ」。何とっても彼女の実体感が濃い高剛性な声が圧倒的だ。質だ。ブラッドリー・クーパーに続き、優しくフラットに歌い始めるが、サビから大爆発し熱い思いを叩き付けるようにマイクにぶつける。音響的、感情的な対比をSonetto G2シリーズは、実にダイナミックに、しかも正鵠に描写する。弱音でも強音でも高質感を保ち、繊細にして強い意志を聴かせ、物理的な音の機微を通じて映画の世界につなぐ。
『オッペンハイマー』の原爆実験シーンで映画の効果音をいかに表現するのかを試す。その瞬間まで、事態の進行とともに増していくダイアローグ、音楽、サウンドエフェクト、すなわちDMSのそれぞれの緊迫感を、細部に至るまで生々しく描写する。その爆発音の衝撃は凄まじいが、決してメカニカルで刺激的な騒音とはならない。いわば「遠雷を近くで聴くような厳粛な衝撃」と表現できよう。新Sonettoは剥き出しの効果音であっても、質感という付加価値を付与するのである。
Sonetto G2シリーズはステレオ再生でも、サラウンド再生でも、ソナス・ファベールでなければ聴けない音を堪能させてくれた。今後のAVシーンのスピーカーの基幹になると確信した。
Sonus faber Sonetto G2 Series
●問合せ先 : (株)ノア TEL. 03(6902)0941
リファレンス機器
● 8Kプロジェクター : JVC DLA-V9R
● スクリーン : キクチ Dressty 4K /G2
● SACDプレーヤー : デノンDCD-SX1 LIMITED
● 4Kレコーダー : パナソニックDMR-ZR1
● プリメインアンプ : デノンPMA-SX1 LIMITED
● AVセンター : デノンAVC-A1H
● サブウーファー : イクリプスTD725SWMK2
>本記事の掲載は『HiVi 2025年冬号』