中国・深センはEversolo(エバーソロ)のミュージックストリーマーが絶好調だ。この春に中核モデル「DMP-A8」がリリースされ、「季刊HiVi」の「夏のベストバイ2024」にて「ネットワークプレーヤー部門1(100万円未満)」で見事、第1位に輝いた。セールスも好調という。その勢いに乗って弟分の「DMP-A6 Master Edition」、さらに最廉価モデルの「DMP-A6」が急遽、発売された。
外観はそっくりな兄弟モデルに、音質の違いはどれくらいある?
<両モデル共通のスペック>
●ディスプレイ:6インチ・タッチスクリーン
●内部メモリー:4GDDR4+32GeMMC
●DAC:ES9038Q2M×2
●オーディオプロセッサー:XMOS XU316
●オペアンプチップ:OPA1612
●SSDスロット:M.2 NVME 3.0 2280サポート 4Tバイトまで
●接続端子:デジタル音声入力2系統(光、同軸)、UBS Type-C/A、HDMI(AUDIO OUT)、USB Type-A×2(OTG、AUDIO OUT)、デジタル音声出力2系統(光、同軸)、アナログ音声出力2系統(XLR、RCA)、LAN
●対応フォーマット:最大768kHz/32ビット リニアPCM、DSD512
●対応音楽ストリーミングサービス:Tidal、Qobuz、Highresaudio、AmazonMusic、Deezer、Radio Paradise、WebDAV、UPnP、他
●寸法/質量:W270×H90×D187mm/3.9kg
この3つのミュージックストリーマーは多くの仕様を共通とする。Android OS採用にて、Qobuz、Amazon Music、TIDAL、AppleMusicなど幅広い配信サービスに対応。Androidだが独自開発のEOS(Eversoloオリジナルサンプリングレートエンジン)を開発して採用し、Android SRCの制限を受けないクオリティ確保が可能だ。DACやプリアンプ機能も備える。接続端子としてUSB Type-A、光/同軸のデジタル出力を持ち、入力ではUSB Type-A/C、光/同軸デジタル入力も搭載する。アナログ音声出力はXLRとRCA端子を装備。
今回は新製品のDMP-A6と上位モデルのDMP-A6 Master Editionにスポットライトを当て、この兄弟機の音質はどのように違っているのかをリポートしよう。いま述べたDMP-A8からの共通点に加え、本2モデルもそれ以外の共通点が多い。横幅270mmとコンパクトな本体、6インチタッチスクリーン、DAC ICがESSのES9038Q2Mを2基使用したダブルディファレンシャル構成、最大対応信号がPCM 768kHz/32ビットとDSD512、Prime Videoの動画配信に対応(テレビ接続はスマホ/タブレット経由でアダプターが必要)……などだ。
では異なる点は何か。(1)クロックがDMP-A6はクリスタルクロック、DMP-A6 Master Editionは フェムトクロック、(2)オペアンプが、DMP-A6はTIの標準品OPA1642、DMP-A6Master EditionはTIの上級品OPA1642、(3)前面プレートとボリュウムノブの縁のカラーバリエーションが、DMP-A6はシルバー、DMP-A6 Master Editionは ゴールド……これだけのスペックの違いで、どれほどの音の違いが現出するのか、なかなか面白い比較だ。では、USBメモリーからの音を聴く。
<DMP-A6とDMP-A6 Master Editionの違い>
1)前面のプレート及びボリュウムノブの縁のカラーバリエーション
DMP-A6 Master Edition:ゴールド、DMP-A6:シルバー
2)クロック
DMP-A6 Master Edition:フェムトクロック、DMP-A6:クリスタルクロック
3)オペアンプ
DMP-A6 Master Edition:TI製 OPA1612、DMP-A6:TI製 OPA1642
各モデルのアナログ出力(XLRバランス)をプリアンプのオクターブ「Jubilee Pre」につなぎ、ザイカのパワーアンプ「845」でスピーカーのJBL「K2 S9500」をドライブしている。
●USBメモリーからハイレゾファイルを再生
UAレコード合同会社のお馴染みの楽曲、情家みえ「チーク・トウ・チーク」。今回はアナログテープから直接、DSD11.2MHzに変換した「アルティメット・アナログ・コレクション」からのファイル再生だ。
DMP-A6ではセンター位置のヴォーカルがくっきりと描かれる。伸びが力強く、進行感も明瞭だ。でも山本 剛のピアノがやや薄い。ソロ演奏は端正だが、もっと伸びと弾力感が欲しい。ベースのスケール感と弾力感もより明瞭に聴きたい。
ところがDMP-A6 Master Editionでは、いま述べた不満点が見事に解消されたではないか。冒頭のベースとピアノのデュオからして格段に違う。質感が圧倒的によくなった。ベースは輪郭を確実に持った弾力感だし、ピアノの優しくも品位の高い音色も素敵だ。確実な定位感にてセンターにポジショニングするヴォーカルの実存感。そのボディは鮮明で、中味にしっかりと美味しい芯が確固として存在している。ヌケがクリアーで、すっきりとした声が音場を飛躍する。山本のソロピアノも、高質感にて名手ならではの闊達なプレイを聴かせてくれる。音の展開の敏捷さと、進行のヴィヴッドさ、快速さも印象的だ。
オーケストラ演奏はどうか。「モーツァルト:交響曲第41番『ジュピター』」第1楽章。オイゲン・ヨッフム指揮/ボストン交響楽団のDSD2.8MHz音源だ。DMP-A6ははっきり、くっきりとし、力と進行力がある。ヌケもよいが、でも弦が少しメタリック。総じてヴィヴッドで溌剌としたモーツァルトだ。オーケストラと会場の奥行感は濃密に感じられる。この価格にしては質感が優れていると聴く。
DMP-A6 Master Editionは断然、よい。冒頭のハ長調のトゥッティからして偉容で、質感が高い。DMP-A6では「少しメタリック」と書いたが、本機では、それは倍音が豊富な弦の合奏感となり、会場のボストンシンフォニーホールに、豊潤なソノリティを持って広く拡散する臨場感は、DMP-A6では聴けなかったものだ。
ヨッフムの経験を重ねた名人芸は、例えば101小節からの歌謡風の親しみやすい旋律の、チャーミングなフレージング、そしてカンタービレの豊かさ……に現れている。そうした総合的な高質感がDMP-A6 Master Editionでは、たっぷりと堪能できる。音質の高さと、それがいかに音楽表現力に貢献しているかの両者が体験できるのが、DMP-A6 Master Editionの醍醐味だ。
●DMP-A6で、Apple Music & Amazon Musicを聴く
ではミュージックストリーマーとしての配信音源再生はどうか。まずCDクォリティのレベッカ・ピジョン「スパニッシュ・ハーレム」をApple Music(ALAC)で聴く。ソフトでジェントルなヴォーカルだが、フォーカスが甘い。ベースの音階もいまひとつ不明瞭。ヴォーカルを含め優しい雰囲気だが、もっとディテイルまでのこまやかさ、鮮明感が聴きたい。バンドとヴォーカルの分離はもっと明瞭にしたい。
ジョン・ウイリアムズ指揮/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の「帝国のマーチ」(アップルの規制をジャンプし、192kHz/24ビット)。DMP-A6では音場が遠い。マッシブな包括感はあるものの、ディテイルがよく見えない。伸びも淡い。もっとくっきりとしたテクスチャーが聴きたい。ベルリン・フィルらしい輪郭の強さも欲しいところ。
同じ音源をAmazon Musicで聴いてみよう。レベッカ・ピジョンは、明らかにApple Musicよりよい。ヌケがクリアーで、しっかりとしたコントラスト感が得られ、明るく、階調も多い。弱音のニュアンスもチャーミングだ。ベースの存在感と音階も確実。ストリングス、ピアノ、ギター、マラカス……の個々の楽器の音色が明瞭で、輪郭もしっかりとしている。ヴォーカルの粒立ちもよく、質感も優れる。この音が聴けるなら、買いだ。
続いて「帝国のマーチ」。これもアップルより断然、よい。コントラストがしっかりとして、色彩感もカラフル。リズムが躍動し、伸びがクリアーだ。木管のディテイルも豊潤。ホルンの深さ、そのなめらかな音色感、トランペットの咆吼感……など量感と質感が上手くバランスしている。ベルリン・フィルハーモニーのホールの広さも、確実にうかがえる。
「秋のヘッドホン祭2024」でエバーソロの音を実際に体験しよう
ブライトーンでは、明日(11月2日)ステーションコンファレンス東京で開催される「秋のヘッドホン祭2024」に出展、今回紹介したエバーソロの「DMP-A6」「DMP-A6 Master Edition」を展示、それぞれの音を実際に比較試聴できるという。
あなたのお気に入りの楽曲で、麻倉さんのインプレッションを追体験してみてはいかがだろうか。ブライトーンのブースは 5F 501A⑦ なので、ぜひ足を運んでいただきたい。
●DMP-A6 Master EditionでApple Music & Amazon Musicを聴く
Apple Musicの「スパニッシュ・ハーレム」。DMP-A6で述べたように、こちらの音源は進行感、クリアーさ、ディテイル感などでアマゾンの後塵を拝しているが、しかし、それでもDMP-A6 Master Editionでは、DMP-A6より音の鮮明感、S/Nの高さ、クリーンさなどは明らかに上回る。その差は確実にあった。
「帝国のマーチ」は音源的にフォーカスが甘く、マッシプでディテイルまでなかなか出にくい、という点はDMP-A6で聴いた時と共通だが、それでもDMP-A6 Master Editionは、金管の質感や、弦の音色感などが向上し、浸透性も深くなった。
Amazon Musicはどうか。「スパニッシュ・ハーレム」は素晴らしい。ベースが単に物理的に鳴るに留まらず、意義ある深い響きが聴ける。Amazon MusicはDMP-A6で聴いても良好だったが、DMP-A6 Master Editionではヴォーカルがたいへんチャーミング。カラフルな音色感で、健康的な色気が素敵だ。
DMP-A6に比べると音場が圧倒的に透明でヌケがクリアー。歪みとノイズが大幅に減少した印象だ。微小な音変化も仔細に捉え、演奏の進行に伴って、パフォーマンスに熱さが加わる。クロックとオペアンプの違いだけで、これほどの質的な違いが出るとは驚き。
「帝国のマーチ」。DMP-A6もよかったが、DMP-A6 Master Editionは段突。低音の量感も質感もよい。冒頭の速いパッセージが透明感を伴ない、金管は繊細なグラデーションを聴かせる。中間部の静かな木管部も、音色の繊細さ、音像への距離感、空気感……など、ライブ演奏を愉しむ情報性に溢れる。音の立ち上がりと下がりが俊敏で、進行力が闊達だ。DMP-A6 Master Editionの音表現の実力の高さが、まざまざと聴けた。
●ストリーミングを、これほどの音質で楽しめるとは!
兄弟機のどちらを選んでも満足度が高い
DMP-A6とDMP-A6 Master Editionには、実際には、これほどの音の表現力の違いがあることが確認できた。コストパフォーマンスを重視するならDMP-A6を、突き抜けた音質体験を望むならDMP-A6 Master Editionを選ぶべきだろう。特にAmazon Musicが、これほどの高品質で聴けるのは、他には例がない。いよいよ日本でのサービスがスタートしたQobuzのストリーミングもハイパフォーマンスに違いない。
この2モデルはまさにハイレゾ・サブスク時代を牽引する先端的音楽再生機といえよう。
(撮影:土屋 宏)