ソナス・ファベール Amati G5 ¥5,400,000(ペア・税抜)
● 型式:3.5ウェイ4スピーカー・バスレフ型
● 使用ユニット:ウーファー・22cmコーン型×2、ミッドレンジ・15cmコーン型、トゥイーター・2.8cmドーム型
● クロスオーバー周波数:200Hz、270Hz、2.2kHz
● 感度:91dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω
● 寸法/重量:W416×H1,180×D516mm/56kg
● 備考:写真の仕上げはレッド、他にウェンゲ、グラファイトあり
● 問合せ先:(株)ノア ☎ 03(6902)0941
● 発売:2023年
試聴記ステレオサウンド 227号掲載
後継者たちの技術と音感、テイストで磨き上げられたアマティの第5世代モデル
アドリア海に浮いた至宝の街、あのヴェネチア(Venice)から西へ向かって内陸へ70 kmほど入ったところにあるヴィチェンツァ(Vicenza)にかつてあったオーディオショップに集っていた若いオーディオファイルたちから、後にオーディオメーカーの創業者となった人物たちが出現した。彼らが興したオーディオメーカーは、デザインコンシャスな製品で知られるパトス、真空管アンプのユニゾン・リサーチ、スピーカーのディアパソン、そしてソナス・ファベールだった。
オーディオショップに集まっていたひとりに、歯科技工士だったフランコ・セルブリン(Franco Serblin)氏がいた。セルブリン氏は1983年にソナス・ファベール(Sonus faber)を興した。北イタリア産のウォルナットをふんだんに使ったエンクロージュアの美しいフォルムと、高らかに唄い上げる高貴な音によって、ソナス・ファベールのスピーカーが世界的に評判になるまでそう時間はかからなかった。
弦楽器作りの巨匠たちへの尊敬と敬意を込めて誕生した、オマージュ・シリーズ
セルブリン氏は続々とスピーカーを誕生させた。そして1998年にアマティ・オマージュ(Amati Homage)が登場する。オマージュと名付けられたのはアマティだけではなく、ガルネリ(Guarneri)、ストラディヴァリ(Stradivari)が加わって3モデルによるシリーズ化がされた。
1993年にまずガルネリ・オマージュが登場した。それは専用スピーカースタンドに乗せてすっくと立てられた小型スピーカーだった。続いてアマティ・オマージュ(1998年)、ストラディヴァリ・オマージュ(2004年)が登場した。ストラディヴァリ・オマージュはシリーズ中でずば抜けて大型で幅が広いフォルムをしていた。それらの中間にあるアマティ・オマージュは高さ約120センチ/奥行き58センチで、まさに中間の大きさのフロアースタンディング型だ。
オマージュ・シリーズの3モデルは、どれも高らかに鳴った。音楽を朗らかに唄い上げた。特に弦楽合奏の再生では艶やかな音色が絶品であった。
「アマティ」、「ガルネリ」、「ストラディヴァリ」の名を見て、読者の皆さんが思い出すことがないだろうか? そう、16~18世紀に活躍した弦楽器製造の巨匠たちへ「尊敬」と「敬意」を表して「オマージュ」(Homage)シリーズと命名されたのだった。
オマージュ・シリーズの3モデルはエンクロージュアの形状が単なる直方体ではなく、側面がカーブを描いたフォルムのエンクロージュアとなっていた。この形状、ソナス・ファベールでは「リュート型」と呼んでいた。カーブは、単純に円形、または円形の一部分ではない。円形、すなわち単一半径のカーブでは、共振音が発生してしまう。しかしリュート型のように、カーブの曲率が連続的に変化した形状では、鳴きの共鳴音は分散されることになり、固有の共鳴音を発生させることがないのと同時に、スピーカーのエンクロージュアに強度を与える。一石二鳥だ。
オマージュ・シリーズのうち、特にガルネリとアマティとがリュート型のエンクロージュアを採用してから、英国のB&Wが800シリーズで水滴型のエンクロージュアを使い始めた。あるときセルブリン氏からB&Wの設計部門へ不満の表明があったと、B&Wの設計責任者から聞いた。エンクロージュア形状に対して特許がどうの、真似したどうの、という不満ではなく、エンクロージュアに連続したカーブをつけたのはB&Wよりもソナス・ファベールが先だったことをしっかりとB&Wに認識して欲しいという表明だったそうだ。このことはすなわち、セルブリン氏が弦楽器製造の巨匠たちへ馳せる尊敬と敬意の想いがいかに強いかということの表われではないかと、わたしは思っている。
歴代アマティの変遷
Amati Homage
Amati Anniversario
Amati Futura
Amati Tradition
1998年に登場した「Amati Homage」を嚆矢に、4回のモデルチェンジを果たしたアマティは、すべてのモデルがコンポーネンツ・オブ・ザ・イヤー/ステレオサウンドグランプリを受賞し、「Amati Homage」と「Amati Tradition」はゴールデンサウンド賞を獲得。ベストバイコンポーネントでもいずれのモデルも高い評価を得ている。搭載ユニットのタイムアラインメントを考慮して、エンクロージュアを後方に傾斜させた第2世代機「Amati Anniversario」までは、フランコ・セルブリン氏による設計。天板・底板と後方部に大胆にメタルパーツを用いる「エキソ・スケルトン・クランプ」によりエンクロージュアの剛性を高めた第3世代機「Amati Futura」と、第3世代機を円熟させ、クロスオーバーネットワーク回路の進化などにより再びエンクロージュアが直立した第4世代機「Amati Tradition」の開発は、パオロ・テッツォン氏(研究開発)とリヴィオ・ククッツァ氏(意匠デザイン)の2名が中心となって行なわれた。トゥイーターの中央部をダンプし、ドーム型とリング型のそれぞれの利点を兼ね備えるというDAD方式のトゥイーターは第4世代機から搭載。本稿でご紹介する「Amati G5」は、リヴィオ・ククッツァ氏に主導される「チーム・リヴィオ」によって開発された、2024年発表の最新型アマティである。なお、「ライラ(竪琴)・シェイプ」など新たなエンクロージュア形状を創り出している同社だが、アマティではオマージュ・シリーズ伝統の「リュート・シェイプ」を一貫して採用し続けている。
初代機のカラフルな音色を受け継ぎながら音楽への適応性を広げ、進化を続ける歴代アマティ
セルブリン氏は2006年に、ソナス・ファベール社を売却し同社を去る。その後セルブリン氏は自らの名前を付けたStudio Franco Serblinを興し、2013年に76歳でご逝去された。
ソナス・ファベールを去る際、セルブリン氏は弟子であるパオロ・テッツォン(Paolo Tezzon)氏に製品の開発と設計とを託した。ソナス・ファベールのミニマ(Minima)を使っていたテッツォン氏は、セルブリン氏と一緒に働けていたことを光栄であり誇りに思っている。セルブリン氏から開発と設計とを受け継いだテッツォン氏は目覚ましい活躍をしたが、その仕事の半数ほどは、セルブリン氏の作品を改良版へ仕上げることだった。
改良版あるいはマークⅡ版でテッツォン氏が何をやりたかったのか? シンプルに問うたことがある。答えは「低音域のノイジーさを改善したい」だった。氏の英語のボキャブラリーのせいでノイジーという単語が使われたが、要は、低域の膨らみを抑えて引き締めた、ということであった。
セルブリン氏とテッツォン氏とでは年齢が20歳ほど異なる。たとえばセルブリン氏が若い時に聴いていたクラシック音楽にエレキベイスやシンセサイザーはない。ロックミュージックはなかった。セルブリン氏とテッツォン氏とでは、年齢どころか、聴いて育った音楽も異なるのだ。
たとえば、ソナス・ファベールの最高峰ラインナップのリファレンス(Reference)シリーズでは、エンクロージュア形状をリュート型から進化させたライラ型として、エンクロージュアの強度をさらに上げるのと同時にエンクロージュア内部の音圧を効果的に管理し、使用ドライバー(ユニット)をカスタム化するなど、メスを入れた。その様子は中堅機のオリンピカ(Olympica)シリーズのアルミ押し出し材による細長いポートの採用によって風切り音を抑えた構造に顕著に見られるのだ。
2024年春現在、アマティは第五世代のAmati G5へ至った。これまでアマティは、Amati Futura(2011年)、Amati Tradition(2017年)というように、テッツォン氏の技術と音感とテイストとによって磨き上げられてきた。
初代のアマティ・オマージュがどちらかと言えば弦楽器の再生専用であったのに対して、歴代のアマティが進化する度に音楽の適応性を広げ、音楽は何でも来い、となってきたのである。しかしながら初代のカラフルな音色をしっかりと受け継いできているのだ。そしてテッツォン氏は2022年春にソナス・ファベールから去っており、Amati G5はテッツォン氏とともにデザイナーとして活躍してきたリヴィオ・ククッツァ(Livio Cucuzza)氏が率いる研究/開発チームのメンバーたちの手になる。
アマティは五世代にもわたってベストバイコンポーネントの上位の常連である。それは、確実に改良が施されてきた、という事実の証明であるのだ。
「Amati G5」は搭載ユニットのすべてが新設計。また、スリット式リアバスレフ構造のエンクロージュアは、ミッドレンジ部が密閉型となり、トゥイーター部との仕切りに小孔を設けて空気圧を最適にコントロールするという「イントノ・テクノロジー」を新採用した。第3世代機「Amati Futura」で初投入された、「エキソ・スケルトン・クランプ」構造は第4世代機に引き続いて採用されており、低域用のネットワーク回路は底面のメタルプレート上にマウントされる。いっぽうで、中・高域用のネットワーク回路を側面中央付近に配置するなど、振動解析技術をこれまで以上に有効活用している様子が見受けられる。
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本記事は『ステレオサウンド No.231』
特集「ベストバイコンポーネント注目の製品 選ばれるその理由」より転載