6月4日発売『ステレオサウンド No.231』の特集は、毎年冬号恒例「ベストバイコンポーネント」で上位に選出された製品の魅力を探る「ベストセラーモデル 選ばれる理由」です。ステレオサウンドオンラインでは、本特集の内容を順次公開してまいります。今回は、DSオーディオのフォノカートリッジ『DS-W3』の人気の理由を探求します。(ステレオサウンド編集部)
画像1: DSオーディオ『DS-W3』【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

DSオーディオ DS-W3 Cartridge ¥450,000(税抜)
● 発電方式:光電型
● 出力電圧:70mV(カートリッジ出力、1kHz)
● 針圧:1.95g±0.1g
● 自重:7.9g
● 問合せ先:(株)デジタルストリーム ☎ 042(747)0900
● 発売:2022年 

画像2: DSオーディオ『DS-W3』【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

 

試聴記はステレオサウンド 225号に掲載

 

DS-W3は、光カートリッジの音質的な優位性を精確かつ過不足なく提示してくれる音のリファレンス = 基準だ

 アナログ盤の音に惚れ込んでいる熱心なオーディオファイルから、DSオーディオの光カートリッジが奏でる音は高く評価されている。私もそのひとりに数えられるだろう。従来のMC型やMM型フォノカートリッジとは明らかに異なる、光カートリッジならではの音世界に惹かれているのだから。

 DSオーディオの光カートリッジは、かつては光電型と呼ばれていた方式。1960年代から1970年代の前半まで、東芝やトリオ、シャープがそれぞれ独自の光電型を発売していた。MC型やMM型は海外で発明されているが、光電型は100%日本発祥の技術である。私は若い時分に聴いたことがあるけれども、当時の製品は熱による問題を少し抱えていた。メーカー間の互換性もなく、いずれも継続しないまま消えていった。

 その光電型を光カートリッジとして現代に復活させたのが、神奈川県相模原市のDSオーディオだ。熱を発しない「赤外線LED」を新たな光源に、当時は得られなかった素子と精度を追求しながら光カートリッジを製作している。ラインレベル出力の専用イコライザーと組み合せることで、光電型ならではの音の魅力を積極的に打ち出している。

 

画像3: DSオーディオ『DS-W3』【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

DSオーディオ DS-W3 Equalizer ¥850,000(税抜)
● 光カートリッジ専用イコライザー
● 出力電圧:500mV(1kHz)
● 寸法/重量:W450×H120×D435mm/13.5kg
● 備考:ローカットオフ切替4段階可能
● 発売:2022年

試聴記はステレオサウンド 225号に掲載

 

発電原理はきわめてシンプル。振動系は、針先+カンチレバーに遮光板が乗っているだけ。MC/MM型より遥かに軽く磁気抵抗とも無縁

 その発電原理はきわめてシンプル。光カートリッジ内部には光源と受光素子が置かれ、その間にカンチレバーに直結した遮光板がある。音溝をトレースする針先の動きが遮光板に伝わり、受光素子は光量の変位を電気信号として出力するのである。豆電球を光源にしていた光電型では、内部が温かくなりダンパーが徐々に柔らかくなっていった。DSオーディオの光カートリッジは、そんな過去のウィークポイントを完全に払拭している。

 

第2世代光カートリッジの構造・概念図

光カートリッジの内部には、光源(LED)、受光素子(フォトダイオード=PD)があり、その間にカンチレバーに直結した遮光板がある。そして、レコードの音溝をトレースする針先の動きが、カンチレバー上の遮光板に伝わり、受光素子上には明暗の変化(光量の変位)として現われる。光カートリッジは、この明暗の変化をダイレクトに電気信号として出力しているのだ。つまり、音溝の振幅に比例する振幅比例型といえる。それに対してMM/MC型フォノカートリッジは速度比例型という。

 

 

 私がDSオーディオの光カートリッジと出会ったのは、2013年のこと。東京・有楽町のオーディオショウに初出展していたのを見つけたのだ。かねてから、私は「現代の技術で光電型を蘇らせたら凄い音がするはず」と周囲に話していた。それが本当に実現するとは思ってもいなかったのだが……。

 自宅でデビュー作のDS001を聴く機会を得た私は、想像していた以上の素晴らしさに感動した。振動系の軽さが反映された、とても滑らかな音が印象的だった。翌2014年にはボロン製カンチレバーを搭載する上位機DS-W1を聴き、まるで原盤のマスターテープを聴いているかのような、写実的で立体感の豊かな音に驚かされた。光カートリッジの第1世代はDS001とDS-W1の2機種で展開されて、アナログ盤再生の新たな音を世界に向けてアピールした。専用のイコライザーが本格的だったこともあり、ドイツでは2つのオーディオ専門誌で「世界一のカートリッジ」と絶賛されたという。

 第1世代の光カートリッジは、過日の光電型を継承していた。カンチレバーが孔の開いたダンパーを貫通し、振動系がダンパーで支持されるというMM型に準じた構造である。しかし、これでは動作点が曖昧で音のフォーカスが絞り切れない……。DSオーディオの開発陣は、サスペンションワイアーの固定で明確な動作点を得ている、MC型の振動系に倣った次世代の開発を進めていった。

 2016年に発売されたMASTER1は、第2世代の先陣を切った最上位の光カートリッジである。サファイア製カンチレバーは、後にダイアモンド製カンチレバーを採用する布石と思わせる内容。専用イコライザーは大型化され、大容量の電解コンデンサーを多用する強大なアナログ電源部を搭載していた。そのMASTER1に続いて、第2世代の光カートリッジは、DS-W2とDS002、そしてエントリー機のDS-E1というラインナップを揃えるに至った。

 カンチレバーの動作点が明確になったことで、第2世代の光カートリッジは、音の骨子がしっかりして定位感も向上している。世界の名だたる高級MC型と比較されるようになったのも、この第2世代からだ。光カートリッジの振動系は、針先+カンチレバーに遮光板が乗っているだけ。発電コイルがあるMC型やマグネットのあるMM型よりも遥かに軽く、磁気抵抗とも無縁である。音溝の振幅に比例する出力により、イコライザーの補正量がきわめて少ないという特徴も忘れてはならない。MC型やMM型の出力は速度(=周波数)に比例しており、イコライザーの補正量は光カートリッジよりも大きくなってしまう。フォノイコライザーのノイズフロアーを聴き比べると、光カートリッジではホワイトノイズに近い分布なのが判る。

 

光カートリッジ・第1世代

光カートリッジ・第2世代

光カートリッジの第1世代と第2世代では、カンチレバーの支持方式などがまったく異なっている。第1世代ではMM型フォノカートリッジ同様、振動系をダンパーで支持するタイプだったが、第2世代では振動支点をより明確にするため、カンチレバー後端をワイアーで固定する、MC型フォノカートリッジのような支持方式に改良された。

 

 

現在は第3世代に進化。中でもDS-W3はDS-W1~DS-W2の流れを汲むDSオーディオの主力機だ

 DSオーディオが満を持して完成させた光カートリッジが、現在の第3世代である。第2世代の世界的な成功を追い風に、徹底的に理想を追い求めたのが第3世代といえよう。光源の赤外線LEDは左右独立になり、遮光板はアルミニウム製から硬くて軽い無垢ベリリウム製に変更されている。V字型の新しい遮光板は何度も試作と試聴を繰り返して形状が決められており、従来より50%も軽量化されたという。言うまでもなく、第3世代の光カートリッジは、これまでの製品とも互換性が保たれている。

 第3世代は、針先とカンチレバーがダイアモンド製で一体化した最高位のグランドマスターEXを頂点に、ダイアモンド製カンチレバーのグランドマスターとMASTER3、DS-W3、DS003、そしてエントリー機DS-E3の6モデル。専用イコライザーは、グランドマスターEXとグランドマスターで共通となっている。

 第3世代でDSオーディオがリファレンスに位置づけている重要な光カートリッジが、DS-W3である。ラインコンタクト形状の無垢ダイア針にボロン製カンチレバーを組み合せている中核の製品で、DS-W1~DS-W2の流れを汲んでいる主力機だ。リファレンスとは「基準」を意味する。上位のグランドマスターEXやグランドマスター、そしてMASTER3はダイアモンド製カンチレバーの採用という豪華さがあるけれども、DS-W3は光カートリッジの音質的な優位性を精確かつ過不足なく提示してくれる音のリファレンス=基準なのだ。上位機との違いは、針先とカンチレバーだけ。出力は第2世代の40mVよりも高まった70mVになり、相対的にS/Nが向上している。内部線材の太さも1.6倍アップするなど、そのポテンシャルは格段に高まっている。

 フルサイズになったDS-W3イコライザーは改良が施され、バランス出力とアンバランス出力を装備。加えて、低域のカットオフを4種類から選択できるようになった。回路基板の銅箔は35μ厚から2倍の70μ厚に、基板自体も1.6ミリ厚から2.0ミリ厚に変更されるなど、音質に関わるファクターが充実していることも大きな特徴である。

 

光カートリッジ・第3世代

内部構造の概念図

第3世代の振動系

光源の赤外線LEDと受光素子が左右独立型となり、それに伴って遮光板もV字型に変更される。また材質も、従来のアルミニウム製から、硬くて軽い無垢ベリリウム製に変更され、出力も第2世代の40mVから70mVとなり、S/Nも向上している。

 

 

スタンダード機DS003にも注目

 デビュー作DS001の流れを汲むスタンダード機のDS003にも注目していただきたい。こちらはアルミニウム製カンチレバーを採用しており、それ以外はリファレンスのDS-W3と同等の内容である。専用イコライザーの改良項目もDS-W3と共通。前作よりも大幅な音質向上を実現しているのだ。

 

画像10: DSオーディオ『DS-W3』【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

DS003 Cartridge ¥225,000(税抜)
● 発電方式:光電型
● 出力電圧:70mV(カートリッジ出力、1kHz)
● 針圧:2.1g±0.1g
● 自重:7.7g
● 発売:2021年

 

画像12: DSオーディオ『DS-W3』【ベストバイコンポーネント 注目の製品 選ばれるその理由】

DS003 Equalizer ¥275,000(税抜)
● 光カートリッジ専用イコライザー
● 入力インピーダンス:10kΩ以上
● 出力電圧:500mV(1kHz)
● 寸法/重量:W330×H92×D295mm/5kg
● 発売:2021年

 

試聴記はステレオサウンド 220号に掲載

 

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本記事は『ステレオサウンド No.231』
特集「ベストバイコンポーネント注目の製品 選ばれるその理由」より転載

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