TAD TAD-GE1 ¥5,000,000(ペア・税抜)
● 型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型
● 使用ユニット:ウーファー・18cmコーン型×2、ミッドレンジ/トゥイーター・14cmコーン型/3.5cmドーム型同軸
● クロスオーバー周波数:250Hz、1.8kHz
● 感度:88dB/2.83V/m
● インピーダンス:4Ω
● 寸法/重量:W394×H1,240(スパイク装着時)×D547mm/64kg
● 問合せ先:パイオニアカスタマーサポートセンター(TAD相談窓口)0120-995-823
● 発売:2023年
試聴記ステレオサウンド 228号掲載
高評価の最大の理由は正攻法の設計手法がもたらす音楽体験の価値が高く評価されたから
2023年は、TADにとって新たな飛躍を目指す重要な年となった。年初にディスクプレーヤーのフラグシップ機TAD-D700を発売し、秋にはエボリューション・シリーズにコントロールアンプTAD-C1000とフロアー型スピーカーTAD-GE1を導入。重要な製品を相次いで投入し、ハイエンドオーディオ市場の活性化を狙う積極的な姿勢を見せたのだ。
この3モデルのなかで筆者が特に強い印象を受けたのがTAD-GE1であった。一昨年に発売されたブックシェルフ型のTAD-CE1TXと同一のCSTドライバーとウーファーを採用しながら、ダブルウーファー構成のフロアー型として再設計し、グランドエボリューションという新たなカテゴリーを確立。大型スピーカーの上位移行が進むなか、「ハイエンドだがギリギリ現実的」と思わせる絶妙な価格を設定した。とはいえ、そこは競合モデルが居並ぶゾーンでもあり、あえて投入する背景には相応の自信があるとみた。
ドライバーユニットはたしかにCE1TXと共通だが、たんにウーファーを追加してエンクロージュアを拡大したわけではない。大容積の長所と短所を丹念に解析し、項目ごとに入念に最適化して音を追い込む。緻密な理論武装と時間を惜しまぬ徹底した試聴を信条とするTADの開発手法は、もちろん今回も引き継いでいるはずだ。
再生音を聴けば、そのアプローチが確実な成果を上げていることを確かめることができる。2023年のステレオサウンドグランプリ受賞とベストバイコンポーネント上位入賞を果たした最大の理由は、正攻法の設計手法がもたらす音楽体験の価値が高く評価されたからに他ならない。
TAD-GE1に搭載された同社独自のCST(Coherent Source Transducer)ドライバー。14cm径コーン型ミッドレンジには新開発のマグネシウム振動板(コーン表面に化成被膜と塗装による複合処理を実施)、3.5cm径トゥイーターには独自の蒸着法で成型したベリリウム振動板(コンピューター解析による最適化手法・HSDOM=Harmonized Synthetic Diaphragm Optimum Method)を採用し、同軸配置。理想的な点音源再生が図られている。ちなみに2基の18cm径ウーファーは、新開発のMACSⅡ(Multi-layered Aramid Composite Shell 2nd generation)振動板(アラミドの織布と不織布を5層ラミネートした振動板のさらなる改良型)を採用。サスペンション機構にはダンプ剤を塗布したコルゲーションエッジを採用している。
CSTドライバーの長所を活かしつつ細部に高音質化のための数々の技術やノウハウを投入
旋律楽器と声が集中する中高域の純度の高さと、わずかなブレも感じさせない明瞭な音像定位は、この音域をカバーするCSTドライバーの長所である。しかし、そこには発音のなめらかさや立体感豊かな楽器イメージなど、確実な進化も聴き取ることができる。同じ同軸ドライバーなのになぜ? と思わず疑問が浮かぶが、そこには理由があった。CSTドライバーとエンクロージュアの間を機構的に分離するISOドライブテクノロジーを採用することによって、相互の振動伝搬を抑え、余分な共振を抑えているのだ。これはTAD-R1TXに導入した技術のひとつだが、CSTドライバーの口径が異なることもあり、今回はGE1に最適化した新設計のISO技術を載せているという。
バスレフポートの位置と構造も、CE1TXとは大きく異なる。エンクロージュア側面にスリット状のポートを配置したCE1TXに対して、GE1ではボトム部にダウンファイアリング方式のホーン型バスレフポートを配置し、音波を前後に均等に輻射させる構造としているのだ。ポート開口部はアルミダイキャスト製で、ベースにも15mm厚のアルミプレートを導入しており、スピーカー本体の重心を下げる効果を発揮する。質量は64kgに及ぶが、これは18cm口径の口径のダブルウーファーを積むスピーカーとしてはかなり重い部類だ。
ちなみに搭載される2基のウーファーも、アラミド5層構造でセンターキャップレスの振動板など、基本仕様はCE1TXのMACSⅡと共通だが、ツインドライブとするためにインピーダンスの最適化をはかっている点が異なるという。
すでに触れた通り、GE1の再生音はCSTドライバーならではの明瞭でブレのない定位を上位機種やCE1TXから受け継ぎつつ、楽器や演奏者ごとの音色の違いを正確に鳴らし分ける能力の高さを強く印象付ける。それと関連してヴォーカルの表情の起伏や陰影が深まり、高揚感や親密さなど、エモーショナルな表現が一段と得意になったように思う。その表情の豊かさは、同じTADのコンポーネントと組み合せたときにいっそう際立つという事実が実に興味深い。
TAD-GE1のバイワイアリング接続対応入力端子部。帯域ごとに独立したネットワーク基板はエンクロージュア内部に設置。エンクロージュア底部に配された独自のADP(Aero Dynamic Port)は、スピーカーの前後方向に超低音を輻射する。ポートフレアにアルミダイキャスト、ベースプレートに15mm厚のアルミ製を採用することで、安定した設置と力強い低音域の再生を可能としている。
GE1と基本理念を共有するTAD-D700は同社の製品同士を組み合せたときそのシナジー効果が最大化される
TAD-GE1と同様に、初出で2023年ベストバイコンポーネントの上位に選出されたTAD-D700についても、ここで触れておくべきだろう。フラグシップのディスクプレーヤーは2010年のTAD-D600以来だから、実に13年ぶりということになる。頂点を極めたD600の後継なので改良すべき箇所はそう多くは見つからないのではと考えてしまうが、予想に反して手の込んだ改良を加えている。
たとえばトランスの巻線から端子を介さず直出しで電源を取り出したり、端子部やビスに非磁性メッキを施したOFCを採用するなど、音質対策は地道でキメが細かい。信号系でもDACの出力から電流帰還をかけるなど複数の見直しをはかり、純度を高める工夫を怠らない。
デジタル回路ではクロックジェネレーターの発振素子を最新世代に入れ替えたことが大きい。切り出し方向が従来と異なるSCカットの水晶片を用いることによって、TADが従来から重視してきた位相ノイズをさらに低減することに成功したという。デヴァイスの技術動向をつねにリサーチしておかないと最先端の部品や技術を導入することはできない。今回のクロックジェネレーターの世代交代もたゆまぬ研究の成果なのだろう。
D700をシステムに組み込んで大編成の管弦楽を聴くと、トゥッティの強奏で音圧の大きさに思わず身体がのけぞりそうになる。低音楽器が繰り出す空気の絶対量がここまで大きく感じるのは、プレーヤーとアンプ、スピーカーの位相が高精度にシンクロして最大音圧を瞬時に引き出していることに理由がある。
コンポーネントそれぞれの基本性能を高めることももちろん重要だが、同じブランドの製品同士を組み合せたときに生まれる相乗効果も確実に存在する。理論に裏付けられた忠実再生というTADが掲げる基本理念を開発チームが共有しているからこそ、シナジー効果が最大化されるのだろう。その環境から生まれたGE1とD700の音に一切のブレがないのは納得がいく。
SACD/CDプレーヤー
TAD TAD-D700 ¥4,750,000(税抜)
● 再生可能ディスク:SACDステレオ、CD他
● アナログ出力:アンバランス1系統(RCA)、バランス1系統(XLR)
● デジタル出力:同軸1系統(RCA)、バランス1系統(XLR)
● デジタル入力:同軸1系統(RCA)、バランス1系統(XLR)
● 寸法/重量:本体・W450×H185×D440mm/26.5kg、電源部・W220×H185×D430mm/14kg
試聴記ステレオサウンド 226号掲載
TAD-D700のリアパネル。端子レイアウトは、左端にデジタル系の入出力(バランス/同軸各1系統)、右端にアナログ出力(バランス/アンバランス各1系統)を装備。下部の黒く見える部分は鋳造アルミニウム製の極厚ベースで、同社リファレンス・シリーズのエレクトロニクス製品を特徴づける重要な部分でもある。
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本記事は『ステレオサウンド No.231』
特集「ベストバイコンポーネント注目の製品 選ばれるその理由」より転載