アキュフェーズ C3900 ¥2,000,000(税抜)
● 入力感度/インピーダンス:252mV/20kΩ(アンバランス)、252mV/40kΩ(バランス)
● 寸法/重量:W477×H156×D412mm/24.6kg
● 問合せ先:アキュフェーズ(株)☎ 045(901)2771
● 発売:2020年
試聴記はステレオサウンド 216号に掲載
透明な聴こえかたでありながら音楽がしっかりと熱い。そして安心までも手に入る
ステレオサウンドの試聴室では長年、アキュフェーズのアンプをリファレンスに使用している。
以前はパワーアンプに小パワーのA級アンプと大パワーのAB級アンプとが両方用意されていて、わたしはハーモニーが深く美しい前者のアンプ、A50(~A60)を選択していた。現在、リファレンスのパワーアンプはA300に固定されている。
プリアンプは2020年の登場以来C3900だ。
C3900は、わたしには透明に聴こえるプリアンプだ。
リファレンスに使う機器には、大きな音の個性は不要だ。それは、透明でありスムーズな音でなければならない。
しかも、透明な聴こえかたであっても、音が薄いとか、音が淡泊すぎることがあってはならない。C3900は、音像には肉があり、演奏者に血が通っている。音楽がしっかりと熱いのだ。
C3900の音量調整ノブの直ぐ奥には音楽信号は流れていない。セレクターのノブの直ぐ裏にも音楽信号は来ていない。セレクターの仕事はリレーが受け持っているので、入出力端子の直ぐ裏側で切り替えが行なわれているし、音量調整は電子回路で行なわれている。
摺動式のメカニカルなボリューム部品が各社のプリアンプで使われることが少なくなってしまってから、すでに久しい。
音量調整なんてできて当たり前……と思われるのだが、アンプ製造各社は電子回路化を行なっている。性能の高い摺動式のメカニカルなボリューム部品が入手困難になっていることも理由に挙げられる。
進化を続ける音量調整機構「AAVA」はデュアルバランス型を採用
アキュフェーズではいち早く摺動式のメカニカルなボリューム部品を使うことを止めて、電子回路に置き換えた。メカニカルなボリューム部品を使うということは、音楽信号を抵抗体で減衰させた後で増幅回路を通ることになるが、電子回路に置き換えることによって、音量調整の位置(角度)によるノイズレベルの変化が極めて少なく、実質的な音量レベルでのS/N感も高まる。
この電子回路をアキュフェーズでは「AAVA」(Accuphase Analog Vari-gain Amplifier)と命名して、2002年に登場したC2800から搭載している。
AAVAを搭載した1号機であるC2800の内部では、AAVA回路が大半を占める有様だったが、AAVA回路は進化するのと共に小型化されてきて、現在ではプリアンプどころかプリメインアンプでも搭載されている。
しかもC3900ではAAVA回路がバランス型になっており、さらには二連で動作させるDual Balanced AAVAの搭載により、約30パーセントもノイズレベルを低下させているという。
アキュフェーズにかつてデジタルプリアンプの製品があった(DC300:1996年発売/DC330:1999年発売)。当時、アキュフェーズ製パワーアンプの一部の製品にはリアパネルにふさいだ跡のパネルが着いていた。ははーん、とわたしは想像した。「パワーアンプにD/Aコンバーター回路を入れる計画なんだろうな……」と。CDトランスポートをデジタルプリアンプに接続、デジタル伝送/増幅して、パワーアンプの入口でデジタルからアナログへ変換するという近未来図が浮かんだのだったが、しかし現在のアキュフェーズには、デジタルプリアンプはまったくない。また、パワーアンプにふさいだ跡のパネルもなくなった。
何故だろう? 近未来図は消滅したのか? この疑問をアキュフェーズの技術陣へぶつけてみた。
「AAVAの性能には敵わないんですよ」
あらためて知るAAVAの性能の凄さだ。デジタル回路による音量調整では、AAVAの透明度や静けさには敵わないのだ。
パワーアンプかと錯覚してしまうような、強力な電源部を筐体中央に搭載する内部コンストラクションは前モデルのC3850から踏襲されたもの。中央に2基ある電源部のトロイダルトランスは左右チャンネル独立で与えられ、静電容量1万μFのフィルターコンデンサーは計12個を搭載する。そして、チャンネルごとに分けられて、その左右に配置されているのが、アキュフェーズ最高峰の「Dual Balanced AAVA」を擁する増幅回路だ。音量調整機構のAAVA回路は、入力信号をV/I変換→I/V変換。電流領域(I)での調整(重み付け)により音量調節を行なう同社独自の方式である。2002年に登場したC2800に初搭載され、2010年のC3800ではBalanced AAVAに進化、C3850(2015年発売)でのリファインを経て、創立50周年記念モデルである本機に、Balanced AAVAを2回路並列動作させるDual Balanced AAVAが搭載された。
リアパネルのレイアウトは前モデルのC3850と共通。入力はラインレベルのみで、写真のようにアンバランス、バランスを問わず、入出力数は豊富。
フロントパネル中央のサブパネルを開くと現われる各種コントロール。上段左から出力切替/ゲイン調整/バランス調整/コンペンセーター/ヘッドフォン用ゲイン調整という5つのノブ、下段にはディスプレイ表示のオン/オフやフェイズインバート/モノーラル切替などの5つのプッシュスイッチが並ぶ。
ユーザーを尊重する製品創りが具現化されている音量調整ノブ
C3900のフロントパネル右端にある音量調整ノブを廻してみると、絞りきった、つまりまったく無音になる一段階手前の音量で⊖ 95 dBと表示される。⊖ 95 dBとは凄い。まさに深々と絞り込めるのだ。⊖ 70 dB台程度の絞り込みしかないプリアンプであると、音量を絞っていくと音楽を綺麗にフェイドアウトさせることができず、段々音量が下がっていっても絞りきらないうちに、急に無音になってしまう、という状態になる。
また、電子回路で音量調整しているということは、音量調整ノブの直ぐ奥には音楽信号は流れておらず、電子回路の動作を司る信号を調整しているだけだから、極端に言えばノブは不要であり、アップとダウンの押しボタンだったり、ラジオ(チューナー)のダイヤルのようにグルグルと何回転もするノブだっていいのだが、アキュフェーズは絶対にそんなことはしない。
C3900の音量調整ノブは少々ねっとりとした重みを持って回転するのだ。C3900のカタログに写真があるが、アルミの塊から削り出された立派なメカニズムを搭載して、指先にしっとり/ねっとりとした操作感が伝わってくるのだ。
徹底的に感触を重視して開発された音量調整用ノブ(ボリュウムセンサー機構)。センサー機構と名付けられている通り、あくまでも回転角からユーザーの希望する音量を検知するのがその役割であるが、正確な位置検出はもちろんのこと、滑らかな動作かつ重厚感にこだわり、アルミブロックから精密に削り出されたパーツを多用する。リモコン操作によるモーター駆動時においても、動作は精密そのもの。
C3900のフロントパネルの左端にあるセレクターのノブもまた、リレーを切り替える信号を調整しているだけなのだから、押しボタンだったり、ノブがグルグルと何回転したっていいはずだが、やはりアキュフェーズはそんなことはしない。
セレクターのノブを廻すとカチッカチッとクリック感がするのだ。どういう構造になっているのか問うと、セレクター部品の専門メーカーに「アキュフェーズの感触」を得るために、部品を特注しているそうなのである。
先ほど記述した、デジタルプリアンプの存在理由がなくなってしまったほど高性能なAAVA回路の存在だが、アキュフェーズというと、技術主導、性能追求のイメージがあり、実際にそうなのだが、AAVA回路の音量調整ノブの重みがあってしっとり/ねっとりとした感触やセレクターのノブのクリック感をもたらすことをアキュフェーズは忘れてはいない。
ユーザーとプリアンプとの接点は、音量調整とセレクターくらいのものだ。そのうちいちばん触るのは音量調整ノブだろう。そこへアキュフェーズは「昔ながらの感触」をしっかり残しているのだ。
C3900は高価なプリアンプだから物量投入できているわけだが、しかしアキュフェーズの姿勢は、アキュフェーズ製品としては入門機となるお手頃価格のプリメインアンプにまでもたらされているのだ。
こうした姿勢は言ってみれば、ユーザーを尊重した製品創りである。そしてユーザーを尊重した製品創りは、万全なサービス体制にもみられる。部品の在庫がある限りどんな古い製品でも直してしまう、のである。
アキュフェーズ製品を使うことは透明であり、スムーズな音を手に入れることであり、アキュフェーズ製品を買うということは安心を買うことでもあるのだ。
ステレオサウンド試聴室でリファレンスとして使われている主なアキュフェーズ製品
A300 ¥2,700,000(ペア・税抜)
DP1000+DC1000 ¥2,600,000(セット・税抜)
アキュフェーズ株式会社のWebサイトはこちら
本記事は『ステレオサウンド No.231』
特集「ベストバイコンポーネント注目の製品 選ばれるその理由」より転載