「片山右京さんが、ホームシアターのリニューアルを考えているみたいだよ。一緒に話を聞きに行こう」と、ノリノリの潮さんから連絡が入ったのは昨年末のこと。右京さんは10年ほど前に、自宅 兼 オフィスとして使っているスペースにスクリーン&7.1chホームシアターを設置、その際にも潮さんがアドバイスをしたという。今回はその空間で4K&イマーシブオーディオを堪能してもらおうというのが潮さんの目論見だ。まずは“最高の大画面”を手に入れるための実地検証から始まった。(StereoSound ONLINE編集部・哲)
旧知の仲である片山右京さんから電話がかかってきた。「お久しぶりですねぇ」と言う会話とともに、どうしたのかな? と言う思いが浮かんだ。前回お会いしたのは東京オリンピックの直前にF1解説者、川井一仁さんのホームシアターで『フォードvsフェラーリ』のUHDブルーレイを視聴した時だから、かれこれ3年が経つ。
片山さんは東京オリンピック自転車競技の強化委員として活動してきた。「オリンピックが終わったので少しは時間に余裕が出来ましたか?」と尋ねたら、これがとんでもない見当違いだった。東京オリンピック以降、国内で年間8戦のレースを展開するスーパーGTの総監督や、「JCL TEAM UKYO」(JCL=一般社団法人ジャパンサイクルリーグ)という自転車競技のチームオーナーとして活躍の場をさらに広げたことから、多忙を極めていたのである。
そんな戦士の束の間の癒やしがホームシアターだが、4Kなどこれまでのシステムでは対応できないことが増えてきたので、リニューアルしたいという相談だった。右京さんにホームシアターの面白さを伝えたのは、ほかならぬぼくであり、そんな話が持ちかけられたら知らん顔は出来ない(というか、待っていました!)。さっそく、どの程度機材の入れ替えが必要なのか、どんなお薦めプランが構築できるのかを確認するため、StereoSound ONLINE編集部と一緒に、右京邸のロケハンに出かけたのである。
右京さんが “唯一の趣味” と語るホームシアターを、グレードアップしましょう!
右京邸の主な現行システムは、プロジェクターがエプソン「EH-TW3600」、AVセンターがパイオニア「SC-LX82」、BDプレーヤーはパナソニック「DMP-BD90」で、スピーカーはフロントL/C/Rがaad製、サラウンド、サラウンドバックがJBL製というラインナップだ。aadのスピーカーはぼくと共通の友人で、昨年12月にStereoSound ONLINEで自宅取材にも応じてくれた高瀬秀樹さんからのお下がりだ。
そしてなんと、スクリーンはスチュワート「HD130」、しかも150インチ(アスペクト比16:9)が吊り下げられていたのだ。この部屋であっても超でかいサイズのスクリーンだ! 「誰だ、こんなの薦めたの?」と右京さんに尋ねると、「潮さんだよ」との返事。あれ、そうだっけ!? ようやく当時の記憶が甦る。「画面サイズは大きい方が臨場感も出るし、いずれ8K時代が来るからスクリーンはでかい方がいい。一度取りつけると交換はたいへんだからね」と、渋る右京さんを説得したような気がしてきた。
それにしても無謀とも思えるこのサイズ、しかも当時の画質はフルHD。別にエプソンが悪いわけじゃないけど、今から考えるとこの解像度と輝度レベルでは150インチには力不足だったかな。
そうしたことを勘案すると、リニューアル対象となるプロジェクターはD-ILAパネルとレーザー光源を採用したビクター製品に絞られる。問題はその中からどのモデルを選ぶかということだが、さらにもうひとつ、投写距離の問題も残っていた。
潮さんが「これだけは譲れない」と語った、ビクターのD-ILAプロジェクター
ビクター DLA-V80R ¥1,705,000(税込)
●表示デバイス:0.69型ネイティブ4K D-ILAデバイス×3
●画素数:水平4096×垂直2160画素
●表示解像度:水平8192×垂直4320画素(8K/e-shiftX、4方向シフト)
●レンズ:口径65mmオールガラスレンズ、2倍電動ズーム・フォーカス
●レンズシフト:上下80%、左右34%(電動、16:9投写時)
●光源:レーザーダイオード
●明るさ:2,500ルーメン
●ネイティブコントラスト:80,000対1
●接続端子:HDMI入力2系統(48Gbps、HDCP2.3、CEC対応なし)、トリガー端子、LAN端子(制御用)、他
●ファンノイズ:24dB(低モード)
●消費電力:440W
●待機電力:0.3W(エコモード時)
●寸法/質量:W500×H234×D505mm(脚部含む)/23.1kg
というのも、右京邸のスクリーンから反対側の壁までは実測で5m40cmとそれなりに離れてはいるが、150インチとなると投写距離も必要だし、プロジェクター本体の寸法も考えておかなくてはならない。
そこで候補に上がったビクター「DLA-V80R」でシミュレーションしてみた。DLA-V80Rを選んだ理由は、上位モデルのDLA-V90Rだと予算的な面を含めてちょっと厳しそうだということと、弟機のDLA-V70Rはピーク輝度が2,200ルーメンと少し低かったからだ(DLA-V80Rは2,500ルーメン)。さらに、8K/e-shiftの世代を考慮してである(繰り返しになるけれど、150インチ投写なので)。
DLA-V80Rの場合、150インチの投写距離は最短4m77cmで、本体の奥行は50.5cm。つまり少なくとも5m27.5cmは必要で、さらに電源やHDMIケーブルをつなぐことを考えると5m30cmはみておきたい。5m40cmだと本当にギリギリだ。
もうちょっと短焦点のプロジェクターという選択肢もないわけではないが、せっかくのスチュワート150インチ、しかも右京さんはここでチームの選手やスポンサーと一緒にレースの記録を見たり、癒やしの時間として映画を楽しみたいと話している。そのためには最高画質を目指さなくてはならないので、ぼくとしてはDLA-V80Rは譲れないところだ。
もちろん右京さんにも実際の画質を確認してもらう必要もあるので、まずはDLA-V80Rの実機を持ち込んで、この部屋で150インチが投写できるかを検証することにして、ロケハンを終了した。
3週間後、ビクターからDLA-V80Rを借用し、再び右京邸に向かった。編集部からクワドラスパイヤのラックを持参し、床置きで投写してみたが、結果はDLA-V80Rで大正解。床から約1.3mの高さに設置してテスト信号を出すと、見事150インチのスクリーンいっぱいに映像が再生できた。しかもプロジェクターの後ろには10cmほど余裕があった。これには右京さんも安堵の表情を浮かべる。
この状態で、ビコムのUHDブルーレイ『8K空撮夜景/SKY WALK』を再生したが、このクォリティには驚いた(再生用UHDプレーヤーとしてパナソニック『DP-UB9000』を持参)。ぼく自身も見慣れている映像だが、150インチスクリーンをこれだけ近接視聴すると(当日の視距離は約3m)、被写体がまさしく実物大に感じられ、実際にヘリに搭乗しているような気がしたほどだ。
この映像には右京さんも感心することしきり。これまでは150インチ大画面というサイズのインパクトはあっても、(2Kクォリティを近接視聴していることもあり)画質面では少々鬱陶しい感じがしていたものと思われる。しかし8K/e-shiftXによる8K解像度での投写なら、絵にも豊かな表情が生まれ、目にも優しい。この画質なら、かぶりつきで見てもまったく問題ないだろう。
「案ずるより産むが易し」 DLA-V80Rで理想的な150インチ投写が実現できた!
「これなら、ロードレースの中継映像にも没入できますね。今までは液晶テレビで録画番組や映画を見ていても、途中で疲れて早送りすることがあったんですが、プロジェクターでこれだけの映像が楽しめるなら最後まで通して観たいなと思いました」
右京さんは最近、自宅リビングで70インチの直視型液晶テレビを使っていたそうだが、その状態ではなかなか映像世界に浸れなかったという。今回改めてスクリーンの大画面で視聴し、「150インチに投写する8K映像だと魅入ってしまいます」とDLA-V80Rの魔力(?)についての感想を述べてくれた。
「それから、明るめの環境でも映像がはっきり再現できる点もいいですね。これならチームのメンバーやファンクラブの人達を集めて自転車競技を観戦したくなるなぁ」と、早くも夢が膨らむ。プライベートでの映画鑑賞、仲間同士でのスポーツ観戦などなど、DLA-V80Rならそうした用途にも十全に応えてくれることだろう。
それにしても、右京さんがこれほど自転車レースに力を注いでいたことに、今回改めて驚いた。競技人口も増えているし、ウェアの売り上げもテニスを越えたというロードバイクの世界だが、日本では環境整備が追い付いていないので、そうした部分の啓蒙活動も積極的に行いたいとのことだ。
ともあれこれで150インチスクリーンを活かせる方策は確認できた。あとはDLA-V80Rを導入するだけ……なのだが、ひょっとしたら右京さんも「DLA-V90R」を見たら心変わりするかもしれないぞ、とぼくは密かに悪魔の囁きを発していた(DLA-V90Rの方がDLA-V80Rより投写距離も短い)。
それはさておき、プロジェクター以外にもイマーシブオーディオに対応するためのAVセンターのリニューアルと、スピーカーをどうするかという課題も残っている。こちらについても、全面的に入れ替えることも視野に入れて話を進めていく予定なので、今後の“片山シアター改造計画”にご期待いただきたい(まだまだ続く)。