デノンは、一体型AVアンプの新製品「AVC-X6800H」(¥528,000、税込)を3月15日に発売する。「AVC-X6700H」の後継モデルで、11chパワーアンプを内蔵、本機だけでドルビーアトモスやDTS:X、Auri-3D、IMAXEnhancedなどのイマーシブオーディオの再生が可能だ。

画像: 音場補正技術のAudyssey MultiEQ XT32も搭載済で、測定用マイクも付属している

音場補正技術のAudyssey MultiEQ XT32も搭載済で、測定用マイクも付属している

 また13.4chプロセッシング対応で、13.4chプリアウトも備えているので、外部パワーアンプを加えれば7.4.6システムを構築できる。さらに内蔵パワーアンプの動作を停止させるプリアンプモードも搭載している(チャンネルごとにオン/オフの設定が可能)。

 接続端子は8K/60p、4K/120p対応のHDMI入力7系統、出力2系統(1系統eARC対応)やコンポジット入力2系統、デジタル音声入力4系統(光×2、同軸×2)などを装備。HDMI端子はHDR10、ドルビービジョン、HLG、HDR10+にも対応済みという。

 ネットワークプラットフォームのHEOSにも対応し、LANやフロントパネルのUSB端子につないだNASやUSBメモリーに収めたハイレゾファイルも楽しめる。DSDは最大5.6MHz、リニアPCMは最大192kHz/24ビットの再生が可能だ。

画像: HDMI端子は入力7系統、出力2系統で、ゾーン2出力も準備されている

HDMI端子は入力7系統、出力2系統で、ゾーン2出力も準備されている

 さてAVC-X6800Hは、デノンの中堅AVアンプ「AVC-X3800H」と同等の本体サイズで、フラッグシップ機に迫るクォリティを盛り込むことを目指したモデルとなる。当然そこには様々な高い技術力が求められるわけで、今回はフラッグシップ「AVC-A1H」で開発された様々な回路が投入されている。

 まず、限られた筐体サイズに11chパワーアンプを内蔵するために、作動1段AB級リニアパワーアンプ回路を採用した。段数の少ない差動アンプ回路はシンプルで素直な特性が得られる反面、高い性能を確保するためには高い設計能力が求められる。デノンではAVC-A1Hでの経験を活かし、チャンネルごとに独立した基板を搭載、全チャンネル同一クォリティを実現している。

 そのパワーアンプ部では放熱と振動抑制のためにヒートシンクを前モデルの「AVC-X6700H」から大型化、さらにアンプ回路とヒートシンクの間に1mm厚の銅板を追加して放熱の効率を高めている。これはAVC-A1Hや「AVC-X8500H」でも使われていた手法という。

画像: 写真下側左が新開発されたEIコアトランス。その右側が11chぶんのパワーアンプブロックだ

写真下側左が新開発されたEIコアトランス。その右側が11chぶんのパワーアンプブロックだ

 パワートランジスターも刷新されている。デノンのエンジニアリングチームからの要求を反映し、サプライヤーと4年をかけて共同開発した大電流タイプで、今後の同社製品ではこのパーツを継続採用していく予定だそうだ。その他、音質への影響力が大きいカスタムブロックコンデンサーも新開発され、よりハイスピードでパワフルなサウンドを獲得している。

 電源部では、パワーアンプに余裕を持って電流を供給するべく、大型カスタム電源トランスが採用された。トランスの重量だけで5.3kgもあり、弟基「AVR-X4800H」の4.8kgから10%ほど重量がアップしている。これを支えるためにシャーシは2層構造とし、周辺回路への振動の伝搬を防いでいる。

 このように大型化されたパワーアンプ部を収めるスペースを作るため、ビデオ基板、プリアンプ部も一新している。まずビデオ基板は6層基板として集積度をアップ。プリアンプ部は入力セレクターやボリュウムなどに専用のデバイスを採用することでレイアウトの自由度を確保し、無駄な引き回しのない信号経路を実現している。

画像: ヒートシンクは幅287mmで、フィンの長さが50mm、重さ2.2kgというサイズ。写真のようにパワートランジスターとの間に1mm厚の銅板を取り付けて放熱効果を高めている

ヒートシンクは幅287mmで、フィンの長さが50mm、重さ2.2kgというサイズ。写真のようにパワートランジスターとの間に1mm厚の銅板を取り付けて放熱効果を高めている

 さらにその出力信号を、シールド線を使ってパワーアンプに伝送することでノイズの低減も目指した。パワーアンプの入力段でのチャンネルクロストークも低減するため、シールド線はチャンネルごとに独立させている。これもフラッグシップモデルと同様の構成だという。

 またデノン製AVアンプでは、20年ほど前から可変ゲイン型プリアンプと電子ボリュウムを採用し、一般的な試聴帯域でのノイズを抑えている。そのボリュウム回路に信号を送る基板パターンについても細かい配慮がなされている。前モデルのAVC-X6700Hでもこの点に配慮していたが、AVC-X6800Hではさらにそれを進歩させ、DAC基板をオーディオ基板の真上に配置、最短距離でボリュウム回路に信号を送っている。

 DACチップは上記の通り電流出力型で、同社サウンドマンスターが試聴を繰り返して選んだ32ビットタイプを搭載する。さらにDAC基板上にある水晶発振器の近くにジッターリデューサーを配置し、クリーンなクロックでDACチップをコントロールしているとのことだ。

画像: 新搭載されたパーツ群。写真左がカスタムコンデンサーで、右上がパワートランジスター。右下はDAC基板

新搭載されたパーツ群。写真左がカスタムコンデンサーで、右上がパワートランジスター。右下はDAC基板

 もうひとつ、AVC-X6800Hではデノンサウンドを実現するために、内部パーツにも徹底的にこだわっている。さらにサウンドマスターの要望もあり、AVC-X6700Hから150以上のパーツを交換、独自開発したSYコンデンサーも要所に投入されている。

 このようにAVC-X6800Hは細部までこだわりぬいた仕様だけに、組み立てにも高いスキルが求められる。それもあり、プレミアムモデルの生産を手掛ける白河ワークスで製造を行うとのことだ。「エンジニアリングチームの開発力と、白河工場の生産能力があったから実現できた製品です」と、担当者も自信たっぷりに語っていた。

 先日開催された新製品説明会で、AVC-X6800Hの音を確認するチャンスがあった。B&Wスピーカーを使った7.2.4システムでの再生となる。

画像: 写真左が新製品のAVC-X6800Hで、右がAVC-X8500HA。本体サイズの違いは一目瞭然だ

写真左が新製品のAVC-X6800Hで、右がAVC-X8500HA。本体サイズの違いは一目瞭然だ

 まず2Lのブルーレイオーディオ『POLARITY』のAURO-3D音声を、一世代前のフラッグシップモデルAVC-X8500HAで聴かせてもらう。AVC-X8500HAもさすがの情報量、音場再現で豊かなサラウンド空間を再現してくれる。続いてAVC-X6800Hでは、音場全体がいっそうクリアーになり、情報量もアップ、演奏されているホールが広くなり、音の細かい階調まで浮き出てくる印象だ。

 映画UHDブルーレイ『グレイテスト・ショーマン』も再生してもらったが、AVC-X6800Hは歌声の再現、ヴォーカルの伸び感も見事で、チャリティ役のミシェル・ウィリアムズの歌声がより印象的に感じられる。

 『地獄の黙示録』の虎と遭遇するシーンでは、ジャングルの静けさや遠くの鳥のざわめきがリアルで、本当にジャングルに迷い込んだような気分になる。続いて何かが近づいているといった緊張感が音で再現され、不気味さ、怖さがいっそう増してくる。これだけの細やかなサウンドデザインをきちんと再現できているのは見事だと感じた次第だ。

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