今秋のAVコンポーネントの中で私が最も注目している新製品のひとつが、「オーラVA 40 rebirth」だ。ある程度オーディオキャリアのある人にとって少々懐かしさを感じるこの型番機は、1980年代終わりから1990年代初めにかけて一世を風靡した(というといささか大袈裟だが)、ファンクションを極力省いたシンプルな薄型プリメインアンプで、ブランド創立35周年のアニバーサリーモデルとしてこの度復活。かつて英国、韓国と製造国が変遷したが、今回はメイド・イン・ジャパンとなる。
今回私に与えられたミッションは、このVA 40 rebirthを使ってその映画適性を探れというもの。しかもHiVi誌創刊40周年という枠組みの中で、私にとってエポックとなる映像作品を通じてパフォーマンスをチェックせよというもの。熟考の末、UHDブルーレイ版が出たばかりの『燃えよドラゴン』を選んだのだ。
Integrated Amplifier
Aura
VA 40 rebirth
¥275,000 税込
●型式:2chステレオプリメインアンプ
●定格出力:50W+50W(8Ω)
●接続端子:アナログ音声入力3系統(RCA)、フォノ入力1系統(MM)
●寸法/質量:W430×H76×D350mm/7.2kg
●問合せ先:(株)ユキム TEL.03(5743)6202
わがブルース・リーの代表作がUHDブルーレイで復活!
私にとって最初の映画のヒーローは、紛れもなくブルース・リーである。小学高学年の時、アンコール上映で観た『燃えよドラゴン』の衝撃は忘れられない。同作の大ヒットと、それに伴なう空前のカンフー・ブームが世界を席巻した時、当のリーは既にこの世にいなかった。それがなおいっそう「伝説のアクション俳優」として彼のイメージを押し上げたことは間違いない。私は中学時分までその虜になり、関係雑誌や研究読本、サントラ盤等を買い漁ったものだ。
『燃えよドラゴン』は、2007年に「VC-1」エンコードで初めてブルーレイ化された(同エンコードの採用は当時ワーナー・ブラザースがHD DVDとBDの両者のハイビジョンディスクを併売していたため)。その際の収録音声はロッシー圧縮仕様、すなわちドルビーデジタル5.1chであった。
その後2013年に40周年記念版としてリマスターBDがリリースされ、映像はAVCエンコード、音声はロスレス圧縮のDTS-HDMA5.1chとなった。今回リリースされたUHDブルーレイ版に同梱のBDは、これと同一仕様。
今回のUHDブルーレイ版はHDR仕様のHEVCエンコード、音声にはロスレス圧縮のドルビートゥルーHDコンテナのドルビーアトモスに加え、劇場公開時のオリジナル音声であるDTS-HDMA2ch仕様のモノーラル音声が収録されていることが嬉しい。なお今回の視聴は4K版とする。
UHDブルーレイ
『燃えよドラゴン〈4K ULTRA HD & ブルーレイセット〉』
(ワーナー/NBCユニバーサル1000829492)
¥8,980(税込)発売中
●初回限定版
●2023年9月20日発売
●UHDブルーレイ+BDの2枚組
●4K ULTRA HDには「ディレクターズカット版」(103分)、「劇場版」(102分)の2種類の本編を収録
●吹替え音声:「ディレクターズカット版」本編には、谷口節版(TBS版)、富山敬版(テレビ朝日版)の2種類、「劇場版」本編には谷口節版を収録
©1973, 1998 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
『燃えよドラゴン』
●1973年作品
●102分(劇場版)、103分(ディレクターズカット)
●劇場公開:香港・1973年7月26日、アメリカ・8月19日、日本・12月22日
【スタッフ】監督:ロバート・クローズ、脚本:マイケル・オーリン、音楽:ラロ・シフリン
撮影:ギルバート・ハッブス、チャールズ・ロウ、編集:カート・ハーシュラー、ジョージ・ウォッターズ、チャン・ヤオ・チュン
【キャスト】ブルース・リー、ジョン・サクソン、ジム・ケリー、シー・キエン、ヤン・スエ
本作は、1985年に4:3映像を収録したLDが日本で発売。その後、1994年にワイドスクリーン版LDが再発。1998年には、スクイーズ収録映像+ドルビーデジタル5.1ch音声を収めたDVDが、2007年にはVC-1方式によるHD映像+ドルビーデジタル5.1ch音声を収めたBDが初登場。2013年にはMPEG-4 AVC圧縮による高画質映像とDTS-HDMA5.1ch音声を収めた40周年記念リマスター版BDが、今年(2023年)には、4K&HDR映像とドルビーアトモス音声を収録したUHDブルーレイがリリースされた
注目スピーカー2種をオーラで聴き比べ。入念なリップシンク調整は欠かせない
今回はオーラVA 40 rebirthによる2chステレオ再生のため、プレーヤーは必然的にアナログ出力端子を持つ機種に限られる。しかし現状これに適う高品位モデルはなく、ここでは最新の65インチサイズのパナソニック有機ELテレビTH-65MZ2500を使いたいという前提から、生産完了品ながら同一メーカーのDP-UB9000(Japan Limited)を準備した。こうしたシンプルなAV鑑賞スタイルにおいては、現行品で対象機が限定されるしまうのは真に由々しき事態である。
他方では、視聴しながら気付いたのがリップシンクのズレである。アナログ出力までの信号処理によるものか、必殺技が決まる前に、「アチョー!」というリーの<怪鳥音>が響き、UB9000側の「オーディオディレイ」機能で音声を遅らせる必要が生じた。50msや100msでは不足、200msでは少々やり過ぎとなり、170msがいい按配であった。この辺りがステレオシステムでAV鑑賞する際の要点となろう。
VA 40 rebirthは、往時のモデルが筐体全体をクーリングに活用していたのに対し、大型ヒートシンクを用いて放熱性を確保。その出力段を担うのは、やはりオリジナル機に使われていたものと互換性のあるMOS-FETのシングルプッシュプル構成だ。前面パネルもシンボリックなクロームメッキが継承された。
接続図
オーラVA 40 rebirthはステレオアナログRCA端子とフォノ入力端子だけを備えるシンプルなプリメインアンプ。ビデオソースの再生もアナログ音声入力限定となる。ここではパナソニックのUHDブルーレイプレーヤーDP-UB9000(Japan Limited)を用いた。オーラに見合う高品位なアナログ音声出力を備えた単体ビデオプレーヤーは現状存在していないのが、本当に残念だ
パナソニックの65インチサイズの有機ELテレビTH-65MZ2500の両脇にステレオスピーカーをセット。それをオーラのプリメインアンプで鳴らすというシンプルな構成でありながら、迫真の音響が得られた。『燃えよドラゴン』のUHDブルーレイにはDTS-HDMA5.1ch音声と、オリジナルモノ音声(信号としては2chで収録)が収められているが、今回は後者の音がマッチ、ブルース・リーの命をかけた演技が視聴室に快音とともに蘇った
スピーカーは2機種を準備した。1つはスペンドールClassic 3/1。ブックシェルフ型2ウェイで、ポリマーコーン型ウーファーとケブラー複合ドーム型トゥイーターという、まさしく同社伝統の組合せ。適度にエンクロージャーを鳴らす設計の、文字通りクラシックなフィロソフィーが活きたモデルだ。
ディナウディオEvoke 30は、2.5ウェイのスリムなトールボーイ型。14cmウーファーがカットオフ周波数をずらしたスタガー動作となっており、炭酸ストロンチウム・フェライト+セラミック磁石が強力な駆動力を発揮する。
Speaker System
SPENDOR
Classic 3/1
¥440,000 (ペア)税込
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:22mmドーム型トゥイーター、180mmコーン型ウーファー
●出力音圧レベル:88dB/W/m●クロスオーバー周波数:3.7kHz
●インピーダンス:8Ω
●寸法/質量:W220×H395×D285mm/9.9kg
●問合せ先:(株)トライオード TEL.048(940)3852
Dynaudio
Evoke 30
¥737,000 (ペア)税込
●型式:3ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:28mmドーム型トゥイーター、140mmコーン型ミッドレンジ、140mmコーン型ウーファー
●出力音圧レベル:88dB/2.83V/m
●クロスオーバー周波数:1.2kHz、2.3kHz
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W268×H920×D342mm(フット/グリル付き)/15.5kg
●問合せ先:DYNAUDIO JAPAN(株) TEL.03(5542)3523
その他の視聴システム
●4K有機ELディスプレイ:パナソニックTH-65MZ2500
●UHDブルーレイプレーヤー:パナソニックDP-UB9000(Japan Limited)
心躍るスペンドールと力に満ちたディナウディオ
まずはスペンドールで再生。ラロ・シフリン作曲のテーマ曲が流れてきて心踊る。そう、まさしく気持ちを鼓舞するようなメロディー、リズムの力強さだ。一方タイトルロールの映像では、70年代初めの香港の猥雑さがよくわかり、空の白さにHDR処理の威力が見て取れる。また、FBIの要人と会談中のリーが着用するスリーピース・スーツの服地のよさも、今回の4K化でより克明となった。
スペンドールでは、ドルビーアトモス音声を2chダウンミックスで視聴。チャプター23の地下のアヘン工場での決闘シーンでは、ヌンチャクを振り回す音、殴打の鈍い音等に実体感があってたいへん好ましい。スペンドールの中域の密度と張り出し具合が実にいいのだ。
トランジェントも良好で、リーの格闘シーンではさらなる躍動感をもたらしている。スペンドールの2ウェイのユニット間のつながりが抜群によく、まるでシングルコーンのフルレンジのような音像定位のよさが感じられる。セリフの定位はもちろん、棒のしなり音や鎖の軋む音など、なかなかリアル。仕掛けられたコブラの「シャーッ」という威嚇声さえ鋭く感じられた。
ディナウディオで聴いたDTS-HDMA2chでのオリジナル・モノーラル音声の音は、さらに分厚くて逞しい。セリフのボディ感がより太く、画面からグッと前に出てくるのである。オープニングの音楽もリズムの重心が低く、より力強く感じられた。
VA 40 rebirthは、スピーカーの個性に鋭敏に反応しながら、音声フォーマットの違いを明確に再現する。モノーラル音声ゆえ、ドルビーアトモスの2ch再生時のような広がりには乏しいが、その分、帯域内の音の密度が濃密。VA 40 rebirthはその濃厚な音の塊というか、エネルギーをガツンと放出してくれるのである。ヌンチャクの音には瞬発力が感じられ、打音の力強さは想像以上。
ことにリーの決闘シーンの効果音やセリフの充実に関しては、断然モノーラル音声の方がいい。ちょっとクセのあるリーのセリフの抑揚やイントネーションも生々しく感じられるのである。
今や伝説となった鏡の部屋でのハンとの一騎打ち場面。怪鳥音と効果音、さらに音楽のブレンドが素晴らしい。ハンの鉄の義手によって裂かれるリーの腹、蹴りの一撃、鏡を拳で叩き割る粉砕音、雄叫び……。それぞれの音がリアルな生々しさで65インチ画面にピタリと寄り添い、そこからグイっと前に張り出してくるのだ。久しぶりに観たこのクライマックスシーンで、思わず手に汗握っているのがわかった。
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私はこの仕事をして今年で31年になるが、それはオーラの歴史とほぼ重なる。デビュー間もない頃に同社のPR記事の仕事をさせていただいたこともあって、オーラのアンプには個人的な感興もあるのだが、今回VA 40 rebirthを聴き、当時の思いが脳裏をよぎった。
それをこうして自分にとってエヴァーグリーンな作品『燃えよドラゴン』で味わうことができ、感慨も一入である。
本記事の掲載は『HiVi 2024年冬号』