オフコースらしい幅広い音楽性と多様なサウンドを気分によって聴き分けることができる贅沢なディスク

ステレオサウンドの独自制作による、オフコースのオリジナルアルバム復刻シリーズ。2023年4月に1980年の8thアルバム『We are』および1981年の9thアルバム『over』の45回転2枚組LPとSACD/CDハイブリッドがリリースされたが、このたび1982年の10thアルバム『I LOVE YOU』が同じ2フォーマットで登場した。グループにとっては『We are』と『over』に続いてチャート1位を記録した黄金期の一枚であり、小田和正、鈴木康博、松尾一彦、清水仁、大間ジローの5人体制の最後を飾るアルバムである。

『We are』『over』『I LOVE YOU』の3作のタイトルを並べると「We are over, I LOVE YOU」となることから、『over』のリリース以降、グループの解散を囁く声はファンの間で絶えなかった。しかし実際には、ギターの鈴木康博がこの『I LOVE YOU』を最後に脱退。小田に比肩するソングライターとしてオリジナル曲を分け合った鈴木の離脱により、その後のグループは小田のソロ的な色合いを強めていく。そういう意味でも本作はバンドらしいオフコース・サウンドが聴ける最後のアルバムであり、『We are』『over』と並んで最高傑作に推すファンも多い。

全9曲の内訳を見ると、小田和正の作詞/作曲は「YES-YES-YES」「きっと同じ」「決して彼等のようではなく」「I LOVE YOU」の4曲、鈴木康博の作詞/作曲は「素敵なあなた」「愛のゆくえ」「揺れる心」の3曲、残る2曲は「哀しき街」が作詞:小田和正/作曲:松尾一彦、「かかえききれないほどの愛」が作詞:清水仁、大間仁世(大間ジロー)、松尾一彦/作曲:松尾一彦。編曲は全曲オフコース名義だ。レコーディング時、すでに鈴木の脱退は決まっていたそうだが、ソングライティングにおいても音づくりにおいても、バンドの民主性がきっちり保たれていたことがわかる。

ミックスは『We are』『over』に続いてLAのエンジニア、ビル・シュネーが担当。グループとシュネーの出会いは1980年で、小田がパチンコの景品(!)として手に入れたボズ・スキャッグスの『ミドル・マン』の音のよさに感激し、そのプロデュース/エンジニアとしてクレジットされていたシュネーに小田からコンタクトをとったのだとか。スケジュールの都合もあり、本作のミックスは前2作と同じLAのチェロキー・スタジオではなく、録音が行なわれた東京のフリーダム・スタジオにシュネーが赴きミックスするという方法で仕上げられている。

画像: オフコース『I LOVE YOU』SACD/CD、45回転アナログレコード/ステレオサウンド オリジナルソフトの魅力を語る 名盤ソフト 聴きどころ紹介56

今回のステレオサウンド版の詳細な制作過程については、商品に付属する小原由夫氏の解説をぜひお読みいただきたいが、45回転2枚組LPのカッティングとSACD/CDハイブリッドのマスタリングは、ともに東京・湯島の「PICCOLO AUDIO WORKS」を主宰する松下真也エンジニアが担当。

『We are』『over』に続く三たびの起用である。45回転2枚組LPはユニバーサル ミュージックが保管するオリジナルのアナログマスターテープをアンペックスのテープレコーダーATR102で再生。その音を松下氏が45回転盤に最適化させるべく調整し、カッティング用のハーフインチ・アナログマスターに収録。米スカーリー製のカッティングレースによるカッティングでラッカー盤が作成されている。

プレスは横浜の東洋化成で行なわれた。SACD/CDハイブリッドは、LP用に作成された先述のハーフインチ・アナログマスターをアナログ領域で微調整したのちdCSのA/Dコンバーター905でデジタル化。タスカムのデジタルレコーダーDA-3000にDSD2.8MHzで取り込んだものをSACD層のマスターに、同じくアナログ領域で微調整してPCM44.1kHz/16ビットで取り込んだものをCD層のマスターに採用している。

45回転 LP 2枚組『I LOVE YOU/オフコース』

画像: 45回転 LP 2枚組『I LOVE YOU/オフコース』

(ユニバーサル ミュージック/ステレオサウンド SSAR-091/092)¥9,900 税込

DISC 1
[SIDE A]
1.YES-YES-YES
2.素敵なあなた

[SIDE B]
3.愛のゆくえ
4.哀しき街

DISC 2
[SIDE C]
1.揺れる心
2.きっと同じ
3.かかえきれないほどの愛

[SIDE D]
4.決して彼等のようではなく
5.I LOVE YOU

●カッティングエンジニア:松下真也
●問合せ先:(株)ステレオサウンド 通販専用ダイヤル☎️050(1807)4411
購入はこちら

まずは45回転2枚組LPを聴いた。

自宅のトーレンスTD-147 Jubilee(アナログプレーヤー)+ゴールドリング1012GX(MM型カートリッジ)/デノンPMA-SA11(プリメインアンプ)/ハーベスHL-Compact(スピーカー)というシステムでA面冒頭の「YES-YES-YES」を再生すると、小田和正による輪唱風の多重コーラスが奥行感たっぷりに再現される。街の雑踏のSEなども織り込まれるこの曲の緻密かつドラマティックな構造がよく見渡せると同時に、サビでの少しかすれた小田のハイトーンが胸に迫る。

参考までに1982年リリースのオリジナル盤(Express/東芝EMI)と聴き比べると、オリジナル盤も充分にいい音ではあるのだが、ヴォーカルと各楽器の音像の彫りの深さや音場感の豊かさ、S/Nの高さにおいてはステレオサウンド盤にアドバンテージがある。

鈴木康博作の「愛のゆくえ」は、AOR経由シティポップ着といった雰囲気のアレンジとビル・シュネーらしい音づくりが完全に溶け合い、洋楽チックな鳴り方。松尾一彦の作曲による「哀しき街」で聴ける、シンプルながら粘り気のある清水仁のベースの再現も気持ちいい。

SACD/CDハイブリッド『I LOVE YOU/オフコース』

画像: SACD/CDハイブリッド『I LOVE YOU/オフコース』

(ユニバーサル ミュージック/ステレオサウンド SSMS-067)¥4,950 税込

[収録曲]
1.YES-YES-YES
2.素敵なあなた
3.愛のゆくえ
4.哀しき街
5.揺れる心
6.きっと同じ
7.かかえきれないほどの愛
8.決して彼等のようではなく
9.I LOVE YOU

●マスタリングエンジニア:松下真也
●問合せ先:(株)ステレオサウンド 通販専用ダイヤル☎️050(1807)4411
購入はこちら

続いてSACD/CDハイブリッドをソニーのSACD/CDプレーヤーのSCD-1で聴くと、SACD層とハイブリッド層が予想していた以上に違った鳴り方で面白い。

「YES-YES-YES」を聴き比べると、滑らかでありながらメリハリも効いたSACD層に対して、CD層は総じて一音一音の押し出しが強く、重心も低め。小田の色が濃いメロウな楽曲はSACD層、鈴木康博の「素敵なあなた」のようなビートの立った楽曲はCD層との相性がいいように感じる。メンバーそれぞれの音楽性が拮抗し、それが音楽性の幅広さにつながっていたこの時期のオフコースらしい多様なサウンドを、気分によって聴き分けることができるという意味でも、なんとも贅沢な盤である。

本作のリリース後、鈴木康博が脱退。小田和正、松尾一彦、清水仁、大間ジローの4人体制になったオフコースは、4枚のオリジナルアルバムを残して1989年に解散。再結成は一度も実現していないが、本作に真空パックされた5人の瑞々しい歌と演奏があればそれでいい。45回転2枚組LPもSACD/CDハイブリッドも、聴き手にそう思わせてくれる鮮度にあふれた好盤である。

This article is a sponsored article by
''.