ソニーの完全ワイヤレスイヤホン「WF-1000XM5」が話題となっている。優れたノイズキャンセリング性能と音質で人気を集めた「WF-1000XM4」をさらに進化させ、「世界最高ノイキャン」(同社調べ)を達成し、音質や装着性にもとことんこだわった開発陣入魂のモデルだ。その「世界最高ノイキャン」はいかどほの効果で、肝心の音質はどのように進歩しているのか。本モデルに込められた思いの丈をじっくりうかがった。(StereoSound ONLINE編集部)

完全ワイヤレスイヤホン:ソニー WF-1000XM5 市場想定価格¥42,000前後

画像1: 「世界最高ノイキャン」を達成したソニー「WF-1000XM5」を聴く! 完全ワイヤレスイヤホンとして、充分満足できる音質だ:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート106

●使用ドライバー:8.4mmダイナミック、密閉型
●Bluetooth対応コーデック:SBC、AAC、LDAC、LC3
●伝送帯域(A2DP):20Hz〜20kHz(44.1kHzsampling)、20Hz〜40kHz(LDAC 96 kHz sampling 990kbps)
●充電方法:USB充電、ワイヤレス充電(ケース使用)
●連続再生時間:最大8時間(NCオン)、最大12時間(NCオフ)
●電池持続時間(連続通話時間):最大6時間(NCオン)、最大7時間(NCオフ)
●質量:約5.9g(片方、イヤーピースM含む)

画像: 8.4mmの新ドライバーユニット「ダイナミックドライバーX」を搭載しながら本体の小型化も実現した

8.4mmの新ドライバーユニット「ダイナミックドライバーX」を搭載しながら本体の小型化も実現した

麻倉 ワイヤレスイヤホン「WF-1000XM5」が発売されて2ヵ月ほど過ぎました。ノイズキャンセリグ対応モデルとしてたいへん好評とのことですが、改めて製品企画や音作りについてお話を聞かせてください。

本坊 ありがとうございます。WF-1000XM5は、前モデルの「WF-1000XM4」のユーザーからいただいたご要望等を踏まえて進化させています。

麻倉 具体的にどんな点を進化させたのか、まずはそこから教えてください。

本坊 WF-1000XM5の特徴としては、「世界最高ノイキャン」「最高クラス音質」そして「ソニー完全ワイヤレス史上最高通話音質」という3点で、音に極限までこだわった製品になっています。圧倒的なノイズキャンセリング性能とハイレゾ音質でありながら、小型設計と高い装着性を実現したモデルです。世界最高という点については、JEITAの基準を元に弊社で測定しました。

麻倉 ノイズキャンセリング機能は数値化できるけど、音質の評価は数値化できないし、なかなか難しいですよ。

本坊 おっしゃる通りです。音質評価については、ユニットを含めて細かく検証しています。その点については、後ほどご確認いただければと思います。

 ではまず、ノイズキャンセリング機能の説明から始めさせていただきます。前モデルのWF-1000XM4では「業界最高クラスのノイズキャンセリング性能」を訴求していましたが、今回進化を遂げて、改めて「世界最高のノイズキャンセリング性能」を備えた完全ワイヤレスヘッドホンとして「最高の静寂」をこのモデルで提案していきます。

 ノイズキャンセリング機能は、いくつかの新しい技術開発で実現しています。まずデュアルプロセッサーとして、「統合プロセッサーV2」と「高性能ノイズキャンセリングプロセッサーQN2e」というふたつのチップを搭載しました。

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麻倉 WF-1000XM4もデュアルチップ搭載?

本坊 いえ、WF-1000XM4のノイズキャンセリングは「統合プロセッサーV1」で処理していました。今回の「V2」では、リアルタイムに環境に合わせたノイズキャンセリング効果を最適化できるようになっています。

 「QN2e」では、今までできなかった複数マイクのコントロールが可能になりました。これまでコントロールできるのは4個でしたが、今回から6個のマイクを使えるようになっています。

麻倉 6個というのは、両側ですか?

本坊 片側3個になります。WF-1000XM4のノイズキャンセリングマイクは外側にフィードフォワード用、内側にフィードバック用が各1個でしたが、今回はフィードバック用マイクを2個とフィードフォワードマイクの構成で、片耳3つずつのノイキャンマイクに増やしました。

 また今回、「ダイナミックドライバーX」というユニットを新開発していますが、このユニットでは、エッジ部とドーム部に異素材を組み合わせた振動板構造を採用しました。柔らかいエッジを使うことで沈み込む低音を実現し、ドーム部には剛性の高い素材を使うことによって、伸びのある高音域を再現しています。

麻倉 異素材を組み合わせた振動板を使うのは初めて?

菊地 ヘッドホンの「WH-1000XM5」でも異なる素材を使った振動板を搭載しており、今回のWF-1000XM5はそれと同様の考え方を採用しました。ただ、技術的な考え方は同じですが、振動板の材料配分は異なっており、WF-1000XM5では8.4mmというユニット径に最適な材料を新規に選んでいます。

画像: ドライバーはWF-1000XM4の6mmサイズから、新開発の8.4mmタイプにサイズアップ

ドライバーはWF-1000XM4の6mmサイズから、新開発の8.4mmタイプにサイズアップ

麻倉 新型ドライバーでは、従来よりも高域、低域とも伸びていると?

菊地 はい、どちらも伸びており、歪みも減っています。1種類の材料ですと振幅による歪みが大きいので、低域を再生した時に音に濁りが出たり、不要な音色が乗ることがあります。今回は振動板の素材を分けることによって、低歪みながら、きちんと振幅ができるようになりました。

麻倉 しかし振動板素材を分けると、そこで音色が違うといった別の問題も出てきます。

菊地 その通りです。今回はエッジ部とドーム部の面積比や剛性についてはかなり研究しました。

麻倉 なるほど。えいや! と決めたわけではない(笑)。

菊地 さすがにえいや、では決められませんでした(笑)。8.4mmという、ある意味中途半端なユニットサイズになっているのは、そういった事情もあります。

本坊 対応信号などのスペックは、概ねWF-1000XM4と同等です。従来のBluetoothコーデックのACC、SBC、さらにハイレゾ対応のLDACはもとより次世代Bluetoothオーディオ「LE Audio(LC3)」にも対応しました。DSEE Extremeも搭載済みで圧縮音声もハイレゾ相当にアップスケールできますので、ストリーミングサービスもハイレゾ級の音質でお楽しみいただけます。360 Reality Audioの認定モデルでもあります。

 続いてサイズ感ですが、本体はミニマルデザインで、機能性と装着性を追求しています。ドライバーユニットが薄型になっていますので、自由度が増して効率的なレイアウトが実現できました。また、メイン基板のSiP(System in Package)化によって高密度実装を達成し、より小型化を実現できました。

麻倉 これがメイン基板なんですね、本当に小さい!

画像: WF-1000XM5のメイン基板

WF-1000XM5のメイン基板

塚本 本体は1個のパーツで、光沢からマットにシームレスにつながる表面仕上げを採用しています。これにより、装着時のタッチ操作の際にも手応えが違うので、操作がわかりやすくなりました。マイク部分も凸部分を減らしてなめらかにした結果、風切りノイズの発生を抑え、通話時の声をより拾いやすくなっています。

本坊 その他、ケース、本体ともに大きくサイズダウンしています。特にイヤホン本体は、横から見た時の面積が大幅に縮小しました。これによって耳への干渉が減り、痛みが出にくい設計になっています。また、イヤホン本体が耳から飛び出している部分が大きいと、外側に力が働いて落ちやすくなってしまうんですが、今回耳からの飛び出しも少なく安定感ある装着性が実現できています。

 さらに今まではイヤーピースもSサイズまでしか付属していなかったんですが、WF-1000XM5ではSSも追加し、女性や耳の小さい方でも快適にお使いいただけるように配慮しております。

麻倉 音楽試聴だけでなく、常時付けてもらいたいという思いが伝わってきます。

本坊 弊社の調査によると、完全ワイヤレスイヤホンユーザーの約70%が仕事でも使っており、そのうち約40%はプライベート用と同じモデルを流用しているそうです。つまり昨今のイヤホンでは、音質は当然ながら、通話品質も重要になりますので、WF-1000XM5ではソニー史上最高音質を目指しました。

 具体的には3つの技術で実現しています。第一は先程お話した風ノイズ低減構造で、他にも骨伝導センサーが入っており、自分の声が骨を伝わって耳に届く音をセンシングしています。

 またWF-1000XM5には、「高精度ボイスピックアップテクノロジー」というAI技術を活かした、声かそうでないかという判定を行うアルゴリズムが入っているのですが、5億サンプルを超える機械学習で構成されています。この高精度ボイスピックアップテクノロジーと骨伝導センサーの組み合わせによって、話者とそれ以外の環境ノイズをクリアーに分離できます。

 さらに今回は、イコライザー機能を追加しました。スマホアプリと組み合わせて5種類の音源を聞いていただき、その中から好みの音を選ぶと、それに基づいて次の音が再生されます。これを繰り返すことで好みの音質に調整できるというものです。

画像3: 「世界最高ノイキャン」を達成したソニー「WF-1000XM5」を聴く! 完全ワイヤレスイヤホンとして、充分満足できる音質だ:麻倉怜士のいいもの研究所 レポート106

麻倉 くっきりした音が好みとか、もっと低音を効かせたいといった具合に選んで、ユーザーの好みを解析する仕組みですか?

塚本 最初の5パターンでざっくりとした傾向を判別し、例えばユーザーが低音の強い音が好みでしたら、それを元に次の好みの音を選び、最終的に絞り込んでいき一番好みの音になります。イコライザー機能については、いい音にしたいけれどどんな風に調整したらいいか分からないかという方もいらっしゃいますので、今回ゲーム感覚で好みの音を選べる新しい機能をご用意しました。WF-1000XM5だけでなく、既発売の弊社モデルでもお使いいただけます。

本坊 ではそろそろ試聴を始めたいと思います。まずはノイズキャンセリング機能です。こちらの小型スピーカーで電車音などのノイズを再生しますので、音楽がどのように聴こえるかご確認ください。

麻倉 確かにノイズキャンセリングの効果が自然ですね。WF-1000XM4ではノイズキャンセリングを入れると音場が整理されるような印象もありましたが、WF-1000XM5ではそれがない。再生音に対する影響も減っています。

菊地 ユニット自体も振幅に対しての暴れが減っていますので、ノイズキャンセリングを入れたときの音質変化はWF-1000XM5ではかなり抑えることができたと思います。

麻倉 ノイズキャンセリング機能は、通勤時に使われることが多いんですよね。

本坊 はい。特に電車の中でのノイズキャンセリング効果を気にする人は多いですね。電車やバスのエンジン音のような低域については、フォードバックマイクがふたつに増えているので低減効果も改善しています。

麻倉 これなら乗り物の中で使う場合でも不満はありませんね。「世界最高ノイキャン」を目指したという成果が出ていると思います。とはいえ、イヤホンで大切なのは素の音質です。次はノイズキャンセリング機能をオフにした音を確認しましょう。

画像: WF-1000XM5(左側)とWF-1000XM4(右側)の本体サイズの比較。実際に並べてみると数値で思う以上の差があった

WF-1000XM5(左側)とWF-1000XM4(右側)の本体サイズの比較。実際に並べてみると数値で思う以上の差があった

本坊 麻倉さんにお持ちいただいた、情家みえさんの「チーク・トゥ・チーク」(192kHz/24ビット/FLAC)とチャイコフスキー「《くるみ割り人形》組曲、《眠りの森の美女》組曲」(44.1kHz/16ビット)を、ウオークマン「NW-WM1ZM2」で再生しました。BluetoothのコーデックはLDACです。

麻倉 結論から言うと、すごくよくなっています。

 比較で聴いたWF-1000XM4もいい音ではあるのですが、ちょっとメタリックな質感があって、どことなく音の輪郭を強調している感じがあります。Bluetooth伝送で、元々情報が少ないところを頑張って広げているという感じがありました。「チーク・トゥ・チーク」でも、冒頭のベースの量感が物足りないし、ヴォーカルのニュアンスも寂しい。特に声が金属的に感じられるのがもったいない。

 しかしWF-1000XM5では、すごく素直な音になっています。メタリックな印象がなくなって、いい意味でのクリアーさ、普通の表現が楽しめる。イヤホンの場合、演出が強めの音が好まれる傾向があるんだけど、WF-1000XM5はそんな余計な演出のない音に近づいてきたと思います。

 「《くるみ割り人形》組曲〜」は、もともと音のレンジ感、音場感が素晴らしい演奏ですが、WF-1000XM5では、特にピッチカートの量感、トランペットの勢いがよく出てきました。解像感、鮮鋭感も充分備わっているし、Bluetooth完全ワイヤレスイヤホンとして合格点です!

 ここまでの音が実現できたのなら、次はオーディオ製品としての個性が欲しくなりますね。ワイヤレスイヤホンとして、こういう素直な音を目指してきたのは正しい進化で、実際にここまでの音を実現したのは素晴らしいと思います。でも贅沢をいえば、さらにその先、付加価値のある音が聴きたくなる。

 真面目な物づくりはすごくいいんだけども、さらに色気や感動があるとか、そういったピピッとくる要素があるといいですね。例えば情家さんの声にもっと艶が欲しいとか、「《くるみ割り人形》組曲〜」だったらホールの音場感、トランペットや弦がより輝かしく鳴っている、そういった音の再現性が、今後目指すべき方向ではないでしょうか。

画像: ●取材に協力いただいた方々(写真左から) ソニー株式会社 商品技術センター 商品設計第2部門 商品設計2部 エリクトリカルマネージャー 塚本哲朗さん 音響デバイス技術開発部 菊地浩平さん 共創戦略推進部門 パーソナルエンタテインメント商品企画部(取材当時) 本坊健一郎さん

●取材に協力いただいた方々(写真左から)
ソニー株式会社
商品技術センター 商品設計第2部門 商品設計2部
 エリクトリカルマネージャー 塚本哲朗さん
 音響デバイス技術開発部 菊地浩平さん
共創戦略推進部門 パーソナルエンタテインメント商品企画部(取材当時) 本坊健一郎さん

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