麻倉怜士さんと潮晴男さんが共同代表を勤めるUA(ウルトラアート)レコードでは、8月10日に発売された同ブランドの最新SACD/CDハイブリッド盤『エトレーヌ/情家みえ』(¥4,400、税込)の試聴会を、東京・有楽町のKEF Music Galleryで開催した。

画像: 麻倉さん、情家さん、潮さんが揃って、SACDについて開設してくれた

麻倉さん、情家さん、潮さんが揃って、SACDについて開設してくれた

 潮さんによると、UAレコードとして当初は毎年新作をリリースするという目標を掲げていたそうだが、コロナ禍もあって実現できなかったという。今回は初心に帰って第一作の『エトレーヌ』をSACD化したという。

 とはいえそこは音にこだわるおふたりが企画したSACDということで、完成までには様々な配慮が施されている。

 まずマスターには76cm/秒の24トラック、2インチアナログマスターからトラックダウンを行ったハーフインチのアナログテープを使用。実は2018年のCD(UHQCD)制作の際に、当時でも貴重だった2インチアナログマスターでも収録していたそうで、それが今回も生きてきたことになる(第一弾のCDはプロツールスで録音した192kHz/24ビット音源をマスターに使用)。

画像: SACD『エトレーヌ/情家みえ』の試聴会が、KEF Music Galleryで開催。レーベルの色にまでこだわった、音質最優先のもの作りが紹介された

 本タイトルは2019年10月にアナログレコードでも発売されており、今回のSACD/CDで使ったハーフインチアナログテープはこの時にトラックダウンを行ったものを使っている。今回はスチューダA820デッキで再生し、ダイレクトにDSD2.8MHzへの変換を行ったという。その際には、特にアナログコンソール等で調整を加える必要がなかったそうで、いかにいいバランスで録音されていたかがうかがえる。

 なおDSD変換作業と同時に44.1kHz/16ビットリニアPCMでも収録しており、今回のディスクのCD層にはこちらが使われている。つまり、既発売のUHQCDとはマスターから違うわけで、麻倉さんは、オーディオファンにはこの2枚の違いも聴き比べて欲しいと話していた。

 さらにこだわった点として、SACD/CDの盤面の仕上げを3種類試作し、音を聴いて選んだそうだ。デザイナーから提案があったのが赤い盤面に白い文字で曲名等が描かれたもの。しかしCDやSACDについては光の乱反射を抑えるという観点から盤面は緑色の方がいいと言われており、弊社のSACDでも音匠と呼ばれる仕上げを採用することが多い。

 そこで今回も、ベースを緑色にして白い文字を載せたバージョンと、ベースを白にして、抜き文字で緑色を印刷したバージョンを試作、合計3枚のディスクで音を聴き比べ、麻倉さんと潮さんで協議のうえ最終仕様が選ばれたという。

画像: レーベル面の印刷が音に影響するか、実際にディスクを作って比較試聴を行ったとのこと

レーベル面の印刷が音に影響するか、実際にディスクを作って比較試聴を行ったとのこと

 試聴会には麻倉さん、潮さんに加えて、情家みえさんも登場。SACDの音を聴きながら、収録当時の思い出を語ってくれた。なお当日の再生システムはSACD/CDトランスポートがマッキントッシュ「MCT450」、プリアンプが同じくマッキントッシュの「C47」で、KEF Music Gallery常設の業務用パワーアンプを使って、スピーカーの「Muon」を鳴らすという贅沢な構成だった。

 この環境で、まずディスクの盤面仕上げで音にどんな違いがあるのかを検証した。「既発売のUHQCD」、SACDの「赤い盤面」「下地が緑で白い文字を印刷したもの」「下地が白で緑の抜き文字を印刷したもの」という順番で再生してもらう。

 「UHQCD」は輪郭がくっきりして、ふくよかな低音が持ち味。SACDの「赤い盤面」はSACDらしく情報量が増えるが、低音がややタイトな印象もある。「緑+白文字印刷」では音場が広くなって、ピアノのタッチが綺麗に再現されてきた。最後の「白+緑の抜き文字印刷」では音場の広さは「緑+白文字印刷」同様で、力感、ディテイルの再現性に優れる印象だ。

画像: KEF Music Galleryの常設システムでSACDの音を聴かせてもらった。一番外側のスピーカーが「Muon」

KEF Music Galleryの常設システムでSACDの音を聴かせてもらった。一番外側のスピーカーが「Muon」

 実は潮さんと麻倉さんの間でもどれがいいか意見が別れたが、最終的には情報量の多さと、高域から低域までのバランスのよさを考えて、「下地が白で緑の抜き文字を印刷したもの」が選ばれたそうだ。「盤面の印刷で音が変わるんだから、ディスクメディアは面白いよね。文字の大きさでも影響が出るようだから、詳しく調べてみたいと思います」と潮さんも話していた。

 続いて収録曲から「ムーン・リバー」をUHQCDとSACDで比較すると、明瞭さと力強さを感じるUHQCDと、情報量がありつつ、まろやかなニュアンスも描き出すSACDという印象。「ユー・ドント・ノウ・ミー」(SACDを再生)をしっとりと歌う情家さんの声がとてもリアルだ。

 感想を聴かれた情家さんも、「どきどきしました。もう7年前の収録ですが、歌っていた時の自分の喉の状態がわかるくらいの情報量で、当時を思い出しました。このレコーディングはワンテイク(歌い出しから最後まで通して収録し、編集は行わない)だったんですが、それを知らなくて、収録が始まる時の様子でどうもいつもと違うなぁと。ワンテイクと聞かされてからは、腹を決めて臨んだんです(笑)」と語っていた。

画像: 麻倉さんと潮さんは、今年8月に開催された香港AVショーに出展、SACD『エトレーヌ』をデモしたそうです。なんと期間中に200枚が完売してしまうほどの人気だったとか

麻倉さんと潮さんは、今年8月に開催された香港AVショーに出展、SACD『エトレーヌ』をデモしたそうです。なんと期間中に200枚が完売してしまうほどの人気だったとか

 さらに「キャラバン」「スティル・クレイジー・オール・ディーズ・イヤーズ」もかけてもらうと、「ライブでもほとんど歌ったことがない選曲で、アレンジもその場で譜面を見てからだったので、今日の音を聞くとあの時の緊張感が蘇ってきます。『スティル・クレイジー〜』では、間奏からの歌いだしが失敗できないから、本当に緊張しました」とのことだった。

 最後に潮さんが、「初めてSACDを作ってみて、CD、レコード、SACDでそれぞれ持ち味があることが再確認できました。UAレコードとして、次回作も頑張ります」と、今後の展望(?)を語ってイベントは終了した。

 なお本SACDの発売を記念して、12月20日に渋谷公園通り「BODY & SOUL」で情家さんのライブが開催される。彼女の生の歌声を聴いてみたいという方は、ぜひ足を運んでいただきたい。

学芸大学「ホーム商会」でも、『エトレーヌ』SACD試聴会を開催

 KEF Music Galleryのイベントに先駆け、東京・目黒の老舗オーディオショップ「ホーム商会」でも同様の試聴会が開催されていた。こちらのシステムはSACD/CDプレーヤーがエソテリック「Grandioso K1X」、プリアンプは「Grandioso C1X solo」、パワーアンプ「Grandioso S1X」という布陣で、スピーカーはB&W「801D4 Signature」。

 システムが異なるため、同じSACDを再生してもサウンドの印象にはやはり違いがある。ホーム商会で聴けた音は、情報をより明晰に再現しており、リアルでありながら同時に分析的という、貴重な体験だった。

 当日の来場者の中には同タイトルのCDを持っている人もいたようだが、それでもSACDの音に感動して買い求めていた(その後、購入者に対するサイン会も開かれていた)。

画像: ホーム商会での試聴システム

ホーム商会での試聴システム

画像: 3名揃って記念写真

3名揃って記念写真

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