ヒットメイカー、ジェームズ・キャメロン監督の最新作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』。前作の『アバター』で3D映画のムーブメントを作り上げたことはご存知の通り。本作ではより進化した立体映像を作り上げた。今回は、この最新・最高峰の3D映像をホームシアターで体験すべく、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター 4K UHD』ボックスに収められたブルーレイ3Dを用いた視聴取材を敢行。ビクターのD-ILAプロジェクターDLA-V90R/同V50の2機種とキクチの120インチスクリーンを核にした、最新・最高峰の再生環境で体験している。リポートは3D映像の進化を見続けてきた、麻倉怜士さんと藤原陽祐さんのお二人にお願いした。(編集部)

新世代の3Dの虜になる ── 麻倉怜士

 3D技術の発展という意味からも、『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』は画期的/歴史的な名作だ。3Dの視覚上の問題点がほとんど完全に払拭されているからだ。強すぎる視差による不自然さ、奥行方向におけるオブジェクトの位置逆転、画面の端の違和感……などが一般的に3Dで感じる問題点だ。

 

D-ILA PROJECTOR
VICTOR
DLA-V90R
¥2,882,000 税込

●型式:4K解像度D-ILAパネル搭載8Kプロジェクター
●問合せ先:JVCケンウッドカスタマーサポートセンター TEL.0120-2727-87

3Dブームを巻き起こした『アバター』の続編である本作は当然、3D再生にも注力して制作されている。直視型テレビの3D対応機は現在は存在していないので、家庭用機器での3D再生は、プロジェクターを用いた大画面再生の特権的な再生方法となる。今回は、3D対応モデルを意欲的に展開し続けるビクター/JVCのD-ILA方式のネイティブ4Kパネル製品のうち、最廉価機(DLA-V50)と最高級品(DLA-V90R)を用いた

 

 

 今回の取材の中で、キャメロン監督の『タイタニック』のブルーレイ3Dを久しぶりに視たが、もの凄く不自然だ。これは2Dから後に3D変換したものだが、書き割り板状ののっぺりとした人物が前後に貼り付けられ、手前と奥が逆になったり、動きがぼける。これはだめだ。前回の『アバター』のブルーレイ3Dも、手前の人物の強調感、動きの残像……などの不自然が指摘できよう。

 ところが本作では、こうした不都合は、ほぼ完璧に追放された。冒頭に述べた、不都合な3D要素は、まったくと言っていいほど、失せたのである。長い時間、見続けても疲れないのである。まさに初代『アバター』3D以来、13年を掛けた技術の進歩の恩恵だ。レトリック的にいうと、「3Dであることを忘れる自然さ」だ。

 そうなると面白いのが、「3Dの有り難みはどこに?」だ。3Dで視ているのに、あまりに自然……、つまり、我々が日常的に視覚で視ているのと同等の3D感……なので、脳はこれが“映像で観る3D”であることを忘れ、普段の視覚情報として認識する。すると注意は3D効果には払われなくなる(?)。当たり前の絵だからだ。見続けると「3Dらしさ」を忘れるというのは、良いことなのかどうか。これを私は“3Dパラドックス”と呼んでいるが、そこまで脳が自然だと認識するまでに3Dがなったということが画期的だ。

 本作の3Dの凄い点は、奥行方向の3D描写のみならず、オブジェクト自身が立体であること。登場キャラクターの身体の丸み、出っ張り、引っ込みが、これまたごく自然に立体になっている。前述した『タイタニック』3Dののっぺり、書き割りの立体化から、ここまで進化したのかと感慨が深い。

 3D再生は、もはや直視型テレビはどれも再生できない。そこで、今回はビクターの2つのプロジェクターで再生した。まずネイティブ4Kのエントリーモデル、DLA-V50は、本作の持つ3D映像としての完璧性を余すところなく、再現した。特にシネマモードが、いい。ワイドなコントラスト感にて、立体感を見事に再現。手前、中景、遠景の描き分けも明確で、しかも自然だ。後半の海面の波の重なり合い、水中で発生する細かな気泡の前後感、水面反射のヴィヴィッドな輝き……には、特に感心した。

 レーザー光源モデルの最高峰DLA-V90Rはどうか。BDのフルHDから4K解像度にアップコンバートして表示するわけだが、その高倍率変換で生じる不都合はまったくない。DLA-V50でも同等の処理となるが、V90Rでは階調再現がより緻密になるのがメリットだ。加えてレーザーによる高輝度の効用は当然、3D再現にプラスしている。さらに3Dならではの細部までの質感再現が圧倒的だ。

 これまで3Dの本質は①奥行方向の立体感、②オブジェクトの立体感と述べてきたが、加えて③リアルな質感再現が、DLA-V90Rなら明確に分かる。ディテイルまでも徹底的に3D化されるので、質感がより正確に再現されるのである。別の言い方をすると光束の細密さ、光線の鋭さ、光面の輝きが、3Dだからこそ情報量豊かに感じる。たとえばチャプター3のスカイピープルの宇宙船のクールな金属感、反射感、緻密さの質感表現は、2Dのそれを遙かに凌駕している。

 『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』を、ハイクォリティな3Dエンターテイメントが享受できるビクタープロジェクターで鑑賞するなら、誰でも必ずや新世代の3Dの虜になるに違いない。

 

JVC/ビクター製プロジェクターの3D方式

画像3: 驚異的レベルに達した3D映像と進化した3D表示能力の合せ技で未体験の現実感覚に圧倒された!VICTOR「DLA-V90R」「DLA-V50」【HiVi流『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』最高再生術】

 

 

この質感再現は初体験 ── 藤原陽祐

画像4: 驚異的レベルに達した3D映像と進化した3D表示能力の合せ技で未体験の現実感覚に圧倒された!VICTOR「DLA-V90R」「DLA-V50」【HiVi流『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』最高再生術】

D-ILA PROJECTOR
VICTOR
DLA-V50
¥800,000 税込

●型式:4K解像度D-ILAパネル搭載4Kプロジェクター

JVC/ビクターでは高コントラストな映像投写が可能な反射型液晶素子D-ILAを25年に渡って展開しており、様々な名機を生み出してきた。現在は水平4096×垂直2160画素のネイティブ4Kパネルを使ったプロジェクター4モデルをラインナップ。具体的には、レーザー光源を備えた上位モデル(DLA-V90R/同V80R/同V70R)と、高圧水銀ランプを用いたDLA-V50の4製品だが、いずれも高品位な3D再生をサポートしている

 

 いまやプロジェクター限定となった3D映画の鑑賞。テレビで手軽に見られないのはちょっと寂しい気持ちもするが、3D映像の醍醐味はやはり等身大か、それを超える大画面で観ること。50インチ、60インチでは、どうしても箱庭的な表現になりやすく、特に『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』のような雄大なスケールで撮られた映画との相性は良くない。やっぱり3D映画はスクリーンでの鑑賞がベストだ。

 そこで今回用意されたのが、DLA-V90R、DLA-V50という2台のビクター製プロジェクターとキクチのグレースマット100による120インチワイドスクリーンだ。V90Rは家庭用としては貴重な8Kプロジェクターだが、3DではV50同様、4Kでの表示(HD→4K変換)となり、左目用、右目用それぞれ秒48フレームでの表示となる。

 では早速、DLA-V90Rから見ていこう。冒頭、霧に包まれたパンバラの森が映し出されるが、空中に浮かぶ大きな岩や大小入り混じった木々、複雑に絡み合ったツルなど、2D表示とは明かに異なる、立体感、奥行感に圧倒される。

 2D映像はピントの外れた部分を奥行方向に拡げている印象だが、3D映像ではピントが外れた部分、合った部分ともに前後に立体感を持たせていて、被写体だけが浮き上がるような不自然なかき割り感はない。

 特に暗い森の中、火を囲みネイティリが歌うシーンでは、空間の拡がりに加えて、彼女の顔や手の皮膚感が実に生々しい。暗がりのなか、肌の化粧や細かな模様まで再現し、人生の出来事を表すという数珠も、1つ1つの丸みが感じ取とれる。

 明るいシーンでも3D映像の楽しさは色あせない。たとえばジェイクの子供たちが海で遊ぶ姿を画面いっぱいに映し出すチャプター23。海に飛び出していく映像も新鮮だが、魚、植物、珊瑚、そして大小様々な生き物と、色彩感溢れる水中をゆっくりと泳いでいく子供たちの楽しそうなこと。まさに目の前の巨大な水槽に龍宮城が拡がっているかのような夢の世界。いつまでも、いつまでも見入ってしまいそうなほど、魅惑的な映像だった。

 ここでプロジェクターをDLA-V50に交換。光学設計や光源が異なるため、明るさ、コントラストはV90R同等というわけにはいかないが、4K仕様のD-ILA(反射型液晶)パネルは基本的には一緒。3D表示時の解像度も変わらない。

 V50は、D-ILAプロジェクターとしてはエントリーのモデルとなるわけだが、これが予想していた以上に明るく、見栄えのする3D映像を描き出した。映画冒頭、映し出されるパンドラの森は、岩、木々、ツルが丸みをもって再現され、森の奥にスッと空間が拡がる。満足のゆく3D表示に十分応えられる潜在能力を備えていることが確認できた。

 いや、それどころか「3Dでこんな見せ方でできるなんて……」と思わせる新たな発見もあった。それが「狂暴な殺し屋トゥルクン」というパヤカンの誤解が解けるチャプター34。ロアクが大型の飛び魚スキムウィングにまたがり、パヤカンに会いに行くシーンだが、彼を取り囲むように拡がる海が、思わず手を伸ばし、触りたくなるくらい生々しい。

 手前から奥に拡がっていく空間の広さもあるが、一定周期の大きな揺れ、細かに拡がる小波や泡、水の飛沫は、本物の海面を思わせるリアリティだ。派手ではないが、自分がその現場に居合わせているのかと錯覚するほどの再現性だった。

 「左右の目で異なる角度の画像が見られる3Dは、モノの質感を表現しやすい」と言われるが、実際の映像として質感描写の優位性をここまで感じた映画は、本作が初めて。コンテンツと表示機器の両方が、一定レベル以上のクォリティに達して、初めて体験できる3D表示の醍醐味だったのかもしれない。

画像6: 驚異的レベルに達した3D映像と進化した3D表示能力の合せ技で未体験の現実感覚に圧倒された!VICTOR「DLA-V90R」「DLA-V50」【HiVi流『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』最高再生術】
画像7: 驚異的レベルに達した3D映像と進化した3D表示能力の合せ技で未体験の現実感覚に圧倒された!VICTOR「DLA-V90R」「DLA-V50」【HiVi流『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』最高再生術】

ビクター製プロジェクター向けにオプションで用意される電波式3Dメガネ(PK-AG3/¥16,500 税込)とシンクロエミッター(PK-EM2/¥11,000 税込)。3Dメガネは、USBケーブルによる充電で、連続使用時間は100時間。シンクロエミッターは本体後部の接続端子部につなぐ

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年秋号』

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