アイ・オー・データ機器が展開するハイファイブランドfidataのニューモデルfidata AS2(以下、AS2)は、従来からの呼称であるNAS(ネットワーク接続ストレージ)という範疇を越えて、真の意味でミュージックサーバーと呼びたい逸品だ。それもマルチファンクションを備えた高性能なミュージックサーバーとして。
Network Music Server / Transport
fidata
HFAS2-X40
¥1,320,000 税込
●型式:ミュージックサーバー
●接続端子:デジタル音声出力3系統(同軸×1、光×1、AES/EBU×1)、USB端子3系統(USB Type A×3)、LAN3系統(10Gbps RJ-45×1、1Gbps RJ-45×1、SFP×1)、ほか
●対応プロトコル:OpenHome、UPnP、DLNA、diretta
●対応ストリーミングサービス:Spotify Connect、Amazon Music Unlimited(アップデート対応予定)、Roon(RoonにてQobuz、TIDAL[日本未サービス]に対応)
●寸法/質量:W350×H67×D350mm/約7.2kg
●問合せ先:(株)アイ・オー・データ機器 インフォメーションデスクTEL.0120-777-618
型番から明白なように、本機は先代AS1が生産完了となっての次世代機となる。心臓部にはインテル社製Core i3プロセッサーを据え、高速動作を実現。内蔵ストレージは2TバイトのSSDを2基。M.2 NVMe準拠でRaid 0にて組んでおり、データアクセスの安定性も高い。
今回は電源部や部品にも手が加えられた。独自のリニアパワーコンディショナーは、従来はSSDの電源供給のみに採用していたが、本機ではすべての回路にそれを適応。さらにオーディオ出力系とその他を分別することで、相互干渉の排除、低ノイズと安定性を図っている。部品に関しては、オーディオグレードの電解コンデンサーや厚膜抵抗などを適材適所に採用。一層の高音質化を目指した。
そして本機の最大の注目点は、Roon Coreの内蔵。ROCK(Roon Optimized Core Kit)により、従来PCを立ち上げ、Roon対応機との連携を図るという煩雑さがなくなり、操作を行なうタブレットとAS2だけというシンプルなシステム構成が可能になったことは非常に大きい。
入出力の装備も充実している。デジタル出力はAES/EBU、同軸、光と3系統。LAN端子はRJ-45を1Gbps/10Gbpsの2系統を装備するだけでなく、光接続にも対応するSFPも装備。音質対策を施したオーディオ用USBポートも備える。
本格オーディオ機器らしく、内部は電源や各基板などの分離分割構造が徹底されている。ハイグレードなパーツを採用するだけでなく、筐体構造に至るまで、オーディオ機器としてこだわりぬかれた設計が貫かれている
ミュージックサーバーでありながら、同軸、光、デジタルバランスなどの一般的なデジタル音声端子を装備する。本機を使うことで、USB端子を備わらないかつての高級DACもネットワーク環境に組み込めることを意味している。LAN端子は一般的な1Gbps RJ-45のほかに、高級機を中心に採用が増えてきたSFP端子と、最先端の超高速規格10Gbps RJ-45端子も備わる
テクスチャーのリアリティと立体的音場構築力が凄い
試聴はエソテリックのネットワークプレーヤーN-05XDを組合せて行なった。始めに聴いたのはLAN接続での音。情家みえのヴォーカルは清潔感のある色艶を湛え、音像フォルムも明瞭。伴奏のピアノやベースの音色もナチュラルで、スタジオの自然なリヴァーブ感が心地よく感じられる。マイルス・デイヴィス「ブルー・イン・グリーン」では、ステレオイメージの立体的な見通しがよい。ピアノやトランペットの音色も瑞々しくてクリアーだ。ドゥダメル指揮LAフィルのドヴォルザーク「新世界より」第1楽章では、重厚なハーモニーの綾がよくわかり、ティンパニ等の打楽器のリズムもたいそう力強く感じられた。
次に聴いたのはUSB接続で、この場合はfidataがトランスポートとなる。どの楽曲においても骨格ががっちりとした印象で、安定したエネルギーバランスに感じられる。また、情報量が向上すると往々にして硬さや冷たさを感じることが多いのだが、AS2はそんな素振りはまったく見せず、声や楽器のテクスチャーのリアリティがすこぶる高い。
続いてfidataのディスクトランスポートAD10をUSB接続で連携させ、CDのダイレクト再生とリッピング再生を試した。前者でもオーディオ的満足度は高いが、フワッと広がる3次元的イメージでは後者が優れる。これは回転系にまつわるノイズ(ジッター等)から解放されたことで、微細な表現力が高まったといってもいいだろう。
最後にRoonの再生。①RoonコアをインストールしたMacBook Proを使い、その内蔵ストレージに取り込んだ音楽データをサーバーにしたパターンと、②HFAS2の内蔵Roonコアを動作させた状態で、Roonサーバー動作時の音を比べた(N-05XDはRoon専用モードとした)。
これはもうAS2の圧勝といってよく、情報量も空間表現力が素晴らしい。情家みえは潤いと温度感のある声がスピーカー間にポッと浮かび上がり、その後ろにピアノとベースが見える。澄み切った音場感が美しい。マイルス・デイヴィスは50年以上前の録音とは思えない鮮度の高さとリアルな質感があった。ドヴォルザークではハーモニーの重厚さと雄大なスケール感で魅了。ティンパニは非常にパワフルで、弦も管も響きが実にしなやか。使い勝手も含め、その差は想像以上だ。
結論
高音質に裏付けされたRoonサーバー内蔵には大注目
Roon再生を本格オーディオシステムにて実践するならば、従来はNucleus等のRoon専用サーバーを準備することが一種の定番であったが、たとえば先代のAS1とそれを組み合わせても、果たして今回のAS2のパフォーマンスに肉薄するかは疑問。音質とシステムアップのシンプル化という点においても、この製品化は画期的なのだ。
[視聴ソフト]
●デジタルファイル:『THE REST OF YOUR LIFE/情家みえ』『Kind of Blue/マイルス・デイヴィス』(192kHz/24ビット FLAC)、『ドヴォルザーク:交響曲第9番<新世界より>/ドゥダメル指揮ロサンゼルス・フィルハーモニック』(96kHz/24ビット FLAC)
●CD:『フィフティ/マンハッタン・トランスファー』
Roon再生では、Roonコア(サーバー)とRoon対応プレーヤー(Roon Ready対応ネットワークプレーヤー/トランスポート)、Roon Remote(アプリ)が必要。ミュージックサーバー内にRoonコアを組み込めるようになったのが本機の機能面での最大のトピックだ。なおRoon再生には、別途Roonのサービス利用契約が必要だ