英語タイトルは「SOMEONE YOU LOVED」。あなたが愛した誰か、という意味だろう。主人公はジュノ(イ・ドンフィ)とアヨン(チョン・ウンチェ)のふたり。美大で出会い、すぐに意気投合をする。芸術に関するセンスも、性格も、何もかも一致していたのだろうし、毎日が楽しくてしようがなかったに違いない。親友から恋人になるには時間がかからなかった。スクリーンから青春の輝きがあふれ出るのが、この時代の二人を描くシーンだ。

画像: 男女が出会い、恋をし、別れ、そして他人に。「別れ」を経験したひとを共感させるに違いない一作『もしかしたら私たちは別れたかもしれない』

 が、これ以降の時代が、この映画のほろ苦さだ。美大を出たからといって美術の第一人者になれるとも、そもそもそれで生活できるとも限らない。30代を迎えたジュノは公務員を目指して浪人生活を続け、アヨンはそんな彼を支えるべく不動産会社で働く。つまり、ふたりとも「美術」から離れてしまった。ジュノは一種のヒモ状態となり、勉強するよりもダラダラ過ごすことに貴重な時間を費やしている。

 思い描いていた現実とまったく違うではないか。ジュノはこんなにだらしない男だったのか。以降のふたりは、つきつめれば「別れ」へと向かうのだが、そうなるまでの一つ一つの過程における描写――「元恋人」から「薄い知人」となり、やがて「他人」へとなっていく――そのグラデーションの描き方が繊細だ。袂をわかったあとのジュノ、アヨンと関わってくる新たな異性のセリフ回しも含めて、最後まで魅入られた。監督のヒョン・スルはこれが長編デビュー作だそうだが、内容には大いに自身の実体験が反映されているとのことである。

映画『もしかしたら私たちは別れたかもしれない』

8月11日(金)シネマート新宿ほか順次公開

監督・脚本:ヒョン・スル
出演:イ・ドンフィ、チョン・ウンチェ、カン・ギル、チョン・ダウン、コ・ギュピル
2023年/韓国/103分/カラー/シネマスコープ/5.1ch/日本語字幕:石井絹香/レイティング:G 英題:SOMEONE YOU LOVED
配給:クロックワークス
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