昨今のホームシアターシーンで、大画面再生機として絶大な信頼を集めているビクターのD-ILAプロジェクター。そのパフォーマンスに魅せられて自宅に導入した男たちの生の声をお届けする。

 前編では日本国内25台限定という最高峰モデル「DLA-V90RLTD(リミテッド)」を導入した、読者代表・清水さんのホームシアターで “究極の映像” を体験、D-ILAデバイスの奥深さを実感した。後編となる今回は、「DLA-V90R」を導入した編集部・哲のリビングシアターで、現行ラインナップのトップモデルがどんな映像を再現してくれるのかを確認し、その感想を語り合ってみる。

 視聴環境的には条件が厳しいリビングシアターで、V90Rはどれほどの能力を発揮したのか。今回はV90Rの使いこなしのポイントをも交えながら紹介したい。(編集部・哲)

D-ILAデバイス25年の研鑽が生み出した、家庭用大画面プロジェクターの最高峰

画像: DLA-V90Rは、キクチのプロジェクター天吊り金具SPCMF-W500を使って設置している。地震などで水平がぶれないよう、DIYでワイヤーを取り付けています

DLA-V90Rは、キクチのプロジェクター天吊り金具SPCMF-W500を使って設置している。地震などで水平がぶれないよう、DIYでワイヤーを取り付けています

D-ILAプロジェクター DLA-V90R ¥2,882,000(税込)

 ビクターでは、自社開発のD-ILAデバイスを搭載した家庭用プロジェクターとして「DLA-V90R」「DLA-V80R」「DLA-V70R」「DLA-V50」をラインナップしている。このうちV90RとV80Rは4方向に画素ずらしを行う「8K/e-shiftX」を、V70Rは2方向画素ずらしの「8K/e-shift」を搭載し、スクリーン上で8Kクォリティの映像を再現できる(V50はe-shift機能を搭載しない4Kモデル)。V90Rは、16群18枚オールガラスレンズを搭載した現行ラインナップの最上位機。前回視聴した限定モデル「DLA-V90RLTD」との違いは、V90RLTDはD-ILAパネルに選別品が使われている点と、ネイティブコントラスト比、本体の仕上げといった部分になる。

画像: HDMIケーブルはエイムのLS-3(10m)で、ヤマハのAVアンプCX-A5200から映像を送っている

HDMIケーブルはエイムのLS-3(10m)で、ヤマハのAVアンプCX-A5200から映像を送っている

「DLA-V90R」の主なスペック
●表示デバイス:0.69型ネイティブ4K D-ILAデバイス×3
●画素数:水平4096×垂直2160画素
●表示解像度:水平8192×垂直4320画素(8K/e-shiftX、4方向シフト)
●レンズ:口径100mmオールガラスレンズ、2倍電動ズーム・フォーカス
●レンズシフト:上下100%、左右43%(電動、16:9投写時)
●光源:レーザーダイオード
●明るさ:3,000ルーメン
●ネイティブコントラスト:100,000対1
●接続端子:HDMI入力2系統(48Gbps、HDCP2.3、CEC対応なし)、トリガー端子、LAN端子(制御用)、他
●ファンノイズ:24dB(低モード)
●消費電力:440W(エコモード時0.3W)
●寸法/質量:W500×H234×D528mm(脚部含む)/25.3kg

 ビクターのD-ILAプロジェクター、V9シリーズにはまってしまった男達の座談会、後編です。今回は「DLA-V90R」を使ったわが家のリビングシアターでどういう絵が見られるかを確認していただきたいと思います。

 メンバーとして「DLA-V9R」を愛用中の潮 晴男さんと、潮さんのオーディオビジュアルの弟子にして「DLA-V90RLTD(リミテッド)」のオーナーである清水さんにおいでいただきました。また今回はJVCケンウッド メディア事業部の那須洋人さんにもお付き合いいただき、V90Rの使いこなしをアドバイスしてもらいます。

 V90RはV90RLTDと違って限定生産モデルではないし、今、大画面ホームシアターを目指そうという人にとっては一番気になるモデルでしょう。また、実際にリビングシアターでスクリーン大画面を楽しんでいるユーザーも多いでしょうから、その使いこなしはとても重要です。那須さんにはぜひ的確なアドバイスをお願いしたいと思います。

那須 はい。私もユーザーさんのお宅にうかがう機会はなかなかありませんので、楽しみです。

 さて、まずは哲シアターのシステムから確認させてもらいましょう。プロジェクターはV90Rで、スクリーンはスチュワートだね?

 はい。「HD170-5D」のサウンド仕様で、サイズは110インチ/16:9です。10年前にこの家に引っ越した時に設置したもので、リビングシアターという環境と、サウンドスクリーンなので明るさが落ちてしまう点を考えて、ゲイン1.7の明るい生地を選びました。

 V90Rは天吊り設置で、サラウンド/トップスピーカーも壁に埋め込んでいる。リビングシアターとしては結構典型的な仕上げかな。

 プロジェクターはキクチの金具で天吊りし、AVアンプのヤマハ「CX-A5200」を経由してV90Rに映像を送っています。HDMIケーブルは天井裏を通線しているため長さが10m必要で、V90Rに合わせてエイムの「LS-3」光変換ケーブルを新たに導入しました。

 10mかぁ。できれば再生機とV90Rは直結したいところだけど。

画像: シャッター&カーテンで遮光することで、昼間でも比較的暗い環境を再現できている。“反射光対策の布をあと50cm大きくするとかなり違いますよ”(那須さん)というアドバイスも

シャッター&カーテンで遮光することで、昼間でも比較的暗い環境を再現できている。“反射光対策の布をあと50cm大きくするとかなり違いますよ”(那須さん)というアドバイスも

 レコーダーはパナソニック「DMR-ZR1」と「DMR-4W300」を使っていますし、他に「Fire TV Cube」や「Apple TV 4K」もあるので、ソースは一旦CX-A5200に集約しています。将来資金に余裕ができたらHDMIケーブルを追加してDMR-ZR1とV90Rを直結したいと思っています。

 AVアンプを経由するのがダメだとは言わないけど、僕の経験上、ソース機器とプロジェクターは直結した方が好ましいことが多い。そこは早期になんとかした方がいいでしょう。

 では早速UHDブルーレイをご覧ください。DMR-ZR1をプレーヤーに使い、清水邸と同じく『8K空撮夜景 SKYWALK』のチャプター13「有楽町・丸の内・東京駅」を再生します。

 遮光については、スクリーン正面にある大型の窓にはシャッターを取り付けてあり、その他の窓は厚手のカーテンで対策しています。ただ、スクリーン右手の階段スペースから1Fの外光が漏れてくるので、真っ暗にはできていないのが現状です。

那須 なるほど、やっぱりリビングシアターで昼間に全暗な環境を実現するのはたいへんですねぇ。

 確かにちょっと明るさは残っているけど、V90Rがそもそも3000ルーメンの出力を持っているし、スクリーンゲインも高いので、充分ハイコントラストで、案外自然な映像が再現できていますね。

清水 夜景の映像では、高層ビルの航空障害灯がわが家より明るく感じます。画面全体にメリハリ感があるというか。同じディスクなのに、こんなに印象が変わるんですね。

 映像の深みも出ているし、やはりV90Rの再現力は凄いね。画面一面に散らばっている光が細かい部分まで描き分けられているのも、フォーカス性能がそれだけ高い証拠です。これはV90Rのオールガラスレンズの恩恵もあるでしょう。

 ただ、室内の壁や天井が思った以上に光を反射しているので、そのぶん黒が沈みきれていないのが残念だなぁ。清水邸と同じで、スクリーン周りの反射光を抑えることができたら、もっとクリアーな印象になるでしょう。とはいえ、それでV90Rの魅力がスポイルされているかというと、まったくそんなことはないですよ。

 ありがとうございます。とはいえ前回、清水邸のV90RLTDの絵を見てしまったので、もう少し黒を落ち着かせたい、空気の透明感や映像の立体感を出したいという気分になっています。

 確かにV90RLTDの立体感再現には凄みがあったからね。今日のV90Rの絵も立体的ではあるけれど、東京タワーを見下ろした時の衝撃はやや薄らいでいます。

清水 V90RLTDとV90Rは、どちらもハイコントラストで画面全体がクリアーですね。個人的にはそこが好みで、やっぱりいいなぁと思ったんです。リビングでも専用ルームでも、こういった同じトーンの絵を楽しめるというのも実は重要で、D-ILAというデバイスの底力を感じています。

画像: 前回に続いて、読者代表の清水さん(左)と潮さん(右)にお付き合いいただき、DLA-V90Rの映像について語り合っていただいた

前回に続いて、読者代表の清水さん(左)と潮さん(右)にお付き合いいただき、DLA-V90Rの映像について語り合っていただいた

 ちなみにわが家ではAVアンプを経由していることもあり、『8K空撮夜景〜』は「HDR10」として認識されています。映像調整は「画質モード」を「Frame Adapt HDR1」、「LDパワー」を「中」にしていますが、那須さんから見て、この環境で調整した方がいい項目はありますか?

那須 このコンテンツであれば「ダイナミックコントロール」を「モード3」にしてもらうと絵の印象が変わると思います。

 「ダイナミックコントロール」は、入力信号を解析して、絵柄に合わせて光量を調整する、いわゆるレンズ絞りのような働きをします。もちろん単純に光量を絞るとコントラスト感が落ちるので、そうならないようにゲインも調整しています。「モード1〜3」ではそのガンマカーブの作り方、ゲインのかけ方を変えています。

 「モード1」はどんなソースにも対応できるような調整値で、「モード2」はよりアグレッシブに動かしているので、見栄えがいいと思います。それもあり、ほとんどの画質モードでは「モード2」をデフォルトにしています。

 「モード3」は、このふたつとは映像解析の方法が違います。「モード1〜2」はAPL(画面平均輝度)を使っていますが、「モード3」はピーク輝度を見ています。そのため『8K空撮夜景〜』のようにピークがあって、なおかつ黒い部分も多く含まれている作品を楽しむ時は「モード3」が適しています。

 実は、「モード3」は『8K空撮夜景〜』のための調整値なんです。このディスクが出てきた時に、「モード1〜2」ではパッとしない印象があったので、新たに改良を加えました。「モード3」では光量はほとんど絞っていないので、画面全体の輝度感はアップして、力のある映像としてご覧いただけると思います。

 「ダイナミックコントロール」を「モード3」に切り替えましたが、確かによりコントラストが明瞭になって、黒も安定しました。

清水 画面の力強さが増していますね。これはいい。うちのV90RLTDも「モード3」で見なくてはいけませんね。

画像: DLA-V90Rのメニュー画面より。「ダイナミックコントロール」を変更するには、「その他の設定」からサブメニューに入る。通常の映画作品なら「モード2」で問題ない。「HDR Level」も映画作品を楽しむのであれば「オート(ノーマル)」がお薦め

DLA-V90Rのメニュー画面より。「ダイナミックコントロール」を変更するには、「その他の設定」からサブメニューに入る。通常の映画作品なら「モード2」で問題ない。「HDR Level」も映画作品を楽しむのであれば「オート(ノーマル)」がお薦め

那須 もうひとつ、昨年11月に実施したファームアップで「HDR Level」に「オート(ワイド)」が追加されました。「HDR Level」は元々「-2」〜「2」の5ステップが準備されていました。「オート」ではコンテンツの「MaxCLL」(コンテンツ最高輝度)と「MaxFALL」(平均最大輝度)に応じて、5段階から最適な値を選択します。

 『8K空撮夜景〜』のようなコンテンツの場合、「オート(ノーマル)」では「-1」が選ばれるので比較的落ち着いた画像として、「オート(ワイド)」では「1」に設定されるので、より明るい力感のある映像が再現されます。

 映画をじっくり楽しみたいと言う場合は「オート(ノーマル)」がお薦めですが、明るめの環境でスポーツを見るという場合や、ちょっと栄える映像にしようと思ったら、「オート(ワイド)」を選んでもらうのもいいかもしれません。

 その他に、今の環境で気をつけた方がいいポイントはありますか?

那須 部屋の環境に合わせて「明るさ」を調整するのもいいと思います。「明るさ」を上げていくと、映画ソフトの黒帯などである値から黒が浮き始めると思います。ということは、その部屋の環境ではそこより暗い黒は再現できていないということです。ですので、その値まで「明るさ」を上げても黒再現には影響がないし、逆に画面全体の輝度が稼げることになります。

 黒を出すために「明るさ」を落とすのではなく、部屋の環境に合わせて調整することで、相対的にコントラストを稼ごうという狙いですね。

那須 人間の目は明暗順応ができるので、ピークが伸びると黒がそんなに下がっていなくても、コントラストがついたように感じるんです。食事をしながら映像を楽しみたいといった使い方であれば、「明るさ」を調整しておくのもいい方法です。

DLA-V90Rがリビングシアターの魅力をワンランクアップさせる

 今回はDLA-V90Rを迎え入れたばかりの編集部・哲の自宅リビングシアターで取材を行った。ここは110インチスクリーンと7.1.4システムを備えた約15畳の空間。V90R導入後は以前にも増して室内の反射光が目につくようになってしまい、その対応に頭を抱えている最中。

画像: スクリーンは110インチ/16:9を使用。周囲の壁や天井、スクリーンボックスにはハイミロンの布を取り付けて、反射光対策としているが……

スクリーンは110インチ/16:9を使用。周囲の壁や天井、スクリーンボックスにはハイミロンの布を取り付けて、反射光対策としているが……

画像: サウンドスクリーンの裏側の棚にAVアンプやパワーアンプ、センタースピーカーを格納。棚のフレームが光ることがあるので、映像を見る場合には薄手の布を取り付ける(写真右)

サウンドスクリーンの裏側の棚にAVアンプやパワーアンプ、センタースピーカーを格納。棚のフレームが光ることがあるので、映像を見る場合には薄手の布を取り付ける(写真右)

画像: UHDブルーレイと4K放送が最近の主なAVソース。清水邸と同じくLDプレーヤーも現役です

UHDブルーレイと4K放送が最近の主なAVソース。清水邸と同じくLDプレーヤーも現役です

<主なAVシステム>
●プロジェクター:ビクター DLA-V90R
●スクリーン:スチュワート HD170-5D(110インチ/16:9)
●UHDブルーレイプレーヤー:パナソニック DMR-ZR1、DMR-4W300
●LDプレーヤー:パイオニア HLD-X0
●AVアンプ:ヤマハ CX-A5200
●パワーアンプ:リン KLIMAX TWIN、デノンPOA-T3、他
●スピーカーシステム:リン AKURATE 242SE(フロント)、CLASSIK UNIK(サラウンド)、ATC SCM20(センター)、他

 続いて映画のUHDブルーレイから、『エルヴィス』のチャプター11、『NOPE/ノープ』のチャプター5、『マイ・フェア・レディ』のチャプター21〜22をご覧いただきました。

 『エルヴィス』はV90RLTDとV90Rで、そこまで極端な違いは感じませんでした。1960年代のスタジオシーンの衣装の発色や金属の光沢感もよく出ていたし、色がちょっと乗って、濃厚な再現なったように感じました。

 『マイ・フェア・レディ』も白の抜け感が綺麗で、アスコット競馬場での女性のドレスにそれぞれ微妙な差があることがよく分かりました。ヘップバーンの肌もきめ細やかで美しい。

 ただ、『NOPE/ノープ』はまったく怖くない! 砂漠のシーンはロケということもあって本当に暗く、その中にどれだけの情報を再現できるかがキーになりますが、暗部階調の再現が物足りなくて、狙った演出ができていませんね。

清水 『エルヴィス』を見て、これならV90Rで充分じゃんと思いました。一方で『NOPE/ノープ』では、暗闇での黒人の褐色の肌や目の白さのコントラスト再現があっさりしてしまい、こちらに迫ってくる感じがなかったですね。

 『エルヴィス』のように照明がバッチリ当たった映像では、相対的に黒も沈んで見えるので、コントラスト再現も充分でした。一方で『NOPE/ノープ』は暗闇の諧調表現がV90RLTDとはかなり違っていて、おっしゃる通り “怖さ” の演出が甘くなっていましたね。

 今の映像で暗部階調が物足りなく感じたのは、反射光の影響もあると思う。V90Rはそこまでの暗部情報を再現する能力は持っていますから、機械の実力を引き出すための環境整備も必要だね。

画像: 2022年11月のファームウェアアップデートで「Frame Adapt HDR」が3つに拡張されている。「LDパワー」「ダイナミックコントロール」などは個別にメモリーできるので、ぜひ活用したい

2022年11月のファームウェアアップデートで「Frame Adapt HDR」が3つに拡張されている。「LDパワー」「ダイナミックコントロール」などは個別にメモリーできるので、ぜひ活用したい

 ちなみにこの3作品もすべて「画質モード」を「Frame Adapt HDR1」にセットしています。V90Rには「Frame Adapt HDR1〜3」の3種類がありますが、これはどのように使い分けたらいいのでしょう?

那須 工場出荷状態では、「Frame Adapt HDR1〜3」の設定内容は同じです。つまり、「Frame Adapt HDR」モードのメモリーが3つに増えたと考えていただければ結構です。

 「Frame Adapt HDR」としての動作は変わらずに、「LDパワー」や「ダイナミックコントロール」といった項目を別々にメモリーできると。

那須 先ほどの『8K空撮夜景〜』のようなハイコントラストなビデオ撮り作品向けとか、映画作品向けといった具合に設定しておいて、あとはこの3モードを切り替えることで最適な画質でお楽しみいただけます。

 確かに「Frame Adapt HDR」でも、「LDパワー」などはソースによって切り替えたいから、メモリー数が増えたことは多くのユーザーに歓迎されるでしょう。

 「Frame Adapt HDR1〜3」の他に「User4〜6」というポジションもありますが、こちらの違いは何なのでしょうか?

那須 「User4〜6」はHDR信号が入力された場合に選べます。「画質モード」の「HDR10」をベースにしたもので、「Frame Adapt HDR」処理をしない、PQカーブ固定の絵をご覧いただくモードになります。ただ、「Frame Adapt HDR」と「HDR10」ではガンマカーブの精度が違いますので、弊社としては「Frame Adapt HDR」をお薦めしたいと思っています。

 なおSDR信号が入力された場合の「画質モード」では、「User1〜3」が表示されます。こちらは従来からの「ナチュラル」「シネマ」と同様の調整ができるモードになります。

画像: 株式会社JVCケンウッド ES分野 メディア事業部 商品企画部 3Gグループ長の那須洋人さん(右)に取材にお付き合いいただき、映像調整のコツを伝授してもらった。左は豪華メンバーを迎えて緊張気味(?)の哲

株式会社JVCケンウッド ES分野 メディア事業部 商品企画部 3Gグループ長の那須洋人さん(右)に取材にお付き合いいただき、映像調整のコツを伝授してもらった。左は豪華メンバーを迎えて緊張気味(?)の哲

 続いてBS4Kで放送された『4KPR 新しい世界へ〜上原ひろみVer.』をご覧いただきました。この番組はHLG(ハイブリッド・ログ・ガンマ)で放送されていますので、最初はV90Rの「HLG」モードで、続いてDMR-ZR1でHLGをPQ(HDR10)に変換して「Frame Adapt HDR1」モードで再生した2種類の映像を見比べました。

 この違いにはちょっと驚きました。「HLG」モードだとすっきりした映像なんだけど、どことなく寂しい気もする。「Frame Adapt HDR1」ではクリアーなのにビビッドで、色も華やかになります。

清水 HDR10に変換した方が、画面輝度も上がって、素材の質感もよりしっかりわかるようになりましたね。こんなに違いがあるとは思わなかった。「DP-UB9000」にもHLG→PQ変換機能はついているので、わが家でも試してみます。

那須 実は画質モードの「HLG」と「Frame Adapt HDR」では、内部の信号処理に違いがあります。「Frame Adapt HDR」の方がソフトウェア的に新しいので、より緻密な処理を行うことができるのです。

 ということは、パナソニックのDMR-ZR1やDP-UB9000のユーザーが4K放送のHLGコンテンツを見る時は、HLG→PQ変換して、「Frame Adapt HDR」を使うのがお勧めですね。

 以前からHLGコンテンツをどう見たらいいのか気になっていたんですが、それを聞いて安心しました。DMR-ZR1は60p→24p変換機能も備えているので、4K放送の映画番組を4K/24p/HDR10ソースとして再生することで、さらに高画質が期待できそうです。

那須 映像のフレーム補間については、「Clear Motion Drive」も試していただきたいと思います。好みもありますが、ジャダーが気にならない方は「オフ」で、ちらつきが嫌な方は「弱」にセットしていただくと比較的なめらかになります。初期値では「弱」にセットしてあります。

清水 その下のメニューにある「Motion Enhance」はどんな機能なのでしょうか?

那須 「Motion Enhance」はいわゆるオーバードライブの処理を行っています。液晶の素子は電圧をかけてから反応するまで、わずかですが遅延があります。そこで前もって電圧をかけておくことで、液晶の応答を早くしてあげる機能です。これを入れておくことで、絵のレスポンスが若干よくなり、動きもなめらかになります。こちらは初期値の「低」で問題ないと思います。

画像: 「映像タイプ」は4種類が準備されているが、通常は「オート」で使って問題はない(左)。また、DLA-V90Rは入力された信号ごとに、最初にどの「画質モード」で表示するかを設定できる(右)

「映像タイプ」は4種類が準備されているが、通常は「オート」で使って問題はない(左)。また、DLA-V90Rは入力された信号ごとに、最初にどの「画質モード」で表示するかを設定できる(右)

 さてここまでわが家のV90Rの絵を見ていただきましたが、いかがでしたでしょうか?

 清水邸のV90RLTDはもちろん、今日のV90Rもさすがのパフォーマンスでした。ホームシアターで100インチオーバーの大画面を楽しみたいなら、D-ILAプロジェクターが現在の最右翼なのは間違いない。V9R のユーザーとしては、弟子に先を越されて置いてきぼり食った気分だね。

 ただ、ふたりとも製品の実力をフルに引き出しているとはいえないかな。清水邸も哲のリビングも反射光対策をもっと徹底することで、よりハイグレードな映像が再生できるはずです。そこを目指して精進して欲しい。こういうハイエンド機器は、どう使いこなすかが大切だということも改めて実感しました。

那須 手前味噌ですが、今日はリビングシアターとしてかなりいい絵を見ることができたと思っています。最近のプロジェクターの絵はこんなに綺麗なんだということをご存知ない方も多いと思うので、企画担当としてはそこをもっと多くの人に知っていただきたいですね。

清水 僕自身は前回も申し上げたように、潮さんのシアターで見せていただいたV9Rの映像にノックアウトされて、プロジェクターの入れ替えを決めました。

 当初はV80Rとスクリーンをセットで導入する予定でしたが、潮さんの “悪魔のささやき” に負けてしまい、V90RLTDに手を出してしまいました。振り返ってみると、20年近くAV機器のローン生活を続けているんですが(笑)、これってある意味で生きがいにつながっていると思うんです。最近はV90RLTDの絵を見ていると、生きていてよかった、幸せだと思えるんです。

那須 そこまで言っていただけるとは、ありがたいです。V90RLTDは25周年記念モデルということで、こだわった仕様にしたいと考えました。25周年=銀婚式なので、本体のセンタープレートをシルバー基調にしています。ここの仕上げも4〜5回試作を繰り返して、ようやく今の仕上げに落ち着いたのです。

清水 言われてみれば、確かにV90Rとは仕上げも違います。リミテッドバージョン言うだけあって、細部まで配慮されているんですね。

 そう考えると、お値段はアップしているけど、実はV90Rよりお買い得かもしれないね。

那須 私からは何とも申し上げられませんが(笑)、外装やパネルもあれだけの仕様ですし、D-ILAパネルも選別品です。お買い上げいただいた方には本当におめでとうございますとお伝えしたいですね。

画像: DLA-V90Rの一番の特長とも言える、オールガラスレンス

DLA-V90Rの一番の特長とも言える、オールガラスレンス

清水 パネルは選別品ということですが、通常ラインで作っている中で出来のいいものをピックアップしたということでしょうか?

那須 そうではありません。ちゃんといちから設計して、高コントラストが実現できるパネルを作っています。独自のシミュレーション手法でどれくらいのコントラストが出せるか予測できますし、パネルや光学部品をどのように組み合わせればより高コントラストが実現できるか、等を設計で追い込んでいます。

 最初から高いターゲットを決めて、それに叶う選別パネルを作ったと。しかも映像エンジン側もそのパネルをきちんと制御できなくてはいけないから、実際の物作りは難しかったでしょうね。

那須 そのあたりはかなりたいへんだったようで、技術のメンバーには苦労をかけました。

清水 D-ILAプロジェクターの絵を間近でみたら、きっと感動して欲しくなるはずです。僕の家には卒業生(編集部注:清水さんは高校の先生をされていました)がよく遊びに来るんですが、既にふたり、「DLA-V7」を導入しています。こういった幸せな体験ができる製品はぜひ長く作り続けてください。

 100万円を超えるAV機器って、正直なかなか買いづらい。なので、それを選んでもらうためには、メーカーも努力しなきゃいけません。個人的にはV90RLTDをベースにした「DLA-V100R」とでもいうべき製品を、完全受注で販売してもらいたい。そうやってD-ILAプロジェクターの世界を継続していって欲しいと思っている大画面ファンは大勢いますよ。

 2回に渡ってD-ILAプロジェクターで楽しむ大画面の魅力を紹介してきました。専用ルーム、リビングシアターのどちらの環境でも、きわめて満足度の高い映像を楽しむことができたと思います。一方でV90Rのような製品は、その潜在能力をどこまで引き出すかが重要だということもよくわかりました。今後も機会をみて、V90Rの使いこなしを紹介していきたいと思います。

 僕もいつでも協力するから、清水さんとふたり、頑張ってください!

新しい製品を手にすると、今まで見えなかったものが見えてくる。
せっかくのエンタテインメントの道である、妥協せず突き詰めて欲しい

 大画面はプロジェクターに限る、そんな思いを改めて感じさせる取材だった。清水邸の「DLA-V90RLTD」は、掛け値なしに素晴らしい絵を映し出していたが、哲邸の「DLA-V90R」からもそれに負けず劣らずの高画質な映像を体感することが出来た。

 二人とも “弟子” というわけではないが、これまでもオーディオビジュアルの先達としてアドバイスをしてきた。時々 “悪魔のささやき” を発して来たかもしれないが、せっかくのエンタテインメントの道である、できることなら妥協せず突き詰めてもらいたい。

 それにしても二人とも頑張りましたね。ただし新しい製品を手にすると、今まで見えなかったものが見えてくるのも事実。両名に共通する課題が視聴環境のいっそうの整備だ。哲邸はリビングなので過渡なリフォームは難しいと思うが、階下からの迷光対策は急ぎ検討して欲しいと思う。

 一方清水邸は専用室だが、建立当時はここまで光の反射が画質に影響を及ぼすとは予想していなかったことがうかがえる。反射光対策で壁の色を工夫するなどで、さらなる高品位映像が楽しめるだろう。もっとも真っ暗の環境はプロジェクターには好都合でも、日常生活では息苦しさも残る。このあたりのバランスをどうとるか熟考が必要だろう。

 唯一、僕が優位に立っているのは視聴室の環境整備を徹底している点だが、二人の映像を見てさらに細部まで追い込んでみたくなった。とはいってもプロジェクターの体力差を詰めるためにはどうすべきか、これはこれで悩める問題である。

 弟子に追い抜かれた(?)師匠としては複雑な気持ちだが、師であり壁として立ち続けるための努力をこの先も怠らないように心がけていきたいと思う。(潮 晴男)

画像: D-ILAの映像に魅せられた男たち3人と、それを企画した那須さん。D-ILAの潜在能力の高さを再確認した取材になりました

D-ILAの映像に魅せられた男たち3人と、それを企画した那須さん。D-ILAの潜在能力の高さを再確認した取材になりました

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