百聞は一見に如かず。まずは『エブエブ』のぶっ飛んだ世界を体験すべし!

 優柔不断なダメ亭主ウェイモンドと反抗的な娘、おまけに頑固な父親の面倒まで見るエヴリンは、倒産寸前のコインランドリーの経営にも四苦八苦。ところが、「別のユニバース(宇宙)から来た」と言うウェイモンドに突然“並行世界”へ連れて行かれると、そこにはカンフーマスターさながらの技を持つ“強~いエヴリン”がいて……。

 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』は、“地味なおばさん”のエヴリンが<様々な世界で生きる自分>の能力を駆使して、巨大な悪と闘うアクション・エンターテインメント……なのだが、このとんでもなくカオス世界の面白さは、正直、文字では伝わらない。すみません! まずはご覧になって、カラダで感じていただきたい。

画像: エヴリンは移住先のアメリカで、コインランドリーの経営や税金の支払いに悩む“地味で疲れた中国人のおばさん”だったが……。白髪のくたびれたミシェル・ヨー、貴重です

エヴリンは移住先のアメリカで、コインランドリーの経営や税金の支払いに悩む“地味で疲れた中国人のおばさん”だったが……。白髪のくたびれたミシェル・ヨー、貴重です

画像: 香港映画のアクションスタイルを取り入れた、キレキレのバトルも必見!

香港映画のアクションスタイルを取り入れた、キレキレのバトルも必見!

 そういえば、監督のダニエル・クワン&ダニエル・シャイナートの長編映画デビュー作『スイス・アーミー・マン』(16年)で、サバイバルに奮闘する<デッドボディ(死体)>役を怪演したダニエル・ラドクリフも、「奇妙キテレツな物語で、どんなふうに説明していいかわからない。でも斬新さと面白さは保証する」と言っていた。でも、監督2作となる本作は、それよりもっともっとぶっ飛んでおります。

 当然、こんなキテレツでユニークな映画にハリウッドもびっくり仰天! 先のゴールデン・グローブ賞(コメディ/ミュージカル部門)で、エヴリンを演じたミシェル・ヨーが主演女優賞、ウェイモンド役のキー・ホイ・クァンが助演男優賞を受賞した。その勢いもあって、この原稿を書いている時点で、アカデミー賞の作品/監督/主演女優/助演男優/助演女優ほか10部門、11ノミネートという前代未聞の快進撃を遂げている。いや~、これも、ある種のカオス状態でしょ? 長年の香港映画ファンとしては、我らが「アクション女王・ミシェル様に栄冠を」と願うばかりだ。

画像: “ある宇宙でのエヴリン”は大スターのアクション女優で、ミシェル・ヨーご本人の人生をなぞっているかのような華やかさだ。アカデミー賞の授賞式でも、美しいドレス姿に期待!

“ある宇宙でのエヴリン”は大スターのアクション女優で、ミシェル・ヨーご本人の人生をなぞっているかのような華やかさだ。アカデミー賞の授賞式でも、美しいドレス姿に期待!

『グリーン・デスティニー』から23年、アジア人への評価は変わった

 マレーシア出身のミシェル・ヨーは、香港アクション大家のサモ・ハン・キンポーに見い出され、『デブゴンの快盗紳士録』(84年)で映画デビュー。その後、メキメキ実力をつけて『ポリス・ストーリー3』(92年)の頃にはジャッキー・チェンと渡り合えるほどの最強アクション女優になり、数々の作品に出演。そのキレッキレのアクションと絶大なアジア人気、そして大きな瞳がチャーミングな美貌を見初められ、1997年には『007/トゥモロー・ネバー・ダイ』のボンドガールとしてハリウッド・デビューを果たした。この時に披露した捨て身のアクション(ボンドと2人でバイクにまたがって逃走するチェイスなど)がハリウッドでは絶賛されたが、ファンとしては不完全燃焼だったことは否めない。

 当時、プロモーションで会ったご本人は、「ボンドガールを演じてきた歴代の女優さんに敬意を払いつつ、一生懸命に演じました」と微笑むばかりだったが、その後、アン・リー監督の武侠映画『グリーン・デスティニー』(00年)のインタビューのときはちょっと違った。多用された流麗なワイヤーワークや、チョウ・ユンファ演じる剣の名手と通わす密かな恋心の表現の難しさを、真剣な眼差しで語っていた。言葉の一つひとつは覚えていないが、「これまで培ってきた香港映画の真髄を、ユンファさんと心をひとつにして映画に注ぎ込んだ」といった内容だった。なるほど、キャリアを振り返れば、『グリーン・デスティニー』は本領発揮の代表作だもの、撮影当時から強く手応えを感じ、コメントに熱が入るのも当然だった。

 ちなみに、この英語以外の言語の作品は、アカデミー賞で作品賞ほか10部門にノミネートされ、外国語映画賞など4部門を受賞している。だが、俳優部門にアジア人のノミネートはなかった。

 正直に言えば、彼女のこれ以後のキャリアはあまりパッとしなかったと思う。鳴り物入りで製作されたロブ・マーシャル監督の『SAYURI』(05年)や、スー・チャオピンとジョン・ウーが共同監督した台湾=香港=中国合作『レイン・オブ・アサシン』(10年)など、各国の作品に出演はしても、ピンと来なかった。『クレイジー・リッチ』(18年)の富豪マダムや、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(21年)でいい味を出しても、やはり添え物感がぬぐえない。

 長年のファンとしては、この年代のアジア系女優としてはかなり頑張っていると、もどかしく思いつつも密かにエールを贈り続けていたところに、今回の快挙だ。まさに、待てば海路の日和あり!

 ミシェル・ヨー=60歳。この熟年俳優の活躍に、元気をいただきました!

『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

3月3日(金)TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー

監督:ダニエル・クワン/ダニエル・シャイナート
出演:ミシェル・ヨー/キー・ホイ・クァン/ステファニー・スー/ジェイミー・リー・カーティス
原題:EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE
2022年/アメリカ/139分
配給:ギャガ
(c) 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.

This article is a sponsored article by
''.