LGエレクトロニクスのプレス・カンファレンスで注目したのが、OLED T(TはTRANCEPALENT)だ。透明有機EL自体はもう何年も前から、B to Bでは実用化され、オフィスのパーティション、地下鉄の窓ディスプレイ、サイネージなどのアプリケーションが進展している。
例えば、自転車販売店ではディスプレイに鮮やかな製品映像を流しつつ、その背後に実物の自転車を飾る。これは商品の見せ方の例で、他の販売店にも応用できる。筆者が訪れたソウルのパン屋では、パンを焼く姿を透明ディスプレイの向こうに見て、画面には宣伝アニメが流れていた。
では、家庭でのアプリケーションはどうか。LGエレクトロニクスはプレス・カンファレンスで、「これからは透明有機ELテレビが家庭に入る時代」と宣言し、「OLED T」とブランディング。背景を見せる透明モードと、番組を見るための黒色のバックパネルモードを紹介した。ブースでは、美術館のような部屋で、壁の模様とコラボレーションした透明ディスプレイ上の映像をデモしていた。
これまでCESやIFAで観た、透明有機ELのアプリケーションを振り返ってみよう。CES2019では、透明ではなくフツーのテレビが「壁紙テレビ」になるという面白い提案をサムスンエレクトロニクスが展示していた。スマホの専用アプリで、実際の壁紙を撮影し、その画像をテレビ画面に表示するというもの。つまりテレビが掛かっている壁の実際の壁紙が、テレビ画面に映し出されるという算段だ。
スイッチを消すと、テレビが自動的に壁紙モードなる。壁紙がそっくりそのまま画面に映るので、テレビという黒くて大きな物体の存在は、その瞬間に消える。これが透明になると、そのまま壁紙がシースルーで見えるわけだ。背景は絵画でもよい。透明画面に天気予報や、ネットのSNS、スマートホーム制御……などの情報表示が常に出るのも、生活に便利だろう。
窓ガラスの代わりに透明有機ELを設置すると、窓が表示機能を持つ。すると、どこでもドアのように部屋が窓外の場所に一挙にワープする。ピラミッドの景色が有機ELに映れば、そこはクフ王のピラミッドの前の広場であり、ナイアガラの滝が映されると、滝の前庭のホテルに居るような気分になる。コントラストが高く、色再現も確実な有機ELだから、映像描写のリアリティは高い。
パナソニックはIFA2019で、リビングの飾り戸棚の55インチ透明有機ELディスプレイを提案。通常は透明な戸棚のガラスだが、電源を入れると、テレビに変身する。透明板が瞬時にテレビに変わるのは、なかなか衝撃的だった。日本酒セラーのガラス扉が透明有機ELという展示もあった。普段は温度などのデータを表示し、飲みたい時には、中にある酒の度数や辛口、甘口などの情報を表示する。開け閉め可能だ。
私はこの記事で、クルマのフロントガラスを透明有機ELにしたらどうかという提案もしている。運転していると、明る過ぎる環境では眩しくてサングラスをかけるが、眩しさが収まるとまた外す……の動作を繰り返すことがある。面倒だ。フロントガラスが透明有機ELなら、センサーにて光の透過量を自動調整してくれる。夜は眼前大画面のカーシアターとしても楽しめる。
家庭での、またパーソナルな用途にいかに透明有機ELを活用するかの、アイデア合戦が始まったようだ。