高感度なオーディオビジュアルファンの間で注目を集めているYouTube「レグザチャンネル」。製品紹介やプロモーションビデオといったよくあるコンテンツに加え、声優の小岩井ことりさんとレグザブランド統括マネージャー本村裕史さんによる、(メーカー公式チャンネルとは思えない)マニアックな内容が人気を集め、登録者数も1万人に迫ろうとしている。
その2023年第二回(1月12日公開)には、StereoSound ONLINEでもお馴染みの山本浩司さんがゲストとして登場。4K有機ELレグザの音質面について詳しく解説してくれた。テレビ内蔵スピーカーの音について厳しいことで有名な山本さんは、2022年レグザの音をどう評価したのだろう。
StereoSoundONLINEでは、このYouTubeの撮影現場に潜入し、舞台裏を取材してきた。動画コンテンツに収まりきれなかったネタを含めて、当日の様子を紹介したい。(StereoSound ONLINE編集部)
※山本さんが出演しているYouTube「レグザチャンネル」はこちら ↓ ↓
2023年レグザチャンネル第二回の収録も、東京都多摩市にある永山研究開発センターで行われた。前回のリポートで紹介した通り、ここはレグザの開発拠点で、映像だけでなく音質についての研究開発・チューニングも行われている。
今回は“テレビの音”がテーマということで、視聴室の奥側にテレビ台に載せて「65X9900L」をセット、それに対峙する形で本村さん、小岩井さん、山本さんが座っていた。この状態で65X9900Lの内蔵スピーカーの特長や音質チェックからスタートすると思ったのだが、オープニングトークから意外な展開に……(会話の中でわかりにくいと思われる部分については、適宜補足・編集を行っているので、その点は了承ください)。
小岩井 さて、前回は麻倉怜士先生に来ていただきましたが、今回も何やら?
本村 HiViのうるさ方が何人もいる中で、重鎮のもう1人が来てくれています。山本浩司さんです〜。ことりさんと山本さんは面識があるそうですね。
小岩井 そうなんですよ。StereoSound ONLINEの連載「小岩井ことりと山本浩司のオーディオ研究所」で、山本先生にステレオのお作法について教えてもらったんです。
山本 スピーカーをどう置くのが一番音がいいかとか、こういうでたらめな置き方をするとおかしなことになっちゃいますよ、みたいなことをやりましたね。ことりちゃんは耳がいいから、やっていて楽しかったなぁ。
小岩井 山本先生のお家にもうかがって、凄いオーディオで音楽を聴かせてもらって、映画も見せていただきました。忘れられない体験でした。
本村 そりゃよかったですね。さて、今日のテーマは音です。X9900Lの開発初期に、山本さんにこの部屋で音を聴いていただきました。最終手前の音だったんですが、えらく褒めていただいて、そこからX9900Lの音がいいという噂があっという間に広がりました。
山本 その前に一言いいですか。僕はHiViベストバイとかHiViグランプリの選考委員の一人で、2022年のレグザは音を高く評価しましたが、もちろん画質も素晴らしかったので、まずはそこについてお話しします。
僕の注目ポイントは3つ。まず伝統の「映画プロ」の仕上りのよさ。これは部屋を暗くして映画を見ようという映像メニューですが、2022年は各社とも映画用のモードも明るさ志向に振っているんですよ。でもX9900Lは落ち着いた艶っぽい映像を磨いてきたっていうことが評価ポイントですね。
本村 ありがとうございます。
山本 それから、他社に比べてもだんぜんいいと思うのは「おまかせAI」モード。テレビには映像メニュー、画質モードが用意されているんですけど、そもそもそのことを知らない人が多くて、あまり使ってもらえてない。
本村 そうなんですよ。映像メニューをたくさん用意しているんですけど、ほとんどのユーザーさんはご存知ない。そんなわけで、レグザでは自動画質モードを10年くらい前に作りました。
山本 取り組みが早かったですね。部屋の照明に対してテレビの画質はどうあるべきか、照明デザイナーを交えて学習会をしたり。そんな成果が盛り込まれています。各社がレグザのおまかせモードを学習し始めているんですけど、レベルが違うなという感じがあります。
本村 そう言っていただけて、うれしいです。
山本 リラックス空間の照明は、白熱電球が理想なんですよ。いわゆる燃焼光源。色温度が低いものです。2800ケルビン、50ルクスが理想の照明なの。
小岩井 オレンジ色みたいなやつですね。
山本 そうそう。交感神経が優位になるのが色温度の高い蛍光灯やLED、副交感神経が優位になってリラックスできるのが色温度の低い燃焼光源なんです。
本村 そんなことを山本さんと一緒に勉強しながら、テレビの画質、色温度はどうあるべきかを研究してきたんですよ。
山本 あとひとつ、他社に比べて放送画質がいい。特に地デジの画質がレグザはダントツにいいんですよ。
本村 ありがとうございます。
山本 レグザには変態チックな(笑)凄いエンジニアがいて、ずっと放送番組を見ていて、ちょっと画質面で問題があるなっていう番組は個別にチューニングしてクラウド連携でアップロードし、おまかせAIモードで楽しめるようにしている。そんな会社は他にないよね。
山本さんのレグザ愛が炸裂、思いがけず画質についてのお話が盛り上がってしまい、この段階で収録開始から30分以上が経過していた。長い歴史を持つレグザならではの絵づくり、使い勝手のよさについての評価点が改めて紹介されたところで、話はようやく音のテーマに入った。
ここからはX9900Lシリーズを始めとする2022年レグザの音決めを担当したテレビ音響マイスタの荒船 晃さんと研究開発センター 先行開発の高橋 大さんのおふたりにも参加してらっての収録がスタートしている。
小岩井 ということで荒船さんと高橋さんを交えてお話をうかがっていきたいんですが、山本先生はレグザの音づくりのどういったところを評価してくださったんでしょうか?
山本 テレビの高音質化について、今年は各社ともかなり力が入っていて、ひとつはイマーシブ・オーディオ対応。具体的にはドルビーアトモスなどのトップスピーカーを使って半円球状に音場を広げようという考え方ですが、それをテレビの世界でも実践しようっていう動きがあります。
もうひとつは “画音一致” 、映像と音象を一致させようということですね。僕はテレビの音の本質はそこにあると思っていて、映像に映し出されている人物の口から声が聞こえるかどうかが一番大事だと思うんです。
なぜかというと、映画にしろドラマにしろ、そもそも「絵空事」じゃないですか。そこに映っている人の口からじゃなくて、画面の下から声が聞こえてくると、映像と音像が一致しなくてリアルに感じられない。すごく白けちゃうんですよ。
それで、以前からテレビの内蔵アンプで外部のスピーカーを鳴らせるようにしてくれと言い続けていたら、2020年のレグザ「X9400」、2021年の「X9400S」シリーズで対応してくれたんです。その内蔵アンプが驚きの高音質で、JBLの25cmウーファー搭載スピーカーをつないで鳴らしてみたら、すばらしい音がしたんですよ。
ことりちゃんとの連載でやったことがあるけど、テレビの両脇にステレオスピーカーを置いて、正三角形の頂点で視聴すると画面の中央から声が聞こえてくるわけです。
小岩井 ステージ感の再現ですね。
山本 これですべて解決できるじゃないかと思っていたんですが、X9900Lでは外部スピーカー端子がなくなってしまった!
本村 コスト的に合わなくて。また、調べてみたらほとんど使われていなかったんです……。
山本 もうレグザの応援なんかしてやんないと思ってたんだよね、じつは。ところがX9900Lはアクチュエーターという振動子を画面中央に配置してガラスパネルをダイレクトに叩くことで発音させ、画面から音が聞こえてくるということをやったわけです。
しかもX9900Lのサウンドシステム自体が大がかりで、アクチュエーターをメインに、画面下側に2ウェイスピーカーシステムをステレオで、加えて高音を受け持つサイドトゥイーターとトップトゥイーターを配置して、画面裏にサブウーファーという全部で10のユニットが搭載されている。
本村 アクチュエーターで画面から音を出します。メインスピーカーはフルレンジとトゥイーターが左右でふたつずつあり、さらにトゥイーターがトップとサイドに4基、そして重低音バズーカのサブウーファーという構成です。お金をかけ過ぎちゃったくらい凄いシステムで、荒船と高橋の趣味なんですよ(笑)。
山本 アクチュエーターという振動子でガラスパネルを鳴らすなんて、雑音が乗っていい音がするわけないって思う方は多いかもしれませんが、常識的な音量で鳴らすかぎり、その心配はありません。下部の2ウェイ・ステレオスピーカーとの連携などチューニングのうまさもあるんでしょう。とてもいい音です。
小岩井 わ〜(拍手)。
本村 アクチュエーターって癖があるから、鳴らしすぎちゃ駄目なんです。ほんのちょっと鳴ることで、全体が凄くよくなる。
小岩井 チューニングは苦労されたんですか?
高橋 苦労しました。本当に量産できるのかなと思ったほどです(笑)。
山本 「画音一致」コンセプトは、レグザのこれからのシンボルにして欲しいですね。テレビから離れれば下から音が出てくる違和感は薄まりますよってよく言われるんだけど、4Kテレビの高精細の魅力ってある程度近づかないとよさが伝わりにくい。ちょっとした映画館で見ているイメージにするには、視聴距離を近づけていきたいし、その場合に画面に映し出されている人物の口から声が聞こえるというのが、一番重要なことだと僕は信じているんです。
本村 じゃあここでUHDブルーレイ『トップガン:マーヴェリック』を見てみましょうか。
——チャプター4の22分10秒〜をチェック
山本 『トップガン:マーヴェリック』のUHDブルーレイで、マーベリックとペニーのバーでの会話シーンを再生しましたが、僕がさっき言ったことを実感してもらえました?
小岩井 しました。私も声優っていう職業柄、外国映画に声をあてることもあって、口に注目して見ちゃう癖があるんですけど、本当に口から声が出てくる感覚で、それがすごくいいなと思います。
山本 そうすると、ぐんぐん映画の世界に引きつけられるというか、本当に目の前で2人がしゃべっているという実感が得られるでしょう。なおかつX9900Lでは、アクチュエーターがいかにも鳴っています的な癖っぽさがほとんど感じられないし、低音から中低音が充実しているので、聞いている充実感も凄くある。スピーカーがいっぱいあるだけに、音質チューニングもたいへんだったと思うんですけど、いかがでしたか?
荒船 かなりたいへんでした(笑)。スピーカーごとのクロスオーバーをどうするかとか、あとはレベルバランスですね。どうやったら一番フラットな感じで、どこの周波数帯でも同じように聞こえるかを追い込むのが一番難しかったですね。
先ほど山本さんがおっしゃったように、メインスピーカーだけだと音像はどうしても下から聞こえてくるので、アクチュエーターとトップトゥイーターのバランスで、どうすれば音が真ん中あたりに定位するかを探っていきました。データだけでは追い込みきれないところがあるので、最終的には試聴と確認で合わせ込んでいます。
画音一致は映像作品の鑑賞に於いてはもっとも大切なテーマだが、薄型テレビは本体の形やデザインの関係から内蔵スピーカーの大きさや設置場所に制限が多く、どうしても妥協せざるを得ないケースも多かった。昨今はサウンドバーとの組み合わせも増えているが、それでも “音が下から聞こえる” 違和感を解消するのは難しい。
そんな中、X9900Lシリーズでは様々な工夫、チューニングの追い込みによって、山本さんも認めてくれる音質を実現できていることが確認できた。その一方で、実はテレビの音は置き方によっても大きく変化する。今回のYouTubeではその点についても検証を交えた紹介がされている。
本村 実はテレビのセッティングで音の聞こえ方がだいぶ変わるんですよ。
小岩井 スピーカーのセッティングで音が変わるように、テレビの音も違うということですか?
本村 特に部屋の影響を受けやすいんです。なぜかというと、テレビって、後の壁などの音の反射を利用していい感じに聞こえるように仕上げているところもあって、きっちりしたセッティングをしないといけないんです。
小岩井 へ〜、そうなんですか。
本村 まず、一番悪い環境を作ってみました。ちょっと音を聴いて下さい。
小岩井 何だか、すかすかな音ですね。何がいけないんでしょう?
高橋 まずこの置き台です。棚板の中が空洞なので、表面を叩くとポンポン鳴っていますよね。
本村 組み立て式の安いテレビ台だと、共鳴しちゃうんです。
荒船 もうひとつは壁との距離です。X9900Lはサブウーファーが背面についているので、後の壁からの反射音も加味してチューニングしています。なので、もうちょっと壁に近づけた方がベターです。
本村 これは声を大にして皆様にお教えしたい。テレビの音って壁とかの反射も使いながらまとめています。特にサブウーファーは後ろに向かって低音が出ているので、後ろの壁で反射させて欲しい。それからサイドやトップのトゥイーターも反射しない環境では効果が出ません。
山本 荒船さんにうかがいますが、後ろの壁とレグザ本体の距離は何cmぐらいがベストなんでしょう?
荒船 だいたい50cmぐらいかなぁと。
山本 50cmよりもっと近づけてもいい?
荒船 その場合は壁掛けモードにセットしていただいた方が、バランスが取れる可能性があります。
高橋 テレビの設置設定で「壁掛」と「スタンド」がありますので、距離が近い時は「壁掛」を選んでいただくと、いい感じになると思います。
本村 では、いい感じに設置しなおしてみましょう。こちらの音も聞いてもらいます。
小岩井 おぉ、さっきと音の分厚さが全然違う〜。
山本 ホントだ、全然違う〜。
本村 たったこれだけでまったく別物に変わるんです。はい、何をやりました?
高橋 空洞の棚板を使った置き台から、しっかりした合板の台に変えました。
本村 けっこう分厚い、重たい奴です。他には?
荒船 壁との距離を近づけました。
本村 今日は、X9900Lの後ろに壁に見立てた板を置いていますから、ちゃんと音が跳ね返って前に戻ってきます。
山本 この変化は劇的だね。
小岩井 一気にスピーカーの値段が上がったように感じます。
本村 ユーザーの皆さんにはここに気をつけて欲しいんです。
山本 テレビの置き台は、中が空洞になっているものは避けましょうということですね。寿司屋のカウンターの檜の一枚板なんか理想ですね(笑)。
荒船 続いて自動音場補正を試してみましょう。まず音声メニューから入って、音声詳細設定の一番下に「オーディオキャリブレーション」という項目があるので、ここから画面の指示に従って下さい。
——測定がスタート
小岩井 これで測定して、何が変わるんでしょう?
高橋 お部屋の環境に合わせて最適なチューニングを行いますので、置き場が悪くてもある程度は音がまとまるはずです。
小岩井 ということで、今日はレグザの音について山本先生と深堀りしてまいりましたが、いかがでしたか?
山本 テレビで、置き台による音の違いとか、後ろの壁との距離による音の変化みたいなことを試すのは、僕も初めての経験でした。
家庭でどんな風に置かれるかは、開発陣にも分からないところだと思いますが、基本的にはレグザを買ってきて音場補正を行えば、ほぼほぼ納得の音が聴けるんだろうなぁということがよくわかりました。とにかくレグザは使いこなしの奥が深い。
小岩井 本当に深いですね。
山本 よくまぁこんなことまでと思うようなところまでケアできている、本当に希有なテレビです。高級テレビというのは、こういうものだと思いますね。
小岩井 ありがとうございました。ということで、今後もレグザチャンネルを更新していきますので是非、いいね、とチャンネル登録をよろしくお願いします。
全員 それではさようなら〜。