【再生システム研究】緻密かつ濃密な感動音響をソナス・ファベールSonettoで体感
音楽先進国イタリアの栄光を背負った意匠と命名のスピーカーで知られるソナス・ファベール。特にデビュー当時は弦楽器の歴史的銘器を愛称としたシリーズが清涼にして芳醇、緻密にして洒脱な音の世界を醸成する能力を誇示し、オーディオ史に特筆されている。
時代は下って、この「音工房」と名付けられたメーカーは、木工キャビネットの立体的造形感を特徴とする小粋な工房作品風から成長して、大型フロアータイプをも積極展開してラインナップが充実。ヨーロッパ伝統の文化的資質を体現しつつ、現代的な応答性を得て幅広い音楽ジャンルへの対応能力を誇示するようになった。
Speaker System
Sonus faber
Profile
「音」や「旋律」を意味するシリーズ名が冠されたソナス・ファベールの中核ラインがSonetto。2018年にトールボーイ2機種(Sonetto VIII、同III)、ブックシェルフ1機種(同Ⅰ)、センター1機種(同 CetnterⅠ)の4機種で初登場し、翌2019年にさらに4機種を加え8製品がラインナップされている。上から見たときにリュート形をしていること、シルクドームユニットの採用を共通の特徴としている。ブックシェルフはそれにファイバー系コーン型ユニットを組み合わせた2ウェイを、トールボーイはファイバー系コーン型を中域に、低域にアルミニウムコーン型を複数配置させている。ソナス・ファベールらしい音楽性の高さと、AV再生にもフィットするモダンサウンドを追求した魅力的な製品群だ(編集部)
リュート形ボディに高性能ユニットを搭載 ソナス・ファベールのSonettoシリーズ
今回5.1ch分をそろえて視聴したのは、Sonetto(ソネット)シリーズの各種だ。つまり、フロントLRがSonetto VIII。センターがSonetto Center II。サラウンドがSonetto Ⅰ。そしてサブウーファーはGravis II。このブランドとしては価格を抑えたシリーズだが、総額180万円ほどとなる。
同じシリーズ機なので各モデルのスピーカーユニットは共通性が高く、キャビネットの仕上げや形状も似ている。
Sonetto VIIIは底部に低音ポートを設けたフロアー型。筐体は22mm厚の高密度ファイバーボードを採用。水平断面がシリーズ共通のリュートシェイプであり、後方がすぼまった曲線形状は底面にまで維持されている。曲面をあしらうのは定在波対策であり、多量の吸音材を使う場合のエネルギーロスを防げる効果があるはずだ。
4ヵ所のスパイクは高さ調整可能であり、支持点は本体の外側に広がって設置の安定性を確保。天面が革張りなのも独特で、皮革工芸にも伝統があるお国の産物らしい。
使用ユニットは、高域用が29mm径シルクドーム型でありサブウーファーを除く各モデル共通。「アローポイントDAD(Damped Apex Dome)」というのは、ドーム振動板の頂点を矢のような先端形状の音響的制振部品で覆ったという意味。リングラジエーターにより過渡特性が優秀なのだが、より拡散性を高め、ローレベル再生時に高域が突出しないよう帯域バランスを整えるためだろう。
中域用、低域用ユニットはそれぞれ頑丈なダイキャストフレームの似た外観だが内容は異なっている。
150mm口径の中域用振動板は、ケナフ、カポック、セルロースなどの天然繊維素材を混ぜ合わせ、高粘度のダンピング材で振動特性を整えたもの。180mm口径の低域用(3本並列)は振動板がアルミニウム合金製であり、軽量にして強靭性を備えている。また初動感度の高いロールエッジは中域用と同様であり、音質のまとまりを狙ったのだろう。
3ウェイのSonetto Center IIの低域ユニットは中域用と同じ150mm径であり、リアバスレフ方式。Sonetto Ⅰは2ウェイであり、その中低域ユニットは150mm径。底部前面にスリット状低音ポートが設けられている。
サブウーファーGravis IIは260mm口径のペーパーコーン仕様ドライバーユニットと同じ径のドロンコーンを組み合わせている。アンプはAB級のアナログアンプ。最大出力700Wにより大振幅駆動を得ている。
映像はJVC DLA-V9Rプロジェクターを使いキクチ製120インチのスクリーンに投映。AVセンターはデノンのAVC-X8500HA。ディスクの再生はパナソニックの4KレコーダーDMR-ZR1。オーバーヘッド(頭上)スピーカーはHiVi視聴室備え付けのイクリプスのTD508MK3を使用。もっぱら『トップガン マーヴェリック』のUHDブルーレイ盤を視聴。
Speaker System
Sonus faber
Sonetto VIII
¥1,045,000(ペア)税込
●型式:3ウェイ5スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、150mmコーン型ミッドレンジ、180mmコーン型ウーファー×3
●クロスオーバー周波数:270Hz、3kHz
●出力音圧レベル:90dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W428×H1,181×D438mm/30.5kg
Sonetto Ⅰ
¥228,800(ペア)税込
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、150mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:2.5kHz
●出力音圧レベル:87dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W219×H359×D315mm/7kg
●備考:スタンドは別売り(Stand Sonetto ¥72,600ペア税込)
Sonetto Center II
¥341,000(本)税込
●型式:2ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:29mmドーム型トゥイーター、150mmコーン型ミッドレンジ、150mmコーン型ウーファー×2
●クロスオーバー周波数:220Hz、1.55kHz
●出力音圧レベル:91dB/W/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W743×H289×D409mm/16.2kg
Gravis II
¥203,500(台)税込
●型式:アンプ内蔵サブウーファー・パッシブラジエーター型
●使用ユニット:260mmコーン型ウーファー、260mmコーン型パッシブラジエーター
●アンプ出力:350W〜700W
●接続端子:LFE入力1系統(RCA)、ライン入力1系統(RCA)、ハイレベル入力1系統(スピコン)
●寸法/質量:W356×H404×D408mm/21.5kg
●問合せ先:(株)ノア TEL. 03(6902)0941
まずは5.1chシステムとして再生。豊かな表情と大スケールの轟音が出現
はじめはドルビーアトモス音声を、5.1chトゥルーHD信号として5.1chサラウンド再生を行ない、Sonettoシリーズのパフォーマンスを探る。
まずは全帯域に渡る高密度の再生音が新鮮だ。これは家庭用にしろ劇場用にしろ、高能率の大型ホーンシステムで聴かれる豪快さやごつい音塊に責められるような迫力とは異質だ。緻密で時に濃密な音の波動がじわりと湧き出し、こちらの皮膚と空気の間の層流が新たに形作られる様子が新鮮な印象をもたらすのだ。サブウーファーの重低音とて腕力一点張りではなく、そうした音波の表現形を示して表情豊かだ。
しかも効果音の過渡特性が優秀であり、ジェット戦闘機の爆音など時に嗚咽のような雄叫びのような表情を露わにして、聴き逃していた表情がしっかり提示されるのだ。それと声の実体感や語勢の分析的なほど正確な提示も魅力だ。まだまだ若々しい主役の声は、時に上ずった調子、情動を抑えきれない官能性など明瞭。時に磊落なほどの一筆書き調にしつらえる市中の劇場で聴かれる大芝居とは別種の、濃密な心理劇として台詞芝居が再現されるのも大きな魅力だ。
後半の奇襲作戦の切迫感を伝えるスコア(映画用に作られた音楽)も、微小なフレーズまで彫り込まれ、精妙さを保ったまま空間に溶け込む様子が克明。こうして減衰音が滑空曲線をなぞりつつ表情を残しているからこそ、大きなスケールの響きの空間が出現するわけだ。
そこに力をためては解放される爆音、轟音の明敏な応答性が加わることで劇空間が賦活されていく次第。質も量も十全な力量を示すこのスピーカー群の活躍は、とかく洗練や成熟の言葉を冠される美音が身上とされてきたソナス・ファベールの現代的な進化を物語っている。
精密な再現能力が劇的な演出力を強化!これぞアトモス音響の臨場感を実感
そこで、頭上スピーカーを使ってドルビーアトモス再生にするとどうなるか? 点音源といえる小口径のオーバーヘッドスピーカーとの相性を心配したのだが、意外にしっかりと三次元的な音の座標空間が形作られて楽しめた。これは、先述したような漸近線的になだらかな減衰音の精密な再現能力が、頭上の音源をもなじませ、大きな空間構成が備える劇的な演出力を強化するからだろう。背面飛行の全身を包み込む緊張感や、迫りくるミサイルのCTスキャン像のように克明な音の軌跡など、濃密な媒質感によってその振る舞いが露わになる事態がまことに感動的だ。
こうして、ドルビーアトモス音声の優位性がさほどの微調整を必要とせずに得られたわけで、これはつまり、アトモス音声の電気音響的手段による劇空間の支配力が尋常ではないことも証明している。市中の大きな劇場で経験できるメカニズム同士の強烈な語勢を伴なう効果音の激闘、物体感のせめぎ合いからくる臨場感とは別種の臨場感を味わえるのは意義深いことだ。まったく異なる音響空間であっても、映画の音としてどちらも本物なのである。
最後にCDにてバロック音楽を聴いたが、これは見事に豊潤な響きと繊細至極な微小部分の描写性能が示されて、ソナス・ファベールらしさを堪能できた。音場の三次元的な展望も自然体であり、スピーカーの背後からも上からもよくなめされた空気の塑像が出現する。ここでは直接音も間接音もわけへだてなく主役なのであり、ほのかな陽炎を介してながめる美音の世界は精巧な舞台装置から聴こえるようでもあり、減衰音の無限階調が魂魄を癒す音楽浴の効果がいかんなく発揮される。
このように、このSonettoシリーズには現代映画音響の最高作品をよくグリップし、また音楽再生の桃源郷をも提示する能力が備わっている。質の高いアンプやソース機器をそろえて、徹底的に使いこなしたい逸品だ。
●視聴したシステム
プロジェクター:JVC DLA-V9R
スクリーン:キクチ グレースマット100(120インチ/16:9)
4Kレコーダー:パナソニックDMR-ZR1
AVセンター:デノンAVC-X8500HA
オーバーヘッドスピーカー:イクリプスTD508MK3×6
取材はHiVi視聴室で行なった。まずSonettoシリーズ単独の5.1chシステムで視聴。その後、視聴室常設のイクリプスTD508MK3によるオーバーヘッドスピーカーを組み合わせ、5.1.6スピーカー構成によるドルビーアトモス再生を行なった
本記事の掲載は『HiVi 2023年冬号』