【再生システム研究】Emitシリーズが実現するシームレスサラウンドの桃源郷
日経トレンディ誌12月号の〈2022年のヒット商品ベスト30〉で『トップガン マーヴェリック』が第4位に。何度も映画館に通った人を「追いトップガン」などというらしい。そんな「追い」のみなさんは当然UHDブルーレイを買っておられると思いますが、このディスク、画質・音質、音響効果すべてが極上で、コレを機会に多くの追いトップガンにホームシアター趣味にハシってもらいたいと思いやす。
さて、ここでのテーマは、ディナウディオのEmit(エミット)シリーズのスピーカーで5.1chシステムを組んで『トップガン マーヴェリック』を楽しもうというもの。HiVi視聴室リファレンスのAVセンター、デノンAVC-X8500HAを用いて、Emitシリーズの5.1chシステムに視聴室に設置されたトップスピーカー(イクリプスTD508MK3)6本を加えた5.1.6構成でドルビーアトモス再生に挑戦してみたい。
Speaker System
Dynaudio
Profile
デンマークから数多くの名スピーカーを生み出し、世界的なブランドとして名高いディナウディオ。同社のエントリー製品群として2015年にリリースされたのが、Emitシリーズだ。今回視聴に用いたのが、2021年に第二世代機として2021年にフルモデルチェンジされた現行Emitシリーズとなる。ディナウディオの特徴というべきMSP(Magnesium Silicate Polymer/珪酸マグネシウム・ポリマー)採用のミッドレンジ、ウーファーユニットや、伝統の28mmソフトドームトゥイーターをスクエアなエンクロージャーに搭載している。トールボーイ2機種、ブックシェルフ2機種のほか、センターモデルもラインナップ。今回は14cmユニット搭載機と24cmユニット搭載のサブウーファーで5.1chシステムを構築。サラウンド空間上にいかに音が良好につながるかをポイントにシステムアップしてみた(編集部)
Emit 30
¥297,000(ペア)税込 写真右
●型式:2ウェイ3スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:28mmドーム型トゥイーター、140mmコーン型ミッドレンジ、140mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:1kHz、3.55kHz
●出力音圧レベル:87dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W268×H947×D335mm/15.53kg
Emit 10
¥143,000(ペア)税込 写真左
●型式:2ウェイ2スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:28mmドーム型トゥイーター、140mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:3.7kHz
●出力音圧レベル:85dB/2.83V/m
●インピーダンス:6Ω
●寸法/質量:W170×H290×D285mm/6.43kg
Emit 25C
¥132,000 税込
●型式:2ウェイ32スピーカー・バスレフ型
●使用ユニット:28mmドーム型トゥイーター、140mmコーン型ミッドレンジ、140mmコーン型ウーファー
●クロスオーバー周波数:1kHz、3.5kHz
●出力音圧レベル:87dB/2.83V/m
●インピーダンス:4Ω
●寸法/質量:W550×H170×D285mm/10.98kg
SUB 3
¥253,000(台)税込
●型式:アンプ内蔵サブウーファー・密閉型
●使用ユニット:240mmコーン型ウーファー
●アンプ出力:300W
●接続端子:LFE入力1系統(RCA)、ラインステレオ入力1系統(RCA)、ほか
●寸法/質量:W266×H276×D336mm/10.5kg
●問合せ先:DYNAUDIO JAPAN(株)TEL. 03(5542)3545
同一のユニットを使ったEmitシリーズで5.1chサラウンドシステムを構築
ディナウディオは1977年にデンマークで創設されたスピーカー専業メーカーだ。現在もR&D(研究開発)センターは同国のスカンデルボルグに置かれているという。創業後間もなくドライバーユニットの内製に取り組み、現在ではホーム/カー/プロ用途と多岐に渡るスピーカーシステムを開発している。また、世界中のスピーカーメーカーにユニットを供給するサプライヤーとしても同社は有名で、それは多くのオーディオファンの知るところだろう。
今回採り上げるEmitシリーズは、ホームオーディオのエントリーラインに位置づけられる製品群。ここではEmit30をフロントL/R用、Emit10をサラウンド用、Emit25Cをセンター用、SUB3をLFE(Low Frequency Effect)用に充てて5.1chを構成した。
5本のスピーカーすべて、同社がMSPと呼ぶコンポジットコーン・ウーファーと布製ソフトドーム・トゥイーターを組み合せたバスレフ型で、しかもすべてのスピーカーのウーファー口径が14cmに揃えられている。これはシステムの音をスムーズに溶け合わせる上で大きなメリットになりそうだ。
ディナウディオといえば、高品位な高域ユニットが奏でるクリアーなサウンド、というイメージを持つ方が多いだろう。その原動力がこのソフトドームトーイーター。Emitシリーズでは名ユニット「Esotar」から派生した「Ceroter」を搭載。ユニット背面のリブは放熱のための構造だ
上級モデルEvokeやContourから受け継いだMSPコーン採用のウーファー、ミッドレンジユニット。軽量さとタフネスさ、さらに優れたダンピング性能が高度にバランスしたディナウディオ伝統のユニットだ。強力な磁気回路も特徴だ
ノーブルで尖ったところのない落ち着いた音調は共通している
まず最初にCDの2チャンネル再生で、Emit10とEmit30の音の違いをチェックしてみた(ブックシェルフ型のEmit10は視聴室に常備された鉄製スタンドに載せて聴いた)。
ともに共通するのは、尖ったところのないノーブルで落ち着いた音調。MPSコーン・ウーファーとソフトドーム・トゥイーターの組合せならではの、ヨーロッパ・トーンの渋いサウンドと言ってもいいだろう。Emit10は音像・音場表現のまとまりがきわめてよく、使いやすいスピーカーという印象。音量を絞っていっても低音が痩せないのも本機の美点だろう。これを4本使ったサラウンド・システムも興味深い。
Emit30はその音調を引き継ぎながらも、14cmウーファー2基をスタガー動作させた(受け持ち帯域をずらした)フロアスタンディング型ならではと思えるスケールを実感させる。ミッドレンジもEmit10以上に厚くなる印象だ。
センタースピーカーのセッティングは画面とL/Rスピーカーとの関係性に注意
両モデルの持ち味が把握できたところで、5.1ch再生に移ろう。ここでまず注力したのは、センタースピーカーEmit25Cのセッティングだ。長い支柱のスタンドを用いてスクリーンの下端ぎりぎりまで持ち上げ(床から約60cm)、L/RスピーカーとEmit25Cのトゥイーター位置の高さの差を約10cmとした。L/Rスピーカーとセンタースピーカーの垂直方向のアコースティックセンター(2ウェイ機の場合はトゥイーター位置と考えてよい)が、リスニングポイントから見て10度以内に収まるようにセンタースピーカーを持ち上げるべしというのが、ルーカスフィルムを出自とするTHX社の指針。以前同社を取材したときに得た情報だ。このようにセッティングすると、Emit25CのウーファーとEmit30のミッドウーファーの高さが揃うので、これまた音のスムーズなつながりに寄与してくれそうだ。
サラウンドスピーカーのEmit10は視聴位置やや後方に、サブウーファーのSUB3はLスピーカーとセンタースピーカーの間に置き、5本のスピーカーはすべてベースマネージメントを行わない「ラージ」設定とし、テストトーンを発生させて聴感でレベル合わせを行なった。
入念にセッティングを決めたところでUHDブルーレイ『トップガン マーヴェリック』を再生する。オープニングの「トップガン・アンセム」がHiVi視聴室全体を満たし、その音場の広がり、立体感にいきなり感激した。SUB3の音量設定もうまくいったようで、サブウーファーだけが独立して鳴っているような違和感もない。
マーヴェリック(トム・クルーズ)海軍大佐が、Kawasakiに乗って飛行場を爆走する場面の移動音はL/C/Rスピーカーがスムーズにつながるし、戦闘機が前方から飛来するシーンも音色が変化することなく立体的に表現され、振動板素材が統一された同一スピーカー・シリーズでサラウンド・システムを組むメリットを改めて実感させられた次第。
ペニー(ジェニファー・コネリー)のバーの喧騒は360度方向に音が広がり、臨場感満点。ペニーの声も濡れたように艶やかで、とても生々しい。このチャプターの、マーヴェリックとペニーの会話場面でセンタースピーカーの有り無し(L/Rにダウンミックス)でどのように再現性が変わるかをチェックしてみた。
センタースピーカーなしのL/Rダウンミックス再生にすると、ダイアローグが下から聞こえる違和感はなくなって映像と音像の一致感は増すが、センタースピーカー有り(ハードセンター)に比べて声がにじんだようにふくらむことがわかった。これはもっとセッティングを追い込むなり、EQ(イコライザー)を活用する必要があるということだろう。いずれにしてもセンタースピーカー問題は難しく、それぞれのユーザーの考えに従ってどう運用するかを決めるほかない。家族が横並びにソファに座って観るようなケースではセンタースピーカー有りをお勧めするが……。
アトモス再生が理想的ではあるが5.1chシステムでも「高さ」は表現可能だ
Emitシリーズで本作のUHDブルーレイを観て、すごく感心したのがチャプター7。マーヴェリック大佐が “アイスマン” 海軍大将と会話をする場面だ(アイスマンはろくにしゃべることはできないが)。マーヴェリックのセリフがセンタースピーカーから放射され、その奥にL/Rスピーカーによって奏でられる音楽が立体的に広がっていく。そしてその後、音楽がサラウンドスピーカーとトップスピーカーからも流れ出るようになり、半球面状の3次元立体音響が構築されるようになる。音場の広がりが実にスムーズで、その音響設計の巧みさに心を奪われたのだった。
こういう静かな場面のサウンドデザインの秀逸さを味読することこそ、ホームシアターの醍醐味だろう。ぼくは7月に東京・池袋のグランドシネマサンシャイン「IMAXレーザーGTテクノロジー」スクリーンの12chサラウンド・システムで本作を体験し、大音量でドッグファイト・シーンを観る快感のトリコとなったが、こういう緻密な音響設計の妙味を分析できるのがホームシアターの魅力だと改めて実感する。
最後にそのドッグファイト・シーンをトップスピーカー無しの5.1ch再生でも体験してみた。Emitシリーズで統一した今回の5.1chシステムであれば、頭上を通過する編隊の「高さ」が実感できることがわかり、これで十分かも? との思いも。しかしながら、もう一度トップスピーカー6本のドルビーアトモス再生を試してみると、その「高さ」の質が変わることがありありと実感できた。天井の音が厚く、全体の音場がより立体的に感じられるのである。こういう違いを実感すると「やれる人はやってくださいドルビーアトモス」というほかないだろう。はい、わたくしも苦労して天井にスピーカーを取り付けましたし……。
●視聴したシステム
プロジェクター:JVC DLA-V9R
スクリーン:キクチ グレースマット100(120インチ/16:9)
UHDブルーレイプレーヤー:パナソニックDP-UB9000(Japan Limited)
AVセンター:デノンAVC-X8500HA
オーバーヘッドスピーカー:イクリプスTD508MK3×6
120インチスクリーンによる大画面映像再生にEmitシリーズ+SUB3による5.1chシステムを組み合わせた。センタースピーカーは、60cm高のアコースティックリバイブ製スタンドを使い、画面の下端ギリギリまで持ち上げている
本記事の掲載は『HiVi 2023年冬号』