【再生システム研究】デノンの新機軸「サブウーファー複数個遣い」の官能を徹底検証

 デノンの新製品であるAVR-X2800HとAVR-X3800Hは素晴らしい出来映えだ。ミドルクラスの7chパワーアンプ内蔵のX2800Hは前作からさらに音を磨き上げ、優れた分解能と音像定位、豊かな表現力を身につけた。9chパワーアンプ内蔵のAVR-X3800Hは、上級機にも迫るパワーと質感の高さを備え、ミドルクラスとは思えない実力を獲得した。そして、両機とも操作画面のデザインを一新して使い勝手を向上。X3800Hはデジタル信号処理のためのDSPを最新のものとし、機能性を高めた。こうした次世代を見据えた新しい設計も盛り込まれたモデルなのだ。

 その実力を確かめるため、デンソーテンの協力を得て、兵庫県にある同社スタジオで取材を行なった。イクリプスのコンパクトなスピーカーで全チャンネルを統一したシステムとデノンの新AVセンターを組み合わせて『トップガン マーヴェリック』(以下『マーヴェリック』)のUHDブルーレイを鳴らしてみようという趣向だ。

 

AV Center

DENON
AVR-X2800H
¥121,000 税込

●定格出力:95W+95W(8Ω、20Hz〜20kHz、THD 0.08%)
●搭載アンプ数:7
●寸法/質量:W434×H167×D341mm/9.5kg

画像1: 特集『トップガン マーヴェリック』再生大研究。凄まじい低音と高精度の空間表現を両立!これがドルビーアトモスの真骨頂、サブウーファー4個遣いの効果は絶大だ DENON「AVR-X2800H」「AVR-X3800H」

7chアンプ仕様のX2800Hは、比較的シンプルな端子類の装備となる。HDMI入力端子は6系統備わるが、8K対応はHDMI4~5の3系統となる。サブウーファー端子は2系統搭載するが、X3800Hとは異なり、同一信号を出力する仕様だ

 

DENON
AVR-X3800H
¥181,500 税込

●定格出力:105W+105W(8Ω、20Hz〜20kHz、THD 0.08%)
●搭載アンプ数:9
●寸法/質量:W434×H167×D389mm/12.5kg
●問合せ先:デノン・マランツ・D&Mインポートオーディオお客様相談センター TEL. 0570(666)112

画像2: 特集『トップガン マーヴェリック』再生大研究。凄まじい低音と高精度の空間表現を両立!これがドルビーアトモスの真骨頂、サブウーファー4個遣いの効果は絶大だ DENON「AVR-X2800H」「AVR-X3800H」

X3800Hのリアパネル。HDMI端子は入力6系統、出力3系統を装備。サブウーファーの出力端子としてRCAアンバランスを4系統備えている。4基のサブウーファーを使う場合は、前左を「SW1」に、前右を「SW2」、後左を「SW3」、後右を「SW4」につなぐ

 

初めてのアトモス再生にX2800Hは好適。実体感溢れるX3800Hの音は見事だ!

 まずはAVR-X2800H。7chアンプ搭載機なので、フロアにTD510ZMK2スピーカーを5台とサブウーファーTD725SWMK2、さらにオーバーヘッドスピーカーにTD510MK3を2台用いた5.1.2構成で『マーヴェリック』を見た。各スピーカーはすべて「小」設定で、トップスピーカーはフロント側。距離は3m、クロスオーバーは60Hzで統一。サブウーファーは前方に置いた(接続❶)。冒頭の夕焼けの中での空母の甲板上での離発着の場面は、洋上の広々とした空間がスケール豊かに描かれ、戦闘機のジェットエンジンの音も実にパワフル。その轟音の移動も実にスムーズだ。「デンジャー・ゾーン」が流れると、それだけで気分が上がる。

 実験機ダークスターによるマッハ10の極超音速試験では、強烈な風のうなりが音速飛行での大気の圧力を感じさせる。風の流れる感じや機体の振動など空間再現や細かな音の再現も優秀だ。また、パイロット訓練での模擬戦闘では、機体をかすめていくマーヴェリック機の飛翔音の移動感や空中戦での自由自在な音の定位と移動も実にクリアーに再現。コクピット視点の臨場感はまさに自分が飛んでいるよう。小型スピーカーによるシステムとは思えない大スケールの音だ。チームの結束を高めるためのトップガン式ビーチフットボールの場面では、にぎやかな喧騒とムード豊かな音楽が美しく描き出され、表現力豊かな音の実力の高さが実感できた。12万円ほどのAVセンターとしてはかなりの実力で、初めての1台として強くおすすめできる。

 続いて、AVセンターをAVR-X3800Hに変更。5.1.4構成でスピーカー設定は「小」、距離3m、クロスオーバー60Hzは同様。冒頭のシーンからして、さらにスケール感が雄大になる。戦闘機のエンジン音を背景に、甲板上の人々の動きや音がさらに明瞭になり、実音の存在感が伴なった表現はミドルクラスを超えたもの。実験機の場面では離陸時の機体から遅れて強風が吹いてくる感じも、音の移動のスムーズさだけでなく、その場所の広さと大気の圧力が感じられる。ビリビリと震える機体のリアリティや雄大になった空間に実体感あふれる音が自在に定位する表現力は、さすがに基礎体力の違いを感じさせる。

サブウーファー1個遣い 接続❶

基本パターンとしてTD725SWMK2サブウーファーを1台用いた再生を試す。AVR-X2800Hでは5.1.2再生、サブウーファー複数個遣いが可能なAVR-X3800Hでは5.1.4再生となる。AVセンターの設定はオールスモールで、クロスオーバー周波数は60Hzとした

画像4: 特集『トップガン マーヴェリック』再生大研究。凄まじい低音と高精度の空間表現を両立!これがドルビーアトモスの真骨頂、サブウーファー4個遣いの効果は絶大だ DENON「AVR-X2800H」「AVR-X3800H」

 

サブウーファーの複数遣いに挑戦!

画像5: 特集『トップガン マーヴェリック』再生大研究。凄まじい低音と高精度の空間表現を両立!これがドルビーアトモスの真骨頂、サブウーファー4個遣いの効果は絶大だ DENON「AVR-X2800H」「AVR-X3800H」

今回はイクリプス製スピーカー&サブウーファーの開発拠点であるデンソーテン本社内のスタジオで視聴を行なった。スピーカーはTD510ZMK2×5台とオーバーヘッドスピーカーTD510MK2を4台(X3800H再生時。X2800H再生時は2台)と複数のサブウーファーを用いて、様々なパターンでの再生を実施している(編集部)

[使用したサブウーファー]
ECLIPSE
TD316SWMK2 ¥132,000 税込(写真左)
TD520SW ¥286,000 税込(写真中)
TD725SWMK2 ¥550,000 税込(写真右)
●問合せ先:(株)デンソーテン Tel. 0120-02-7755

 

低音が移動する!その新機軸を徹底的に試す

 そして、X3800Hにはサブウーファーを最大4台まで接続可能な新機能が搭載されたことが注目だが、それを試す。最大で4台のサブウーファーをパラレルで動作させる「スタンダード」モードのほか、「指向性」というモードもある。これは前後左右の配置の場合、エリアを4つに分割し、同じエリアにあるスピーカーの低音を各サブウーファーが個別に受け持つというもの。つまり移動するように描かれる中高音に連動して低音がきちんと移動するというわけだ。

 サブウーファー4個遣いというと、大げさ過ぎると感じる人は少なくないだろう。しかし、昨今の大型スピーカーのウーファーが大口径1発ではなく口径の小さい2発などで構成するように、ひとつひとつの負担が減るので1個あたりは小口径で済む。音の立ち上がりも向上するし歪みも減る。つまり、4台遣いといっても扱いやすい小型モデル4台でいいとなれば、決して無茶な話しというわけでもないだろう。なお、サブウーファーの「指向性」は、スピーカー「小」設定時だけでなく、低音設定で「LFE+メイン」を選んだ時にも使用できる。

 まずはTD520SWの2個遣いでその効果のほどを試してみよう(接続❷)。はじめは「スタンダード」モード。2台とも同じ音が出るパラレル動作だ。そのほかのスピーカーセッティングは同じ。これだけでもかなりいい。試みにTD520SWの1台再生も試したが、TD725SWMK2との差はあり、低音はもちろん空間感も少しこぢんまりした印象になる。しかし2個遣いならば低音感は遜色がない。大口径の余裕のある鳴り方よりもややタイトでキレのある感じで、『マーヴェリック』にはこちらの方が好ましいとも言える。1台の時も低音の偏りが気になることはなかったが、空間の広がり方の自然さは2個遣いの方が上だ。

 そして、いよいよ「指向性」モードを試す。2個遣いの場合「指向性」は「左右」または「前後」が選べる。模擬戦闘のシーンを見てみると、「左右」(接続❷)では明らかに空間の横の広がりが豊かになり、立体感が増す。戦闘機が飛び交うときの距離の遠近までわかるような、空間再現の解像度が高まった感じだ。「前後」(接続❸)の場合は、左右の空間は小さくなるが、そのぶん後方の空間が拡大する印象。なにより飛び去る後方の音が塊となって移動する感覚は今までになかった体験だ。これは、トップスピーカーから出ている低音もきちんと後ろから聴こえるメリットだと思う。いつもは置き去りにされた低音が前で鳴っていたが、きちんと後方から低音も鳴ると、音の一体感、実体感の高まりが凄まじい。

サブウーファー2個遣い 接続❷、接続❸

発展形としてサブウーファー2個遣いに挑戦。TD725SWMK2のほぼ半額となるTD520SWを2台使うトライアルだ。まずフロントL/Rの外側に2台を置いた接続②で、AVセンター側の「スタンダード」モードと「指向性」モードの違いを確認。前者は同一LEF信号のモノーラル再生、後者はLFE信号と左右に分割された低音成分を指向性を持った信号として振り分ける処理を行なう。2台遣いでの「指向性」モードでは「前後」の設定も可能で、その状態(接続③)でも聴き比べている

画像8: 特集『トップガン マーヴェリック』再生大研究。凄まじい低音と高精度の空間表現を両立!これがドルビーアトモスの真骨頂、サブウーファー4個遣いの効果は絶大だ DENON「AVR-X2800H」「AVR-X3800H」

 

 

複数サブウーファーをうまく使えば小型システムが大きく化ける可能性あり

 次はTD316SWMK2を3台で聴く。「指向性」モードでは、「フロント左右+リア」が選択できる(接続❹)。新体験である先ほどの「前後」でのTD520SWでの再生はかなり魅力的だったが、やはりTD316SWMK2でも前側2台で再生すると左右の空間表現のイメージがはっきりと広がる。120インチの映像を超えるスケール感があり、映画館のような壁一面のスクリーンがほしくなるほどだ。TD316SWMK2でも2台を試すと前方の低音感はあまり不満がないが、「フロント左右+リア」の3台遣いでは、当然ながら前後の再生空間の広がりが感じられてさらに臨場感が高まる。ただ飛び去っていく音や後方に迫った敵機の迫力に意識を絞って聴くと、後ろ側の表現がやや不足気味にも感じてくるのが気になってくる。

サブウーファー3個遣い 接続❹

さらにサブウーファーの数を増やしたらどうなるだろうか。TD520SWの弟分で約半額のTD316SWMK2を3台用意して試す。スピーカーの設定で、サブウーファーを「3台」として、「指向性」モードを選びつつ「左右+リア」の設定にすればよい。なお今回はオールスモール設定で試したが、ラージ設定でもサブウーファーの設定を「LFE+メイン」にすれば、同様の処理が可能だ

画像10: 特集『トップガン マーヴェリック』再生大研究。凄まじい低音と高精度の空間表現を両立!これがドルビーアトモスの真骨頂、サブウーファー4個遣いの効果は絶大だ DENON「AVR-X2800H」「AVR-X3800H」

 

 ならば4台遣いだ。「指向性」モードは「前後左右」(接続❺)のみとなる。

 これは凄い!空間の広がりや移動の感覚のスムーズさはもはや当然で、ど真ん中の視聴位置を中心として空間に太い軸が通ったような、あらゆる音の定位を数値で把握できるような正確さを感じた。クライマックスでの急上昇シーンでは、急激な加速度に耐えるパイロットの呼吸音を自分が発しているような感じになるし、パイロット視点での四方からの音、ロックオンされたときの警戒音の緊迫感がハンパない。この臨場感は今までにないものだし、これぞドルビーアトモスの立体音響の真骨頂かとも思う。

 TD316SWMK2はわりとコンパクトだが4個遣いで使うのなら、価格的にほぼ同額となるTD725SWMK2の1個遣いが物足りなく感じるほどの効果を実感した。この状態でじっくり聴くとAVR-X3800Hの実力の高さも改めて認識できたのも収穫だ。ここまでの充実した低音再生で、ダイアローグや音楽といった本来の音の実力や再現性に不満が出なかったのだ。4個遣いのサブウーファーの凄まじい低音に負けず、より精度の高い空間表現とドラマティックなダイアローグと音楽を楽しませてくれるAVR-X3800Hはミドルクラスという枠では捉えられない、そんな製品だ。

 サブウーファー4個遣いはその素晴らしい効果だけでなく、小型スピーカーを中心としたシステム構成でも大型システムに負けない音を出せる可能性がある。これこそ実現可能なホームシアターの理想形だと思う。ぼくはもう決めた。ためらっている読者にはこの言葉を捧げよう。
「Don't think. Just do!」

サブウーファー4個遣い 接続❺

前後左右の4つのエリアに分けて、低音を再生するのが「指向性」モードの「前後左右」の4個遣いの再生となる。今回は同一のサブウーファー(TD316SWMK2)を用意して実験を行なったが、実に効果的で重低音が空間を動くという異次元の体験ができた。大きなサブウーファーを1台使う、という時代から小さいサブウーファーを複数使うのが賢いという時代が来たのかもしれない(大きなサブウーファーを4台使えれば、もちろん最高だが)

画像12: 特集『トップガン マーヴェリック』再生大研究。凄まじい低音と高精度の空間表現を両立!これがドルビーアトモスの真骨頂、サブウーファー4個遣いの効果は絶大だ DENON「AVR-X2800H」「AVR-X3800H」
画像13: 特集『トップガン マーヴェリック』再生大研究。凄まじい低音と高精度の空間表現を両立!これがドルビーアトモスの真骨頂、サブウーファー4個遣いの効果は絶大だ DENON「AVR-X2800H」「AVR-X3800H」

 

 

本記事の掲載は『HiVi 2023年冬号』

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