GENELEC(ジェネレック)が家庭用スピーカーシステム6040Rを発表した。世界のスタジオで標準的に使われている、フィンランドのモニタースピーカーを家庭で使いたいという要望は世界中で多数あり、日本法人にも寄せられていた。すでにヨーロッパ市場でいち早くリリースされていた、Signatureシリーズの第一弾となる、フロア・スタンディングスピーカー「6040R」がついに日本に上陸したのだ。型番の「R」とは「Re-Imagine(再構築)」のこと。同シリーズは、ジェネレックの歴史の中でも象徴的な過去製品を、最新の技術を投入し、リニューアルすることを旨とする。
本製品の原点は2001年の「6040A」。現在のジェネレックのアイコンとも言える、リサイクル・アルミニウムによる流麗な外観を初めて採用した歴史的な製品だ。フィンランドの著名な工業デザイナー、ハッリ・コスキネン氏が初めてデザインを手掛けたジェネレックのスピーカーでもある。
6040Rは、2ウェイバイアンプ内蔵アクティブ型、密閉箱……という基本スペックはオリジナル6040Aと同様だが当然、ユニットはリニューアルされ、さらに部屋の音響特性に最適化させる周波数特性補正、GLM(Genelec Loudspeaker Manager)に対応した。
Active Speaker
6040R
オープン価格(実勢価格ペア99万円前後)
●型式:アンプ内蔵スピーカーシステム・密閉型
●使用ユニット:19mmドーム型トゥイーター、165mmコーン型ウーファー
●アンプ出力:150W×2
●接続端子:アナログ音声入力1系統(XLR)、デジタル音声入力1系統(AES/EBU)、デジタル音声出力1系統(スルー)、RJ-45端子2系統(GLMネットワーク用)
●寸法/質量:W250×H999×D266mm/14.9kg
●問合せ先:ジェネレックジャパン
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音楽が作られる現場で鍛えられたジェネレックを家庭向けに展開
6040Rの試聴に入る前になぜ家庭用スピーカーとして、ジェネレックが歓迎されるのかを述べよう。同社モニタースピーカーは、世界の数多くの録音スタジオや放送局に導入されている。それは業務用途としてカラーレーションのない、正確にしてナチュラルなニュートラルサウンドが高く評価されているからだ。
それを実現するのが3つの技術だ。ひとつがアクティブ駆動。各ユニットに最適な専用アンプを内蔵でき、さらに信号経路の最短化、高音と低音を分割するネットワーク回路の最適化が図れる。二つ目が正確な音場・音場再現のための放射・拡散技術。エンクロージャーのエッジ部分をアール形状で回折を減少させ、さらにダイアフラムの形状をそのまま延長させた曲面を付与することで、指向性を飛躍的に拡張させる。アルミニウム素材はこうした繊細な加工を可能にした。三つ目が、前述した部屋の音響特性にスピーカーを最適化させるGLMだ。今回、業務用スタジオで高い評価を受けているGLMを家庭用に導入したことは、同社がいかにSignatureシリーズを重視しているかの証左になろう。この3つの技術と、その結果としての「ニュートラルサウンド」のコンセプトはその音源の本質を聴くということからも当然、家庭用スピーカーとしてもたいへん有用である。
❶ エンクロージャーは、ダイキャスト製アルミニウム。デザインは本機の原型で、2001年登場の6040Aと同様に、フィンランドの著名工業デザイナー、ハッリ・コスキネンによるもの。シンプルでありながら、複雑なディテイルを巧みに組み合せたフォルムで、6040A以後のジェネレックスピーカーのデザインのモチーフとなった
❷ 19mm口径のメタルドーム型トゥイーターを搭載。音の指向性を均一かつスムーズになるように、ユニット周辺をウェイブガイドとして緩やかな曲線としたDCW(Directivity Control Waveguide)という独自技術を採用。トゥイーターの軸上はもとより軸外でもフラットな周波数特性を実現し、ステレオイメージの向上にも寄与する
❸ 低域部は165mm口径のウーファーが担う。パンチングメタルのカバーは外れない仕組みとなっている。スペック上の周波数特性は、±1.5dBで50Hz、-6dBでは43Hzまで確保されているが、実際の再生音ではもっと伸びている印象だ。見掛けは小型スピーカーだが、雄大な低音は大口径ウーファーでの再生を彷彿させるものだ
❹ 本体とスタンドが一体化されたデザインはオリジナル6040Aから受け継いでいる。他のジェネレックのスピーカーがバスレフ型であるのに対し、6040Rではオリジナルの6040Aで採用された密閉型を採用していることも特徴だ。なお、本体とスタンド部分は、構造的には分離しており、スタンド内部をエンクロージャーとしては利用していない
❺ スタンド底面には、接続端子部が組み込まれているほか、内部にはアンプ回路と電源、信号処理回路がコンパクトに搭載されている。アンプはクラスD方式の150W出力の高域用と低域用アンプ2台を内蔵する。本体全体の高さは約100cmで、本機の音響中心位置(≒トゥイーター中心位置)は約92cmとコンパクトなシステムだ
接続はアナログバランスケーブルで行なうのが基本。2番ピンHOTの仕様となる。デジタル音声入力は一部の家庭用機器と業務用機器で使われているデジタルAES/EBUでの接続を念頭においてのものだ。RJ-45端子が2系統備わるがこちらは独自のGLM(Genelec Loudspeaker Manage)機能を利用するときに必要なLANケーブルの接続用だ。電源スイッチは左端の正方ボタンだ
底面にはディップスイッチとロータリー式のレベルコントローラーが備わる。ディップスイッチは、LOWBASS(カットオフ周波数付近の超低音のレベル低減用)、BASS(800Hz近辺の低音レベル低減用)、TREBLE(5kHz以上の高音レベル調整用)のほか、スピーカーベースに備わるLEDやオートパワー機能のオンオフなどが設定できる
独自の音響補正機能「GLM」が進化。その大きな効果を体感した
では6040Rの試聴に入ろう。まずGLMの効用を試す。スピーカーからの測定音を聴取位置に置いたマイクで測定、パソコンにインストールされた専用ソフトウェアで各スピーカーの周波数特性や聴取位置までの到達時間を測り、逆カーブのフィルターにて部屋のクセや左右の音量差、聴取位置までの到達時間の差を補正する。この仕組みそのものは、多くの類似システムで採用されているが、GLMは15年に渡るプロ環境での徹底的な検証、研究の実績を活かしたものという。スピーカーの外観と同じく、コスキネン氏が手がけたGLMの画面デザインも秀逸だ。直感的にスピーカーの配置や再生フォーマットに合わせたレイアウトの設定が可能となっている。付属のGLMアダプターをパソコンと接続し、専用測定マイクにてスピーカーからのスイープ音を捉える。それを基にGLMクラウドサーバー上で再生環境に最適化した設定の演算が行なわれ、その結果はスピーカー本体に搭載されたDSPにより再現される。
6040RにはGLMキットが付属している。これとGLMソフトウェアを組み合わせて、スピーカーの基本設定ならびに再生環境にフィットした調整を行なう流れだ。基本のステレオ再生から、ドルビーアトモス等に対応したイマーシブ対応システムまで幅広い構成の設定がわかりやすく可能になっている。準備として、GLMキットに含まれるアダプター本体に、①パソコン(Mac/Windows)とUSBケーブルで接続、②スピーカー本体をLANケーブルで接続、③キット付属マイクの接続を行ない、④パソコンに「GLM4」というスピーカー・マネージメント・ソフトウェアをダウンロード(無料)しておく。以後は画面に従ってセッティングしていく流れだ。なお測定は極めてスムーズかつ合理的な手法が取られており、慣れれば作業全体で数分程度と短時間での測定が可能だ
GLM4のアプリをMacで立ち上げた際の画面。まず、どのようなスピーカーシステムのレイアウトで使うのかをテンプレートから選択する。画面は7.1.4システム時のものだ
ここではシンプルな2chステレオセッティングを選択。6040Rのアイコンがグラフィカルに描かれている。ステレオ再生から22.2chや360Reality Audioなどもすでにテンプレートが用意されている
測定結果の画面。赤いグラフは周波数特性の実測値、青いグラフが適用フィルター、緑のグラフが補正した結果となる。GLMが賢いのは部屋の伝送特性に依存する低域のディップ(凹み)に対しては、その周波数の近傍周波数を補正し、部屋の癖を避けて高い効果を狙っていることだろう。フィルターは測定後、手動調整もできるので、効果が強すぎる場合など好みの調整が可能だ
ここでの注目は、すでにGLMが左右のスピーカー特性を完全に把握していること。フィンランド・イーサルミの本社工場ではユニット製作、ボックスへのアセンブリー、品質管理……など、製品にまつわるすべての工程を自社内で行なっているが、なかでも注目は、出荷時に1台1台を測定し、そのデータをアーカイブとして保管していることだ。プロのモニター用途ではたとえ故障しても、そのデータを元にオリジナル特性の蘇生が可能という点も、高く評価されている。GLM測定でも、測定用マイクはシリアル単位でその特性が管理されているので、精密で正確な測定、補正が可能という。
私は2019年12月号の本誌記事で、同社製品のThe OnesシリーズでGLMを試し、その大きな効果に驚いたが、今回はそれに加え、さらに新しい発見があった。さっそく紹介していこう。
GLMの試聴は①GLMオフ、②GLMオン、③GLMオン+本誌視聴室の特性を加味して、主に低域を微調整したデータの3通りで行なった。音源はUAレコードの『エトレーヌ/情家みえ』の「チーク・トウ・チーク」。
①GLMオフでは、ベースの弾み感や量感があり、音進行の勢いも良い。基本性能としての高質感、音像の明瞭性という良い資質を保有していることが十分に感じられる。では、②GLMオンはどうか。圧倒的に良くなった。微少信号領域まで情報量が増大し、低音の量感が格段にスケールアップ、音像フォーカスが明確に。ヴォーカルがディテイルまで綿密に再現され、ボディも豊かになった。スネアドラムの立ち、ピアノのオブリガードの切れ味など、美味しい。これが6040Rの本来の音だと分かった。
この音の後では①GLMオフの音はヴォーカルの硬さや響きの少なさ、彩度の薄さがあったと感じたが、これらはおそらく視聴室自体に備わる音響的なクセが理由だったのだろう。逆にいうと、スピーカーは単に置いただけでは、部屋の特性との関係により、持っている性能は十全には出せないということが、はっきり認識できた。GLMの威力を、まざまざと思い知った格好だ。
でも大事なのは、これからだ。GLMのデフォルトのターゲットは、フラットレスポンスだ。それが②の音なのだが、実はさらにGLMソフトウェア上で、自動補正で適用されたEQフィルターを細かく調整することもできる。生成されたチャートを見ると、部屋とスピーカーの位置関係から少し低域が落ちている箇所がある。そこで50〜60Hzをわずかに上げ、800Hzを少し下げたところ(③)、おお!と感嘆するほど、さらに表情が変化したではないか。アコースティック・ベースはさらに量感を増し、ピアノの表情がすべらかになり、ヴォーカルの質感が麗しく、艶艶してきた。冒頭の「Heaven♪」は元気に溌剌と歌われ、2回目の「Heaven♪」は、囁きが耳をくすぐる。空間感もより濃密になり、音像がより明確にポジションし、スピーカーからではなく、まさに空間のその位置から音が発せられる。これは前述したジェネレックの分散テクニックの賜物であろう。②フラットレスポンスではモニター的だったか、③微調整を加えると、断然、魅力的になった。
強靭な音と正確な音場再現力で見事に映画音響の魅力を引き出す!
では映画はどう再生されるか。UHDブルーレイ『アリー/スター誕生』のDTS-HDMA5.1ch音声を2ch再生した。感動したのは、空間再現能力の素晴らしさだ。ステレオでの再生なのだが、音場と音像にまつわる情報が非常に多い。センターに大きく睥睨するヴォーカルとギターは、まさに空間そのものから発音されている。もうひとつの特徴が高剛性だ。全帯域でテンションが漲り、立ち上がり/下がりが俊敏で、輪郭のキレがシャープだ。低音力も勁い。
この強靱さは、4K映像と合致する。4Kの押し出しの強い高画質に対抗できるというより、映像と手を携えて作品世界を深く耕す力が、この6040Rには備わっていると聴いた。それは『グレイテスト・ショーマン』(ドルビーアトモスを2ch再生)でも痛感した。チャプター1の強烈な足踏み/足叩き+エレクトリックベースの強靱低域+全員コーラスを、これまで多くのスピーカーシステムで聴いてきたが、多くの場合、鈍さやダレを感じたものだ。ところが、6040Rはまったくダレたりせず、俊速な立ち上がり/下がりにて、これまで聴いたこともないような強剛性の音を聴かせる。しかも単に勁いだけでなく、耳の位置まで音場がせり出してくるのである。まさにジェネレックならではの音場力だ。
今回、音楽、映画の様々な音源を聴き、6040Rはコンテンツの本来の価値をそのまま伝えてくれる「正確なスピーカー」だと分かった。ジェネレックのモットーである「忠実な音」とは、途中で不要な加工はせず「ディレクターズ・インテント」そのものをストレートに再現する音という意味だ。その意味では家庭での音楽と映像鑑賞用として、実にオーセンティックなスピーカーではないか。6040Rには新しいホームエンターテイメントの旗手として、またアクティブ駆動という新トレンドの牽引者として、大いに期待したい。
[視聴に使った機器]
●UHDブルーレイプレーヤー:パナソニックDP-UB9000(Japan Limited)
●プロジェクター:JVC DLA-V9R
●スクリーン:キクチ グレースマット100(120インチ/16:9)
●CD/SACDプレーヤー:デノンDCD-SX1LIMITED
●コントロールアンプ:アキュフェーズC-3900
本記事の掲載は『HiVi 2023年冬号』